2022年9月に西九州新幹線の武雄温泉駅~長崎駅が開業。
これによって博多~長崎の所要時間が短縮された一方、途中の武雄温泉駅で特急「リレーかもめ」と新幹線「かもめ」の乗り換えが必要となりました。
2022年12月に博多駅から長崎駅まで両列車を乗り継いで向かいました。
博多~武雄温泉の787系特急「リレーかもめ」
車両は787系か885系、所要時間は約1時間
武雄温泉駅で待ち受ける西九州新幹線の前座が、特急「リレーかもめ」です。
武雄温泉駅は佐世保線の駅なので、「リレーかもめ」は佐世保行き「みどり」の短縮バージョンとなります。
使われる車両は大半が重厚なグレーの787系で、一部の列車には「白いかもめ」でお馴染みだった振り子式の885系が就きます。
武雄温泉までの所要時間は平均で約1時間です。
車内販売はおろか、自動販売機すら撤去されているので、食事・飲み物は各自で用意しましょう。
博多~長崎までの全体の所要時間は1時間20分~40分で、新幹線開業前より20~30分早くなりました。
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乗車記:ようやく複線化・高速化された佐世保線
全国的に真冬の寒さに襲われた当日。
とはいえ、東京から博多まで乗った「のぞみ」の道中は、晴れ時々曇り。
豪雪が警戒された日本海側とは対照的に、やはり東海道・山陽新幹線の通る太平洋ベルトは温暖なのだと実感します。
しかし、福岡では微かに雪(あられだったかもしれない)が降っていました。
福岡は九州でありながら、山陰の続きでもあります。
さて、私が乗る「リレーかもめ」は博多駅を15時54分に出発する787系です。
乗車率はそこそこといったところでした。
車両の字幕も同じだった
まずは鹿児島本線を南下し、佐賀県の鳥栖駅に到着。
長崎本線が分岐する鉄道の要衝で、今乗っている「リレーかもめ」や「みどり」(佐世保行き)などが、ここから西九州へと向かっていきます。
長崎本線に入るとすぐに新鳥栖駅です。
大きな新幹線駅が立体交差しています。
西九州新幹線がここまで辿り着いて、新鳥栖駅が新たなジャンクションになるのは、まだ遠い先のことでしょう。
長崎本線区間の車窓は、ほぼずっと水田地帯です。
九州=焼酎のイメージがありますが、佐賀県は日本酒の方が有名ではないでしょうか。
やがて左手遥か前方に、いかにも火山らしい形をした雲仙普賢岳が見えてきます。
特急「かもめ」が海沿いを走っていた頃は結構近くから眺められましたが、今では遠くから拝むだけです。
肥前山口改め江北駅に到着。
以前の「かもめ」ように引き続き長崎本線を行くのではなく、ここから佐世保線に入ります。
長崎本線と違って、佐世保線は単線で最高速度も遅く乗り心地が悪かったのですが、新幹線開業を機に線路改良が行われました。
一部複線化に加えスピードも速くなり、「リレーかもめ」に乗っていても落差を感じません。
そもそも、佐世保は長崎県で2番目、九州でも9番目に人口の多い都市で、なぜこれまで高速化されなかったのか不思議です。
面目を一新した佐世保線を少し走って、いよいよ新幹線の待つ武雄温泉駅に着きました。
乗り換えは同一ホームです。
武雄温泉~長崎の新幹線「かもめ」
速達タイプの「かもめ」の所要時間は23~25分
今回開通した武雄温泉駅~長崎駅の距離は、僅かに65㎞程度。
一番多い各駅停車タイプの「かもめ」でも、所要時間は30分程度、途中諫早駅のみ停車する速達型に至っては、23~25分で長崎に着いてしまいます。
西九州新幹線で使われる車両は、東海道新幹線の最新型N700Sをアレンジしたものです。
白と赤の車体に、平仮名の「かもめ」の文字、随所に描かれたロゴマーク、そしてきつめの黒いアイシャドウがポイントの厚化粧した顔と、いかにもJR九州らしい姿になりました。
車内もやはり個性的で、特に指定席車両は2&2列配置で和風デザインの座席が並んでいます。
自由席は通常の2&3列で、この車両にはグリーン車はありません。
乗車記:右手に大村湾が見える
武雄温泉駅での接続時間は僅か3分。
普通に対面で乗り換えるだけなら好都合ですが、やはり西九州新幹線用のN700Sと初顔合わせをする必要があります。
走って先頭車両まで行き、挨拶を済ませてから指定された5号車に収まります。
本当はもっと早く顔を出すべきだったのですが、10月に久々のヨーロッパ鉄道旅行をしていたため遅くなってしまいました。
まあ、開業後の騒ぎも無く落ち着いて乗ることができて、それに冬の長崎の魚も旨かったので良しとします。
席に着いてまもなく、西九州新幹線「かもめ」が動き出しました。
この緊張感の入り混じったワクワク感は何歳になっても良いものです。
もっとも私が成長していないだけの話かもしれません。
武雄温泉の街並みを見下ろした後、すぐにトンネル区間です。
私が乗った「かもめ」は諫早しか停車しない速達タイプで、長崎までの乗車時間は僅か24分。
初乗車の興奮冷めやらぬうちに、嬉野温泉駅を通過しました。
在来線特急時代の「かもめ」は左手に有明海と雲仙普賢岳をゆっくりと眺めることができました。
新幹線の「かもめ」はトンネルの中を這うだけのモグラになってしまったのかというと、そんなことはありません。
新大村駅の前後で、右手に大村湾とその向こうに西彼杵半島を眺めることができます。
特に新大村駅手前のトンネルの合間にある短い明かり区間では、海沿いの斜面にミカン畑も見えて温暖な地域らしい風景です。
大村市街も高架で通過するので、すぐ下を走っている大村線よりも新幹線の方が見晴らしが良いです。
諫早駅に到着。
全列車が停車する主要駅ですが、まるで仮営業のような造りです。
トンネルを抜けて、あっという間に長崎市街に出ます。
右手に稲佐山展望台が見えてきました。
新しくなった長崎駅は新幹線と在来線が並んでいる構造です。
行き止まりの正面前方には既に港が控えていて、西の果てまで来たことを教えてくれます。
新幹線の駅にしては旅情を感じさせる駅です。
駅には「かもめ市場」という土産物屋が集まった施設があります。
駅周辺はまだ各地で工事が行われており、長崎駅の本格始動は数年先といったところです。
大隈重信の「一世一代の失策」
部分開業とはいえ新幹線を迎えた長崎県と対照的に、佐賀県が残りの区間である新鳥栖~武雄温泉の建設に反対しており、西九州新幹線は全線開業の見通しが立っていません。
解決策と思われたフリーゲージトレイン(新幹線と在来線を直通できる車両)の開発も挫折し、離れ小島の短い新幹線に乗り換える今の方式がしばらく続きそうです。
ところで、新幹線のような標準軌(線路幅1435㎜)ではなく、狭軌(同1067㎜)で鉄道建設を進めることを決めたのは、皮肉なことに地元・肥前出身の大隈重信でした。
彼は後にこの決定を「我輩の一世一代の失策」と語りました。
無責任で無能な国家が自治体の利害に振り回されている現状を目にして、大隈は自身の失策を改めて悔やんでいることでしょう。
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