復活した夜行列車、パリからウィーンのナイトジェット個室寝台車の旅【予約方法・費用】

ドイツ・オーストリア・中欧

西欧の芸術の都パリと、中欧の芸術の都ウィーン。
行き先を聞いただけでロマンを感じるこの二つの華の都を結ぶ夜行列車が、2021年に復活を果たしました。

2022年10月、個室寝台車を独占してパリからウィーンを目指しました。

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パリ~ミュンヘン~ウィーン、所要時間14時間の旅

欧州の夜行列車の救世主、ナイトジェット

2000年代から2010年代にかけて、夜行列車の衰退は日本だけでなく、欧州でも顕著にみられた動きでした。
しかし逆風が吹き荒れる中でも、質の高い夜行列車の運行を続けていたのがオーストリア国鉄です。
2016年からは「ナイトジェット」というブランド名で、国内と周辺国の主要都市を結ぶ列車を数多く走らせています。

そしてオープンアクセス(その国の国鉄以外にも列車の運行権を開放する仕組み)の進展により、ナイトジェットはドイツ国鉄によって廃止された列車の運行も引き受け、レベルの高いサービスによって乗客を取り戻しました。

ドイツ国鉄が運行していた晩年のローマ行き「シティナイトライン」、2016年ミュンヘンにて。
サービスは簡素化され車両も汚れていたが、廃止後はナイトジェット化により息を吹き返した。

やがて環境意識の高まりに伴い、ヨーロッパ各地で夜行列車が復活しています。
そんな追い風のもと、パリ・ウィーン間では14年ぶりに夜行列車の灯が燈ったのです。

運転日は週3日

パリ・ウィーン間のナイトジェットは毎日運転ではなく、週3便しかないので要注意です。
パリ発の運転日は火・金・日曜日、ウィーン発は月・木・土曜日(出発地基準)です。

パリからウィーンまでの所要時間は約14時間。
パリ発の場合、深夜にストラスブールを出発し、早朝に南ドイツのミュンヘン(ミュンヘン・東駅)に到着します。
よって、朝早すぎるという難点もありますが、パリ~ミュンヘンの夜行列車として利用することもできます。
その後、ザルツブルク・リンツといったオーストリアの観光都市を経て、終着ウィーンに至ります。
また、ウィーン発の便もやはりミュンヘンを深夜に発ちます。

OBBとSNCF
オーストリアとフランス両国鉄のロゴが並ぶ扉

寝台車・簡易寝台車・座席車から成る編成

パリ・ウィーン便に限らず、ナイトジェットには一番贅沢な個室寝台車・ドミトリー式のベッドが並ぶ簡易寝台車(クシェット)・そして通常の2等座席車の3種類の設備があります。
このうち、座席車は6人用のコンパートメントで安いですが、翌日のことも考えるとあまりお勧めできません。

個室寝台車はトイレ・シャワー付きのデラックスと、洗面台のみの普通寝台があります。
パリ発着便では両者の部屋の内装・構造は同じです。
料金には朝食も含まれています。

普通個室寝台の様子

クシェットには4人用の相部屋(2段ベッド×2)と、6人用の相部屋(3段ベッド×2)の2種類があります。
こちらも朝食付きですが、内容は寝台車のものと比べてかなり簡素です。

クシェットの様子
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【乗車記】普通寝台車をシングルで利用

出発はパリ東駅

パリの鉄道駅は行き先によって複数のターミナル駅に分かれています。
ウィーン行きのナイトジェットが発着するのはパリ・東駅(Gare de l’Est)です。
ドイツ方面の高速列車もここから出発します。

パリ・東駅より出発間近のウィーン行きナイトジェット

パリ発は19時57分。
早めの夕食を済まし、ゆったり夜汽車を待とうと考えていたのですが、とんでもない事態に遭ってしまいました。

この日は早朝にイタリアのミラノを発ち、昼にパリに着く予定でしたが、なんとミラノ~パリのTGVが6時間も遅れて、パリ・リヨン駅に着いたのが19時半くらいでした。
気が動転した状態で地下鉄を乗り継ぎ、あと1本遅れていたら間に合わなかったところでした。

という緊迫した話をしましたが、実は乗り遅れてしまっても、その後のTGVを使うと途中でナイトジェットを抜いてストラスブールに早く到着するので、ここで乗り換えることができます。
つまり、推理小説のトリックでお馴染みの、夜行列車の代わりに途中まで高速列車に乗る方法が使えるわけです。

シャワー無し平屋建てのシングル個室寝台車

ナイトジェットの平屋建てエコノミー寝台の車内
普通寝台の車内
ベッドメイクしていない状態

指定された号車までたどり着き、馬のように息を弾ませながら自分の部屋に入ります。
今回利用したのはシャワー・トイレ無しの普通寝台のシングルです。

まだ20時なのでベッドメイクされておらず、座席が3つ(この部屋は最大3名まで利用できるため)並んでいる状態です。
大きなテーブルにアメニティグッズや水・コップが用意されています。
また、奥には洗面台が隠れていて、充電用コンセントもあります。

洗面台の扉を開けた状態

食堂車は無いが車内販売メニューと朝食が充実

安堵して席に着くと、すぐに列車が動き出しました。
まもなく車掌がやってきて検札を済ませ、明日の朝食のオーダー表を渡します。
ナイトジェットの朝食は他の夜行列車と比べてかなり充実していて、パン・コーヒー紅茶やジュース・ハム等・バターやジャムなどの中から6品選ぶことができます。

また、ナイトジェットには食堂車やカフェテリア車両はありませんが、飲み物から電子レンジで温める軽食まで、車掌に注文することができます。
メニュー表は各部屋にあります。
なので、事実上ナイトジェットにはカフェテリアのデリバリーサービスがある、と言って良いです。

パリで買い物をする時間が無かったので、夜汽車の旅に必要不可欠な酒がありません。
オーストリアを代表するワイン用ブドウ品種「ツヴァイゲルト」の赤ワインを注文します。

ワインとジョイント音と暗闇を流れる風景に軽く酔っていると、車掌がベッドメイクにやって来ました。
「車掌」というより「クルー」と表現すべきでしょう。

以下、余談…
私は「サンライズ出雲」に乗る時も、つい外国のノリ(今では夜行列車に乗る機会が国内より欧州の方がずっと多い)で、検札に来た車掌に「こんばんは」と挨拶します。
しかし、いつも彼らは「早よ切符出せや」と言いたそうに黙っています。
これが車掌とクルーの違いです。

誤解のないように付け加えると、私は日本の車掌が無愛想だと非難しているわけではありません。
彼らはあくまでテキパキと業務をこなしているのであって、自ら検札機械になりきって仕事する車掌を「人間扱い」して邪魔する私が悪いのです。

寝台車は満室

寝台車の通路

さて、気晴らしに自分の車両の様子を見ましたが、寝台車は満室のようでした。
「ナイトジェットは寝台車から埋まる」と言われるほど人気があります。
私は今回1カ月半前に予約したのですが、一番安い料金カテゴリー(後述)は売り切れでした。

隣の部屋は老夫婦が利用していました。
どこから来たか聞かれて「日本です」と答えると、意外なことに「大阪?」と返って来ました。
「今住んでいるのは東京ですが、生まれたのは大阪の近くです。でも何故大阪?」
(男性)「私は電機メーカーに勤めていたのだが、大阪に勤務していたことがあるのだよ。もうずっと昔の45年以上前だけどね。」
とのこと。

彼らはフランス旅行から帰るオーストリア人で、翌朝リンツで降りるそうです。
ストラスブールを出発した頃に寝床に就きました。

オーストリアの朝の風景

ザルツブルク駅付近

朝起きるとドイツを過ぎてオーストリアにいるようです。
7時半頃にザルツブルク・中央駅(Salzburg Hauptbahnhof)に到着。
言わずと知れたモーツァルトの故郷で、ウィーンに次ぐオーストリアの観光都市です。

ザルツブルクにあるモーツァルトの生家
2008年3月

もう日は昇っているのですが、霧がかかっています。
朝から幻想的な車窓です。
クルーを呼んで、ベッドを再び座席に戻してもらいました。

8時半頃に昨夜オーダーしていた朝食が届けられました。
チョイスについて私見を述べると、まず特に事情が無ければパン+コーヒーor紅茶は確定でしょう。
車内は乾燥しますし、ビタミン補給も兼ねてジュースも欲しいところです。
そしてパンは大きなものが2つなので、パンにつけるもの(レバーペーストがおすすめ)があった方が良いです。
以上4品で「基本形」は完成するので、後はお好みで。

パンは大きく食べ応えがある

朝になって気づいたのですが、いつもチェックを入れていたオレンジジュースを忘れていました。

徐々に霧が晴れて、丘陵地がはっきりと見えてきました。
そして10時過ぎに、とうとうウィーン市内へ。
ウィーンはパリよりも電車や街が清潔です。

今回の旅行では少しでも多くの記事をお届けできるように、単身ヨーロッパで24時間戦うジャパニーズビジネスマンよろしく、昼も夜も列車移動するタイトなスケジュールを組んでいました(ただし常備していたのはリゲインではなく酒)。
朝からこんなにのんびりしたのは、この日が最初で最後でした。

寝台車の客はウィーン中央駅のラウンジも利用できる

新しい通過式(行き止まりではない)のウィーン・中央駅(Wien Hauptbahnhof)に到着。
私の最初の海外個人旅行はウィーンから始まりました。
その後も何度も来ていて、思い入れのある都市です。

寝台車の利用客は割引運賃であっても駅にあるOBBラウンジを利用することができます。
Wi-Fi・コンセント付きの落ち着いた空間で、(そもそもオーストリアは治安が良いが)安全に時間を過ごすことができます。
コーヒー・紅茶やジュースを自由に飲むことができて、駅では有料のトイレも無料で使えます。

ウィーン・中央駅のOBBラウンジ
ウィーン・中央駅のOBBラウンジ

19世紀半ばのナポレオン三世の時代に整えられた近代的なパリの街並みとは異なり、ハプスブルクの帝都として長い歴史を歩んだウィーンの街並みは、やはりこれがヨーロッパだと思わせます。

午前中に歩き慣れたウィーン市内を散策した後、午後は今まで来た道を引き返してミュンヘンに向かいました。

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予約方法と費用

【予約前半】列車選択までは比較的簡単

ナイトジェットの予約はオーストリア国鉄のサイトから行います。
以下、その方法を写真付きで解説します。

トップページにアクセスして、日付と発着地を入力します。
駅名ではなく都市名をプルダウンから選択します。
2つ並んでいる赤いボタンのうち、Book Ticketの方をクリックして進みます。

次の画面で人数を選択します。
ここでは大人1人で予約します。
Find Serviceをクリックすると、2つの選択肢が出ます。
普通に予約する場合は上のOne-way ticketを選択します。
下のreservation onlyは、ユーレイルパス等チケット(乗車券部分)がある人が使います。

出発時間が1時間早いのは、ダイヤ改正か臨時なのかは不明…

列車選択画面です。
高速列車を使う乗り継ぎも出てきますが、我々が選択すべきは一番安くて乗り換えなしの直行便ナイトジェットです。

【予約後半】費用は料金カテゴリーと設備で決まる

列車選択まで終わったので、以降は後半部分です。
これからは実際に払う値段に関わる、料金カテゴリー設備を選びます。

まずは1つ目の要素、料金カテゴリーです。
ここでは安い代わりに返金不可の①Sparschieneか、割引にはならないがキャンセル要件が緩い②Comfortかを選択します。
Sparschieneは早割で、人気の高い寝台車から先に売り切れてしまいます。
この章の予約は2カ月以上先の日を照会しているので最安値が出そろっていますが、1カ月前の予約でもこれらの写真よりだいぶ値上がりしていると思ってください。

クシェットの₊20€、寝台車の₊70€は、それぞれの最安クラスを示す
選択している設備によって、右上の赤いボタンの金額が変わる

画面を下の方にスクロールして、2つ目の要素の設備選択です。
まず大まかな座席・簡易寝台(クシェット)・寝台車から選択し、それぞれより細かいクラスを決めていきます。

一番安い寝台車のクラスから、シングルやデラックスにするとさらに料金が上がる
なお、3人用デラックスが3人用普通寝台より安い理由は不明…

寝台車のクラスは全部で6種類。
1人用~3人用個室に対して、それぞれ普通寝台車とトイレ・シャワー付きのデラックス寝台があります。
上の写真のケースだと、Sparschieneの座席車29.9€から、最安の寝台車にして₊70₌99.9€、普通寝台のシングルにする場合はさらに60€上乗せの159.9€が最終的な値段になります。

ところで、これを聞いて「1人分を予約しているのに2,3人用ってどういうこと?」となると思います。
紛らわしいのが、寝台車の予約は部屋単位ではなく、ベッド単位で行うという点です。
よって1人利用で3人用個室寝台を予約すると、同性の1人または2人の他人と個室を共有する可能性があります。
個室を占有したい場合は、割高になりますが必ず1人用のシングルで予約しましょう。

ちなみに、寝台車のベッドは基本的に最大3段ですが、一部の2階建て車両のデラックス寝台車(2022年時点ではチューリッヒ発着便に運用されている)は2段ベッドなので、3人用デラックスが存在しません。
車両判別にも使える知識です。

2階建て車両のデラックス寝台のシングル利用
2016年ハンブルク~ウィーン便にて

支払いでクレジットカードが使えない場合はPayPalで

必須事項を入力すると赤丸部分が活性化する

これで山場を越えました。
次の画面では名前と電話番号を入力。
電話番号は080から始まるなら、₊8180(最初の0の代わりに₊81)になります。
その後はメールアドレス入力と支払い方法選択です。
クレジットカードの認証に問題があってできない場合は、PayPalを使いましょう。

決済完了したら、メールアドレスにメールが届きます。
そのメールにチケット画面へのリンクがあるので、印刷するかスマホに保存します。
メールだけではチケットにならないので注意してください。

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今後も発展が期待されるナイトジェット

「ヨーロッパ中から灯りが消えていく」
第一次世界大戦勃発前夜にイギリスの外務大臣エドワード・グレイが発した言葉と同じことを、私は今から10年ほど前に覚悟していました。
ヨーロッパの鉄路の灯りは、しかし、再び輝き始めました。

「オワコン」扱いされていた夜行列車の可能性を信じて、ナイトジェットの運行を続けたオーストリア国鉄は、今後も更に路線を拡大し、新型車両(2023年夏頃?)を投入しようとしています。

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