ヨーロッパの豊かな歴史文化を有する「中欧三都物語」の二都市、ウィーンとプラハ。
この区間を結んでいる高速列車がレイルジェット(Railjet)です。
新しくスマートな車両でありながら、旅を楽しくする食堂車も連結しています。
2023年5月末、ウィーンからプラハまでレイルジェットの一等車に当たるファーストクラスに乗車しました。
なお、この区間には民間会社が運行するレギオジェット(Regiojet)という列車も走っています。
名前が似ていてややこしいですが、両者は激しい競争を繰り広げています。
レイルジェットとレギオジェットの比較については、以下の記事をご覧ください。
ウィーン・プラハ間の所要時間は4時間
最高速度は時速160㎞
オーストリアとチェコの首都であるウィーンとプラハは、共に神聖ローマ帝国の最重要都市として栄え、歴史的なつながりも強い関係にあります。
両国が東西に分断された冷戦時代でさえ、この区間には「ヴィンドボナ号」というエリート列車が運行されていました。
そしてベルリンの壁が崩壊し、旧東欧の優等生チェコがどんどん西欧化する現在、ウィーン・プラハ間のレイルジェットは2時間毎に運転されています。
ウィーンからプラハまでの距離は約400㎞、所要時間は約4時間です。
チェコ国内の最高速度は時速160㎞で、ドイツやオーストリアの在来線と比較しても遅いです。
途中チェコ第二の都市、ブルノにも停車します。
車両はチェコ国鉄版のレイルジェット
ところでレイルジェットとは、もともとオーストリア国鉄が運行している列車のブランドです。
同社のレイルジェットは赤と黒が印象的な塗装で、ウィーンを起点にチューリッヒ・ミュンヘン・ブダペスト等へ運転されています。
ウィーン・プラハ間のレイルジェットはオーストリア・チェコ両国鉄による共同運行ですが、ほとんどの列車はチェコ国鉄のレイルジェット車両が使われています。
オーストリアの車両とは正反対の、チェコ国鉄のイメージカラーの明るい青をまとった車両です。
基本的な設計は同じですが、内装と食堂車のメニューが異なります。
ボヘミア王国が支配主であるハプスブルク帝国のウィーンの権威を借りながらも、ナショナリズムを発揮している状態といえるでしょう。
レイルジェットの車内・サービス
レイルジェットの編成は、エコノミー・ファースト・ビジネス、そして食堂車から成ります。
エコノミー(二等車)の車内と座席
青いスマートな座席が横4列に並ぶエコノミーは、一般的な呼称でいう二等車です。
このクラスもWi-Fiあり、かつ各座席でコンセントが利用できます。
ファースト(一等車)の車内と座席
一等車に相当するファーストクラスは横3列の座席、座席は「旧宗主国」オーストリア国鉄のレイルジェットと似ています。
ミネラルウォーターが無料でサービスされます。
また、ファースト以上のクラスの乗客には、食堂車のウェイターが飲み物や料理を自席まで届けてくれます。
ビジネス(特等車)の車内と座席
特等車というべきが、さらに上のビジネスクラス。
飛行機での呼称とはファーストとビジネスの関係が逆なので注意してください。
ビジネスクラスがあるのはファーストクラスの先頭車の一部狭いエリアのみで、僅か6席しかありません。
通路を挟んで座席が1つずつ、3列並んでいます。
ファーストクラスのエリアとの仕切りがなく、下手すると見過ごしてしまいそうな存在です。
車内と座席だけ見るとあまり価値がなさそうですが、ビジネスクラスでは食堂車のメニューからアルコール含む飲み物が無料で注文できます。
また、ビジネスとファーストの差額は15€なので、ここをどう捉えるかでしょう。
食堂車でピルスナーウルケルの生ビールが飲める
レールジェットにはチェコ国鉄が運営する食堂車が付いています。
近代的な列車にありがちなバー・ビストロではなく、座ってウェイターが運んできた料理を食べることができる本格的な食堂車です。
チェコ国鉄の食堂車の魅力は、何と言ってもあの「ピルスナーウルケル」の生ビールが飲めることです。
「ピルスナーウルケル」は、我々が普段飲んでいる黄金色で透明なタイプのビールの元祖です。
適切なグラスに入れてくれるのも嬉しい点です。
【乗車記】チェコの田園風景とビールとワイン
注)私が乗車した時は線路工事の影響で普段とは別のルートを通っていました。
そのため、当時のプラハまでの所要時間も4時間半と30分長く、車窓も一部区間で異なります。
2023年7月からは通常のルートに戻るようです。
割引一等車のチケットでもOBBラウンジ利用可能
ヨーロッパの中央に位置するハプスブルク帝国の首都ウィーン。
パリやローマ、東はブカレスト(ルーマニア)まで、ヨーロッパ中の都市へと列車が発車していきます。
15年前に初めての欧州旅行で最初に降り立って以来何度も訪れているので、私はウィーンに来るとやたらと安心します。
2022年10月
一等車(つまりファーストクラス以上)の乗客は、ウィーン中央駅(Wien Hbf)にあるOBBラウンジを利用することができます。
割引された運賃ではラウンジ利用不可という国が多い中、オーストリアでは返金不可の割引タイプのチケットでも一等車なら可能です。
オレンジ・アップルジュースやコーヒーが自由に飲めて、Wi-Fi・充電・トイレ完備というセーフティーゾーンです。
いよいよチェコ国鉄の青いレイルジェットに乗り込みます。
今回利用するのはファーストクラスです。
土曜日の昼下がりで、列車は意外なほど空いていました。
オーストリアは1時間で通過
列車が動き出しました。
チェコの作曲家ドヴォルザークの「ユーモレスク」が、最初の1小節だけ車内チャイムで流れます。
せめて4小節くらいは聞きたいものですが、ピルスナーウルケルといいドヴォルザークといい、オーストリアの車両の中にもチェコ人の血はしっかりと流れています。
ウィーンを出るとまもなくドナウ川を渡ります。
オーストリアの国境付近は、とにかく風車が目立ちます。
オーストリアの環境意識をそのまま日本に持ち込んだら、日本列島の周りの海は全て風車で埋め尽くされるのではないかと思えるほどです。
チェコに入国
1時間程度で国境駅、Breclavに到着。
ここで車掌が交代し、再度検札が行われます。
どちらも愛想の良い男性でした。
食堂車のスタッフが「何か注文は?」と声を掛けてきたので、ピルスナーウルケルを頼みます。
やはりこれです。
なお、支払いはプラハ到着前にまとめて行いました。
チェコ第二の都市ブルノはモラビア地方の中心地でもあります。
チェコを二つに区切るとプラハを含む西部のボヘミアと、東部のモラビアに分かれます。
地理的にはボヘミアは森が多いのに対して、モラビアは比較的丘陵地が多いです。
あるいはビールが美味いのはボヘミア、ワイン(白)が美味いのがモラビアという覚え方でもかまいません。
ブルノ本駅(Brno hlavni)は市街地の近くにあります。
ブルノは観光地が狭い範囲内にまとまっているので、ウィーンやプラハから日帰りで観光することも可能です。
実際に、ブルノ市内を歩いているとよくドイツ語を聞きました。
丘陵地に集落が線上に連なっています。
田舎の風景は風情があります。
食堂車に出かけて、モラビア産の白ワインを注文します。
チェコ国鉄の食堂車にはワインが何種類かあり、国産は白ワインが多いです。
今回頼んだリースリング(ブドウ品種名)のチャーミングで酸味の強い味わいは、親しみやすい旋律に哀愁を湛えたドヴォルザークの曲とそっくりです。
列車がカーブの多い線路を走る中、忙しそうな食堂車のスタッフがカップや皿を幾つも持って一等車の客のところへ運んでいきます。
ボヘミアに入ると森や川が多くなります。
前に座っているチェコ人は、私が確認しただけでもビールを4杯自分の席に持って来させています。
終着が近づく頃、ようやく日が傾いてきました。
プラハ本駅(Praha hlavni)の手前で街のシンボル、プラハ城とティーン教会のシルエットが浮かび上がりました。
予定よりも数分早くプラハ本駅に到着。
この区間は定時性はかなり良好です。
プラハ本駅にもCDラウンジあり
プラハ本駅にも一等車の乗客が利用できるCD(チェコ国鉄)ラウンジがあります。
OBBラウンジと比較すると見劣りしますが、コーヒーや水を自由に飲むことができます。
トイレはありません。
プラハは我々日本人の考える「ザ・ヨーロッパの街並み」を体現したような都市です。
目を輝かせながらランドマークの旧市街広場を観光する人々に囲まれたヤン・フス像は、対照的に厳しい表情をしています。
過去の栄華と反抗心を併せ持った、チェコの歴史そのものです。
予約方法と費用
チェコ国鉄のサイトはシートマップから座席を選べるのでおすすめ
レイルジェットの予約はオーストリア国鉄・チェコ国鉄いずれのサイトでも行うことができます。
ただし、同じ列車でも提示されている料金は異なることがあります。
どちらを使うべきか迷いますが、料金に差が無ければ、チェコ国鉄のサイトをおすすめします。
その理由は、希望する座席をシートマップから選択できるからです。
オーストリア国鉄のサイトだと、プラハ・ウィーン間のレイルジェットは窓側・通路側の選択ができるだけです。
ただし、チェコ国鉄のサイトはやや分かりずらい部分もあるので、その点も含めて解説していきます。
First Minuteはチェコ国鉄の割引料金
トップページにアクセスしたら、発着地・日時・人数を入力します。
地名は英語表記(Wien,Praha)・現地語表記(Vienna,Prague)どちらでもかまいません。
またこの段階で等級は指定する必要はありません。
人数の変更は赤丸で囲った鉛筆マークを押して行います。
チェコ国鉄のサイトにおいて、この鉛筆マークは「編集」を意味する重要な項目ですから覚えておきましょう。
列車候補が表示されました。
乗り換えありのプランも出ますが、直通のレイルジェットを選びましょう。
一等車を予約する場合は、右上の赤丸で囲った部分で切り替えます。
Purchase a ticketで先に進みます。
料金はチェココルナ(CZK)で表記されます。
150円≒1€≒25CZK(2023年6月)で、比較的安定した通貨です。
ちなみに、私はオーストリア国鉄のサイトを使ったのですが、1カ月半前に一等車座席予約込みで27€で予約しました。
かなり安い方だと思います。
ここでいくつかのチケットが現れます。
一番上のおすすめされている商品が、最も安い代わりに条件の厳しいFirst Minuteというチケットです。
つまり、オーストリア国鉄でいうSparschieneなどの割引料金です。
一等車にするとFirst Minuteの設定がなく、料金が跳ね上がるケースもあります。
座席選択画面は見逃しやすいので注意
次いで確認画面になりますが、下にスクロールして飛ばしてはいけません。
チェコ国鉄のサイトでは座席予約が既に含まれています(オーストリア国鉄では3€の追加オプション)が、デフォルトでは座席が自動で割り当てられるようになっています。
自分で座席を決めるには、赤丸で囲った鉛筆ボタンを押します。
「号車と座席番号だけ聞かれても分かるか!」という気持ちを押さえて落ち着いて見ると、「シートマップから選択」のボタンがあります。
進行方向(赤線)、テーブルの位置(矢印)が分かります。
最後に名前とメールアドレス、そしてクレジットカード情報を入力して予約完了です。
決済成功するとアドレスにチケットが添付されたメールが届くので、印刷するかスマホに保存しましょう。
お疲れ様でした。
歴史に裏打ちされた「中欧」の体現者
ベルリン・リヒテンベルク駅にて
冷戦時代、「ヴィンドボナ号」が西欧にとって、東欧から来た「親善大使」として特別な存在だったのはとっくの昔。
そもそも、地図を見れば明らかなように、プラハはウィーンよりも西に位置しています。
「東欧」という概念がいかに人為的なものかが分かります。
今やレイルジェットは、プラハとウィーンを結ぶ当たり前の存在になっています。
それは冷戦という特殊な時代を乗り越えた、あるべき「中欧」としての姿なのです。
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