ヨーロッパ有数の経済・交通の中心地フランクフルトと、我々が想像する「中世のドイツ」を体現したバイエルン州2番目の都市ニュルンベルク。
両都市間はドイツの新幹線ICEに乗って2時間でアクセスできます。
2023年5月中旬、フランクフルトからニュルンベルクまでICE「ドナウワルツァー」号の一等車に乗車しました。
※ドイツからウィーンへ向かうICE「ドナウワルツァー」号のルート。
太線の部分が実際に乗車した区間です。
最高速度は230㎞/h、主にウィーン行きの路線で運用される
ドイツの高速列車ICE(Inter City Express)は1991年の登場以来、その居住性の高さで人気を集めました。
当初のICEの運用区間は西ドイツ領内を南北に貫く路線でしたが、ベルリンをはじめ旧東独地域へも乗り入れるようになり、ドイツ再統一の演出に一役買いました。
ICEの路線網をさらに拡大していくにあたって、高速線のみならずカーブが多い山間部の在来線にも対応できる、車体傾斜が可能な車両として開発されたのがICE-Tです。
従来のICEは前後に機関車の付いた重厚なイメージでしたが、ICE-Tは軽快な印象の電車となりました。
1999年に営業運転を開始したICE-Tはドイツ南西部のシュトゥットガルトからスイスのチューリッヒを結ぶ区間に投入されました。
この路線では他の車両と合わせて運用されています。
今回私が乗ったフランクフルト~ニュルンベルク~ウィーンの路線ではICEが2時間毎に、車両は全てICE-Tで運転されています。
途中からドナウ川沿いを走るので「ドナウワルツァー」号の列車名が付いています。
フランクフルトからの所要時間はニュルンベルクまで約2時間、ウィーンまで約6時間半です。
なお、ICEの予約はドイツ鉄道の公式サイトからできます。
詳しい予約方法については以下の記事をご覧ください。
ICE-Tの車内
二等車の車内と座席
二等車の客室は他のICEと同じで、明るく洗練されたインテリアに横4列の青い座席が並びます。
二等車といえども、他の国の列車と比べると居住性は高いです。
一等車の車内と座席
わりと特徴的なのが一等車の車内です。
黒い革張りの横3列座席はICEシリーズお馴染みなのですが、車両中央を境に1人掛けと2人掛けの配置が逆になっています。
おそらく、車体傾斜車両なので左右の重量バランスを考えてのことでしょう。
また2人掛け座席の半分は、上の写真左奥のように半個室タイプ(向かい合わせの4人席)になっています。
ICEの一等車では、食堂車のスタッフが注文を取りに来て飲み物などを自分の座席に届けてくれるサービスがあります。
これはウェルカムドリンクではなく、あくまで有料なので注意してください。
食堂車あり
ICE-Tにも本格的な食堂車が付いています。
ただし、一部のICE-Tはより簡素なビストロ車両です。
本記事で紹介するフランクフルト~ニュルンベルク~ウィーンの路線では、食堂車があるICE-Tが運用されています。
【乗車記】祝日で大混雑の「ドナウワルツァー」号
5月中旬の平日、早朝の曇り空のフランクフルト空港よりヨーロッパ入りし、近郊電車で中央駅に着いた頃には晴れ渡っていました。
まだ肌寒さを感じます。
金融経済都市にしては歴史的な旧市街や、マイン川沿いの遊歩道をしばらく散歩し、10時過ぎに駅に戻ります。
ウィーン行きのICEが入線しました。
初代も最新型も太り気味体形のICEですが、車体傾斜式のICE-Tはスマートで愛嬌のある顔です。
最後尾の一等車に乗車しました。
一人掛けの座席ですが、進行方向とは逆向きでした。
フランクフルト中央駅(Frankfurt Hbf)を定時に出発。
マイン川越しに高層ビルの建ち並ぶフランクフルトの市街を見ます。
この列車は「ドナウワルツァー」を名乗っていますが、ドナウ川沿いに走るのはニュルンベルクより先のレーゲンスブルクからです。
しばらくはマイン川沿いの道を進みます。
車窓は思った以上に綺麗でした。
フランクフルト寄りは山間部が多く、日本の地方の特急に乗っている感じです。
スピードは150㎞/h前後なので、日本の在来線よりも速いです。
食堂車のスタッフが通りかかったのでホットコーヒーを注文します。
使い捨ての紙コップではなく、陶器のカップで提供してくれるのも嬉しい点です。
通路の向かいの席では、家族連れが持参したおやつを皆で頬張っています。
ヴュルツブルク近くで車窓が開けました。
色鮮やかで整然とした畑の向こうに深く切れ込んだ谷間が見えます。
なかなかダイナミックな光景です。
ヴュルツブルク中央駅(Wuerzburg Hbf)は葡萄畑に面していました。
この辺りは特徴ある容器に入ったフランケンワインの産地として有名です。
この日ニュルンベルクに着いてからフランケンワインを飲んだのですが、辛口で強烈なコクのある白ワインでした。
甘い白ワインというドイツワインの印象とは全く逆のスタイルで驚きました。
ヴュルツブルク駅では別のICEの待ち合わせのためにしばらく停車しました。
ここで乗り換えてくる人が多く、二等車はデッキにも人が座っている程の大混雑。
一等車は少しだけ空席があるくらいでした。
混雑期ほど一等車の有難みを感じるものです。
その後も似たような景色が続きました。
食堂車と二等車の若者グループの席は、もはやビアホールような雰囲気になっています。
やがてバイエルン州第二の都市ニュルンベルクです。
その厳かな市街地は、今まで停車してきた都市よりも明らかに「格上」に思われます。
駅の手前で左手にDB(ドイツ鉄道)博物館が見えます。
ほぼ時間どおりにニュルンベルク中央駅(Nuernberg Hbf)に到着しました。
私もずっと前から来たいと思っていたニュルンベルクです。
駅を出るとすぐ目の前に城塞があり、門をくぐるとそこはもう中世の世界です。
ニュルンベルクと言えば…
グルメならドイツで最高と評判の焼ソーセージ、歴史好きなら神聖ローマ帝国の皇帝都市、そしてクラシック音楽ファンならワーグナーの楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」を思い浮かべることでしょう。
我々が思い浮かべる「中世のドイツ」をそのまま体現した都市です。
中世の城から見下ろすと、赤い屋根の家が川沿いに並び、石畳の坂道ではヘルメットをかぶったお婆さんが一生懸命自転車を漕いでいました。
さて、ニュルンベルクはドイツの鉄道発祥の地でもあります。
街中を歩いているだけでも本当に楽しい街ですが、もし3時間くらい時間が余った方は、線路沿いにあるDB(ドイツ鉄道)博物館を訪れてはいかがでしょうか?
英語解説が限られるのが惜しまれますが、車両展示だけでなく、鉄道を介した近代史博物館の側面もあります。
むしろ逆に、鉄の塊を見てコーフンするだけの鉄オタにはあまり面白くないと思います。
今より領土がかなり広い。
「狂気に満ちた力の訴求」では片づけ難いロマンがある。
東西冷戦時、ウィーン行きの列車は東欧からの親善大使だった。
ドイツのミニ新幹線
歴代ICE車両の「ナンバリングタイトル」たちと比べると、ICE-Tはどこか「ICE3の亜種」といった感じがしないでもありません。
最高速度が230㎞/hというのも、ICEシリーズの中では最も遅い速度です。
しかし、ICEの路線網を亜幹線にも広げた功績は大きく、その意味では「ドイツのミニ新幹線」と言っても良いでしょう。
そしてICE-Tの設計思想は、最新型モデルのICE4にも受け継がれています。
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