2023年7月、東武鉄道の看板列車の「スペーシア」に、待望の後継車両「スペーシアX」が登場しました。
もともとアコモに定評のあった平成の傑作車両「スペーシア」が、令和時代を迎えてさらに進化たのです。
2023年9月末、会社の野郎5人で「スペーシアX」の4人用コンパートメント(個室)を利用しました。(定員より人数が1人多い件は、後ほど説明します。)
本記事では最初に「攻略編」で予約方法について軽く説明した後、「本篇」として乗車記を綴っていきます。
【攻略編】スペーシアXの予約開始は1カ月前の朝9時から
本章では料金や時刻表・座席の種類といった一般的な内容は公式サイトに譲り、予約する際に注意すべきポイントを絞って説明します。
また車内カフェの利用にはオンライン整理券が必要なので、公式サイトにある利用方法をよく確認しましょう。
個室やプレミアムシートの予約はとりにくい
運行開始してから日が浅いこともあり、スペーシアXは予約するのが難しいです。
特にコンパートメントやグリーン車に相当するプレミアムシートは、数が少ないうえに人気があるためすぐに売り切れてしまいます。
1つしかないコックピットスイートに至っては、一般向けに販売されているのどうかすら怪しいくらい、いつ空席照会をしても空きがありません。
東武鉄道の特急券の予約開始は1カ月前の朝9時からです(JRより1時間早いので注意)。
スタンダードシート以外の設備を希望するなら、9時になったら予約開始しましょう。
それでも朝9時浅草発の「スペーシアX3号」などは争奪戦になります。
最初は「空席あり」になっていても、途中で他の人に取られて予約不可になってしまうことがあります。
東武鉄道のインターネット予約サービスは、「東武ネット会員サービス」と「特急券インターネット購入・予約サービス」の2種類があります。
事前に会員登録をするためクレジットカード情報を都度入力する必要がない「東武ネット会員サービス」の方が、購入時の争奪戦を有利に進めることができるのでおすすめです。
スペーシアXの運転本数は月~水曜日(祝日除く)が2往復、木~日曜日が4往復です。
需要に対して供給量が多い木・金曜日、その中でも浅草行きの便が相対的に予約を取りやすいと思われます。
実際に今回の乗車記もそのケースに当たります。
乗車券は格安の株主優待券で節約できる
スペーシアXでは一番安いスタンダードシートでも、旧型スペーシアよりも高い料金設定になっています。
予約で購入するのは特急券と個室やコックピットラウンジなどに必要な特別座席料金のみです。
よってネットなどで予約しても乗車券は別途必要です。
普通にSuicaなどの交通系ICカードを使ってもよいのですが、金券ショップで株主優待券を買うと費用を抑えることができます。
相場はだいたい800円弱で、東武線全線で利用可能です。
例えば浅草~鬼怒川温泉の運賃は1,590円なので、半額程度と格安です。
【本篇】日光亜阿房列車・復路~スペーシアXのコンパートメント~
以下、乗車記です。
登場人物紹介
- 国鉄特急電車185系(筆者)…基本的に職務遂行能力は高くないが、故障リスクは皆無で他部署出向やイレギュラーな時間帯での勤務もこなすことができるため、会社にとっては意外と有用な存在。と本人は思っている。
- ジョイフルトレインお座敷車両…運用は非定期かつ流動的。旅客輸送という本来の業務はおざなりで、閑散期の平日は開店休業状態になることも。カラオケと喫煙所は必須。実は5人の中で職位が一番上だから驚く。
- 小田急ロマンスカーLSE…5人の中で会社から最も高い評価を受けている。地味な印象だが若い社員に負けずに長年主役として働き続けている縁の下の力持ち。後輩の指導役もよく任されている。
- 動態保存用旧型客車…何においても受け身で、機関車の牽引が無ければ動くことはおろか、電源を入れる事すらできない。さすがに自身のアップグレードの必要性を感じて、今年スマホデビュー(1GBプラン)を果たした。
- 九州新幹線800系…以前、信越亜阿房列車の回で「地蔵」の名で出演。キャラは充分に立っている。しかし労働を殊更に毛嫌いしており、いかんせん勤務時間が短すぎるせいか、職場では今一つ目立たない存在。
それでは、前回の日光亜阿房列車・往路と併せてご笑覧ください。
下今市駅から「スペーシアX8号」に乗車
日光観光をしていた私と800系氏、それから鬼怒川温泉から「SL大樹」に乗ったお座敷車両氏・LSE氏・旧型客車氏は下今市駅で合流した。
駅前には転車台と機関庫がある。
鬼怒川温泉組が乗って来たSLがここで回っていたらしい。
私がシラフなうちに清算を済ませようということで、それぞれから往復代金を回収した。
「予約手数料はチップとして歓迎いたします。」と言ったせいか、全員がちょうどの金額を渡してきた。
皆お土産を買う時間が無かったので、下今市駅ホームの売店で買った。
お座敷車両氏は友達に、LSE氏は我々の所属する部署に、旧型客車氏は上司に、私と800系氏はお土産は買わなかった。
「185系さん、思い出はモノではありませんよ。」と800系氏が私の耳元で囁く。
そうこうするうちに、真新しいスペーシアXがゆっくりと入線してきた。
たくさんのカメラを向けられてもまんざらでもない様子である。
6号車の4人用コンパートメント(個室)にチェックインする。
デッキでは執事のような雰囲気の中年の男性が出迎えてくれた。
彼がこの車両専属のアテンダントらしい。
各自が感嘆の声をあげて個室の写真撮影を済ませて席についた。
江戸の粋を感じる4人用コンパートメントの車内
コンパートメントの第一印象は「雅」だ。
座席はコの字型のソファーで、掛け心地としてはそれほどでもなかった。
物理的なゆとりや座席そのものの質では、先代の旧型スペーシアの個室の方が優れている。
しかし室内のデザインはとても粋なセンスで、壁は赤茶色、床のカーペットは青紫色、そして窓の形が六角形になっているのも特徴的だ。
窓際に電気スタンドが2つあって、そこにコンセントも1つずつ付いている。
天井は黒で、よく見るとやや簡素な印象を受けるが、色調のバランスとしては良い。
全体的な雰囲気としては「和風」と表現されるべきなのだろうが、木を使ったり辛気臭い調度品を無意味に並べたりといったありきたりな自己主張ではなく、インテリアがより芸術的に表現されている。
全国各地に走る低俗で厚かましい観光列車を見るにつけ、あの列車のデザイナーは料理をする時にキッチンにあるスパイスを全て使わないと気が済まないのか、と嘆かわしくなる。
一方スペーシアXの個室は饒舌ではあるが、あくまで上品である。
洗練された技術を惜しみなく表現する「江戸っ子気質」といえよう。
コンパートメントの定員は4人だが、物理的には6人くらい乗れる。
列車が動き出してからビールを各自の紙コップに注ぎ、乾杯した。
「これに乗りたくて、予約開始日の1カ月前は出社時間を遅らせてもらったんですよ。個室が取れて良かった。」
私自身、4人用個室が取れるとは正直思っていなかった。
乗り心地も大変良好で、揺れもほとんど感じられない。
さて、今回のメンバーは5人で個室の定員は4人なので、読者は我々が不正乗車をしているように思われるかもしれない。
そこで今日は個室と普通の座席を1人分押さえてある。
だから座席に座るべき1人を個室に招待しているという形になっている。
それでも検札の時にもし何か言われたら、誰か一人を生贄に出そうかと思っていた。
個室の定員は4人だが、実際には6人くらい座るスペースはある。
しばらくするとドアをノックする音がして、執事のようなアテンダントが検札に来た。
「この個室以外にチケットはお持ちではありませんか?」
と尋ねられたので、予約完了した時に送られてきたメール(これがチケット代わりになる)の個室分と座席分を見せると、これで大丈夫ですとのことだった。
とりあえず生贄を選ぶという嫌なことをしなくてもよくなったので、手配をした私としても安心した。
アテンダントが乗車日を書いた記念撮影用のボードを手に取って「一枚いかがでしょうか?」と勧めると、5人全員が顔を曇らせた。
「いえ、映えへん奴らしかおらへんので結構です。ありがとうございます。」と断ると、
「そうですか。ではごゆっくり。」と言って去っていった。
カフェのオンライン整理券取得は随時チェック要
我々が乗車した9月は、1号車のカフェを利用するには車内でオンライン整理券を取得する必要があった。
個室にあるカフェの案内ボードにある二次元バーコードを読み取ったが、なぜか私の端末では利用不可の状態だった。
旧型客車氏もカフェに行きたいらしいが、「ギガが勿体ない」などと言い出した。
「僕は月々1GBしか使えないプランなんですよ。」
私が「そんなプランあんねんなぁ。」と驚くと、
「ありますよ。でも実際使ってる人は初めて見ましたね。それもおじいちゃんおばあちゃんではなく。」と800系氏が笑いながら言った。
結局、後になって車内ではWi-Fiが使えることに気づいたので、整理券を取得できた旧型客車氏がカフェに行ってホットコーヒーを買ってきた。
彼は今年スマホデビューをしたばかりだから、Wi-Fiと二次元コードを駆使できたことは褒めてやらねばならぬ。
少し飲ませてもらったホットコーヒーは、やや酸味が優勢なマイルドな味わいだった。
私も整理券を取得できたので、指定された時間(10分毎に設定されている)にカフェに行った。
個室のある6号車は浅草寄りの先頭車、カフェは日光寄りの最後尾だから、端から端まで歩かなければならない。
個室車両のデッキには相変わらずアテンダントが待機していた。
座席車両はスタンダード・プレミアム共に満席だった。
カフェカウンターのあるコックピットラウンジの客室はホテルのロビーのような雰囲気だった。
ここは1・2・4人用の設定があり、値段もスタンダードとあまり変わらない。
個人的には一人ならプレミアムシートを選ぶが、二人ならここで過ごすのも良いと思う。
カウンターのスタッフの他に、整理番号を確認してメニューを渡す受付係もいる。
ビールは「日光ラガー」と「いちごエール」の二種類あった。
「迷ったら全部買え」の我が鉄則の通りに両方注文した。
「日光ラガー」も正統派のビールで美味かったが、「いちごエール」の溢れんばかりのフルーティーさに、一同の舌が釘付けになった。
「これは女性受けしそうな味やな。ちょっと飲んでみます?」と、行きの特急「きぬがわ」ではしゃぎ過ぎて疲れの色が見えるお座敷車両氏に勧めると、幾分元気を取り戻したようだった。
色々なクラフトビールを空けながら「相変わらず185系さんは変わった味のビールが好きですねぇ。」と800系氏。
私もそれなりに酒が入っていたので、「そらそうよ。だいたい人間かて減点法で採点したらあかん。加点法で評価せななぁ。」
と、今年18年ぶりに優勝したプロ野球チームの監督みたいな口調で喋ってしまった。
帰宅ラッシュをよそに浅草へ
沿線に住宅が増えて来て東京が近くなってきたことが感じられる。
18時を過ぎて外も暗くなってきた。
必然的に我々も「やれやれ」といった重たい気分になって来る。
そんな時、ふいにLSE氏が口を開いた。
「旧型客車君は誰にお土産買ったの?いつも若い女性社員たちには買ってあげてるじゃん?」
「今回は上司にしか買ってないです。」
すっかりシャキッとしたお座敷車両氏が「あれ?前回お土産渡してた△△さんにはいいの?そういえば△△さん、最近若い男の子の○○君と仲良いよね。この前も一緒に帰ってたし。」とまくしたてる。
「いや、もういいんです…」
その後LSE氏が問いただした結果、旧型客車氏はお土産を買っても「投資を回収できる見込みがない」ことに気付いたとのこと。
「そろそろ人間用貨物列車が走り始める頃ですね。」
と800系氏が嬉しそうに言った。
彼はいつも通勤電車のことをそう表現している。
一時はロングシートを折りたたみできる車両を造ってしまったものだから、そう言われてもあながち間違いでは無い。
800系氏がいつも16時に退社するのも、たぶん「人間用貨物列車」に乗りたくないからだろう。
もう高架の複々線になっているが、駅にはまだ人がそれほど多くはない。
先ほどから見えてき東京スカイツリーに接近して見えなくなり、そしてフィナーレとして隅田川を渡って、18時45分に終着の浅草駅に着いた。
アテンダントの見送りを受けてホームに降りた。
場所が不便なせいか、この時間にしては駅も電車内も人が少なかった。
スペーシアXの周辺だけが、下車客たちの華やいだ雰囲気に満ちていた。
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