【山陰亜阿房列車】引退間近の381系特急「やくも7号」で松江へ【予約方法・車内など】

旅行記

1982年の伯備線電化以来、40年以上に渡って国鉄型車両で運転されてきた特急「やくも」。
2024年にようやく新型車両が投入されることが決まりました。

新型車両に乗るのは楽しみだが、一方で引退が迫る車両にも乗り納めしなければならぬと、2023年10月末に会社の友人を誘って東京から遥々新幹線を乗り継ぎ、岡山から特急「やくも」で松江を目指しました。

青線が「やくも」の走行ルート
今回は赤点の松江まで乗車

本記事では前半に特急「やくも」に関する全般的な内容を紹介し、本篇となる後半で旅行記をご覧に入れます。

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最後の国鉄型、381系特急「やくも」

最初の振り子式車両、かつ最後の国鉄型特急車両

特急「やくも」は岡山駅で新幹線と接続して、中国山地を横断して米子・松江・出雲市へアクセスする列車です。
大阪や岡山から山陰地方に至るメインルートとして活躍しています。
岡山からの凡その所要時間は米子まで2時間、松江まで2時間半、出雲市までは3時間です。
新大阪から新幹線で乗り継ぐと1時間くらい余計に時間がかかります。

「やくも」に使われている車両は国鉄型の381系という電車で、車両としての登場は1973年、「やくも」に投入されたのが1982年です。
国鉄民営化(1987年)から早36年が経ち、JR世代の一期生でさえも多くが引退している中、国鉄世代の車両が40年以上も働き続けて令和時代まで生き残っているのです。
2023年現在、国鉄型車両で定期運転される特急は、日本全国を見渡しても「やくも」のみです。

381系「やくも」

また381系は国内初の振り子式車両としても知られています。
振り子式車両とは、カーブ通過時に車体を内側に傾けることによって遠心力を緩和し、普通よりも高速で走ることができる車両です。
国土が山がちでカーブが多い我が国の鉄道において、振り子式車両の登場はスピードアップにとって画期的な出来事でした。
この技術はJR各社でさらに発展を遂げ、「やくも」の新型車両273系にも受け継がれます。

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予約はJR西日本のe5489がおすすめ

WEB早得でオトクに予約できる

「やくも」の予約はJR西日本のネット予約サービスe5489で行うことができます。
e5489をお勧めする理由は、割引切符の「WEB早得7(または14)」が購入できるからです。
出発の7日前(または14日前)までに予約する(ただし必ずしもWEB早得が残っているわけではない)必要があります。

早得14でおよそ20%の割引が受けられます。
WEB早得の設定区間は、新大阪・新神戸・岡山・広島(岡山以外は市内含む)~米子・松江・出雲市です。
それ以外の区間では割引が適用されません。

予約方法:乗り継ぎ列車をカスタマイズ可能

ここで予約方法を写真付きで解説します。
まず日付や区間を決めるのですが、発着駅を指定するにあたってデフォルトの路線を指定するやり方だと、新幹線+やくもの乗り継ぎが予約できません。
「駅名を入力」タブに切り替えましょう。

列車検索をかけると乗り継ぎ候補が現れます。
2週間以上先の新大阪~松江を照会したので、WEB早得4,14が設定ある旨が記されています。
新幹線、「やくも」それぞれの設備を選択します。
早得で購入するためにはどちらの列車も普通車指定席を選ぶ必要があるので、自由席にしないようにしてください。

上の写真では岡山乗り継ぎが8分です。
充分な時間ではありますが、もう少し余裕を持たせたい時は前の新幹線に変えることもできます。
赤丸で囲った「この列車を変更」ボタンをクリックすると、もっと早い時間帯の新幹線のリストが出るので好きな列車を選択しましょう。

その後切符の種類(WEB早得)や人数、そして座席選択です。
座席表から好きな席を選ぶことができます。

進行方向左側の座席がおすすめ

「やくも」の予約に際して、左右どちらの席が景色が綺麗か迷うことでしょう。
結論は進行方向左側(岡山発の場合)がおすすめです。

中国地方を横断する「やくも」は、中国山地を越えるために高梁川のつくった谷を進んでいきます。
その高梁川が見えるのはほぼ左側です。
また中国山地を越えて日本海側に達してからも、日野川を左手に見ながら下る区間が多いです。

一方でその後の車窓ハイライト、米子近くからの大山や島根県の中海や宍道湖は右側です。
これらは反対側の座席からでもわりとよく見えますし、右側の席が空いていれば移動しても良いでしょう。
どちらかというと岡山寄りの区間の方が混雑する傾向にあります。

東京では受け取りできない切符もある

e5489で予約した切符、特に早得切符の受け取りは注意が必要です。
基本的にJR西日本・JR四国・JR九州の各駅の券売機やみどりの窓口、またはJR東日本の東京都区内・北陸新幹線及び成田空港駅・空港第2ビル駅の券売機でも受け取りが可能です。

しかし、早得切符には受け取り範囲がさらに制限されたものがあり、JR西日本の駅でしか受け取りができません。
ホームページを見てもこのことはあまり書かれていませんでしたが、予約確認メールをよく見ると下の方に記載がありました。
特に四国や九州発の場合は注意してください。

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381系「やくも」の車内

普通車の車内

特急「やくも」の普通車の車内
普通車の車内

381系は40年以上昔に製造された車両ですが、これまで何度かリニューアルされており、内装や座席は年齢を感じさせません。
ただし充電用のコンセントは付いていません。

特急「やくも」の普通車の座席

グリーン車の車内

特急「やくも」のグリーン車の車内
グリーン車の車内

グリーン車は通路を挟んで2&1列の座席配置です。
フットレスト付きのどっしりとした座席で、色も落ち着いた感じがします。

特急「やくも」のグリーン車の座席

一部の「やくも」は先頭部が流線型になったパノラマグリーン車で運転されています。
内装は変わりませんが、前面展望を楽しむことができます。
どの列車がパノラマグリーン車を連結しているかは、JR西日本のサイトから確認することができます。

パノラマグリーン車の車両
特急やくものパノラマグリーン車の客席からの前面展望
パノラマグリーン車の客席からの前面展望
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【本篇】山陰亜阿房列車

以下、私と会社の友人「800系」の特急「やくも」乗車記です。

登場人物

  • 国鉄特急電車185系(筆者)…基本的に職務遂行能力は高くないが、故障リスクは皆無で他部署出向やイレギュラーな時間帯での勤務もこなすことができるため、会社にとっては意外と有用な存在。と本人は思っている。
  • 九州新幹線800系…キャラクターは充分に立っている。しかし労働を殊更に毛嫌いしており、いかんせん勤務時間が短すぎるせいか、職場では今一つ目立たない存在。

始発の「のぞみ1号」は混雑

10月も最終週でもう秋だというのに、いつまでも暖かい。
東京駅を朝6時ちょうど発の始発「のぞみ1号」に乗るために、さすがに早朝未明はひんやりするだろうと上着を着たが、結局無くても良かった。
「のぞみ1号」の車内で同行の800系氏と合流した。
「朝早くにどうも」と挨拶すると、彼は始発電車の時間に起きるからいつも通りだと言う。

この列車は博多行きだが、「せっかく西日本に行くのだから新大阪で一旦仕切り直そう」ということになって、新大阪で「さくら547号」に乗り換え、岡山から今回の目的の「やくも7号」に乗車する。
「のぞみ1号」は満席でビジネス客らしき人が多かった。
東海道新幹線で車内販売を利用するのもこれが最後だから、二人ともホットコーヒーを買った。

e5489の早得切符の受け取りはJR西日本の券売機で

新大阪駅で一旦降りて松江までの切符を受け取る。
しかし新幹線改札口付近にはJR東海の券売機しかなく、有人窓口の傍らに肩身が狭そうに2つ並んだJR西日本対応の機械を見つけるためには、駅員に聞かなければならなかった。
もっとも、我々のように東京方面から来て、わざわざJR西日本の早得切符を受け取るために新大阪で下車する人がそれほどいるとは思えない。

800系氏は小腹が空いたらしいから、関西らしいものとして柿の葉寿司を勧めた。
「さくら547号」は入線済みだったが、扉が空いたのは出発6分前。
こちらの列車も8割近くの席が埋まっていた。
九州のパンフレット見ている観光客が多く、外国人も結構いる。

新大阪を8時53分に出発。
朝の乾杯をして柿の葉寿司を食べる。
800系氏も気に入ってくれたようだ。
「子供の頃は新幹線で東京に行く時、よくこれを買ってもらってたんですよ。」
「いいですね。これはお酒にもよく合いますよ。それにしても185系さんはそんな小さい頃からお酒を飲んでたんですか?」
「なわけないやろ。」
50分弱で岡山駅着。

岡山駅で「やくも」に乗り換え

ここで在来線乗り換え口を通るべきところが、つい話をしながらの不注意で出口の自動改札に行ってしまった。
すると松江行きの乗車券は吸い込まれたまま戻ってこないではないか。
早得切符は途中下車不可だからこうなってしまうらしい。
駅員に頼んで自動改札機の中身を空けて取り出してもらった。
なんだが今日はずっとバタバタして面目ない。

いろいろあったが無事「やくも」が発車する2番線に降りたのは出発8分前の9時57分、ちょうど列車が入線してくるところだった。
「やくも」の381系もそうだが、周りに停まっている車両はJR四国のものを除くと全て国鉄型だ。
「この駅は昭和で時が止まっていますね。」と800系氏が感動する。
10時5分、古めかしいモーター音を響かせながら岡山駅を出発。
いよいよ本番である。

この日予約したのは進行方向右側の席だったが、先に述べた通り高梁川が見えるのは左側。
幸い通路を隔てた席が空席だったのでそちらに移動した。
倉敷駅を出た時点で7割くらいの乗車率だった。

高梁川が狭くなっていくと、石州瓦の赤い屋根の家が目立つようになる。
中国地方で顕著な光景だ。
川幅がまた広くなったところで備中高梁駅びっちゅうたかはしに到着する。
線路がある側の岸には山が迫り、山腹にも市街が広がっていて城もある。
ここで若干の乗り降りがあった。

備中高梁駅付近

備中高梁からよく揺れる区間。酔う列車ならではのエチケット袋も

備中高梁からは単線になり急カーブも増えるから乗り心地が悪くなる。
もっとも、国鉄型381系を目当てに来た我々からすると、「乗り応えが出てくる」と表現すべきだろう。
「これが俗に言う【ぐったりはくも】(注:車両リニューアルの際に使われた【ゆったりやくも】の呼称をもじったもの)ですか。」と800系氏も嬉しそうだった。
普段乗り物酔いはしないが、今日は酔い止めの薬を持ってきたらしい。
彼がトイレに行く際にも注意を促した。
「揺れるので男性用トイレでは気を付けてくださいね。私は昔この列車で油断して、危うく通路に放り出されそうになりましたから。」

洗面所にあるエチケット袋も「やくも」ならではの設備

さて、途中の駅で運転停車(客の乗り降りではなく対向列車待ちの停車)している時に、デッキで外国人の中高年の女性二人組が降りようとしていた。
「まだ駅ではありませんよ。」と英語で声を掛けると、彼らはスマホの英語翻訳アプリの画面を見せてきた。
曰く「備中高梁駅で降り損ねました。次の停車駅はどこですか?」とのこと。
次は新見駅だと伝え、次の新見から備中高梁までの電車の時刻も教えると、「メルシー」と返って来た。
彼らはフランス人のようだ。

「私も外国で初めて行く所ではああいう風になりますよ。800系さんには優雅な部分ばかり話しますが、実際には泥臭いもんなんです。」
「はぁ。にしてもあの人たちは何をしに備中高梁に行くんでしょうねぇ?」
たしかに疑問である。
会社の同僚で高梁生まれの人がいるので、帰ってから聞いてみた。
彼曰く「寅さんの映画とか、ロケには何度か使われたけどそれくらいかな?だいたい日本人でもあんま行かない所だしね。ハハハ。でもまあいい街だよ。」

新見駅を過ぎると列車は中国山地越えに挑み、カーブだけではなく勾配もきつくなる。
「おっ、モーターが唸ってますよ。」と、車好きの800系氏は自分がアクセルを踏むが如く興奮している。
かつてこの辺りは蒸気機関車の撮影所として知られていた。
800系氏に解説する。
「蒸気機関車って迫力はありますが、実際には坂道は苦手だったんです。発生させたエネルギーは本来車輪を回すことに使うべきなのに、煙をモクモクあげるということはそれだけエネルギーを無駄遣いしている訳なんですね。つまり、熱効率・生産性が低いのです。」
「なるほど。要するに、ウチの会社で無駄に慌ててバタバタしている○○さんということですね。」


「やくも」の奮闘に負けじと、我々も岡山駅で買った地ビールと穴子寿司とままかり寿司をテーブルに広げる。
新見から20分程度で分水嶺に達し、トンネルに入る所で県境を越え鳥取県へ。
トンネルの途中で下り勾配に転じて重力が変化する瞬間を、持参した縦断面図を見ながら800系氏と確認した。

トンネルを抜けて日本海側に出た。
心なしか青空に占める雲の面積が増したようだ。
これまでよりも針葉樹林が目立つ。
「サミットを越えて下り勾配になったので今はモーター音が静かですね。川の流れも進行方向と同じになりました。」と800系氏。
「ほう。見るとこ聴くとこ分かっとんな」と私が満足げに頷くと
「まあ、185系さんの受け売りなんですけどね。」

それっきり二人何も言わず、坂を下ってゆく「やくも」の相変わらずの揺れに身を任せていた。

山陰の風土、大山や中海・宍道湖が見える右側の景色が綺麗

やがて勾配は緩くなり車窓は開け、揺れもだいぶ収まった。
右手には伯耆富士こと大山がそびえている。
晴れの国、岡山を出た頃には全体がくっきり見えるだろうと思っていたのだが、頂上付近は雲で隠れていた。
まあ、これも山陰らしくていい。
石州瓦に加え、日本海側によく見られる黒光りした屋根の民家が増えてくる。

山陰本線と合流して米子駅に着いた。
降りる人がそれなりにいた。
ここから乗る人もいると思うが、そうした人は自由席を利用するのだろう。

県境を過ぎて島根県に入ると安来駅やすぎに到着。
私の祖父がこの辺りの出身で、私が小さい頃に雪の季節にこの駅で降りたことがある。
もちろん同じ車両だが、今とは塗装は違ったと思う。
しばらくすると右手には中海が見えてきた。
ちなみに松江駅を過ぎてからしばらくは宍道湖のほとりを走るので、山陰本線に入ってからは断然右側の方が景色が良い。

3分程遅れて高架式の松江駅に到着。
東京からの6時間半は、あっという間だった。

左端に映っているのは800系氏ではなく他人です

ここで「私のターン」は終わり、八重垣神社や松江城を800系氏の詳しい解説を聞きながら周った。
ホテルで少し休んでから、チェックイン時に聞いたおすすめの居酒屋に繰り出す。
私が地酒を選んでいる間に、800系氏はのどぐろとカニを注文していた。


ホテルに戻って温泉に入り、マッサージチェアーで身をほぐしてから、部屋で松江駅で買った島根ワインを開けた。
いつものように一人でチビチビやるのも良いが、話し相手がいるのも楽しい。
いつの間にか、栃木県出身の800系氏も関西弁が交じるようになっていた。


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