883系特急「青いソニック」自由席の乗車記【混雑具合・車窓の左右など】

幹線

九州の首都・博多と東九州の中心都市・大分を結ぶのが特急「ソニック」です。
英語で「音速」を意味する名前通りの高速電車で、山陽新幹線との関係性においてとても興味深い立ち位置の列車です。

2024年2月初旬、883系を使用した「青いソニック」の自由席に博多から大分まで乗車しました。
本記事では車窓や自由席の混雑度、座席を選ぶ際の注意点などについて述べます。

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九州を代表する高速振り子式電車

特急「ソニック」は博多から北九州市の小倉を経由して大分まで走ります。
博多・大分間の営業距離は約200㎞で、最速の「ソニック」は同区間を2時間で走破しています。
「ソニック」とは英語で「音速」を意味するので、その名に恥じない速さです。
鹿児島・長崎と主要幹線が新幹線化されていく今、「ソニック」は九州で最も重要な在来線特急と言って良いでしょう。

車両は青いメタリックな車体のロボットのような顔をした883系(通称「青いソニック」)と、白い車体で丸っこい印象の885系(通称「白いソニック」)の2種類が運用されています。
どちらもカーブでも速度を落とさずに走れる高速の振り子式車両です。

地図を見ると分かる通り、博多から大分まで行くのには「ソニック」のルートよりも、観光列車の「ゆふいんの森」が通る久留米・日田経由の方が20㎞以上距離が短いです。
実際にライバルの高速バスはこちらに近い経路をとります。
高速バスの所要時間は福岡から大分まで2時間半弱ですから、遠回りしているにもかかわらず鉄道の方がスピードでは優位に立っています。

赤線:「ソニック」の経路、黄線:「ゆふいんの森」の経路
国土地理院の地図を加工して利用

また、小倉駅では新大阪方面から来る山陽新幹線と接続しています。
つまり「ソニック」のライバルは博多・大分間の高速バスだけでなく、関西・大分間の航空機でもあるのです。

さらに面白いことに、九州の二大都市、博多・小倉間では高速バスはもちろん、山陽新幹線とも競合しています。
「同じ鉄道だから仲間なのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、山陽新幹線はJR西日本の管轄なので、「本土」のJR九州からすると敵です。
要するに、「ソニック」と山陽新幹線は博多~小倉では競合し、小倉~大分では一転して協調するという複雑な関係にあるのです。

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青いソニックの車内:普通車は指定席のみコンセント有り

普通車の車内

リビングのようなウッドフロアにジェットコースターのような座席、荷物棚のカバーと天井は真っ白と、まるでテーマパークのようなインテリアです。
ちなみにこの車両はリニューアル済みで、オリジナルの内装はもっとけばけばしいものでした。
「白いソニック」の885系と比べると、座席の掛け心地はやや劣ります。
しかし肘掛け内蔵式ではなく背面テーブルなので、その点は青い883系の方が使いやすいです。

座席の柄以外は普通車の内装はどれも同じですが、指定席にはコンセントが付いています。

グリーン車の車内

博多・大分寄り先頭1号車の前半分がグリーン車です。
普通車と座席の形状は似ていますが、大型で高級感があります。
フットレストと窓側座席にはコンセントも付いています。

運転台の後ろにはグリーン車の乗客専用の「パノラマキャビン」があり、前面展望を楽しむことができます。
カーブに差し掛かる所では車体傾斜がよりリアルに感じられます。
椅子は木でできたベンチなので固いです。
これは「譲り合ってご利用ください」という意味なのでしょう。

パノラマキャビンからの前面展望

車内販売・自動販売機はない

九州の特急列車では車内販売は廃止、自動販売機も撤去されました。
「ソニック」は小倉駅で進行方向が変わりますが、それでも停車時間は2~3分です。
3分あれば混雑した小倉駅ホームでも自販機で飲み物くらいは買えるかもしれません。

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予約:九州ネット早特3は格安、右側の座席がおすすめ

九州の特急の予約はJR九州の公式サイトから行います。
ネット限定の「九州ネットきっぷ」は当日でも半額以下で買うことができます。
自由席用の設定もありますが、敢えてこちらを選ぶ必要はありません。
コンセントが付いていて座席を選べる指定席を予約しましょう。

そして、3日前まではさらにオトクな「九州ネット早特3」が販売されています。
通常価格に比べて60%も割引されるので、是非これを狙いましょう。
数量限定のため3日以上前でも売り切れることがあります。

座席を指定する際、博多発の場合は進行方向右側の座席を選びましょう。
小倉から南下する日豊本線では海は左側ですが、小倉で進行方向が変わります。

博多・小倉間で「ソニック」に乗る場合でも「九州ネットきっぷ」は設定されています。
料金は1,470円で、高速バスより少しだけ高い程度です。
所要時間はバスが1時間半に対して、「ソニック」は40~50分。
これだけだと「ソニック」の圧勝に思えますが、バスは天神など複数ターミナルがあるので侮れません。

ところで、JR九州のネット予約で普通に博多・小倉間の列車を検索すると、山陽新幹線ばかりが出てきます。
「ソニック」を予約するためには「条件」から「新幹線を使う」のチェックボックスを外す必要があります。
それにしても、自社サイトにおいてドル箱路線でみすみすと商売敵へと誘導するのは会社としてもまずく、システムを改修した方が良いのではと思えます。

デフォルトでは青丸の欄にチェックが入っているので外す
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乗車記:全区間を通して自由席も指定席も混雑

日曜日の昼過ぎ、博多駅14時ちょうど発の「ソニック29号」大分行きに乗車します。
「ソニック」の中でも停車駅の少ない速達タイプの方です。
5分くらい前にホームに着いた時には、ちょうど列に並んで待っていた人たちが乗車し終えた頃でした。
何とか進行方向右の窓側席を確保します。

「ソニック」では指定席に乗るべきと書いたばかりですが、本記事では自由席に乗っています。
というのも、「ぐるっと九州きっぷ」を使っていたので自由席の方が安くなるからです。
混雑する区間や度合いは自由席も指定席もあまり変わりませんが、この日は日曜日なので普段よりは混雑していると思ってください。

大きなスーツケースを抱えたアジア系の外国人が大勢乗っています。
別府・由布院など著名な温泉を有する大分県は、外国人にも人気の行き先です。
どの車両も満席に近い状態で博多駅を出発しました。

今なお発展を続ける福岡の市街地を15分程で通り過ぎ、丘陵地や田園風景が現れます。
鉄道が開通するまで石炭を運ぶ道であった遠賀川を全力疾走して渡ると、まもなく列車は折尾駅に到着します。

折尾からは北九州工業地帯となります。
海側の左手には大きな工場が所狭しと並び、右手の山の中腹にも住宅がびっしり建て込んでいます。
私が中学生の頃、つまり20年以上も前から北九州工業地帯は衰退していると習ったわけですが、何だかんだで車窓から見ている分には活気を感じます。
というか、地方都市で一番元気な福岡市と比べられるのがそもそも気の毒です。
赤い若戸大橋が左手によく目立ちます。

小倉駅で予想通り乗客が一定程度入れ替わりました。
ここで進行方向が変わります。
乗り降りする客を通路に通したり、座席を転換させたりとバタバタしているうちに列車は走り出しました。

小倉からもしばらくは住宅地が続きます。
遠くには工場も建ち、海の気配は感じるのですがなかなか見えません。
右手ではすぐ近くに山が迫ってきます。

行橋駅ゆくはしを出てから10分程度、ようやく海が姿を現しました。
灰色の空に押しつぶされそうで、随分待たせた割には無愛想な表情です。
少なくとも瀬戸内海の明るい多島海のイメージは全くありません。

中津駅に着く直前に山国川を渡って大分県へ。
中津城が小さく見えます。
車内アナウンスでは中津が福沢諭吉の故郷であることを案内します。
新紙幣発行とキャッシュレス社会を憂いているようです。

写真中央部、民家のアンテナと重なった位置に中津城が見える

大分県に来ると心なしか住宅・工場が減って、水田や畑が目立つようになりました。
やがて前方に国東くにさき半島が見えてきます。
我らが「ソニック」は勾配や曲線をものともせず、半島の付け根を横断していきます。
しかし一部単線区間があり、やむを得ず通過駅で待ち合わせのため停車しました。
せっかくこれまで振り子式車両の性能を発揮して高速運転してきたのに、「ソニック」も無念そうです。

国東半島の横断が終わるとすぐに別府湾に躍り出ます。
海沿いに走る気持ちの良い区間で、天気があまり良くないにもかかわらず辛うじて四国まで見渡すことができました。
右手に湯けむりを見ながら別府駅に到着。
ここで降りたのは5人程度。
乗ってきた人もいたので意外でした。

なおも海岸沿い。
前方には大分の臨海工業地帯が見えます。
今度は湯けむりではなく、工場が曇り空に向かって噴煙をあげています。

終着間近になるとまた自動の車内アナウンスが流れ、大分の郷土料理「りゅうきゅう」をPRし始めました。
これは青魚の切り身をタレに付け込んだ保存食です。
余談ながら、大分・福岡・長崎と青魚が美味しい県は、それとよく合う麦焼酎が造られています。
博多から約2時間で終着の大分駅に到着。

夕刻の大分は思いのほか寒かったです。
が、美味しそうだったので駅併設の土産市場でソフトクリームを買いました。
大きな駅舎の入り口には鶏の像があります。
大分県は一人当たりの鶏肉消費量が日本一なのを記念しているのかと思っていましたが、後で調べると九州で最も東に位置し朝が早いという意味だそうです。

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新幹線と右手で握手しながら左手は…

「ソニック」の車窓からも見える福岡との県境近くの中津城は、豊臣秀吉の軍師・黒田官兵衛が築城しました。
野心家の彼は関ヶ原の戦いの後に、凱旋した長男の長政から「徳川家康に感謝されて、豊前12万石から筑前52万石に加増された」と聞かされた時、「右手で握手している時、左手は何をしていたのだ?(その時に家康を討てたはず、という意味)」と叱ったと伝えられています。

中津城

やはり野心的な顔をした豊州の覇者「ソニック」は、天下の新幹線という強大な存在に対して、ある時は協調し、またある時は競合する、巧みな処世術を発揮しているのです。


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