800系九州新幹線「つばめ」で鹿児島中央から博多へ【予約・自由席の混雑など】

幹線

戦前より我が国を代表する名列車のために使われてきた「つばめ」。
現在その由緒正しき列車名を預かるのは、なんと九州新幹線(博多~鹿児島中央)の各駅停車タイプです。

2024年2月初旬、今や九州だけに生息している「つばめ」の自由席に、鹿児島中央から博多まで全区間乗車しました。
本記事では800系「つばめ」の概要・車内や乗車記、予約する際のポイントを解説します。

赤線が「つばめ」の走る九州新幹線
国土地理院の地図を加工して利用
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「つばめ」は九州内完結の各駅停車タイプ新幹線

「つばめ」鹿児島へ翔ぶ

九州に「つばめ」が復活したのは1992年、博多・西鹿児島(現・鹿児島中央)間の特急「有明」に新型車両787系を投入するにあたって、列車名も一新して「つばめ」としたのがきっかけです。
斬新な外観に落ち着いた内装、そして4時間を超える乗車時間を考慮して立ち席のビュフェも備えた豪華編成は、発足してまだ5年のJR九州の意気込みの表われでした。

転機となるのは2004年、九州新幹線の南半分の新八代(熊本県)・鹿児島中央間が部分開業した時でした。
「つばめ」は新幹線の列車名に格上げされ、新八代駅で新幹線と接続する特急は「リレーつばめ」を名乗ります。
これは今の「かもめ」と同じ形態です。
これにより、区間が短縮される「リレーつばめ」はビュフェが普通車に改造されて平凡な列車となり、晴れて新幹線に進化した「つばめ」も乗車時間が40分前後でグリーン車無しと、所要時間短縮効果が大きかった反面スケールダウンは否定できませんでした。

歴代「つばめ」
華々しい名列車だが、新幹線の延伸に伴い西へ追いやられているのが分かる
九州鉄道記念館にて

そして2011年に九州新幹線が全通すると、山陽・九州新幹線直通列車には「さくら」・「みずほ」が宛てられ、「つばめ」は九州新幹線内で完結する各駅停車タイプとなりました。
曲がりなりにも国土軸の最南端で主役を担っていた「つばめ」も、今や完全に脇役に追いやられてしまったのです。

車両はほぼ800系

「つばめ」に運用される車両は、朝と夜を除けば基本的に800系です。
2004年の部分開業時に登場したJR九州オリジナルの新幹線車両で、白い車体に細い赤のラインの入ったお洒落な車両です。
最高速度は260㎞/hに抑えられているので、最近の新幹線と違って先頭部分も奇妙な形ではありません。
乗る時に気付くのですが、天井部も深い赤色に塗られています。
これはスーツの裏地で魅せる紳士を思わせます。

運転区間は博多~熊本が多く、数時間毎に博多~鹿児島中央までの便があります。
また、例外的に本州の新下関まで足を延ばす列車もあります。
「つばめ」のおよその所要時間は博多・熊本間が50分、博多・鹿児島中央間が1時間45分です。
各駅停車といっても、列車本数が多くないので基本的に通過待ちは行いません。
というか、そもそも通過待ちできる構造の駅がほぼありません。

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800系の車内:座席にコンセントなし

前章で述べた通り、800系は普通車のみでグリーン車はありません。

自由席・指定席どちらも横4列の座席です。
全国の新幹線車両の中で最も凝った内装で、高速鉄道とは思えないほど和風のテイストになっています。
テーブルが肘掛け内蔵式なので小さく、食事をしたりパソコンで仕事をするには不向きです。
また、自由席・指定席ともにコンセントはありません。

人によっては装飾過多、カスタマーではなくデザイナーファーストと思われかねない客室かもしれませんが、デッキは「押しつけがましさ」のない、より凛とした日本的な美を表現しています。
それから座席の柄は派手でも裏側は木目板なので、実際に乗っていると思ったより落ち着いた雰囲気です。
また、車両によって座席の柄は異なります。

化粧室には熊本の特産品であるい草が使われています。
ただし、2024年に乗った時にはこれが撤去されていました。
たまたま私が乗った編成だけなのか、全編成で撤去されているのかは分かりません。
扉の赤も漆器のように深い実のある色合いです。

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予約:九州ネット早特7に価格変動制導入へ

予約はJR九州のサイトから行うことができます。
料金が半額近くになることも多い在来線特急と比べると、九州新幹線の「九州ネットきっぷ」は指定席が自由席と同じ料金で利用できる程度で、割引率としては今一つです。
そんな中でも利用価値が高いのが博多・熊本間の「九州ネット早特7」です。

その「九州ネット早特7」ですが、2024年3月から6月までの間に価格変動制を試験的に適用します。
これは同じ区間であっても列車毎の需要によって料金が異なるシステムで、飛行機や海外の鉄道では極当たり前になっています。
新幹線では初の試みとのことですが、むしろなぜ今までJR九州以外がやらなかったのか不思議です。

博多発熊本行きの列車を検索

気になる料金は、今まで3,800円(通常の切符だと5,230円)だったものが3,400~4,200円になります。
最初ということもあって変動幅は穏やかな方でしょう。

一般的な傾向としては、「つばめ」が3,400円、「さくら」や「みずほ」が4,200円になっているようです。
ただし時間帯によっては「つばめ」でも4,200円が提示されることもあります。
「つばめ」としては各駅に停車する代わりに安い料金を打ち出したことで、速達列車との差別化を図れたことになります。
さらに、最低料金が下がることで高速バスとの競争力も確保できそうです。

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乗車記:熊本以北から混雑する。座席は左側(海側)がおすすめ

日曜日の午前中遅めの鹿児島は曇り空。
この時間は鹿児島にやって来る人が多く、列車が到着すると旅行客がぞろぞろと改札から出てきます。
暖かい所に来て上着をスーツケースにしまってしまう人もちらほら。
逆に鹿児島から出かける人はそれほどおらず、コンコースやホームも閑散としていました。

出発する10分ほど前に扉が開きました。
やはり空いています。
鹿児島中央発の場合は進行方向左側、つまり海側の座席に座りましょう。
乗車率は自由席も指定席も4割程度でした。

もしかしたら「どうせ内陸部をトンネルでショートカットする新幹線では、車窓なんか楽しめないのでは?」と思っている方もいるかもしれません。
たしかに九州新幹線は特に新八代以南はトンネルが多いのですが、その合間に見える海の景色は印象的です。
また、在来線に乗っていると退屈な新八代以北も、高架からの高さを活かした眺望を楽しむことができます。

11時23分に鹿児島中央駅を出発、1分も経たないうちにトンネルへ。
鹿児島市内に迫ったシラス台地の山塊を突破します。
トンネル内は急勾配になっていて、真っ暗な中を走っていてもそれが明確に感じられます。
九州新幹線は最近できた新幹線がどこでもそうであるように、建設費をケチって造られているためです。

次の川内駅せんだいで若干の乗り降りがありました。
ここは人口10万人弱の薩摩川内市の中心で、鹿児島から普通電車では50分のところ新幹線では10分少々なので、一駅だけ乗る人もいるのでしょう。

次の出水駅いずみ周辺に広がる出水平野は、トンネルの連続からしばし開放感に浸らせてくれます。
海に落ちる山の斜面にはミカン畑も見られます。

そして熊本へ着く10分くらい前からはは天草列島、次いで雲仙岳を見ることができます。
もうこの辺りはトンネルも少ないので、ゆっくりと景色を眺められます。
雲仙岳は山頂付近だけ雲から顔を出していて、まるで波しぶきをたてながら海原を進むひょうたん島のようでした。

全列車が停車する熊本駅では乗客の半分程度が下車し、その倍以上が乗ってきました。
九州新幹線の2022年度の平均通過人員(1日1㎞あたりの平均乗客数。輸送密度とも。)は熊本を境に2倍の差があります。
また九州新幹線全体の平均通過人員は、東北新幹線の盛岡以北のそれを上回っています。

その後に停車する新玉名駅、そして福岡県に入って新大牟田駅しんおおむたは、在来線とは接続していません。
駅前には広大な駐車場や倉庫があるのみですが、5人ずつ乗ってきました。
鹿児島中央駅を出発して以来、特に熊本からはだんだん乗客が増えています。
そして筑紫平野に出る頃には天気は回復していました。

久留米駅くるめを出てすぐに九州一の大河、筑後川を渡ります。
そしてわずか数分で次の新鳥栖駅に到着。
福岡県の駅に挟まれる形で、この駅だけは佐賀県です。
果たしてここに西九州新幹線を無事に迎え入れることができるのでしょうか?

私の隣の席にも男性が乗って来て、いつの間にか車内はほぼ満席になりました。
特に日曜日だから乗客が多かったのでしょうが、博多に近い区間ほど混雑する傾向は変わらないと思われます。

長い間平地を悠々走ってきましたが、最後に背振山地をトンネルで越えます。
そしてトンネルを抜けると前方の眼下に福岡平野が開け、そのまま市街に降りていきます。
この部分の車窓も見所の一つでしょう。
その余韻を感じながら福岡の街をゆっくりと走ります。

13時9分に博多駅に到着。
改めて800系の顔を見ると、赤いラインの端にツバメのマークが描かれており、それがホクロのように見えて愛嬌を感じました。

日曜日の昼間ともあって、九州の首都・博多駅は人で溢れかえっています。
外国人専用窓口も長蛇の列です。

駅近くのラーメン屋で、カウンターの隣に座っていた一人旅の中国人と話しました。
東京・姫路・福岡と周ってきて、これから特急「ソニック」に乗って別府の温泉旅館に行くそうです。
別れ際に「このラーメン屋でようやく英語ができる人と会えました。」
と言われましたが、さすがにこれはお世辞か冗談だと思います。

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「つなぎ」だった「つばめ」

「つばめ」が九州の鉄道の主役だった期間は、新幹線が部分開業していた僅か7年間です。
もともと800系が九州内での使用を想定した設計なので、2011年に九州新幹線が山陽新幹線と接続してからは、「さくら」「みずほ」に運用されるN700系が中心的存在となりました。
つまり、800系は「つばめ」というより「つなぎ」であったといえます。

鹿児島中央駅にて

とはいえ、JR九州にとっては800系が唯一のオリジナル設計の新幹線車両ということもあって、その愛着もひとしおです。
実際にJR九州のサイトでは800系をイメージしたロゴが散見されます。
今後も「九州の顔」として、実際の働き以上の存在感を発揮してくれるでしょう。

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