越美北線は北陸本線の越前花堂駅(福井駅の一つ米原寄りの駅)から九頭竜湖駅に至る路線です。
正式名称の他にも「九頭竜線」の愛称で知られています。
川に沿って山奥へと分け入るローカル線で、途中に戦国時代の朝倉氏の遺跡がある一乗谷や、小京都で知られる越前大野があります。
平地では水田地帯が広がり、寄り添う川が荒々しくなったと思っているうちに終点の九頭竜湖駅に到着します。
2021年9月上旬に、福井駅と九頭竜湖駅の間を往復しました。
九頭竜線の旅
ボックス席・トイレ付きのキハ120形
越美北線の運転本数は少ないため、スケージュールを立てる際には注意が必要です。
特に約半数の列車が折り返してしまう越前大野から先は1日4.5往復しかなく、日照時間や折り返しも考慮すると利用できる便は限られてきます。
なお、2021年10月からはさらに減便が発表されましたが、対象になったのは福井~越前大野の列車なので、「乗り潰し派」にとっては今のところ影響はありません。
参考:JR西日本のニュースリリース
始発となる福井から九頭竜湖までの所要時間は1時間半強です。
車両はレールバスのようなディーゼルカーで、両端にロングシートと中央部には少ないながらボックスシートがあります。
また車内にはトイレも付いています。
越美北線の乗車記
平野から川沿いに山間部へ
乗車したのは福井駅を9時08分に出発する列車で、2両編成のディーゼルカーでした。
発車数分前に「サンダーバード」で着いたのでロングシート部分しか空いていません。
青春18きっぷ期間の最終盤ということもあってか、行楽客風の人がほとんどです。
列車は米原方面に向けて福井駅を出発し、次の越前花堂駅までは北陸本線を走ります。
北陸本線と分かれると、車窓はすぐに広々とした福井平野の水田地帯になります。
私も含めいかにも不要不急らしき客の合間を縫って「場違いな」女子高校生が一人、まるで間違った列車に乗ってしまったかのように一番前の運転手の隣のドアから降りていきました。
水田が途切れて山が迫って来る辺りで一乗谷駅に到着。ここでまとまった数の人が下車します。
戦国時代の朝倉氏の城下町があったのは少し歩いた所で、駅周辺には何もありません。
天然の城塞を横目に、列車もこれから足羽川を頼りに山間部へと向かっていきます。
蛇行する川を何度か橋で渡りながら進んでいきます。
田んぼでは農作業する人が、川では釣りをする人がいます。
日本の田舎の原風景というべきでしょうか。
美山駅を過ぎた辺りで足羽川は離れていきます。
大きな導き手を失った線路は、深緑の針葉樹林に囲まれた山地を走ります。
計石駅を出発して暫くするとトンネルに入ります。
これまでずっと線路は緩やかに登ってきましたが、前半戦の登りはとりあえずここで一段落といったところです。
しばらくは盆地。越前大野駅で切り離し作業。
トンネルを抜けると視界が一気に開けて大野盆地に出ます。
市街地に入り家が多くなり、越美北線の中心駅である越前大野駅に到着です。
越前大野駅で10分少々停車。この間に2両編成を切り離し、前の車両が九頭竜湖行き、後ろの車両は折り返しの福井行きとなりました。
小京都といわれる越前大野だけに、駅舎もそれらしいものになっていました。
駅の近くにある地方らしい雑貨屋で地酒のワンカップを買います。
この駅で半数以上の客が降りたので、1両編成になったにもかかわらず乗車率は減り、ようやくボックス席に陣取ることが来ました。
越前大野駅からしばらくは盆地の平坦な道が続きます。
雑貨屋で買った酒は、北陸らしいすっきりした辛口でやや酸味のある、安い値段からは想像できないくらいの味わいでした。
渓谷美に期待するもトンネルだらけの終盤
下唯野駅から次の柿ヶ島駅まではわずか1㎞しかなく、柿ヶ島駅のすぐ手前には第一九頭竜川橋梁が架かっています。
ここからは深い山の中に入ります。
進行方向右手を流れるのは九頭竜川で、水力発電のダムや渓谷美を見せてくれます。
この辺りが越美北線で最も車窓が面白い区間でしょう。
1972年までは終着駅だった難読駅の勝原駅は、今もその雰囲気があります。
線路脇の茂みの中(立ち入り禁止?)から撮り鉄が突如姿を現し、カメラ様に車両をお見せしていました。
1960年代中盤以降に建設された(日本鉄道建設公団によって建設された)区間は近代的な工法が用いられており、越美北線の末端部も九頭竜川などお構いなしにひたすら真っすぐのトンネルで九頭竜湖を目指します。
「いよいよこれから絶景だ」と思っていた人はがっかりするでしょう。
時々明かり区間を含みながらログハウス風の駅舎の九頭竜湖駅に到着です。
駅周辺には食事ができる施設の他にも直売所があり、野菜や総菜・弁当を売っていました。
スケジュールの関係で僅か7分の折り返し時間しか確保できませんでしたが、本当はもっとゆっくりしたいものです。
ここで購入した舞茸弁当はとても美味しく、お酒にもよく合いました。
ここまで乗って来た乗客は僅かでしたが、彼らのほとんどが私と同様に折り返しの列車に乗車しました。
復路では編み物をする女性や買い物帰りらしき人など、ローカル線らしい客層でした。
越美北線と越美南線
ところで、「越美北線」の路線名の由来ですが、「越」は越前、「美」は美濃を指します。
つまり、福井県と岐阜県を結ぶ路線が計画されており、その北側(福井県側)の一部が越美北線であるわけです。
それでは「越美南線」はどうなっているのかというと、国鉄時代の越美南線を長良川鉄道(美濃太田~北濃)が継承しています。
両線の終着駅は直線距離にして15㎞程度しか離れておらず、以前は九頭竜湖から長良川鉄道の美濃白鳥(北濃の3つ手前の駅)までバスで行けたようですが、現在では途中で徒歩を挟む必要があります(徒歩だけで峠を越える人もいるようです)。
残りの区間の建設計画は聞かれず、2021年秋の減便を越美北線廃止の予兆とすら捉える向きもある現状、これらの路線が手をつなぐ可能性はほぼ無いといってよいでしょう。
美濃太田と福井を結ぶ「越美本線」は夢に終わるでしょうが、同じく大正時代に計画された中部地方から北陸地方へ抜ける路線のうち、高山本線(岐阜~富山)は無事に開業しています。
本土横断線として機能しているとは言い難い高山本線以外にも、それに似た性格を持つ路線が計画されていたという事実は、当時から目立ってきた政党政治による「我田引鉄」、そして道路や車が未発達で鉄道が陸上交通の王者だった時代を感じさせます。
廃止リスクは高いが新幹線効果に期待
もともと本数が少ないうえに2021年秋に減便が実施されたことからも分かる通り、越美北線は存続問題が常につきまといます。
始点の越前花堂駅以外に他線区との接続がない「盲腸線」であることも、廃止のハードルを低くしているかもしれません。
しかし、沿線には一乗谷や越前大野といった歴史を感じさせる名所を抱え、九頭竜湖の自然も魅力的なことから、観光路線としての潜在力は決して侮れません。
2023年度末に予定されている北陸新幹線敦賀開業を機に、その潜在力が発揮されることを期待したいと思います。
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