ゆら~り眺めて清流列車で行く長良川鉄道越美南線の旅【車窓やフリー切符の紹介】

私鉄

長良川鉄道は高山本線の美濃太田駅から長良川に沿って北上し、終点の北濃駅に至る第三セクターの鉄道です。
その名前が示す通り長良川の車窓が美しい路線で、途中には郡上八幡や美濃白鳥といった観光地も抱えています。

2021年9月上旬に美濃太田駅から「ゆら~り眺めて清流列車1号」で北濃駅まで行き、折り返し列車に乗って戻りました。

青線が越美南線こと長良川鉄道、緑線は越美北線。
お互いの終点駅、北濃と九頭竜湖は近い。
国土地理院の地図を加工して利用。
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長良川に導かれて美濃路を行く

景勝地で徐行運転する「ゆら~り眺めて清流列車」

行きに乗車したのは「ゆら~り眺めて清流列車」1号です。
特別な車両で運転されるわけではありませんが、湯の洞温泉口~郡上八幡の景勝地で徐行運転サービスがあります。
この区間は特に長良川の景色が綺麗な所で、鉄橋を渡る度ににスピードを落として走ります。

私が乗った時は後ろに観光列車風の車両が付いていました。
例の全国各地で量産されているデザイナーブランドの車両ですが、座席は硬そうなロングシートでほとんどの人はすぐに通常車両に移動して来たので、途中からは子供連れくらいしか乗っていませんでした。
こういう代物をオモチャと呼びます。

車両にはトイレが無いので要注意!

私が乗車したのはボックスシートを備えた車両で、車内に沿線の写真をラッピングした特別仕様車でした。
最近のJRの車両のようにスタイリッシュな座席ではありませんが、若干野暮ったい所に好感が持てます。
なお、長良川鉄道にはロングシートの車両もあるようです。

内装に沿線の観光地のイラストや写真をこしらえた車内

車内にトイレは無いということを乗車前に認識しておきましょう。
美濃太田~北濃の所要時間は2時間程度ですので、これは非常に厄介な問題です。
途中の郡上八幡などの大きな駅で数分停車することがあるので、基本的にはそのタイミングで済ませることになります。

乗車記:左右の車窓は甲乙つけがたい

美濃太田駅には長良川鉄道・高山本線の他、太多線(美濃太田~多治見)も乗り入れる。

朝の土曜日の美濃太田駅は曇り空で、時々地元の人や行楽客らしき人がいる程度でした。
2両編成の9時56分発の列車の前方、通常のボックスシートの車両に乗車します。
出発した時にはそれなりに席が埋まっていました。

美濃市駅までは田園地帯で駅の数が多い

列車はしばらく、山地に接した濃尾平野の北限の田園地帯を走ります。
廃止を辛うじて免れた国鉄路線を継承した第三セクター鉄道によくあることですが、駅舎などの設備は大昔のままで、自身の存在をアピールするかのように派手な車両とは対照的な趣があります。

この辺りでは国鉄時代に比べて駅の数が増えています。
宅地化が進んだことに加え、新会社になって地域密着の姿勢を強くしたこともあるのでしょう。
関市役所前駅のような、バス停のような駅名もその表れです。

外国人らしきグループなど、地元客らしき人はほとんど降りていきました。
美濃市駅を過ぎるとだんだんと丘陵地となっていきます。

湯の洞温泉口駅から長良川の景色が続く

湯の洞温泉口駅ゆのほらおんせんぐちの手前くらいから、いよいよ長良川に沿って走ります。
川はまず新方向左手に見えますが、このあとも度々橋を渡るので右側に座席を取った人もがっかりすることはありません。
釣やカヌーを楽しむ人が沢山います。

みなみ子宝温泉駅では駅のすぐそこに温泉施設があります。
地理的にも真ん中というのもそうですが、子宝とは少子化時代に何とも縁起の良い名前です。

長良川の景色もさることながら、それに沿った灰色や赤茶色の屋根の民家と、背後の並木も美しい風景です。
中央本線や高山本線に乗っていても思うのですが、美濃や木曽の谷というのは晴れているよりも、山の方に若干もやがかかる程度に曇っている方がよく似合います。

深戸駅ふかどから次の相生駅あいおいまではとりわけ車窓が綺麗です。
前日の雨のせいか、大きく蛇行する川の流れは速くなっています。
途中の駅でやむを得ずトイレのためにしばらく停車して遅れているのですが、それでも橋を渡る時には律儀に減速します。
ローカル私鉄には数分の定時性のためにあくせくする窮屈さはありません。

郡上八幡駅ぐじょうはちまんは長良川鉄道の中心的な駅です。
駅は基本的にレトロですが、駅舎や観光客誘致のための飾りは新しくなっています。

以後も主に左手に川が流れます。
郡上八幡駅でそれなりの客が降りたため、車内は閑散としてきました。

黄金色の絨毯を見せてくれる水田は稲刈りが終わった所もあるようです。
それにしても、刈り取った稲を雪国の伝統衣装のように束ねて干している様子は、なんと風情があることでしょうか。

かつて越美北線の九頭竜湖駅行きのバスが出ていた美濃白鳥駅みのしろとりを過ぎ、滝やつり橋を見ながら進んでいくと終点の北濃駅に到着します。

終点北濃駅に到着。駅には食堂もあり。

折り返し列車が発車するまで30分少々森林浴をします。
終着駅らしく蒸気機関車時代の転車台が保存展示されています。

観光地として「俗化」された郡上八幡駅とは対照的に、たまたま終着になっただけの北濃駅はあまり手をつけられておらず、駅舎・待合室もかなり古めかし雰囲気です。
JRの場合はローカル線でもたいてい終着駅だけは駅舎を分不相応にするものですが、北濃駅にはそんな体裁を繕う気はさらさらないようです。

博物館の「昭和の商店」を再現したような駅。

しかし体裁はなくとも必要な機能は整っていて、駅には食堂があります。
この時はコロナの影響でテイクアウト弁当販売のみだったので、唐揚げ弁当(1000円)を注文しました。
「安くはないな」と思っていましたが、開けてみると大きくてジューシーな唐揚げが8つも入っていて大満足でした。

帰路は往路よりも晴れていました。
気温も上がり、川遊びを楽しむ水着姿の若い男女のグループが岩場に腰かけ、通過する列車を見上げて手を振ってきました。
酒と弁当で気分が良くなった私も、青年は無視して彼女たちに手を振ります。
美濃太田駅に戻ったのは15時前でした。

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乗り鉄たびきっぷは格安でおすすめ

長良川鉄道の営業キロ72㎞で地方の第三セクターとしては長く、片道の運賃だけで1720円(2021年)にもなります。
当然青春18きっぷも使えません。

そこで、有効活用したのが「JR東海&16私鉄 乗り鉄たびきっぷ 」です。
土休日の連続する2日間有効で、JR東海全線及び隣接する16の私鉄(近鉄・名鉄・名古屋地下鉄などは不可)の普通列車自由席に乗車できる切符で、特急列車を利用する際も乗車券部分は有効です。
しかも、この制度は東海道新幹線の熱海~米原の「ひかり」と「こだま」にも適用されます(新幹線利用は4回まで)。
そのため関東在住の人にも利用価値が高いです。

名古屋~鳥羽の快速「みえ」。途中経由する伊勢鉄道区間も追加料金不要。

これだけの切符が大人8,620円で買えるのですから驚きです。
例えば、今回のように午前に美濃太田を出て昼過ぎに戻った後、大垣まで行って樽見鉄道を往復することができます。
両線の往復とその間運賃だけで6,000円を超えてしまうので、乗り潰し派には大変おすすめです。

また、長良川鉄道だけなら1日フリー切符が2,700円とオトクです。

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つながるはずだった越美南線と越美北線

さて、長良川鉄道が旧国鉄越美南線であることは冒頭述べましたが、相手方となる越美北線はJR路線のまま運営されています。
越美北線は北陸本線の福井駅の一つ米原寄りの越前花堂駅から九頭竜湖駅までの路線です。

もともと大正時代に美濃太田と福井を結ぶ鉄道が計画され、南北からそれぞれ越美南線と越美北線の工事が始められました。
つまり、高山本線(岐阜~富山)と並行して、中部地方と北陸地方を結ぶ鉄道がもう一つ計画されていたということになります。
鉄道が陸上交通の王者であるとともに、大正デモクラシー運動によって実現した政党政治がもたらした「我田引鉄」(我田引水をもじった言葉)が各地で行われた時代の名残というべきでしょう。
九頭竜湖駅と長良川鉄道の終点北濃駅は直線距離で15㎞程度しか離れていませんが、結局南北の路線が手をつなぐことは叶わず、未成区間に運転されていたバスも廃止されて現在に至ります。

北濃駅から北の方向に延びる線路。
入れ替え用に使われたのだろうが、もう一度現役に復帰ことはなさそうだ。

いずれにせよ、長良川鉄道は美濃路を川を頼りに山奥深くに分け入る点が共通するためか、高山本線と車窓の雰囲気がよく似ています。

水の町で知られる郡上八幡から東へ20㎞ほど行ったところに、名湯で名高い下呂温泉(高山本線下呂駅)があるというのも偶然ではないのでしょう。


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