鳥取へ跳ぶスーパーはくと、智頭急行HOT7000系とその時代【普通車・グリーン車の車内や座席など】

私鉄有料特急
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京阪神~鳥取の鉄道復権を成し遂げた「スーパーはくと」

近いようで遠かった鳥取

国鉄が民営化された1987年当時、地図上では近く見える京阪神から鳥取への道は、鉄道にとっては遠い存在でした。
京都から鳥取までは山陰本線の特急「あさしお」で4時間程度、大阪からだと播但線(姫路~和田山)経由の特急「はまかぜ」が4時間以上かかっていました。
どちらの線路もスピード運転向けでなく、車両も20年前の気動車とあっては仕方がありませんでした。

民営化後も山陰地方でしぶとく活躍したキハ181系。
津山まなびの鉄道館にて。

意外なことに、岡山まで新幹線を利用し、津山経由の急行「砂丘」に乗り継いで鳥取に向かった方が所要時間が短いケースさえありました。
新幹線とも連絡する陰陽連絡列車の種別が急行のままというのは、この地域の路線の近代化が遅れていた証拠でもあります。
それにしても、伯備線の電化により新大阪~松江は最短で4時間を切っているにもかかわらず、それ以上の時間がかかっていたというのは、鳥取の人にとっては納得できかねることだったでしょう。

京阪神→山陰への概略図

智頭急行開業で「スーパーはくと」が登場

状況が変わったのは1994年、建設が進められるも財政悪化のため工事が中断していた国鉄智頭線が、第三セクターの智頭急行(上郡~智頭)として開業に至りました。
ここに兵庫県と鳥取県を結ぶ陰陽連絡線が完成します。
そして、建設が比較的最近行われた智頭急行線はトンネルを駆使したカーブや勾配の緩やかな路線なので、山間部ながら高速運転が可能でした。

佐用駅の姫新線(手前)と智頭急行(奥)のレール。
智頭急行は枕木もコンクリートで高規格路線であることが分かる。

そんな智頭急行開業に合わせて、京都~大阪~鳥取~倉吉を結ぶ「スーパーはくと」用に登場した車両がHOT7000系です。
この車両を保有しているのはJR西日本ではなく智頭急行です。

最高速度は130㎞で、振り子式のためカーブでも速度をあまり落とさずに走ることができます。
高規格路線の開業と高性能気動車のおかげで、大阪~鳥取は2時間半、京都~倉吉も3時間半程度にまで大幅に短縮されました。
他交通機関に対する鉄道の競争力も一気に高まったのは言うまでもありません。
ちなみに、形式名のアルファベットはそれぞれ兵庫(H)、岡山(O)、鳥取(T)を意味するそうです。

「はくと」の列車名の由来は鳥取に伝わる日本神話の「因幡の白兎しろうさぎ」の音読みです。
かつては京都から山陰本線経由で鳥取・米子方面に急行「白兎はくと」が運転されていました。
現在の「スーパーはくと」が京都発着になっているのも、その名残といえるのかもしれません。

サメを欺いて海を渡ったとされる白兎。
鳥取駅にて。

また、同じく智頭急行線を走る特急「いなば」(岡山~鳥取)は、当初は旧型車両が使われていましたが、現在ではJRの振り子式車両キハ187系(列車名は「スーパーいなば」)になっています。
後輩のキハ187系よりも、HOT7000系の方が若々しく見えるのは私だけでしょうか?

「スーパーはくと」運転区間の半分以上は東海道・山陽本線

「スーパーはくと」が走る京都~倉吉は300㎞弱ですが、実はその半分以上となる京都~上郡の160㎞余りは東海道・山陽筋です。
「スーパーはくと」に限らず、関西から山陰へは山陽本線や新幹線と、それに接続する陰陽連絡線を介したルートが一般的になっています。
つまり、昔のように「あさしお」「まつかぜ」という長距離特急が山陰地方を「線」で結ぶのではなく、京阪神から鳥取・島根両県の主要都市へ「点」でアクセスしているわけです。

所要時間短縮による利便性向上はもちろん善ですが、こうした歪な形による輸送改善は、「表日本」に対して経済的に従属した「裏日本」といった構造を否応なしに見せつけています。
そしてこのような旅客の流れが、全長670㎞にも及ぶ山陰本線を「偉大なるローカル線」たらしめているのです。

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HOT7000系の車内はリニューアルされている

普通車の車内と座席

HOT7000系の普通車の車内
普通車の車内

普通車・グリーン車ともに車内は一度リニューアルされており、登場から25年以上経った今もさほど古さは感じさせません。
全体的に茶色の落ち着いた内装で、岡山発着の「いなば」に使われる相棒、キハ187系と似ています。

HOT7000系の普通車の座席
普通車の座席

座席の裏側や肘掛けが木目調になっているのも、シンプル過ぎずに良い感じです。
窓側にはコンセントが設置されていて便利なのは大変結構ですが、この部分だけいかにも取って付けたように不自然です。

HOT7000系の普通車自由席の車内
普通車(一部の自由席車)の車内

若干シートの形状が異なる号車もあるようです。
指定席と自由席で明確に使い分けされているわけでもなく、自由席車両に両者が混在していました。

グリーン車の車内と座席

HOT7000系のグリーン車の車内
グリーン車の車内

4号車の客室の半分がグリーン車に充てられています。
座席の色は似ていますが、3列配置になっており普通車よりも高級な感じがします。
航空機のような蓋つきの荷物棚も重厚感を演出しています。

HOT7000系のグリーン車の座席
グリーン車の座席

グリーン車にも窓側にコンセントがあります。
なお、グリーン車のある4号車は中間車で、先頭・最後尾のパノラマを楽しむことはできません。

デッキには自動販売機がある

HOT7000系で印象的だったのが、デッキの内装です。
客室以上に落ち着いた和風な雰囲気を演出しており、化粧室などもデザインが凝っています。
渋いが地味ではない、とても上手くまとまった仕上がりではないでしょうか。

デッキというのは車内で一番古さが目立つ箇所なので、まるで古民家をリニューアルしたカフェのトイレに来た気分になります。

1号車(鳥取・倉吉寄りの先頭車)には飲み物の自動販売機があります。
ご多分に漏れず、「スーパーはくと」では車内販売は営業していません。
なお、私が乗った編成では1号車デッキはリニューアルされておらず、簡素な印象を受けました。

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新型車両が登場する予定

1994年に登場したHOT7000系は鉄道車両としては古い部類に差し掛かっています。
智頭急行は2019年に作成した「中期経営計画 2023」で、特急車両の更新について「幅広く検討する」としています。(リンク先資料では13枚目のスライド)

具体的な内容はなく、包括的な経営計画の中で少し触れられているだけですが、節目となる2024年あたりが目途になると思われます。
会社発足後も経営難のため廃線となる第三セクター鉄道が多い中、特急車両を保有して新車導入も見据える智頭急行は数少ない成功例です。

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総評

2000年代を迎えても原色のままの国鉄車両が活躍し、その後登場した新型車両も地味で保守的な顔つきをしている山陰において、HOT7000系はそのスマートな流線形の風貌が際立っています。
新たに誕生した第三セクター鉄道としての決意・誇りとでも言うべきでしょうか。

ところが、明るい外観の塗装に対して、因幡(鳥取県の東部)の風土を表現したというリニューアル後の内装のシックなのも余計に面白いところです。
都会のスマートさに憧れるも、成長するにしたがって故郷の文化の良さを心に抱くようになった「お上りさん」のような雰囲気が、今の成熟したHOT7000系からは感じられます。

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