オホーツクへ向かう「大雪」な列車、キハ183系とその時代【普通車・グリーン車の車内など】

北海道の車両

キハ183系には様々なバリエーションがありますが、ここでは○○番代ではなく、基本的に初期型と後期型に分けて進めていきます。
両者には大きな差異がありますが初期型は既に消滅しているため、分割せずに本記事でまとめて取り扱います。
また九州で観光特急として活躍しているキハ183系については、本記事では扱いません。

スポンサーリンク

北海道用特急車として開発されたキハ183系

困難な時代に生まれたキハ183系初期型

北海道の特急列車の歴史は、「サンロクトオ」と呼ばれる1961年10月の白紙ダイヤ改正で誕生した、キハ80系の「おおぞら」に始まります。
「おおぞら」は本州からの「はつかり」「白鳥」と青函連絡船を介して接続していました。
1964年9月号の時刻表によると、函館を朝4時55分に発。札幌には9時25分に到着して滝川で旭川行きと釧路行き分割され(石勝線は未開業)、釧路着は15時25分と、実に10時間以上も走り続けていました。

時は下って1980年、北海道の特急列車の礎を築いたキハ80系の置き換え用として営業運転を開始したのがキハ183系です。
スラントノーズ形と呼ばれる「くの字」形の正面と国鉄色の組み合わせは非常に印象的でした。
最高速度は当初は100㎞でしたが、後に110㎞に引き上げられています。

国鉄色のキハ183系初期型。
写真は2018年9月に購入した函館駅の記念入場券。

ところがこの頃の北海道の鉄道を取り巻く環境は、前任者が「成長市場」に飛び込んでいった1960年代とは対照的でした。
1970年代後半以降、国鉄の度重なる大幅な値上げと航空機の大衆化によって、鉄道の長距離輸送の競争力は急速に低下していました。
1980年10月の千歳空港駅開業はそれを象徴する「事件」で、それ1000㎞以上にわたる本州対北海道の輸送をあきらめ、千歳空港から北海道各地へのアクセスに専念することを意味していたのです。

キハ80系と比べてキハ183系は簡易リクライニングシートで快適性は格段に向上していましたが、食堂車の連結が無くなったのも特急列車の地位の低下を表していました。
とはいえ1981年には高規格の石勝線が開通し、帯広・釧路など道東へのアクセスが大幅に改善されます。
キハ80系のようなスケールは無いものの、キハ183系は北海道の鉄道の近代化の成果として、新たな可能性を切り開いたのでした。

後期型の登場

分割民営化を前年に控えた国鉄末期の1986年、キハ183系500番代が新製されます。
キハ183系グループは以降の編成を後期型と呼ぶのが一般的です。

「オホーツク用」のキハ183系後期型
2019年網走駅にて、「オホーツク用」のキハ183系後期型

キハ183系後期型は初期型のようなスラントノーズではなく、前面貫通型でだいぶ軽やかな姿に感じられます。
新製時の最高速度は110㎞ですが、特徴的なのがグリーン車がハイデッカー構造となったことです。
北海道の雄大な景色を、大型ガラスから眺められるという付加価値を提供しています。
それまで国鉄が内装や構造にこだわった車両を造ることはありませんでしたが、解体間際でなくもっと早くこうした意欲的な車両が生まれていれば、1970~80年代の鉄道もまた違ったのだろうと思わせます。

キハ183系のハイデッカーグリーン車
ハイデッカーグリーン車

同時期に登場した四国向けステンレス車体のキハ185系もそうですが、前途多難が確実な新会社を思う国鉄の置き土産だといえましょう。

「北斗」では130㎞対応、リゾート編成も誕生

国鉄の跡を引き継いだJR北海道もキハ183系後期型を増備します。
民営化後に製造された編成は120㎞運転にも対応し、高速道路や空港の整備が道内で進む中にあっても健闘を見せます。

発足後は先が思いやられていたJR北海道でしたが、世はバブルと呼ばれる好景気に湧き、石勝線のトマムリゾートに代表されるように観光需要が堅調に推移します。
1980年代末期から90年代初頭にかけて新造車両として「クリスタルエクスプレス」「ニセコエクスプレス」「ノースレインボーエクスプレス」といったジョイフルトレインが登場します。

フラノラベンダーエクスプレスで使用されたクリスタルエクスプレス
引退2週間ほど前のクリスタルエクスプレス。
富良野駅で撮影。
「サロベツ」で代走するノースレインボーエクスプレス。
「サロベツ」で代走するノースレインボーエクスプレス。
音威子府駅で撮影。

これらはキハ183系を名乗っているものの、実際は全く別の特別な車両です。
また定期列車でも個室付きの2階建て車両が連結される「スーパーとかち」が設定されたこともありました。

ところで、1994年にJR北海道が開発したキハ281系が爆誕します。
キハ281系は130㎞運転が可能で振り子式のため曲線通過速度も大幅に向上した高性能車両です。
新車による列車は「スーパー北斗」という名で運転され、函館~札幌間318.7㎞を2時間59分(表定速度106.8㎞)という驚異的な速さで結び、これは現在でも在来線特急の始点~終点では最速記録です。

主役の座を譲ったキハ183系ですが、「北斗」用の編成はキハ281系に負けじと130㎞運転対応に改造されます。
まだ登場からそれほど経っていなかったこともあり、「このままフェードアウトしてたまるか」という意地が窺えます。

このようにキハ183系は線区ごとの需要に応じて、高速化路線とデラックス路線の双方発展していきました。

高速路線を追われ、石北本線「オホーツク」「大雪」で運用される

キハ183系初期型の特急「オホーツク」
初期型で運用された時代の「オホーツク」
2009年

道内の主力車両として活躍していたキハ183系ですが、キハ281系をさらに進化させたキハ283系や、コストパフォーマンスに優れたキハ261系を各線区に次々と投入するにつれて運用が縮小されます。
またスラントノーズの初期型は既に引退しています。
ジョイフルトレイン以外だと後期型の通常編成の運用は、現在では石北本線の「オホーツク」と「大雪」のみです。
石北本線は最高速度が95㎞に抑えられ、定期特急列車が走る本線では最も規格の低い路線なので、車両の更新も後回しになった結果でしょう。

一方で、「ノースレインボーエクスプレス」は主に富良野行き臨時列車「フラノラベンダーエクスプレス」などに使用されています。(現在フラノEXPはキハ261系5000番台の運用)
「ノースレインボーエクスプレス」は時折定期列車の代走にも駆り出されたようで、私は2019年9月に宗谷本線の「サロベツ」で乗車しました。

石北本線特急、ノースレインボー共に2023年に引退

JR世代の一期生も運用を縮小する中でもしぶとく活躍したキハ183系ですが、2022年度に定期運用から引退することがJR北海道より発表されました。
本形式の引退はある程度予想されていたことですが、新たに「オホーツク」に就くのはキハ261系ではなく、「おおぞら」の運用を離脱したキハ283系だったのが意外でした。

また、リゾート編成の「ノースレインボーエクスプレス」も2023年春に運行を終了します。
こちらの後継は多目的車両のキハ261系5000番台です。

スポンサーリンク

キハ183系の車内とサービス

普通車の車内と座席

キハ183系の普通車自由席の車内
普通車自由席の車内

自由席はキハ283系のオリジナルのもの、指定席はJR北海道の車両で幅広く見られるグレードアップ指定席です。
自由席の座席は上の写真の他にも、別の車両から流用したと思われるものがあったように記憶しています。

キハ183系の普通車指定席の車内
普通車指定席の車内

座席は取り換えられているものの、車内全体としては国鉄車両のままなのでレトロな雰囲気が味わえます。

グリーン車の車内と座席

キハ183系のグリーン車の車内
グリーン車の車内

グリーン車も座席が新しくなっていて、キハ281系やキハ283系と同じものが使われています。
本形式の特徴であるハイデッカーグリーン車は大型の曲面ガラスが用いられ、他とはまた違った雰囲気です。

こちらも車内設備には「国鉄臭」は残っており、新たに開発された座席との組み合わせはなかなか面白いものです。

パイプ式の網棚・「指定席」の案内標識・トイレ使用中のランプに国鉄時代が感じられる。

「大雪」には車内販売がある!

特急「大雪」の車内販売のメニュー
配布された車内販売メニュー

2019年9月に北見から特急「大雪」に乗車した時のことです。
発車後、いつも通り分散和音に続いてあの3か国語の過保護でくどい車内放送が終わった後、突然懐かしい「アルプスの牧場」がオルゴールで鳴り出しました。
何事かと思っていると、なんと車内販売が始まるそうではありませんか。

車内販売スタッフ
Save the Railwayと書かれたエプロンが胸を打つ

通常の車内販売ではなく地元の有志団体が行っているようで、珍しい地元の特産品やお菓子を販売しています。
スタッフの方に聞いてみると2018年ごろから本格的に始めたそうで、旭川発着の「大雪」のみ主に日曜日に車内販売があるそうです。

白花豆プリンは甘すぎず濃厚な味わい。
周りでも多くの人が買っていた。

車内販売どころか石北本線そのものが存亡の危機にある中、このような取り組みが行われているのは非常に心強いです。

スポンサーリンク

総評

北海道の鉄道の拠点が函館から札幌に移行した「再編期」のデビューとなったキハ183系ですが、その後の社会の変化の中で様々な発展を遂げてきました。
新型の振り子式気動車が増備されるにしたがって影が薄くなりましたが、時代に翻弄されながらも、道内の特急輸送体系の確立からその本格的な高速化に至るまでの橋渡し的な役割を果たした車両だといえます。

一方で、高速化とは別のベクトルである車内設備の充実ぶりについてはあまり目立った進歩がありませんでしたが、2020年10月より多目的車両のキハ261系5000番台が登場しました。
都市間高速列車から観光色の強い列車までこなすあたり、キハ183系と同様に多角経営をコンセプトにした車両です。
キハ183系がそうであったように、厳しい時代に生まれる車両が、新しい価値を提供してくれることを期待したいと思います。

タイトルとURLをコピーしました