東京駅地下に響くしおさい、255系とその時代【普通車・グリーン車の車内や座席など】

東日本の車両
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房総ビューエクスプレス登場

「特急」の概念を変えた房総特急

房総地区に特急が走り始めたのは、房総環状線(これを機に房総西線と房総東線は、現在の内房線と外房線と改名される)の電化が完了した1972年の7月でした。
また、現在総武線快速が走っている東京~錦糸町間の地下路線が難工事の末に開業し、優等列車の発着駅が両国から東京の地下駅に変更になったのもこの時からです。

新製された183系で運転を始めた特急列車たちは、走行距離が100㎞そこそこで停車駅も準急並み、編成も食堂車は無く自由席が半分近くを占めるという、当時の格のある特急という常識からかけ離れた存在でした。

大宮の鉄道博物館でランチトレインとして利用されている183系
大宮の鉄道博物館でランチトレインとして利用されている183系。
それまでの重厚長大型の181系に代わって、特急の大衆化を進める存在となった。

さて、特急の大衆化を象徴する房総特急でしたが、民営化後も老朽化した国鉄型の183系がいつまでも使われていました。
そんな車両更新が遅れた房総特急用に1993年に投入されたのが255系です。

観光列車のような外観だが、ビジネス利用も想定

房総特急は内房線「さざなみ」や外房線「わかしお」は行楽需要が中心であるのに対して、総武本線の「しおさい」や鹿島線に入る「あやめ」はビジネス需要があるといった特徴があります。
そのため255系は都市間輸送と行楽輸送両方を想定した設計となっています。

ボリューム感のある車体は当時成田エクスプレス用に登場した253系とよく似ており、また正面はかつて「スーパービュー踊り子」として活躍した251系を思わせます。
色はすっかり房総半島の色として定着した青・黄・白の組み合わせで、外見は明らかに観光輸送向けの車両です。
暫くの間は本形式によって運転される特急には「ビュー〇〇」の列車名が付けられていました。

ふくよかな車体。
「View」の下の青の波線が見る人を海辺に誘う

国鉄型車両置き換えの続きはE257系が担う

255系が製造されたのは5編成のみで、その後の183系の置き換えは2004年に、先に中央本線特急で登場していたE257系によって行われました。
思えば中央本線とて、初代「スーパーあずさ」のE351系によって一部の183系を置き換え、その後E257系で淘汰するといった図式でした。
255系の登場より約10年、首都圏の標準型特急車両であるE257系の増備という方針は確かに堅実なやり方でしょうが、255系の設計思想を受け継いだ新車が導入されなかったのは、房総特急の発展にとっては残念な結果だと思われます。

かくして、国鉄車両に代わる新型車両として登場した255系は、いつの間にか後輩の陰で目立ちにくい存在となってしまいます。
この立ち位置はJR西日本の紀勢本線特急283系そっくりです。

房総特急の衰退と相次ぐ廃止・削減

さて、「特急は長距離で利用するもの」という考えが当たり前だった1970年代前半に、国鉄が強気にも、速くもない短距離の特急を設定できたのは、内・外房線の夏は海水浴客で非常に混雑するほど売り手市場だったからです。
ところが、首都圏から房総半島各地や総武本線沿線都市へは、次第に鉄道よりもバスや車によるアクセスが優位になっていきます。
そして255系が登場した後もアクアラインなど高速走路の整備は進み、これらの特急列車の利用客は減少していきました。

そうした中、房総特急は本数の削減や列車の廃止が進められます。
佐原から鹿島線を普通列車として鹿島神宮まで走っていた特急「あやめ」は、最後に残っていた1往復が2015年に廃止。
また内房線の特急「さざなみ」は本数が減らされて下りは夕方~夜、上りは朝のみに限られ運転区間も君津までとなり、その名に反して通勤ライナーのような列車になってしまいました。(土日は「新宿さざなみ」が2往復程度設定されている。)

後からやって来た汎用のE257系は房総特急に見切りをつけたのか、一部の編成は伊豆方面の特急「踊り子」用に改造されています。
255系は故郷への愛着もひとしおなのか、房総地区での運用を続けていますが、一方のE257系の生存戦略のしたたかさは相変わらずです。

線形の悪い内房・外房線はともかく、総武本線の「しおさい」や「あやめ」は少なくともダイヤでは高速バスに勝てなくもないような気がします。
いずれにせよ中央本線や常磐線と比べると、このエリアのヤル気のなさが目立っているのは残念です。

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255系の車内

普通車の車内と座席

255系の普通車の車内
普通車の車内

明るい外観とは対照的に、車内は意外にも落ち着いた雰囲気で少し暗い感じさえします。
このあたりは行楽にも都市間輸送にも対応できる、という255系の設計思想がよく表れています。

金属バー式のものとはいえ、普通車にもフットレストが付いています。
また、テーブルは肘掛け内蔵式のもので、行楽のグループ客が向かい合わせにして座っても使えるようになっています。

床が他の車両とは変わっていて、プールの更衣室のような素材になっています。
海水浴客が多いことを考慮したのでしょうが、デッキならともかく、客室までというのはあまり特急の車内らしくないような気がします。
海水浴をした人でも濡れた水着のまま乗ってくる人もいないと思いますが...

255系の普通車の座席
普通車の座席

少し気になったのが、「ビュー」を名乗っているわりには座った時に窓の位置が高く、それほど眺望に優れているわけではない点です。

グリーン車の車内と座席

255系のグリーン車の車内
グリーン車の車内

この車両からJR東日本のグリーン車は横4列になりました。
もっとも、座席は大型でゆったりしたもので、フットレストもグリーン車らしいものです。
通路部分には更衣室のシートの上にカーペットが敷かれています。
また荷物棚には柱があり、天井部の印象が異なります。

しかし全体的には客室の雰囲気は大して普通車と変わりません。
シーズン中の土日などで混雑や喧騒を避けるなら良いですが、普段は敢えてグリーン車に乗る必要もないかもしれません。

グリーン車の座席
グリーン車の座席

ところでグリーン車では5番席と6番席の間に透明の仕切りがあります。
かつてはここを境に禁煙席と喫煙席が分かれていました。

分煙に効果があったのかは疑わしい

デッキ

255系の荷物置き場
内・外房線らしい設備

デッキには海水浴客を想定したサーフボードなどが置ける荷物置き場があります。
なお写真は撮りませんでしたが男性用小便器は壁が青一色で、ここが一番房総半島の海を感じられる開放的な雰囲気でした。

デッキは地味
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「しおさい」が主な運用

最初の章で述べた通り房総特急の本数が削減されている現在、255系は総武本線特急の「しおさい」を中心に運用されています。
「しおさい」は上りの佐倉~東京間の短距離の便(4号)を除けば、全列車が本形式による運用です。

外房線「わかしお」はE257系(500番台)と共に運用されていますが、255系の方が少数派といったところです。
また内房線「さざなみ」はE257系による運転です。

時刻表からどちらの車両かを見分けるのは簡単です。
255系にはグリーン車が連結されていますが、房総用のE257系は普通車のみなので、グリーン車の有無で車両が判別できます。
ただし紛らわしいのが土日に運転される「新宿さざなみ」で、日によってはグリーン車が連結されますが、使用車両は別編成(0番台)のE257系です。

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総評

東京駅の地下総武線ホームで成田エクスプレスと並ぶ

外見で人目をひくだけに終わらせず、 落ち着いた車内でありながら行楽客向けの設備や配慮もある、良くも悪くもバランス型の車両です。

「しおさい」の運用がメインになった現在、いっそのことハイグレードなビジネス指向の車両にイメージチェンジ(つまり253系の逆パターン)しては、と考えられなくもありません。
しかし車齢を考慮するとそれも難しく、5編成のみという所帯の小ささから他線区転属もやりにくいのが実態です。

255系はこのまま何もなく房総半島に骨をうずめることになりそうですが、ソフト面のサービス向上やこの地区の線路設備が改良されていれば今より活躍できたはずで、勿体ない印象がぬぐえません。

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