首都圏の標準型特急電車
中央本線「あずさ」「かいじ」に投入
中央本線(中央東線)ではJR化後にフラッグシップ列車としてE351系「スーパーあずさ」が運転されていましたが、国鉄型の183系・189系もまだ残っていました。
中央本線特急はビジネス・観光共に需要が大きいものの高速バスとの競争も激しい区間で、1990年前後に車内のアコモデーションを改善して対抗していましたが、やはり古い車両であることには変わりありませんでした。
これらの車両を置き換えるために、2001年に導入されたのがE257系です。
紫色で貫禄のあるE351系とは対照的に、白い車体にカラフルな菱形の模様が描かれたポップな外見となりました。
振り子式のE351系は中央本線特急のスピードアップという、限定された運用を想定していたのに対し、E257系はコストを抑えた非振り子式で、使いやすさに重点を置いた車両です。
E351系「スーパーあずさ」を補完する、「あずさ」や甲府行きの「かいじ」という脇役の運用に就きました。
常磐線の651系とE653系との関係に似ていなくもないですが、E257系はE351系よりも走行性能で劣ることからも、90年代の活発な高速化からの後退を印象付けるものになりました。
房総半島にも進出
2004年には房総エリア用にも増備(500番台)され、ここでも183系を淘汰しました。
車体の塗装は既に運行されていた255系に準じたもので、青と黄色の明るい印象となりました。
ただし255系には連結されていたグリーン車が無かったため、やはり先輩よりも格下感があることには変わりありませんでした。
とはいっても担当する列車・編成数も多くなり、E257系はJR東日本の標準特急車両としての地位を確立します。
房総特急の削減とE353系増備で運用は縮小
本来主役であるはずのE351系や255系を差し置いて主流派として活躍していたE257系ですが、徐々に暗雲が立ち込めます。
2015年に高速バスに対して劣勢だった房総地区の特急列車が削減され、その運用機会も減りました。
鹿島神宮行きの「あやめ」は廃止され、内房線「さざなみ」も減便されると共に区間も短縮され、観光需要の取り込みは諦めた格好でした。
一方の中央本線でも、351系の後継車両として登場した車体傾斜式のE353系が「スーパーあずさ」に登場し、老朽化が進んでいた351系を置き換えました。
E257系は高速性では劣るものの、「揺れる」と悪評のあったE351系にはない快適性がありましたが、そのアドバンテージも新型のE353系の登場によって失いました。
やがてE353系は「スーパーあずさ」のみならず、E257系に代わって「あずさ」「かいじ」など全定期特急列車に投入されます。
そのため中央本線でも一部の臨時列車のみという限られた運用にとどまりました。
「踊り子」に転用される
そうした落ち目にあったE257系ですが、復活の舞台が2020年に用意されます。
貴重な国鉄型車両の185系で運転されていた、伊豆方面への特急「踊り子」に余剰車が転用されることになったのです。
同日にデビューした全車グリーン車以上という豪華編成の「サフィール踊り子」の影に隠れてしまった感はありますが、E257系にとっては大きな転機となりました。
リニューアルされた踊り子用編成(2000番台)は、185系の斬新な緑の斜めストライプではなく、(おそらくサフィール踊り子に準じた)深い青とダークグレーという、よりエレガントな装いになりました。
E257系もそろそろ車齢も20年を迎えるにあたって、落ち着いた大人らしい雰囲気を身につけたのでしょう。
高崎線特急「あかぎ」「草津・四万」にも投入
「踊り子」というまとまっった運用数の仕事が見つかり、その後襲った悪夢のようなコロナ騒動もさすがに落ち着きが見えてきた2022年冬に、JR東日本より2023年3月のダイヤ改正から高崎線特急にE257系リニューアル車両を投入との発表がありました。
新たに転用されるE257系は5両編成でグリーン車無しの編成(5500番台)です。
置きかえられる651系が7両編成グリーン車有りだったので、確実に列車としての格は下がります。
車両更新に伴い列車名も改変されます。
上越・吾妻線に直通する温泉観光列車の「草津」は「草津・四万」に、朝と夕方の通勤時間帯に設定されている高崎線内の「スワローあかぎ」は「あかぎ」となります。
「草津・四万」は全席指定席で、「あかぎ」は「あずさ」や「ひたち」のような、自由席の代わりに座席未指定席券で乗車する新システムです。
E257系の車内
普通車(元中央本線用0番台)の車内と座席
外観の塗装と同じく、明るくポップな印象のする車内です。
「標準型」を謳っているわりには座席も床もカラフルで、どちらかというと観光用が意識されているような気もします。
なお、9号車にはフリースペースがあり、乗車時間が長い時には気分転換に使えます。
グリーン車(元中央本線用0番台)の車内と座席
0番台のグリーン車は1両の半分が充てられています。
JR東日本では標準の4列座席ですが、カーペット敷きに木目調の内装と、普通車に対して差別化はされています。
普通車(房総用500番台)の車内と座席
海を思わせる青い座席が特徴的な車内です。
荷物棚から上の側面は写真の黄色タイプと青色のタイプがあります。
この編成にはコンセントは設置されていません。
なお255系と乗り比べると、新しい分こちらの方が揺れが少なく快適な気がします。
房総特急用の編成にはグリーン車はありません。
普通車(踊り子用2000番台)の車内と座席
床はそのままですが、外観に合わせて車内と座席も深い青とダークグレーになりました。
「踊り子」用編成では窓側にコンセントが設置されています。
グリーン車(踊り子用2000番台)の車内と座席
改造元の0番台は半室グリーン車でしたが、「踊り子」用2000番台では全室グリーン車となっています。
そのため客室が二分されていて、サイズ的に落ち着いた空間であるように感じます。
内装は木目調で床もカーペット敷きです。
照明もやや暖色系になっていて、4列シートとはいえ普通車とはまた違った雰囲気です。
またグリーン車も窓側のみにコンセントが付いています。
普通車(「草津・四万」用5500番台)の車内と座席
「踊り子」用に客室ですが、座席と荷物棚部分の配色が異なっています。
明るい印象というよりは、やや落ち着いた雰囲気です。
こちらの編成でも、通路側にはスマホ充電ができるコンセントが付いています。
それまでの「草津」に使用された651系には無かったので、その点はサービスアップといえるでしょう。
臨時「あずさ」用(5000番台)グリーン車の車内と座席
リニューアル編成のグリーン車は希少価値の高い設備です。
内装・座席共に改造元となった0番台と同じです。
やはり半室グリーン車で、個人的には落ち着く広さだと思います。
オリジナルのままなのでコンセントもありません。
E257系の運用
元中央線用編成(0番台)
旧通勤ライナーも含め、中央本線の定期特急列車がE353系に統一されたことで0番台の出番は大幅に減り、踊り子用の2000番台への改造が進んでいます。2020年3月時点では臨時「あずさ」「かいじ」の一部や、日によっては内房線「新宿さざなみ」に使われることがあります。
(2023年追記)
臨時列車用の編成への改造が進み、本番台は消滅しました。
房総特急用編成(500番台)
名前に反して通勤ライナー同然となった「さざなみ」の4号以外の列車や、多くの「わかしお」で運用されていますが、「しおさい」は全て255系となっています。
255系はグリーン車付きですが、本形式にはグリーン車が無いために時刻表では容易に判別できます。
紛らわしいのが中央線から富士急行線に直通する「富士回遊」の臨時便で、0番台かと思いきやグリーン車無しの500番台による運転です。
「踊り子」用編成(2000番台)
2020年3月時点では「踊り子」はまだ185系が中心になっていますが、今後東海道本線の通勤ライナーも含め、運用を拡大していくものと思われます。
基本編成が185系のように10両ではなく、9両編成(グリーン車が1両少ない)であることが特徴です。
「草津・四万」「あかぎ」用編成(5500番台)
2023年より高崎線特急の「草津・四万」と「あかぎ」全列車で定期運用を開始しました。
この編成はグリーン車無しの5両編成です。
グリーン車付きの編成は定期運用が無く、臨時列車で使用されます。
臨時列車用編成(5000番台)
0番台をリニューアルした5000番台には定期運用はありません。
多客期の臨時列車として、主に増発便の「あずさ」で使用されています。
総評
その変わり身の早さによって時代の流れを乗り切り、各地で活躍してきたユーティリティープレーヤーです。
かのダーウィンの格言を体現したような車両といってよいでしょう。
E257系は首都圏の中心としたエリアの標準型車両として、183系の後継車という見方もできると思います。
房総半島をはじめとし、関東地方で幅広く運用に就いていた。
各線区を代表する列車とはならないにしても、会社側としては非常に使い勝手の良い存在ですが、逆に鉄道界全般にとっては主役にはなることは望ましくない車両でもあります。
これからもE257系の役割が、房総半島のような「敗戦処理」ではなく、看板車両の補佐役であって欲しいと思います。