国境のトンネルを抜けて雪国へ。初春の上越線乗車記【車窓・見所や駅弁について】

幹線

上越線は群馬県の高崎駅から上越国境を越えて長岡の一つ手前、宮内までを結ぶ路線です。
この路線の魅力は何といっても、関東平野から徐々に山や谷に入り、国境のトンネルを抜けた先に別の世界が広がるという、ドラマチックな展開にあります。

2020年3月上旬、高崎から普通列車で上越線、そしてその先の信越本線で新潟に向かいました。

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高崎~水上

普通列車の本数はまだ比較的多い

2019年夏、旅行客を乗せた列車が各地へと出発する

首都圏からの中距離列車はほとんどが高崎発着となりますが、それでも水上行きの普通列車は1時間に1本くらいの本数があります。
途中の新前橋や渋川で両毛線や吾妻線に入る列車もあります。

沿線人口もそこそこ抱えているので地元客はもちろん、温泉客や行楽客も多く、渋川あたりまでは混雑しています。
車両はロングシートですが、トイレは設置されています。

高崎駅の駅弁は鶏めし

高崎駅は北関東における鉄道のジャンクションです。
新幹線もここで上越新幹線と北陸新幹線が分岐し、在来線は文字通り四方八方へ列車が運転されています。
また上信電鉄も高崎をターミナルにしています。
日によってはSLが運行されることもあり、まさに鉄道の街といっても差し支えないでしょう。

新幹線開業以前の高崎駅は重厚な駅舎だった

そんな高崎駅の駅弁は有名なものが幾つかありますが、私がおすすめするのが昔からある「鶏めし」です。
その特徴は鶏肉の食べ応えです。
「柔らかくてジューシー」などという陳腐で素人臭い価値観を嘲笑うような、しっかりとした食感と味付けが病みつきになります。

高崎駅の駅弁、鶏めし
高崎の名物駅弁、鶏めし弁当

関東平野から峠の温泉地へ

高崎駅から新前橋駅までは住宅地の中を進みます。
上越線の起点は元はここ新前橋で、高崎~新前橋間は両毛線から移された歴史があります。

新前橋駅の車両基地。
まだこの辺りは通勤圏。

その後徐々に住宅が減ってきて畑あるいは工場が見え始めます。
電車に乗っていては分かりませんが、このあたりから上り勾配が続きます。
以前SLみなかみ号に乗った時は、窓を流れる機関車が吐く黒煙の量が多くなってそれを実感したものです。

周りがだいぶ落ち着いてきた。
遠くの山には雪が見える。

うららかな関東平野を走る列車では、忌々しそうにコートを脱いで網棚に放り投げる人々が散見され、初春の陽気が車内にも感じられます。

渋川駅を過ぎてすぐの第一利根川橋梁を渡った頃には長閑な周囲が変わり、山間部の渓谷へと進んでいきます。
いよいよ上越線の旅らしい車窓なってきます。
付き添って走る利根川の蛇行に影響されてか、カーブも多くなってきます。

渋川駅を出ると大きく右折して第一利根川橋梁を渡る。
上越線の旅はこれからが本番である。
山が近づいたが利根川はまだ穏やか。

津久田駅~岩本駅間のトンネルの直後に渡る第四利根川橋梁は、岩から放り出されて深い青になった川の上を通るような迫力があります。

上越線の第四利根川橋梁
トンネルを出てすぐに渡る第四利根川橋梁

遠くの雪を被った山が近づいてきて、ふと地面を見るとそこにも雪が見えます。
沿線風景の寂しさも加わり、季節が春から冬へと移り変わっているようです。

気づくと足元にも雪

水上駅の一つ前の上牧駅からは、深く刻まれた川に沿って温泉宿が並んでいます。
終点水上駅に到着したころには、景色は雪が見えるというよりは薄く積もっているほどになりました。

谷は深くなった。
水上の温泉街
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水上~越後湯沢

本数が極めて少ない

水上駅から越後湯沢方面を望む

上州と越後に跨るこの区間は、日中は何時間も列車の間隔が空く閑散区間です。
仮に上越新幹線の開業が最近だったら、確実に第三セクター化されていたことでしょう。

それ故に一つの列車に乗客が集中するため、青春18きっぷシーズンはかなり混雑します。
水上駅では接続列車が到着すると座席の争奪戦が起こり、古めかしい跨線橋の通路や階段を沢山の人が足早に駆けていきます。
普通列車には4人用クロスシートとロングシートが混在するE129系が使われていますが、ボックスシートに座れれば十分くらいの認識が良いでしょう。

不便ではあるものの上越線の醍醐味の区間なので、新幹線でワープ(するとしたら高崎~越後湯沢になる)することは極力避けるべきです。

夏の水上駅の跨線橋。
乗換に必死だと気付かないが、廃校の校舎のような趣がある。

上越国境のトンネルと複線化

この区間の特徴は上下線が全国でも珍しいほど離れている点にあります。
それも平面上の話ではなく、高低差がかなりあるのです。
そのため下り線ではトンネルの中にある土合駅は下り線ホームから出口までは、非常に長い階段を上らなければなりません。

土合駅の下りホームから改札口への階段

なぜこんなことになったのかというと、それは上越線開業時と複線化時の土木工事の技術の違いにあります。
単線で開通した時(1930年代初頭)に使っていたのは現在の上り線で、トンネルの前後にループ線があります。

土合から湯檜曾への上越線上りのループ線。
勾配を下って下に見える線路を走り、左奥にある湯檜曾駅に着く。

複線化された(つまり下り線が建設された)1960年代中盤にはトンネル掘削技術も向上していて、上り線よりもっと長いトンネルを掘って曲線や勾配を緩和することができたのです。
このあたりの詳細や見所については、以下の記事で述べているので参考にしてください。

車窓の変化が劇的

水上駅から次の湯檜曾駅までは相変わらず温泉保養地のような雰囲気です。
湯檜曾駅からは上下線が分かれ、いよいよ上越国境越えです。

水上を出て国境越えが始まる

新潟方面行の下り線の場合は複線化で新設された路線なので、しばらくはずっとトンネルが続くので車窓を楽しむのは我慢です。
ループ線があるのは反対方向の上り線です。

下り線の湯檜曾駅を出てすぐに突入する新清水トンネルは長さ14㎞。その途中に前の節で触れた土合駅があります。
土合駅を発車して新潟県に入って、湯檜曾から10数分でようやくトンネルを抜けます。

トンネルを抜けた。
雪はもっと深くなっているが空は広くなった。

それまでの世界とは一変して雪が深くなり、一方で山に囲まれているとはいえ辺りはずいぶんと開けています。
今まで深い谷とトンネルを進んできてからの、この解放感は実に見事な演出です。
太陽の光を浴びて雪はキラキラと輝いています。

土樽からはまた上下線が離れ上り線はまたループ、下り線は坂を下りていくので問題なく急勾配を走ります。

上下線は再び分かれていく

越後中里駅からはスキー場やリゾートマンションが多く見られます。
新潟に来たことを実感しているうちに越後湯沢駅に到着します。

スキーリゾートらしい風景
越後中里駅にある旧型客車
越後中里駅に隣接したスキー場では、旧型客車が休憩所として使われている。
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越後湯沢~新潟

新潟に近づき本数も増える

越後湯沢から先は本数も回復し、おおよそ1時間に1本になります。
水上初の列車は越後湯沢止まりではなく、実際は長岡まで運転されることが多いです。

スキーリゾートの中心越後湯沢駅は商業施設が多い
越後湯沢の駅弁、牛~っとコシヒカリ
越後湯沢の駅弁、牛~っとコシヒカリ

信越本線となる長岡からはさらに本数が増え、新潟の近郊区間らしいダイヤです。

首都圏ではもう見なくなった国鉄の近郊型車両115系が、このあたりではまだ走っています。
普通列車以外にも時々快速も運転される他、直江津方面からの特急「しらゆき」も走ります。

長岡駅にて。
水上から乗って来た列車(奥)と新潟行きの列車(手前)。

越後平野を北上

越後湯沢駅を出て次の石打駅まではまだリゾート地の雰囲気ですが、その先からは徐々に雪は減り、広い水田に家屋や防雪林が見られます。
田舎らしい風景で先ほどからの興奮も落ち着いてきます。

山とリゾート地を後にして北上する
越後らしい風景

皮肉なことに、メルヘン風の建物が並ぶ上越国際スキー場前駅あたりからは雪はあまり見られなくなりました。

ヨーロッパ風の建物が並ぶ上越国際スキー場前

なおも雪解け水でびしょ濡れになった水田と遠くの雪山を見ながら北上していきます。

平坦な線路ですが越後川口駅の前後はやや山間部の景色となり、川に沿ったりトンネルで抜けたりします。
上越線の線路は長岡駅の一つ前宮内駅で終わり、そこから先は信越本線となります。

長岡駅から先は正直平凡でかなり車窓が退屈な区間です。
長岡駅のそば屋で売ってる駅弁でも買って車内で食べるのも良いでしょう。

長岡駅の駅弁、牛めし
長岡駅の牛めし。
それにしても新潟県には牛肉の駅弁が非常に多い。

水田が広がり遮るものも少ないので遠くの新幹線が見えることもあります。
矢代田駅の前後で少し山が近づくかな、という程度です。

長岡からしばらく新幹線が遠くに見える。
さすがのE4系も小さく見える。

羽越本線・磐越西線が分岐する、鉄道のジャンクションにして車両工場もある新津駅を過ぎ、新潟に近づくと都会の風景になります。

終点新潟駅は近代的な高架の駅です。
ここから特急「いなほ」など羽越本線の列車が発着していますが、その割には小さくまとまりすぎているようにも思えます。

新潟駅の高架ホーム。
新幹線との接続も改善されている。
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今なお存在感のある「国境」

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」

上越線で新潟を目指すと、川端康成の言葉を思い出すと共に、その何気ない一文の表す感動に気づくことでしょう。

今や新幹線で東京から2時間とかからない新潟ですが、関東の住宅地から渓谷を経て温泉街を過ぎ、そしてトンネルの先にある開けた雪の平野という車窓の移り変わりからは、日本の国土の多様性を感じ取ることができます。

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