「いなほ」グリーン車利用、羽越本線の旅【車窓や見所を解説】

幹線

羽越本線は新潟県の新津から日本海沿いに北上して秋田へ至る路線で、日本海縦貫線としての機能も持っています。
羽越本線の魅力はまず第一に海岸の美しさが挙げられますが、それ以外にも見所が多数あります。

新潟駅から白新線経由で秋田駅まで列車に乗って、それらを探っていくことにしましょう。
ちなみに本記事は時系列としては上越線の記事の続きです。

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新潟~新発田~村上の車窓は平凡

新潟の近郊区間

新潟からは白新線で新発田へ、そこから羽越本線に接続します。
いずれにせよ村上までは直流電化された新潟の近郊区間といった様相で、列車本数もおよそ1時間に1本です。

長岡~新潟に比べると少ないですが、羽越本線の中では多い方です。

平野を走る

白新線経由村上行きの列車は新潟駅の高架ホームから発車します。
その前に駅弁を買いに行きましょう。
新潟駅には豊富な種類の駅弁がありますが、上品で高級感があるのが「えび千両ちらし」です。
厚焼き卵の下にうなぎ・こはだ・えび・いかなどが入った弁当です。

新潟駅の駅弁、えび千両ちらし

白新線は羽越本線に接続する新発田駅まで平坦な線路を走ります。

大形駅を出てすぐに渡る長大な阿賀野川橋梁はなかなか壮観です。
この日は良く晴れた日だったので、水田のはるか向こうに見える山々が雪を被って美しかったです。

阿賀野川橋梁は長さ900mを越える

新発田駅から羽越本線になっても相変わらず淡々とした風景です。
新発田駅を出ると途中少し山が近づくと思いきや、またすぐに平野になります。
稲の収穫の季節だったら黄金色の絨毯の上を走っていくような気分になれるのでしょうが、初春は遠くの山を愛でるばかりです。

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村上~酒田は日本海の絶景

列車本数が減る

村上駅の少し先からは交流電化区間になりますが、村上から鶴岡までは普通列車の本数がかなり少ないです。
本来なら交直両用電車を充てるべきですが、JRはそういった費用のかかる車両を投入せずに、国鉄型の古いディーゼルカーを走らせている始末です。

村上駅に停車する国鉄色の古いディーゼルカー
村上駅に停車する国鉄色の古いディーゼルカー

羽越本線を普通列車だけで乗り継ぐのは難しく、どこかで待ち時間が多くなってしまうケースが考えられます。
そのため村上からは特急「いなほ」で適当な所(鶴岡・酒田・羽後本荘が候補になる)までワープすると時間を効率的に使えます。

E653系「いなほ」のグリーン車に乗車

特急「いなほ」にはかつて常磐線「フレッシュひたち」で活躍していたE653系が使われています。
首都圏から日本海沿いに転勤したE653系は大幅にリニューアルされ、車体は日本海に沈む夕日をイメージしたものになっています。

特急「いなほ」のグリーン車の車内
特急「いなほ」のグリーン車

そしてこの列車の大きな特徴がグリーン車の豪華さです。
多くのJR東日本のグリーン車が4列シートなのに対して、「いなほ」のグリーン車は3列座席で、ラウンジスペースまであります。
また座席の間隔が普通車の2倍あり、前後には仕切り板があって非常に快適です。

特急いなほのグリーン車の座席
シートピッチは通常の2倍もある。
そして仕切り板も設置されている豪華仕様である。

3列シートというと一人の場合1人掛けの座席を選んでしまいがちですが、海側は2人掛けの方です。
グリーン車たるもの1人掛けでなければならない、というドグマを持っている人はともかく、2人掛け座席を予約するようにしましょう。
また「いなほ」には車内販売がまだありますが、営業するのは酒田までなので要注意です。
2021年3月を以て「いなほ」の車内販売は廃止されました。

単線と複線が交互に現れる

この区間の羽越本線の見どころは車窓だけではありません。
村上では複線で始まった線路は、その後「単線と複線が一駅ごとに入れ替わる」と表現してもさほど大袈裟にはならないくらい、細かく入り混じっています。

部分的に複線化する時、「途中まで複線、後はずっと単線」とするよりも羽越本線のように所々で複線化していく方が輸送力増強の効果が高いからです。

また、複線化の際に既存の線路の横にもう1本の線路を増設する「腹付線増」をするスペースはなかったので、内陸部に新しく単線の線路を新設する「別線線増」の方式が採られています。
そのため新潟行きの上り列車よりも、今回のように秋田行きの下り列車の方がトンネルが少ない海側で景色を楽しむことができます。

下り線から上り線を望む。
今乗っている下り線は海岸線を走るが、上り線はトンネルで通過してしまう。

もちろん東北本線のように全線複線化してしまうのが一番ですが、そのような贅沢は亜幹線の羽越本線には許されなかったようです。

羽越本線のハイライト、笹川流れ

村上駅を出ると早速海岸線沿いの絶景区間が始まります。

とりわけ桑川駅~今川駅は笹川流れの車窓が美しい区間です。
幾つものトンネルの合間に日本海と崖の風景が広がります。
それまで少し眠くなっていた人もここで目が覚めることでしょう。

このような地形に建設された線路ですから曲線も多く、列車は適度なスピードで走っていきます。

府屋駅からは一旦景色は落ち着きますが、またすぐに海岸線沿いを走ります。
少しは周りの家が増えたでしょうか。
なお府屋駅と鼠ヶ関駅の間に新潟と山形の県境があります。

三瀬駅を過ぎてトンネルを抜けると海岸からは離れます。
ここからしばらくは庄内平野の曲線の少ない線路になるので、ようやく特急らしいスピードで走ります。

しかし、海岸線が終わっても景色を楽しむことは休んではいけません。
鶴岡駅に近づく頃には今度は右手には月山が見えます。

海岸の景色が終わると今度は名峰が現われる。
羽越本線の旅は楽しく、忙しい。

そしてその姿に感心していると間もなく、酒田駅の手前では右手遠方にもっと山容の美しい鳥海山が見えます。
なお鳥海山は酒田を出てしばらくも眺めるチャンスはあります。

鳥海山の山容の美しさは東北の数ある名峰の中でも際立っている

水運の商業で栄えた酒田は羽越本線の途中駅では最も重要な駅です。
駅には北前船の模型や蒸気機関車の動輪があります。
今も貨物列車が行き交う羽越本線ですが、この地は古くから交通の要衝であったことを示しています。

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酒田~秋田も日本海と鳥海山が美しい

特急は減るが普通列車は増える

特急「いなほ」は定期列車7往復のうち秋田まで行くのは3本のみで、その他は酒田止まりです。
首都圏からの観光客が新幹線を乗り継いで「いなほ」に乗車するのは酒田までで、その先羽後本荘、まして秋田へは秋田新幹線経由が通常です。

酒田以北も単線と複線が頻繁に入れ替わりますが、複線化された区間の割合は酒田以南と比べてやや少なくなります。
やはり酒田を境に輸送量に差があるのでしょう。

一方普通列車は村上~酒田まで通す列車よりは秋田行きの方がやや多いです。
また秋田に近くなる羽後本荘からはその本数も少し増えます。

庄内平野から海沿いへ

酒田駅を出てもしばらくは庄内平野を走り、北進するにつれて鳥海山が近づいてきます。
一番よく見れるのは南鳥海駅~遊佐駅です。

鳥海山が近づいてくる。
しかしその後すぐに海が現われる。

吹浦駅からはまた海岸線を走ります。
女鹿駅~小砂川駅の間で山形県から秋田県に入ります。

海の景色は上浜駅あたりまで続きます。
笹川流れの海岸ほどは迫力はありませんが、少し高い位置に線路がある区間もあり見晴らしの良い風景です。

進行方向左側の海に夢中になってしまいがちですが、時々反対側の後方も眺めてみましょう。
先ほどまで山形県を発つ我々を見送っていた鳥海山は、今度は秋田県に来たことを歓迎してくれています。

県境を越えてもまだなお鳥海山は乗客を見守っている

仁賀保駅を過ぎるころ、また海沿いを走ります。
今度は今までのような切り立った断崖ではなく、松林の並ぶ落ち着いた海岸線です。

今度の海岸線は穏やか

やがて由利高原鉄道の乗換駅である羽後本荘駅に到着します。
私はここで普通列車に乗り換えました。
羽越本線の酒田以北はロングシートの交流電車が走っています。
通勤電車のような車両ですがトイレはあります。

特急列車の豪華グリーン車から「東北のゲタ電」と呼ばれるロングシートの普通列車に乗り換えたわけですが、特急と違って運転席近くに立って前面展望が楽しめるという大きな利点もあります。

羽後本荘駅から出る由利高原鉄道

羽後本荘駅を出るとすぐに子吉川を渡ります。

その次の羽後岩谷駅からは山越えが始まります。
ここで通る折渡トンネルは日本最初のシールド工法(円盤状の機械を推進させながら掘り進めていく方法)を使ったトンネルで、この区間が複線化されている現在では下り線が古い方を使っています。

ところでこのトンネルは難工事の末に完成しましたが、その建設にあたっては、北海道の常紋トンネルのようなタコ部屋労働の非人道的なエピソードがあるらしいです。

下り列車の先頭から折渡トンネルを望む

そんなトンネルを何事もなく通過し、山越えが終わった羽後亀田駅からはまた海沿いです。
この区間も穏やかな海岸線と松林を見ながら走ります。
内陸側もすぐそこに山が迫っているわけではなく、広々とした高原のような光景です。

下浜駅を過ぎるころには今まで長い付き合いだった日本海とも離れ、秋田に向かって丘陵地を通ります。

海を離れると秋田は近い。
丘陵地を越えると市街地が広がる。

新屋駅からはもう市街地です。
それまで空いていた列車もやや混雑してきました。
秋田駅の手前で秋田新幹線こと、奥羽本線に合流します。

未明に東京を発ってこれまで12時間近くかけて秋田にやって来ましたが、E6系「こまち」を見た時、本当はここまで4時間もかからずに着けるのだということを思い出しました。

秋田新幹線と共に秋田駅に到着した。
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鉄道旅行の醍醐味

羽越本線は鉄道旅行を楽しむ要素が実に揃っています。
車窓の美しさについては日本海の海岸線は言わずもがな、その合間を埋めると表現するのは失礼なくらい秀麗な鳥海山や月山が、我々の目を楽しませてくれます。
なお右に左に注目すべき車窓が次々と入れ替わり満喫するのに忙しい路線として、やはり東北の日本海沿いを走る五能線が挙げられます。

さらに羽越本線には、ゆっくり景色を楽しめる普通列車に加えて設備が魅力的な特急列車も走っています。
そして亜幹線でありながら北前船以来の物流の動脈であるために、限られた予算と物理的制約のもとで最大限の効果をあげるべく線路改良をした労苦を、あちこちでかいま見ることもできます。

それこそが、全線複線化されたり長距離輸送は新幹線に譲った主要幹線でも、全線単線で普通列車しか走らないローカル線でもない、亜幹線の羽越本線の面白さです。

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