「サフィール踊り子」E261系とその時代【個室・プレミアムグリーン車の車内や座席など】

東日本の車両
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観光輸送に特化した「サフィール踊り子」

踊り子シリーズの進化

東京から熱海・伊豆半島へ向かうお馴染みの特急電車、「踊り子」が登場したのは1981年。
新製された185系は普通列車にも使えるというコンセプトで、特急型車両としてはいかにも格落ちな感は拭えませんでしたが、緑の斜めストライプという大胆なデザインに加え、「踊り子」というやはり斬新で親しみやすいネーミングにより人気列車となりました。

国鉄型特急と言えば赤とクリーム色が常識だった時代、185系「踊り子」のスタイルは画期的だった。

民営化後の1990年には、より観光色を強くした251系が「スーパービュー踊り子」としてデビューします。
個室付きの2階建て車両を含む、天井まで届く大型窓を持つ明るい雰囲気の編成で、この設計思想は後に「サフィール踊り子」に継承されることになります。
また種別は同じ特急でありながら、「スーパービュー踊り子」にはA特急料金を、「踊り子」にはA特急料金よりも割安なB特急料金を徴収する差別化も図られました。
ここに、停車駅が多く短距離や通勤利用にも対応する「踊り子」と、停車駅が少なく観光輸送に重きを置いた「スーパービュー踊り子」の二本立て体制が築かれました。
熱海~伊豆急下田という歴史ある観光地帯の存在、そして沿線が成熟した東海道本線ならではの強み(両者で役割を分担してもお互い商売が成り立つ)です。

2020年3月、老朽化した251系「スーパービュー踊り子」の後継車両として登場したのがE261系「サフィール踊り子」です。
「サフィール」はフランス語で宝石の「サファイア」を意味します。
とにかく目立ちたかったバブル時代の「スーパービュー」に対して、より洗練された列車名になっています。

サフィール踊り子のE261系

全車グリーン車以上の豪華編成

新たに登場した「サフィール踊り子」は前任者からさらに観光特化を推し進め、なんと普通車無しの全車グリーン車以上という豪華編成となりました。
「スーパービュー」にあったグリーン個室は4人用の他に6人用も用意され、グリーン車より格上の設備、プレミアムグリーン車も登場しています。(各設備の車内・サービスについては次章で紹介します)

さらには4号車にはテーブル席とカウンター席を備えた軽食堂車、カフェテリアがあるのも大きな特徴です。
新幹線や特急列車から車内販売すら廃止されていく昨今、このような車両が連結されているのがいかに特別な車両か分かろうものです。
また、停車駅発着時に流れる車内メロディーは、通常の単純なピンポンパン音(これもこれで情緒があるが)ではなく、ホテルのロビーで流れていそうな曲になっています。

伊豆の海と空をイメージしたという車両デザインも優雅なもので、これまで「楽しさ」を訴求するものが多かった観光列車と一線を画す、「大人の」「上質な」センスが顕著に表れています。
遊び心がありながらもシックで格調高い佇まいは、JR九州の「ゆふいんの森」を思わせます。

コロナ騒動下でも予約が取れない人気列車に

さて、E261系「サフィール踊り子」は2020年3月にデビューを果たしますが、これが最悪のタイミングとなってしまいました。
後に「第一波」と呼ばれることになる、新型コロナウイルスの感染拡大期と重なってしまったのです。
外国人観光客はほぼ絶望的で、日本人の旅行需要も落ち込み、せっかくのウリだったカフェテリアもその後何回か営業休止に追い込まれています。
観光用車両のE261系からすれば、満を持して登場するや否や「不要不急」の認定を受けたわけで、プライドも深く傷ついたことでしょう。
全国に第1回目の緊急事態宣言が発令されるのはデビュー翌月です。

終点の伊豆急下田駅。
観光業が生命線の伊豆にとっても、自粛の代償はあまりに大きい。

しかし、そんな逆境の中でも「サフィール踊り子」は好評を博しているようで、予約が取りにくい列車として認知されています。
実際、私も12月中旬の平日の4人用個室を予約しようとしたところ、オフシーズンの早め(3週間前)にもかかわらず満席と言われて驚きました。
結局1号(東京発)の代わりに2号(東京行)に乗車しましたが、こちらは比較的空席があるようでした。

また冬期間の土曜日に2号のプレミアムグリーン車に乗った時も窓側は満席、通路側も空席は僅かでした。
その時は第一希望の日曜日はプレミアムグリーン車が満席で予約ができなかったので、次善策としてその前日にしました。

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E261系「サフィール踊り子」の車内とサービス

それではE261系サフィール踊り子の車内設備等について紹介していきます。
前章でも述べた通り、この車両には普通車がありません。

グリーン車の車内と座席

サフィール踊り子のグリーン車の車内
グリーン車の車内

サフィール踊り子では一番ベーシックな設備がグリーン車(5~8号車)です。
JR東日本の車両はグリーン車でも横4列の座席配置が多いですが、こちらは横3列なので既に「標準以上のグリーン車」となっています。
新幹線のグリーン車に似たレッグレスト付きの電動リクライニングシートで、読書灯もあります。

サフィール踊り子のグリーン車の座席
グリーン車の座席

白く清楚な座席や内装もさることながら、車内の明るさを演出している主役は天窓とガラス製の荷物棚です。
こんな車両に乗れば、いつも通勤で乗っている東海道線でもワクワクできることでしょう。

なお、海側の座席は2列席のA席です。
一部には1列の座席にこだわる人もいますが、特別な都合が無いのであればこちらをおすすめします。

プレミアムグリーン車の車内と座席

サフィール踊り子のプレミアムグリーン車の車内
プレミアムグリーン車の車内

伊豆急下田寄りの先頭1号車はプレミアムグリーン車です。
通路が中央ではなく山側にあり、海側に2列の座席が並んでいます。
まるで飛行機の国際線の上級クラスのような雰囲気です。

サフィール踊り子のプレミアムグリーン車の座席
プレミアムグリーン車の座席

プレミアムグリーン車には頭上の荷物棚が無く、前の座席の下部のスペースを使用します。
バックシェル付きの座席は隣の席との間隔も空いているので、横に見ず知らずの人が来てもプライバシーは確保されています。

乗ってみると分かるのですが、控えめな照明、座席の光沢のある黒、絨毯の深い青のおかげで、車内はとても落ち着いた空間です。
走行区間のうち小田原~伊豆急下田はトンネルが多いのですが、煌びやかな海の景色とはまた違った良いムードになります。

先頭の座席からは前面展望が楽しめます。
ただ個人的には、前面展望なら普通電車の「リゾート21」でも見れるので、中央~後寄りの席でプレミアムグリーン車の車内を味わいたいです。

グリーン個室はみどりの窓口でのみ予約可能

サフィール踊り子の4人用グリーン個室の車内
4人用グリーン個室

サフィール踊り子には4人用と6人用のグリーン個室があります。
定員数で利用すればグリーン車と同じ料金になる(逆に定員未満の人数だと割高になる)ので、グループでの旅行にはこちらがおすすめです。
グリーン個室だけは「えきねっと」や指定席券売機では予約できず、駅のみどりの窓口に行かなければなりません。

室内はシックなナチュラルテイストで広々としていて、高級感はあるけれども堅苦しくはありません。
壁には写真やオブジェが飾られていて、ここが列車の車内であることを忘れてしまいそうです。

2021年の12月に、会社の友人と伊東駅から東京駅まで4人用個室を利用しました。
その時の様子は

  • 筆者:念願の個室乗車が叶い、「これ最高やな!」と杯を重ね、周りから「仕事中とは全然違いますね」と言われる。帰宅後、覚えた車内メロディーをピアノで演奏して旅行の余韻に浸る。
  • 同行者A:サフィール踊り子の第一印象は、平成の仮面ライダーみたいでカッコイイ。
    最寄り駅近くの横浜駅で下車する予定だったが、個室に入った瞬間に終点東京駅までに変更することを決意。
  • 同行者B:普段酒を口にしないはずが、カフェテリアでビールを買ってきて顔が赤くなる。観光途中では、(若い女性社員限定の)お土産を買い過ぎて「予算オーバー」していたので余計に意外だった。
  • 同行者C:博識で語彙も豊富なのだが、驚きのあまり車内の感想は「ヤバい」「すげえ」くらいしか言葉が出てこなかった。松島を眼の前にした松尾芭蕉もかくやと思わせる。
  • 一同:「明日は仕事休みで良かった!」とお互いうなずく。

といった感じで、あっという間の1時間半の宴でした。

地ビールに地ワイン、他にカフェテリアで現地調達したビールもあり。
この日で既に4回目の酒宴だったが、もちろんこれがメインイベント。

なお、6人用個室を外から見たのですが、もはや個室というよりは貸し切りのラウンジスペース・リビングのような設備でした。
内装は4人用個室と同じ雰囲気です。
贅沢に2人で利用していた初老の夫婦がいて驚きました。

軽食堂車のカフェテリアはサフィールPayで時間指定の予約が必要

カフェテリアではメインメニューとしてパスタが提供されています。
時間指定の予約制で、事前に「サフィールPay」で注文・決済を行う必要があります。
当日に車内でアテンダントに予約することもできますが、土曜日に利用した時は満席になっていたので前日までに予約した方が良いと思います。
また飲み物のみでカフェテリアの利用もできません。

サフィール踊り子のカフェテリアの車内
カフェテリアの車内

指定された時間は20分です。
席に着くと数分で料理が提供されるので食事するには十分ですが、食後にコーヒーを味わう時間はありません(カップなので席に持ち帰ることはできる)。
せっかく雰囲気も良いのでもう少しゆっくりしたかったのですが、営業上仕方ないのでしょう。
なお、グリーン個室利用者は個室へのデリバリーとなります。

サフィール踊り子のカフェテリアのテイクアウトメニュー
個室利用時に注文した「じゃがいもニョッキのトマトソース」。
食感が大変良かった。

さて、私が注文したのは「静岡産3種のキノコとトリュフ塩のラグー」です。
まずは皿からキノコの芳醇な香りが立ち上ります。
そして濃厚で、それでいてしつこくないソースにフェットチーネがよく合います。
ご馳走様でした。

サフィール踊り子のカフェテリアのメインメニュー
パンと水が付いている
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新時代の豪華列車

「モノ消費からコト消費」への消費行動の変化が指摘されたのは2000年頃。
2010年代は景気回復とインバウンド需要の急拡大により、コト消費を体現する観光列車も趣向を凝らしたものが増えました。
雨後の筍の如く全国に登場した「地元PR型列車」は、次第に話題先行の奇をてらった卑俗化やマンネリ化が進行していましたが、あくまで鉄道車両・列車として実用的でかつ洗練された「サフィール踊り子」は、観光列車の可能性をより高い次元に昇華することに成功しました。

その意味でE261系は高付加価値路線に特化した特急車両という、令和時代の一つの基準(同世代のビジネス特急では近鉄の「ひのとり」がある)を示した存在だといえます。

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