伊東線は熱海駅から伊東駅まで、それに続く伊豆急行線は伊東駅から伊豆急下田駅へと南下する路線です。
沿線は関東に近い行楽地・温泉地として知られており、観光列車が昔から運転されてきました。
また、列車からの相模灘の車窓も綺麗なので、沿線の観光はもちろん、列車に乗るだけでも楽しむことができる線区です。
2022年2月上旬、早起きをして熱海駅を朝に出発する普通列車「リゾート21」で、終点の伊豆急下田駅を目指しました。
伊東線:熱海~伊東
リゾート21は展望席でも特別料金や予約は不要
本記事では会社が変わる伊東で章を区切っていますが、日中は伊東線と伊豆急行は一体になって運転されています。
一部の普通電車には「リゾート21」という特別な車両が使われています。
リゾート21には「黒船電車」と「キンメ電車」の2種類があって、どちらも凝った内装とインパクトのある外装が特徴的です。
先頭車両には展望席があり、大型の窓から前面展望を楽しむことができます。
これほどの車両が特別料金や予約なしで利用できるわけで、大変な乗り得列車でしょう。
また、編成中央部にトイレもあるので、2時間弱の乗車でも安心です。
グループでの旅行なら中間車両の海側を向いたラウンジスペースのような席がおすすめですが、一人旅の場合は雰囲気的にやや落ち着かない感じもするので、展望席をとるのが良いと思います。
どの列車がリゾート21で運転され、どちらのタイプなのは、伊豆急行のホームページを見ればわかります。
なお、リゾート21ではない通常の普通列車も、海側はボックスシートになっています。
乗車記:リゾート21のキンメ電車に乗車
東京から熱海まで乗った東海道線の普通列車では、北関東地域の路線が雪で運休しているニュースがしきりに流れていました。
麗らかな熱海駅とは対照的です。
熱海駅を8時26分に発車する列車はリゾート21のキンメ電車でした。
この時は土曜日の朝だけに展望室は既に満席、辛うじて空いているボックスを見つけました。
来宮駅までは本家の東海道本線と並走し、トンネルを抜けると早速左手眼下に海と街並みが見えます。
その後列車は勾配を下り、海面が車窓と同じ高さに近づいてきます。
車内は大きな荷物を持った観光客が多かったですが、私の前に座っていたのはいかにも地元客風な老人で、コーヒーに麦焼酎を入れて嬉しそうに飲んでいました。
海沿いには背の高い檳榔樹が植えられ、観光ホテルが点在しています。
南国ムードに浸っているうちに伊東線の終点である伊東駅に到着です。
ここで半数近くの乗客が下車しました。
先頭車両に移動して展望室の座席を確保しました。
運転席寄りの座席が階段状に配置(コロナ感染拡大予防のため一部は利用不可)されていて前も横も眺望が素晴らしいですが、運転手は「観客席」からの視線が気になって落ち着かなさそうな気がします。
伊豆急行:伊東~伊豆急下田
運賃が高い伊豆急行線
JR伊東線の全線開通が1938年だったのに対し、私鉄の伊豆急行線は1961年と比較的新しい時代に建設されました。
またリゾート21の展望室に乗っていると分かりやすいのですが、けっこう急な勾配の連続でトンネルや橋梁も多く、伊豆半島の険しい海岸に線路が敷かれたとこが窺われます。
伊東から伊豆急下田までは45㎞で、普通列車でも1時間くらいで走破してしまいますが、運賃が1,650円と距離の割に高額です。
その代わりなのかは知りませんが、特急料金やグリーン料金は逆に良心的な額で設定されています。
「サフィール踊り子」のプレミアムグリーン料金でさえ、伊豆急行線内は1600円(2022年3月)と乗車券より安くなっています。
ちなみに、JR線内だとプレミアムグリーン料金は乗車券の2倍程度が目安です。
乗車記:絶景区間は片瀬白田駅~伊豆稲取駅
伊東駅からは伊豆急行線です。
戦後になってから建設されたので伊東線より線路の造りがよく、駅進入時にポイント通過でガタガタ揺れることもありません。
列車は内陸部に入り、急勾配を登って行きます。
川奈駅からはまた海の近くを走ります。
山嶺が相模灘に迫る地形のためか海を見おろす高原風の景色で、リゾート地らしくゴルフ場もあります。
城ケ崎海岸駅、伊豆高原駅と大勢の観光客が降りていきます。
一方で途中駅から乗ってくる人もそれなりにいるようです。
海に面した伊豆熱川駅はあちこちから湯けむりがあがる温泉街で、熱海によく似た雰囲気でした。
さて、その次の片瀬白田駅から伊豆稲取駅にかけてが伊豆急行線の車窓ハイライトです。
それまで遠目に見ていただけの海がすぐ傍に寄って来ます。
海岸線には道路もコンクリートの防波堤もなく、青い海が白い波しぶきをたてて黒っぽい岩を洗っています。
ここで車窓を紹介する車内放送も行われました。
先ほどから見えている大島だけでなく、遥か前方の島々も含め4つの島が見えました。
桜で有名な河津駅で海から離れます。
ここから先は最後のおまけみたいなもので、リゾート地の雰囲気も消えて駅もこじんまりとしたものになりした。
川沿いの山間部をしばらく進んでいくと、市街地が開けて終点伊豆急下田駅に到着します。
幕末の開国の歴史で知られる下田は駅前に黒船を模ったオブジェが置かれ、観光エリアも徒歩圏内にあります。
この日は帰りに「サフィール踊り子」のプレミアムグリーン車を利用しましたが、それまでの4時間余りを観光と食事に充てました。
軍事力を背景とした威嚇、不平等条約といったイメージもある一連の出来事ですが、下田では開国は日米の友好の証として非常に好意的に見なされているようです。
実際にアメリカやロシアとの条約が締結された寺もあり、歴史・景色・食事いずれも満喫できました。
リゾート21もキンメと黒船の2種類あるわけですから、せっかく下田に来たら金目鯛だけ食べて帰るのはもったいないと思います。
第二の黒船、伊豆急行線
1961年に伊豆急行が開通した時、下田ではこの鉄道を「第二の黒船」と呼んだそうです。
以来、首都圏からアクセスが飛躍的に向上したため、この地域の観光業が大いに盛んになりました。
特急が停車しない駅前でもリゾートホテルなどが見られ、伊豆半島はよく開発されたものだと感心させられます。
これまで車両も愛称も斬新な特急「踊り子」や今回乗車したリゾート21など、伊豆では「意欲作」が次々と輩出されてきました。
平成以降はレジャーや旅行スタイルの多様化により全盛期ほどの賑わいはなくなりますが、令和最初の大作ともいえる「サフィール踊り子」が登場するなど、この明るい地域を走る鉄道は今でも進歩を続けています。
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