私はこれまで30年にわたって鉄道ファン、さらに詳細なカテゴリーで言うと「乗り鉄」をやってきた。
だから旅行に行くにしても列車に乗ることがまず念頭にあって、それに付随して土地の風物に接するというのが形式であった。
しかし最近は史跡にも興味を持ち始め、ついに鉄道とは全く無縁の対馬に行きたくなった。
となれば、帰りは壱岐を経由して福岡に戻り、ついでに日本史最古の史料である「魏志倭人伝」ゆかりの筑肥線の沿線等を巡ろう…と考えつくのは、多少歴史に興味を持った乗り物好きなら当然の成り行きである。
然るに2024年10月中旬、6日間の日程で魏志倭人伝に登場する七ヵ国、すなわち対馬国・一支国(壱岐)・末盧国(唐津)・伊都国(糸島)・奴国(福岡)・不弥国(宇美)そして投馬国(佐賀)を周った。
なお、不弥国と投馬国の所在は諸説あり、それについて学術的に説明する知識も能力も私にはもちろんないが、参考までに吉野ケ里歴史公園の特別展「邪馬台国と伊都国」でこの説が紹介されていた。
本記事は実質「0日目」の、羽田空港から福岡空港に飛び、博多港から夜行フェリーで対馬の厳原港までを綴った。
スターフライヤー055便で福岡空港へ
オフィスにはおよそ似つかわしくないリュックサックを担いで出勤し、仕事を終えたのは18時。
これから直接羽田空港に向かい、20時発のスターフライヤー055便で福岡空港まで飛ぶ。
羽田空港に着いたのは19時ごろ。
オンラインチェックインを既に済ませ、預け荷物も無かったのでスムーズだった。
スターフライヤーは北九州空港に本社がある航空会社で、羽田空港からは他に福岡空港や山口宇部空港などにも就航している。
価格帯としては大手二社以下スカイマーク以上といったところだが、外観も内装もシックな黒で高級感がある。
国内線の飛行機にしては快適な座席で充電用コンセントもあった。
普段は成田空港からLCCに乗っている私としては分不相応の贅沢であるが、今日は日曜日なのでLCCとの価格差は利便性以上には無かった。
ホットコーヒーと付属のビターチョコレートも香り高い。
羽田を夜発着する便は夜景が綺麗だ。
私が予約したのは窓側席(無料で座席指定できるのもLCCとは違う)だったので景色を楽しむことができた。
ところで、私がスターフライヤーで一番気に入ったのは、内装でも座席でもコーヒーでもなく、パーソナルモニターである。
映画やゲームではなく、フライトマップをずっと見ながら速度を確認したり眼下に輝く都市と照らし合わせるのだ。
ちなみに、10時間を要するヨーロッパ線でも同じことをしている。
時刻表好きな人なら分かってくれるかもしれない。
広島上空で下降が始まり、関門海峡がくっきりと見えた。
予定通り21時55分に福岡空港着。
空港からは地下鉄で祇園駅まで行き、そこから20分程度歩いて博多港へ向かった。
九州郵船の深夜便フェリーで対馬へ
博多港から壱岐・対馬方面へフェリーが出ている。
この路線は複数の会社が運行しているが、一部は徒歩の客は断られることもあるようなので、一番無難な九州郵船のフェリーを利用する。
九州郵船ではネット予約できるのはジェットフォイルのみ、フェリーの電話予約も2等指定か1等だけで、通常クラスの2等だと現地の窓口で購入することになる。
等級の違いは雑魚寝部屋の広さくらいで、正直上級クラスに付加価値があるとは思えなかった。
待合スペースのベンチには「島民」らしい人たちが掛けていて、出航20分ほど前になると自然と列ができた。
蝶ネクタイをした乗組員に迎えられて乗船する。
ちなみにフェリーの窓口の乗船手続きは15分前くらいでも良いと思う。
船内に入るとエントランス付近で並んでいる人が大勢いるので、何事だろうと思っていると、船内アナウンスで毛布の貸し出し(50円)を行っているという。
やはり普段からこの船を利用している客が多いのだろう。
船内には自販機(アルコール無し)しかないが、切符売り場横の売店は深夜でも営業していたのでビールを買った。
出航前、船旅でいつもそうしているように甲板に出る。
もう0時を回っているので他の客は横になっていて、周りには誰もいない。
船が動き出した。
作業服とヘルメット姿の船員が手際よくロープを巻いたりしているのに感心しながら、殷賑な福岡の夜景が遠ざかっていく様子をビール片手に船尾より眺めた。
やがて船内は消灯になり寝床についた。
深夜2時15分、途中の壱岐の芦辺港に停泊。
ここで降りる人も結構いて意外だった。
対馬の厳原港に到着したのは4時45分。
まだ外は真っ暗である。
さて、深夜便では厳原港到着後も7時まで船内で休憩できる。
ここで注意すべきは到着後または7時の下船のみ許されており、例えばその間の6時に下船することはできない。
ここでも意外なことに、到着後すぐ下船した客が2/3ほどだった。
未明に観光するわけにはいかないので、私は7時まで寝ることにした。
6時50分ごろ乗組員が「どうぞ」と声を掛けると、残った乗客たちは待ちかねたように降りていった。
結局私が一番最後に下船した。
初めて降り立った対馬。
その第一印象はエキゾチックなほどの緑の濃さと、塩味の利いたほんのり暖かい空気の新鮮さであった。
なお魏志倭人伝は対馬のことを「土地山険多深林」と記している。
程なくしてターミナルビルのバス停から、乗客を一人だけ載せたバスが出ていった。
今日、つまり1日目は観光タクシーを申し込んである。
古代に築かれ近代にも再活用された金田城をメインに、その他諸々のスポットを周ろうと思う。
対馬観光1日目は次回の記事にて。
コメント