夏井川渓谷の車窓が魅力、磐越東線(ゆうゆうあぶくまライン)の乗車記【郡山→いわき】

ローカル線

磐越東線は常磐線のいわき駅から東北本線郡山駅に至る路線です。
つまり、福島県の浜通り(太平洋側)と中通り(県中央部)を東西に横断し、その間に阿武隈高地あぶくまこうちを越えます。
磐越東線の車窓の見所としては、山越えの途中にある夏井川渓谷が挙げられます。
なおこの路線には「ゆうゆうあぶくまライン」という、何を表現したいのか分かりかねる愛称が付けられています。

2022年2月上旬、郡山駅を出発して城下町三春駅で途中下車し、その後いわき駅を目指しました。

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阿武隈高地を横断

車両はキハ110系。普通列車のみだが意外と速い。

磐越東線のダイヤは非常に単純で列車は普通のみ、特急はおろか快速列車の設定もありません。
また、全区間乗り通せるスジも1日6往復(1往復は小野新町乗り換え)と本数も少ないです。
西半分に当たる郡山~小野新町ではその倍以上の列車が運転されています。
いわき~郡山の距離は85㎞で、所要時間はおよそ1時間半強と、ローカル線の普通列車にしては意外と速いです。

車両はキハ110系という短い編成のディーゼルカーです。
東日本のローカル線各地で見ることができますが、燃費の良い最新式の車両が登場してきた近年では、もはや古い部類に入ります。
車内は通路を挟んで2人用と4人用のボックスシートが並び、前後にロングシートがあります。
また、トイレも設置されています。

郡山駅の磐越東線の列車

乗車記:車窓の見せ場は夏井川駅~小川郷駅

山越えの仕方が独特な磐越東線

パラパラと雪が舞う2月上旬の郡山。
9時55分発の列車は2両編成で空いていました。
磐越東線の福島県横断を引き継ぐ磐越西線は、郡山から会津若松まで電車が走り快速も運転されているので、会津方面から乗り換えてきた人は「東西格差」に驚くかもしれません。

ところで、山地を横断する路線というのはたいてい「緩ー急ー緩」の三部形式になるのですが、行く手を阻む阿武隈高地がなだらかな磐越東線は独特で、「急ー緩ー急」という定石とは逆の展開を見せてくれます。
すなわち、①出発後まもなく山越えをして(郡山~船引)、②しばらくは比較的平坦な線路が続き(船引~小野新町)、③その後下るとすぐ終点(小野新町~いわき)、というのが全体の流れです。

線路断面図のイメージ。
磐越東線の場合、両端の平野・盆地が短く、阿武隈高地がなだらかなため中央部が比較的平坦になる。

阿武隈川を渡り山越えが始まる

さて前置きが長くなりましたが、列車は福島方面(つまり北側)に向けて列車は郡山駅を出発します。
福島県有数の工業都市郡山だけあって、駅を出るとすぐに右側には大きなオイルターミナルが広がります。

阿武隈川を渡ると郡山盆地は早くも尽き、市街地も途切れてしまいます。
この間にもう一つ駅があった方が、磐越東線の利便性も向上するのではないかと思えます。

郡山の次の舞木駅もうぎは既に山間部です。
この先もしばらく上り勾配が続きます。

次の三春駅みはるで途中下車しました。
市街中心部の旧城下町は駅から徒歩20分程度で、その近くには三春城跡があります。

三春駅の駅舎は城下町をイメージしたデザイン。
駅には売店と軽食堂がある。

幕末~明治にかけての戊辰戦争の際、東北地方の諸藩は旧幕府側の「奥羽越列藩同盟」を組んで、新政府に対抗して敗れます。
しかし、三春藩は同盟には参加するものの、新政府軍が迫ってくると戦わずして恭順(現地では「無血開城」と表現)しました。
ここを足掛かりに攻略されて若者達の悲劇を生んだ二本松・会津両藩によって、三春藩は裏切者呼ばわれされることになりますが、城跡の石碑や案内板には「我が藩は元来勤王の藩だったが図らずも奥羽越列藩同盟に加わり云々」といった内容の主張がなされています。

三春城跡

西側の磐梯山など奥羽山脈を構成する山々には雲がかかっていて、向こう側(つまり日本海側)はきっと雪が降っているのでしょう。
気温はさほど低くは無いものの、会津方面から恨めし気な強風が吹き付けてきます。

城跡から西側を望む

三春駅に戻り13時39分発のいわき行きに乗車します。
朝乗った列車よりもこちらの方が混んでいました。
地酒「三春駒」はやや甘口の普通酒ですが安っぽさはなく、地元で愛されていそうなお酒でした。

さて、私が一服しているうちに列車の方はなおも急勾配に取り掛かかります。
この辺りが一番雪が多く残っていました。

平坦な線路を快走する

船引駅ふねひきに着く頃には山越えは終わりです。
以降、しばらく急勾配・急カーブから解放されて、列車のスピードはだいぶ速くなります。
また、この先も乗客の入れ替わりが意外と多く、一方的に増えたり減ったりということはありませんでした。

2021年初春、この頃はもう雪は無かった。

大越駅に隣接してセメント工場があり、その付近では露天掘りにされた山を見ることができます。
以前磐越東線ではセメントの貨物列車が運転されていました。

小野新町駅は線内の運転上の要衝で、多くの人が下車しました。
やはりここから先は乗客が著しく減少するようです。

2021年初春の小野新町駅

夏井川渓谷の車窓

小野新町駅の次の夏井駅から急な下り勾配が始まります。
今までずっと平凡な印象しかなかった磐越東線ですが、ここにきてようやく夏井川渓谷の車窓ハイライトを迎えます。

列車は曲がりくねった川を何度も橋梁で渡り、特に江田駅えだ付近は景色が良いです。
しかし太平洋側へと進んでいるので雪はいつの間にか消えていました。

これは初春の写真ではない。
阿武隈高地を越えて浜通りに来て、雪が消えてしまったのだ。

小川郷駅おがわごうまで来ると川幅は広がり、線路も平坦になります。
以降は少しづつ住宅も増えて、終点のいわき駅も近いことが分かります。
途中は曇り空でしたが、山越えを済ました浜通りではよく晴れています。

やがて右手より、誇らしげに市街地を引き連れて複線電化の常磐線が寄って来ます。
磐越東線も「ちょっとだけ失礼します」とばかりに常磐線と並んで、仙台方面に向かっていわき駅に到着です。

いわき駅に到着。
奥に見える丘は磐城平城跡。

浜通りの食を表現した駅弁「浜べん」

いわき駅構内の「New Days」では駅弁を売っています。
2020年の常磐線全線開通を記念した「浜べん」は、メヒカリの唐揚げや貝焼きウニなどの沿線の食材を詰め込んだ一品です。
他にもワカメの唐揚げのような珍しい脇役も控えています。

いわき駅の駅弁、浜べん
2021年に購入した浜べん

会津や中通りと比較して浜通りは蔵の数が多くありませんが、同じ売店に地酒飲み比べセットがありました。
おかげで帰りの特急「ひたち」の2時間を有意義に使うことができました。
福島県の日本酒は、会津・中通り・浜通りと西から東にかけて甘口から辛口になっていく傾向がありそうです。

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高速バスと同じくらい速い磐越東線

福島県の二大都市(郡山市・いわき市は人口規模では県都福島市を凌いでいる)を繋ぐ磐越東線ですが、そのダイヤは先に述べたように郡山寄りの地域輸送に主眼が置かれており、あまり都市間輸送を意識していません。
同区間にはバスが運行されていて、こちらの方が本数は多いのですが、実は所要時間は普通列車とそれほど変わりません。
これは線形が良い区間がそれなりに長いことが要因で、快速列車でも運行して本数も増やせば、結構競争力のある速い路線になる潜在能力があります。

磐越東線に限らず、南東北エリアの横断線はこうした勿体ない線区が多くあります。
これらの路線が新たな可能性を見出すことを期待したいのですが、地方各地で中距離輸送の使命を持つ快速列車が次々と廃止される昨今では、それも難しいのでしょうか。

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