クールなサムライ「ひだ」、HC85系とその時代【普通車・グリーン車の車内や座席など】

東海の車両
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日本初のハイブリッド式特急車両

画期的なハイパワー気動車、キハ85系

国鉄民営化から間もない1989年、それまでの常識を覆す気動車が登場します。
国鉄時代はディーゼルエンジンの技術開発が遅れており、気動車というと鈍重で電車よりも遅いイメージが付きまとっていました。
そんな中でJR東海が世に送ったキハ85系は、外国製の高出力エンジンを搭載し、電車並みの高速性能を実現したのです。
そしてステンレス車体に前面展望が楽しめる流線型の先頭車と、外観もスマートなものになりました。

1960年代に設計された非力なキハ82系を置き換えると、高山本線「ひだ」の名古屋~高山の最速所要時間は2時間40分程度から30分も短縮されました。
その後「南紀」にも投入され、名古屋~新宮の所要時間は3時間45分から3時間6分と、やはり大幅にスピードアップします。

遠距離恋愛のロマンチックなCMで発足早々高い好感度を得たJR東海を象徴する、気動車特急近代化の草分け的存在だったキハ85系ですが、デビューから30年以上経ち老朽化が進行するのは避けられません。
そこで新技術を搭載した後継車両として登場したのがHC85系です。

エンジンとモーターによるハイブリッド式

HC85系の最大の特徴はハイブリッド式車両である点です。
これはエンジンだけでなく主蓄電池も組み合わせてモーターを作動させる仕組みで、キハ85系と比較して30%の二酸化炭素排出量削減を実現しました。
特急用車両にハイブリッド式が採用されるのは本形式が初めてです。

扉上部の画面でメカニックの仕組みが表示される。
エンジンと充電されたバッテリーを併用して加速中

この新しいメカニックによる恩恵は、近年鉄道会社の強力なサポーターとなった環境活動家だけでなく、一般の乗客にももたらされます。
キハ85系は豪快な大出力エンジン音が特徴で、とりわけ「音鉄」(音を楽しむ鉄道ファンのこと)の間では高い人気を誇っていましたが、逆に一般的な言い方をすればそれは騒音であり、車内の静寂性の観点からも欠点でした。

しかし、HC85系はエンジンとモーターを併用するので走行音が小さく、加減速時の気動車特有のショックも解消されていて滑らかな走りです。
新旧車両による「ひだ」を乗り比べたのですが、単線の高山本線でもキハ85系よりもずっと揺れが少なく、乗り心地の違いは歴然としていました。

シンボルマーク
車のエンブレムに似ていなくもない

2022年7月より順次「ひだ」に投入される

HC85系の営業運転は2022年7月より、高山本線「ひだ」で開始されました。
当初は2往復、8月からは3往復の名古屋~高山の便を担当しています。
キハ85系の車齢を考えると、今後数年のうちに残りの「ひだ」と紀勢本線の「南紀」(名古屋~新宮・紀伊勝浦)にも投入されていくものと思われます。
新型車両で運用される列車については、JR東海の特設ページで確認できます。
なお、性能面ではキハ85系と同じ車体傾斜機能無しの最高速度120㎞なので、車両更新による所要時間変更はなさそうです

実際に乗車した「ひだ」では、自動アナウンスによる車窓の見所が随時紹介されていました。
また、地元岐阜県の中学生によるお国自慢も収録されており、観光需要の高い高山本線特急らしい意気込みが感じられます。
最後に言い忘れましたが、高山本線の車窓や見所を紹介した乗車記は、以下記事をご覧ください。

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HC85系の車内

全席コンセントあり、普通車の車内と座席

HC85系の普通車の車内
普通車の車内

暖色系の座席が明るい雰囲気を彩るのが普通車です。
天井のデザインが川の流れのようで、なかなか良いセンスだと感じました。
また、普通車であっても全座席にコンセントが設置されています。

HC85系の普通車の座席
普通車の座席

キハ85系の普通車は包容力のある座席にカーペット敷きという豪華さでしたが、それと比べるとやや質素になった印象もあります。
窓は相変わらず大型ですが、かつて「ワイドビュー」を名乗っていた先輩と比べると上下方向のサイズは小さくなっています。

各車両の客室には大型荷物が収容できるスペースがあります。
また無料Wi-Fiも利用可能です。
これらに座席のコンセントに加え、令和時代の三点標準セットを完備しています。

4列だが快適、グリーン車の車内と座席

グリーン車は岐阜寄り先頭の1号車にあり、普通車と同じ4列座席です。
まさかとは思いますが、「4列座席のグリーン車だからダメ」などという短絡的で貧相な価値観はお持ちではありませんよね?

HC85系のグリーン車の車内
グリーン車の車内

HC85系のグリーン車は、上質な内装と掛け心地の良い座席がとても快適な設備です。
普通車のクオリティーが高すぎた分、グリーン車の差別化が十分でなかったキハ85系(特に中間車の半室グリーン客室)と比べると、こちらのグリーン車は追加料金に見合う設備だといえるでしょう。

高さが調節できるヘッドレストに読書灯、使い勝手の良いフットレストも装備しています。
また、カーペットや内壁のシックな色合いと穏やかな照明も付加価値を高めています。
高山の有名な飛騨家具を思わせる木目調の内装です。

HC85系のグリーン車の座席
グリーン車の座席

ただし、グリーン車・普通車いずれも先頭・最後尾部分はパノラマ構造にはなっていません。
眺望に関しては明らかにキハ85系から後退したと言わざるを得ません。

デッキにはナノミュージアム

デッキも木目調に仕上げられています。
ここには「ナノミュージアム」という、沿線の伝統工芸品が飾られているスペースがあります。
展示品は車両によって異なります。

この手のものを例えば客室で仰々しく表現されると食傷気味になりますが、デッキで目立ち過ぎない程度に展示する程度なので、主に観光輸送に活躍する本形式にとって良い塩梅の自己主張だと思います。
見たところ美濃・飛騨地方の品がほとんどですが、この先運用線区が広がるとナノミュージアムもどう発展するのか楽しみです。

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総評

見た目にも華やかで色気のあるバリトン歌手の前任者と比べると、迫力や存在感では劣る印象もありますが、小学校の理科の授業で習った「アルコールランプはメラメラ燃える赤い炎より、静かに燃える青い炎の方が火力が強い」という事実を忘れてはなりません。
キハ85系がパワー全盛時代の申し子なら、HC85系はそれまでの走行性能を維持しながら、より小さなコストと環境負荷を実現したクール系の車両でしょう。

高山本線は渓谷が美しい車窓だけでなく、沿線に日本三大名湯の下呂温泉や古い町並みを残す高山・古川があり、外国人からは「サムライルート」として知られています。

高山駅から1時間弱で行ける世界遺産の白川郷
2018年6月、白川郷も高山も欧米人だらけで、こちらが外国に来ている気分になった。

「鎖国」と揶揄される水際対策に象徴されるコロナ対策禍が続く2022年の日本ですが、やがては国際列車のような賑やかな客層の「ひだ」が、多くの外国人観光客を乗せて走るでしょう。
職人による伝統文化と高効率・小型化を極めた技術力を体現したHC85系が、彼らに日本の力の真髄を伝えてくれることを期待しましょう。

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