【廃止が決定的】根室本線の新得から富良野を代行バスとキハ40形普通列車で行く

ローカル線

冷凍庫の底で忘れ去られたまま眠っている」と形容すべき区間が、道央から道東へ伸びる根室本線にあります。
根室本線は北海道の主要幹線ですが、1981年により距離が短く近代的な石勝線が開通したため、西側の滝川~新得はローカル線に転落してしまいました。

2016年8月、台風による水害が発生し、今も東鹿越ひがししかごえ新得しんとくは代行バスでの営業となっています。
そして同年11月、苦しい経営が続くJR北海道は、廃止する意向の5区間を発表し、その中には根室本線の富良野~東鹿越~新得も含まれていました。
実際に廃止がいつになるかは未定ですが、自治体もJR北海道の提案を受け入れたようで、結局不通区間の復旧工事が行われることも無いまま廃線に至ると思われます。

黒線が根室本線、うち赤太線が廃止対象の富良野~新得。
その途中の緑点が東鹿越駅。
国土地理院の地図を加工して利用。

2022年7月の日曜日に、新得駅から代行バスと普通列車を乗り継いで富良野駅を目指しました。

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不通区間、新得~東鹿越の代行バス

駅そばがある新得駅

緑色の屋根に洋風な駅舎を持つ新得駅は、全ての特急列車が停車する根室本線の主要駅です。
しかし、そんな駅の規模の割には新得の市街地は大きくありません。

新得は蕎麦の山地として知られ、駅にも立ち食いそばがあります。
太くて滋味のある蕎麦でした。

ところで、一般に根室本線の不通区間は新得~東鹿越とされていますが、実際には新得駅から20㎞以上も富良野方面へ走った上落合信号場から先が不通区間です。
上落合信号場はトンネルの中にあり、ここから石勝線がトマム・南千歳方面へと分かれていきます。
新得~上落合信号場には札幌~釧路間の特急「おおぞら」が走っていますから、廃止される正確な区間は富良野~上落合信号場です。

乗車記:落合駅、幾寅駅と名残惜しい駅が続く

根室本線代行バスに乗っていたのは15~20人ほどでした。
小雨が降る中、新得駅を13時57分に出発です。

新得駅前にある機関士の記念碑。
狩勝峠を越えた蒸気機関車の奮闘を物語る。

なお、このバスは新得駅から十勝サホロリゾートへのシャトルバスの役割も兼ねています。
しかし、ここでの乗り降りはゼロ。
昼間の代行バスの客層は、リゾートホテルを訪れるような人とは無縁でした。

石狩・十勝国境を形成する狩勝峠を越えるにあたって、バスの通る国道と根室本線の位置ははかなり離れていますが、1966年までは鉄道は国道に近いルートを通っていました。
そして、落合~(上落合信号場)~新得の区間が新線に切り替えられた時には、石勝線建設の計画も固まっていました。
上落合信号場のトンネル内での分岐という離れ技は、こうした経緯によって実現したのです。

この日の狩勝峠は視界が悪く、車窓は白と緑しか見えません。

少し開けてくると落合駅に到着です。
鉄道のルートだとサミット(上落合信号場の近く)を越えて4㎞程下った所です。
狩勝峠を旧線で越えていた時代は、ここで機関車が急勾配に備えて水を飲んでいました。

一応建前は列車代行バスなので駅に寄りますが、辺りに集落もほとんどなく、乗り降りする人などいないはず。
と思いきや、男性が一人ここで下車しました。
運転手も「あ、降りるんですか?」と驚いた様子でした。

次第に広く整然とした北海道らしい耕地が広がります。

幾寅駅いくとらは映画「ぽっぽや」のロケ地で、「幌舞駅」として使用されました。
映画で使われたディーゼルカーの先頭部分が保存されています。
この駅は廃止されるでしょうが、留萌本線の増毛駅のように、観光施設として再利用されて欲しい気がします。

その後、線路を時々見ながら東鹿越駅を目指します。
書類上は休止中の線路ですが、実態はどう見ても廃線です。

やがて右手には白樺の並木の合間から、かなやま湖が見えてきます。
空知川をせき止めて造った湖で、そのために根室本線も一部で線路変更が行われました。
北欧を思わせるような景色に和んでいるうちに、湖岸に位置する東鹿越駅に到着します。

2018年12月の東鹿越駅周辺にて。
湖面は凍り付いていた。
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東鹿越~富良野のキハ40形普通列車

乗車記:右にかなやま湖を見て富良野盆地へ

湖と鉱業所に囲まれた東鹿越駅には、1両編成のディーゼルカーが停まっていました。
旅客よりも貨物のために作られたのでしょうが、今では皮肉にも「人の積み替え」が行われる駅になっています。

東鹿越駅の待合室

列車がゆっくり動き出すと、開けた窓から生ぬるい風と排気ガスが入り込んできました。
やはり線路を走るのはいいものです。
歓喜に浸る間もなく、かなやま湖を渡ります。
開幕早々のビューポイントですが、そんなことはおかまいなしに、列車はたちまちトンネルに入りました。
この廃止間近な列車の無愛想さが、何とも心に響きます。

湖が尽きた後も右手には空知川が流れています。
金山駅を過ぎてもまだ狭い谷です。

下金山駅からしばらく走ると富良野盆地の南限に出ます。
辺りが開けてくると同時に、天気も回復しました。
ほとんどが「葬式鉄」だった車内にも、ようやく地元民らしき客が増えてきます。

やがて玉葱畑・小麦畑や水田が広がります。
右手前方ではなだらかな丘が富良野岳に続いています。
色とりどりの耕地と慌てて現れたような青空、そして遠方の立体的な地形は、間もなく見られなくなるのが勿体ないくらいに感動的なフィナーレでした。

15時51分に富良野駅に到着。
列車はこの先滝川まで行きますが、私はここで富良野線に乗り換えます。
「富良野・美瑛ノロッコ号」や「フラノラベンダーエクスプレス」の出発を控えた日曜日の富良野駅は、これまでとは対照的に賑やかでした。

主要ルートから外れた富良野駅

富良野駅

かつて富良野駅には、札幌から帯広・釧路方面へ向かう特急「おおぞら」が停車していました。
1981年に石勝線が開通して道央と道東を結ぶルートがこちらに移行すると、富良野駅を発着する定期特急列車は無くなりました。

しかし、2018年の貨物時刻表では、札幌~富良野の臨時貨物列車が1.5往復確認できます。
JR貨物が製造したディーゼル機関車が、辛うじて幹線の面目を根室本線に施しています。

2018年12月、富良野駅

また、札幌からの臨時特急列車や、旭川からの富良野線のトロッコ列車が富良野駅を目的地にやって来ます。
主要ルートから外れてしまったものの、その観光資源や札幌・旭川からのアクセスの良さが、富良野駅がそのまま衰退せずに済んだ要因でしょう。

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分断される幹線

富良野~新得が廃止されることで、根室本線は滝川~富良野と新得~根室に分断されることになります。
2030年度に予定される北海道新幹線札幌延伸に際しては、「ヤマ線」と呼ばれる函館本線の長万部~小樽の廃止が決まりました。

いずれも沿線人口が少ないうえに、より近代化されたルートが整備されたことで特急列車が走らくなった区間であることが共通しています。
道内を代表する二つの「本線」の部分廃止は、かつて国鉄時代末期に多数の路線が切り捨てられた時と似た血生臭さを感じさせます。

コメント

  1. 旭川のしろくまさん より:

    国鉄の分割民営化の段階で、既にこの結末は決まっていた。JR北海道が黒字になる可能性は、まず無い・・・と言うか、今までよく潰れないでいるもんだと自分は思います。

    ただ、あえてかなり厳しい事を言えば・・・地元の住民が列車に乗ってくれない事も原因の一つ。自家用車が多くなり、自力で移動出来る手段が出来てしまい不便な列車に乗らなくなる・・・乗客数が少なくなり、便数が減らされる・・・さらに不便になり、ますます列車に乗らなくなる・・・結局廃止。廃止された路線の遺構が残るだけ・・・。

    廃止反対と言ってるものの、それなら何故列車に乗ってくれないのか?ハッキリ言って浪漫だけでは鉄道は存続出来ません。極端に観光客が来て、とんでもないくらいの乗客が乗ってくれるのならまだしも、乗客を多く集められる程魅力的な観光地など無いのに、鉄道が無くなったらより一層過疎化が進むとか言って無理難題をJR北海道に押しつける地元。これこそ、無責任の極み。

    JR北海道は企業です。確かに地方交通を支える責任はあるでしょう・・・しかし莫大な赤字路線を押しつけられ、他のJRみたいにドル箱路線を持っていないのに、黒字に出来る訳が無い。赤字路線廃止は当然の帰結です・・・下手をすればJR北海道が倒産し北海道内全ての路線が消滅する可能性すらある。

    路線廃止反対を訴えてる方・・・まず現実を見てください。それから考えてください。無責任な廃止反対を言うべきではありません。

    個人的な意見として・・・鉄道や連絡船に乗っていた記憶はいっぱいあります。こんな話は本当はしたくないし、こんな事を書かなければならない事は、かなり悔しいです。大事な思い出がある路線を無くしたくないと言う気持ちはあります。しかし現実は時代の流れに取り残され、役目を失い続ける鉄道・・・諦める事も必要だと痛感してます。

    • masaki より:

      コメントありがとうございます。
      全体の論旨・結論として、旭川のしろくまさんの仰る通りだと思います。

      廃止の話題が出るたびに、観光活性化と災害時の代替輸送という2つの「魔法の言葉」が使われますが、これも赤字ローカル線が行き詰っている証左でしょう。
      中途半端に金太郎飴のような「おもてなし観光列車」を走らせるくらいなら、石勝線のような「使える」路線を作り直した方が良いとさえ思っています。

      いずれにせよ、これからもこういう話が定期的に持ち上がるのでしょうね…

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