札幌から釧路までの鉄道移動では、南千歳経由の石勝線回りが一般的です。
このルートは
- 札幌の都市部と郊外を通り空港アクセスも担う、活気ある千歳線
- 手つかずの原野を近代的な技術で見事に克服した、ダイナミックな石勝線
- 多彩な姿を見せつけてくれる道東の自然に抱かれた根室本線
という、それぞれ個性的で魅力的な路線を走ります。
今回は札幌から「スーパーとかち」で帯広まで行って途中下車し、帯広から「スーパーおおぞら」で釧路に向かいました。
※2020年3月以降、北海道の特急の列車名からは「スーパー」が外れています。
札幌~南千歳の千歳線は北海道で最もアツい路線
札幌駅を出発
札幌駅では都市圏輸送の普通列車の他、道内各地への特急列車が発着します。
駅の行き先の電光掲示板を見ているだけで、本当にワクワクします。
そして特急気動車の豪快なエンジン音が、我々鉄道ファンの旅心を掻き立ててくれます。
札幌駅には駅弁屋がちらほら見られます。
種類はやはり結構ありますが、知名度・人気が高いのが「鮭めし」のようです。
昆布で炊かれたご飯が見えない程に、鮭のフレークとイクラを敷き詰めた歴史ある駅弁です。
フキや鮭の昆布巻きも添えられています。
コスパ重視のキハ261系「スーパーとかち」
札幌から帯広まで「スーパーとかち」で約2時間半の旅です。
使われているキハ261系1000番台は、特にこれといった特徴もない無難な車両ですが、比較的新しいだけあって車内は快適です。
「スーパーとかち」に限らず多くの北海道の特急列車は、普通車であっても指定席はグレードアップした座席が備えられています。
えきねっとで早めに予約すると、かなり安く指定席に乗れるのでぜひ有効活用してください。
写真はスーパー北斗のものだが、スーパーとかちの指定席も同じ
千歳線は北海道の鉄道輸送の心臓部
千歳線は元は北海道鉄道という私鉄によって細々と運行されていましたが、戦時中に軍事施設が千歳におかれたこともあり国営化されました。
それまでの函館~札幌のメインルートである函館本線は、長万部以北のいわゆる「ヤマ線」の輸送力の低さがネックとなっていました。
しかし戦時中から戦後にかけて沿線の工業化も後押しとなって、千歳線・室蘭本線経由の「海線」が脚光を浴びるようになります。
現在では千歳線は、北海道で最も華やかな路線であると言っても過言ではないでしょう。
列車本数なら札幌~小樽の函館本線も負けていませんが、千歳線は道南・道東への特急列車も走るだけでなく、かなりの数の貨物列車も加わります。
そして何よりも空港アクセス列車の快速「エアポート」が、北海道の玄関口と中心地を結び、道内の鉄道における中心的存在を象徴しています。
札幌郊外を走るが山越えもある車窓
札幌駅から白石駅までは複々線区間。
厳密には札幌駅の次の苗穂駅までは戸籍上は函館本線で、その次の白石駅を過ぎると札幌貨物ターミナルが見えて、函館本線の複線の線路と別れます。
このあたりの風景は、まさに北海道の中枢を走っていることを実感します。
その後も札幌の近郊区間を走りますが、上野幌駅~北広島駅間はちょっとした丘陵地帯です。
その後も郊外の団地風な景観が続き、南千歳駅に到着します。
南千歳~帯広。石勝線は近代化の成果
南千歳から石勝線を行く
南千歳からは1981年に開通した石勝線の線路を走ります。
それまで札幌から帯広・釧路の道東地区へは、滝川・富良野経由という遠回りのルートでしたが、夕張山地を貫いて十勝平野へとショートカットしたこの路線は、道内の運転系統を一変させました。
石勝線の特徴はなんといっても、近代的な設計で作られていることです。
険しい山岳地帯を通るにもかかわらず、多数の長大トンネルのおかげで曲線・勾配も緩やかになっています。
北海道ならではの雄大な車窓
南千歳駅を出ると、隣の追分駅までの距離は18㎞程あります。
室蘭本線と交わる追分駅から新夕張駅までは、かつての夕張線の線路を大幅に改良した区間です。
夕張駅(紅葉山駅から改名)から夕張駅はその後も石勝線夕張支線として存在していましたが、2019年4月に廃止されました。
鉄道マニアが押し寄せていた。
新夕張駅からは新線区間となります。
トンネルと橋梁が全線の7割を占め、駅間が20㎞以上あるので、まるで新幹線に乗っているような感覚です。
駅間の長さからも分かる通り、沿線はほとんど人が住んでいない原野です。
また、途中駅よりも多くある行き違いのための信号場は、ポイントを雪から守るために、まるで牧舎のようなスノーシェルターによって覆われています。
さて、戸籍上は石勝線は新得駅までとなっていますが、実際に根室本線と合流するのは、新得駅より20㎞以上手間のトンネルの中にある上落合信号場です。
根室本線もこの区間は1960年代に新線に切り替えられたましたが、石勝線の建設を想定してこのような構造になっています。
それまで手つかずの原生林を走って来た列車は、今度は広々とした十勝平野を緩やかな勾配で下っていきます。
まさに北海道の大地を悠然と踏みしめている心地です。
新得駅を過ぎても、ジャガイモなどの畑が広がります。
まだ昼前だというのに空腹を感じ始めた頃に、終着帯広駅に到着しました。
帯広~釧路の根室本線
帯広駅はグルメ天国
十勝平野にある帯広は食の宝庫です。
帯広のグルメといえば十勝豚丼が有名ですが、帯広のエキナカにも弁当をテイクアウトができるお店が「豚丼のぶたはげ」です。
注文してから約10分、出来立ての豚丼を、早めにやって来た十勝の秋空の下でいただきました。
やはり何だかんだ言って豚の脂は旨いですね。
サイズも選べる。
また十勝といえば酪農を思い浮かべる人もいるでしょう。
同じくエキナカで売っているソフトクリームはコクのある牛乳の香りがして美味しいです。
さて、帯広駅はかつては根室本線だけではなく、北に士幌線、南に広尾線が伸びていました。
広尾線の愛国駅や幸福駅はその縁起の良さから有名で、今なお「愛の国から幸福へ」の切符が駅跡の売店で販売されているようです。(政権に悪利用されないことを願います。)
ちなみに愛国駅と幸福駅の間にあるのは、大正駅とやはり縁起の良い名前でした。
石勝線はまだない。
最強気動車だったキハ283系の「スーパーおおぞら」
帯広から釧路まではキハ283系による「スーパーおおぞら」に乗車します。
キハ283系は現在では性能を抑えて走っているものの、本来は日本最高のスペックを誇る特急気動車です。
動き出すときの音などは、様々な高音・低音が織りなすディーゼルエンジンの多重奏です。
指定席やグリーン席は座席が交換されていますが、自由席は登場時に近い姿を保っています。
薄いグレーのシートには釧路湿原に生息するタンチョウの絵が描かれています。
座席の取っ手の赤も、おそらくタンチョウの頭をイメージしているのでしょう。
もっとも座り心地に関して言えば、指定席と比べるとやはり快適性では劣ります。
かつては荷物棚にはシェルターがあったのですが、現在では取り外されており、少々殺風景です。
荷物棚の蓋は外されている。
2021年現在、釧路行き特急「おおぞら」は今回乗車したキハ283系の他、帯広まで乗って来たキハ261系でも運転されています。
キハ283系の引退も近いと噂される中、両形式を乗り比べできるのも今のうちでしょう。
根室本線の車窓は変化に富んでいる
高架化された帯広駅を出るとなおも十勝平野や丘陵地帯を進んでいき、ワインの街池田駅に到着します。
フランスのシャトー風の建物が見える。
ここから先の新吉野駅あたりからは、峠を越すので曲線も増えて山がちの車窓になりますが、厚内駅を通過すると突如として視界が広がり太平洋が右手に現れます。
このドラマチックな変化はとても印象的です。
根室本線の帯広~釧路間の車窓のハイライトといってもよいでしょう。
その後は太平洋に近い、どこか荒涼とした湿原地帯を進みますが、利用者減のために廃止された駅跡が散見されるのもこのあたりです。
いくら高速化されたとはいえ、南千歳~釧路は沿線のほとんどが人口希薄地域だということが思い出されます。
冬に来たらもっと切々とした姿を見せてくれるのでしょう。
白糠駅からは集落も増えてきて、漁港を見ながら走ります。
やがて市街地や工場が近づき釧路駅に到着します。
また釧路駅の一つ手前の新富士駅の隣には、日本最東の釧路貨物駅があります。
道東の中心、釧路駅に到着
釧路駅は根室や網走方面行きの列車が発車する、道東のターミナル駅です。
駅舎はいかにも国鉄の駅といった感じのする建物で、駅前にはSLの動輪が堂々と鎮座しています。
また駅から徒歩5分程度の所にある幸町公園にも、C58形蒸気機関車が保存されています。
全国屈指の水揚げ量を誇る釧路では、海産物を使用した駅弁があります。
有名で売り子にもおすすめされたのが「鰯のほっかぶり寿司」。
肉厚な鰯の脂臭さを薄い大根が、文字通りカバーしています。
鰯の満足感はもちろんのこと、大根のファインプレーにも拍手を送りたいものです。
道東への旅路
本記事で紹介した各路線は、いずれも1980年代以降に大幅に改良、もしくは建設された路線です。
千歳線は線路付け替えにより高規格路線に生まれ変わり、石勝線は近代設備で北海道の背骨を穿ち、根室本線も各所で軌道強化や最高速度の引き上げが行われました。
そして車両面では、電車特急をも凌ぐ高性能なキハ283系が投入されました。
その結果、1970年代は滝川経由で特急でも6時間近くかかっていた札幌~釧路間を、一時は「スーパーおおぞら」が3時間30分台で結んだこともありました。
道東の自然は、しかし、我々の背伸びした近代化に対して厳しい答えを出しました。
深刻な脱線・出火も含めたトラブルが2010年代に相次ぎ、安全性確保のためにキハ283系の最高速度は110㎞に引き下げられます。
札幌~釧路間の所要時間は今や最速でも3時間58分(12号)平均では4時間15分程度です。
民営化後積極的に行われた高速化は、経営体力が限られるうえに、そもそも自然条件から他社以上のメンテナンスを要するJR北海道にとっては過大な投資だったのでしょう。
各線の車窓を楽しんでいる時に、ふとそのようなことを考えると、雄大な自然の風景は畏れ多いものになり、そしてより一層美しいものになります。