釧網本線は根室本線の東釧路駅(釧路駅の一つ隣)から、石北線の網走駅までの路線です。
もちろん全ての列車が釧路駅を発着しています。
位置づけとしては、北海道東部の太平洋側とオホーツク海側を結ぶ横断線ということになります。
この釧網本線の性格をもう少し細かく見ていきましょう。
大まかに言って、次のように理解するのが分かりやすいと思います。
- 東釧路~標茶間の釧路湿原が広がる区間
- 標茶~知床斜里間の横断区間
- 知床斜里~網走間のオホーツク海沿いの区間
釧網本線というと①の部分ばかりがクローズアップされがちですが、他のパートでもまた違った風景を楽しむことができます。
【乗車記】釧路~網走の所要時間は3時間
車両はキハ54型
2019年9月に釧路から網走まで、釧網本線の快速「しれとこ摩周号」に乗車しました。
観光列車らしき名前ですが、車両は他の列車と同じキハ54形(一応ヘッドマークは付けている)で、快速といっても通過するのはほんの数駅です。
上下とも午前中に始発駅を出発して、終着に昼頃に到着するダイヤが組まれています。
釧路~網走の所要時間はいずれも約3時間です。
釧網本線に使われているのは、北海道各地でお世話になるステンレス車体のキハ54形です。
各座席が車両中央部を向いている、集団見合い式と呼ばれるクロスシートで、約3時間の乗車でも快適に過ごせます。
またキハ40系などと違って、気軽に運転席近くで前面展望を眺められるのも嬉しいポイントです。
標茶まで釧路湿原。車窓は左側がおすすめ。
釧路駅を出て釧路川を渡って東釧路駅に到着。
戸籍上はここから根室本線(花咲線)と別れ、釧網本線の始まりです。
釧路湿原がよく見えるのは進行方向左側(網走行きの場合)です。
キハ54形は窓と位置が合っていない座席が結構あるので、進行方向左側の眺めがよく見える席を確保するのは結構大変です。
釧路を出発してからまだ落ち着かない間に、穏やかで雄大な風景が広がります。
たった一両編成のディーゼルカーが、大自然の中を恐る恐る走っているかのようです。
このあたりは観光客に人気な区間で、駅もログハウス風のものが多いです。
列車からも時々、野生のタンチョウを見ることができます。
タンチョウに遭遇。
標茶~知床斜里は太平洋とオホーツク海の分水嶺を越える
標茶駅はかつて標津線が分岐していた駅です。
標津線の廃線跡を見ながら進み、それまではなだらかだった線路は少しずつ上り始めます。
山間部を走っていきますが、摩周・川湯温泉などの観光の拠点となる駅が点在します。
川湯温泉駅~緑駅は急勾配を上りつめて釧北トンネルを出た後は、今度は下り勾配が続きます。
まさに太平洋側とオホーツク海側の分水嶺です。
やはり何もないローカル線の駅こそ美しい。
出口の先には下り勾配が待っている
山越えが終わると、風を防ぐ針葉樹林の並木と共に開墾地が目立つようになります。
辺りには甜菜の畑が広がり、所々に農産物を加工する工場があります。
食材の宝庫、オホーツクに来ました。
ちなみに、地域振興のためにも、「食の宝庫」へと脱皮して欲しいものです。
右手後方には斜里岳が見えます。
北海道で感心するのは、周りの山々から立つのではなく、山が広々とした平原の中から足元まで露に堂々と単体で聳えていることです。
色とりどりの耕地を見ながら、列車は知床斜里駅に到着します。
知床斜里からは右側にオホーツク海を見る
横断区間は終わりました。
ここでもし可能なら進行方向右側の席に移動しましょう。
知床斜里駅を出てすぐに、右手にオホーツク海を見ながら草原を走ります。
右手後方には知床半島が延びています。
途中には臨時駅の原生花園駅があります。
「花園」といっても「原生」なので、公園のように花が咲き乱れるものではなく、草原に所々何種類かの色の花がいじらしく咲いています。
小手先の人工物など寄せ付けない、オホーツクの自然の姿です。
写真は7月のもの。
北浜駅の付近では、左側にも湖が見えます。
窓が開くので、「換気」を大義名分にして新鮮な空気をたっぷり吸いましょう。
やがて左側にも川が寄り添い、釧北トンネル以来2個目のトンネルをくぐると網走市街です。
網走駅は同じ道東の特急列車の終着駅でも、都会的な釧路駅とは全く違った、田舎のターミナル駅といった風情のある駅です。
北浜駅で途中下車がおすすめ
網走駅から10㎞ほど手前にある北浜駅は、すぐ目の前にオホーツク海が迫っています。
駅には展望台もあります。
今は無人駅ですが、駅事務室の跡にレストランが営業しています。
店内は昔の汽車のような雰囲気で、タブレットなどの懐かしい備品もあり、木造の駅舎もレトロです。
釧路を午前中に出るとちょうど昼頃に着くので、ここでランチをするのもおすすめです。
中にはレストラン「停車場」がある
なお、北浜駅から網走駅に行く際は、釧網本線だけではなく路線バスで行くこともできます。
列車もバスも本数が多いとは言えませんが、選択肢が増える分スケジュールも組みやすくなります。
最も混雑する区間は釧路~塘路
私は何度か釧網本線に全線乗ったことがありますが、普通列車(快速含む)のどの区間がどれくらい混むかは結構予測しやすいと考えています。
この路線の特徴は観光客の利用が目立つことです。
そのため、特に「くしろ湿原ノロッコ」が運転される夏季は、釧路~塘路間は立ち席が出るほど混雑していました。
釧路から乗る場合は早めに駅に行って座席確保しましょう。
塘路でかなり車内は空いてきますが、それ以降も摩周や川湯温泉でまとまった数の降車客があります。
一方で川湯温泉~知床斜里間は最も乗客が少ない区間です。
知床斜里からはまた観光客や地元の区間利用客が増え始めます。
季節営業の原生花園駅も比較的乗り降りが多いです。
釧網本線は廃止すべきでない路線
全国各地から訪れた人が名刺や切符・メッセージをここに残している。
釧網本線はJR北海道の数ある「当社単独では維持することが困難な線区」の一つです。
もっとも、地方の過疎化が著しく進む北海道において、JR北海道単独で鉄道事業を成り立たせること自体が、そもそも無理のあることだと思います。
会社の資料によると、釧網本線は利用密度が低いうえ、維持管理にもコストがかかるようです。
具体的に廃止の話は出ていませんが安泰とは到底言えない状況で、営業系数(100円の収入に必要な費用)は500を超えています。
ここで着目するべきは観光路線としての意義です。
「ノロッコに乗ったところで乗車券は1,000円程度だ」と思われそうですが、ここで私が言いたいのは、ノロッコに乗るために観光客が「スーパーおおぞら」に乗れば、それが収益機会になるということです。
これは中国地方の木次線や東北の五能線にも同じことが言えます。
つまり釧網本線は、線区単独で営業評価することなく、北海道の大自然の魅力を維持するために有効活用されるべき路線なのです。