特急「つがる」は秋田駅と青森駅を結ぶ列車です。
奥羽本線(福島~山形~秋田~青森)の最終パートとして、北東北の日本海側の主要都市を結んでいます。
海は見ることができませんが、山あり谷あり平野ありと、車窓はなかなか変化に富んでいます。
2023年3月中旬、昼に秋田駅を発つ「つがる3号」に乗って終点青森駅を目指しました。
なお2024年3月のダイヤ改正より、この列車は途中停車駅を減らした「スーパーつがる1号」として運転されています。
1日3往復に最高速度95㎞/hと寂しい内容
秋田~青森の所要時間は2時間半強
「つがる」の運転本数は少なく、1日3往復しかありません。
昔はもっと多かったのですが、一部が快速に格下げされて今の本数になっています。
秋田から青森までの所要時間は約2時間40分です。
同区間の距離は185㎞なので、特急としてはあまり速くありません。
それもそのはずで、「つがる」の最高速度は全区間で95㎞/hに抑えられていて、単線区間も多いからです。
車両はE751系
「つがる」に使用されている車両は、かつて東北本線特急「スーパーはつかり」で活躍したE751系です。
東北新幹線が2011年に新青森駅まで全通すると東北本線からは撤退し、現在の秋田~青森の運用となっています。
東北本線から奥羽本線への転属にあたって、6両から4両編成に短縮化されました。
秋田駅で顔を合わせる「いなほ」用E653系と似たボンネットが特徴的で、車両下半分は津軽地方らしい情熱的な赤色になっています。
「スーパーはつかり」時代の高速運転を思い出すと、このまま津軽の雪に埋もれてしまうのは勿体ない車両ですが、東北地方の過疎地域に骨を埋める郷土愛は称賛されるべきでしょう。
予約は「えきねっと」で格安で購入できる
「つがる」の予約はJR東日本の「えきねっと」で行うのが便利です。
区間・席数限定の「トクだ値」は乗車当日でも20%引きで購入できます。
さらに期間限定(2023年春の時点では4~6月)で、13日前までなら40%引きになる「お先にトクだ値」も設定されています。
割引が適用される区間は全ての停車駅に設定されているわけではありません。
例えば秋田から大鰐温泉まで行く場合、普通に買うと指定席特急券と乗車券で4,200円(自由席だと3,670円)。
それに対して、大鰐温泉より先の弘前まで買うと、距離は長くなってしまうものの割引が適用されるので3,620円(20%引きの場合)と安くなります。
なお、えきねっとの割引にはグリーン車用はありません。
「つがる」の車内・サービス
普通車の車内
「つがる」の車内インテリアはなかなか良い方だと思います。
東北新幹線と連絡していた「はつかり」時代のままなので、ややカタい印象もありますが、全体の雰囲気や配色は個性的です。
20年前の車両なので、コンセントは付いていません。
グリーン車の車内
「つがる」用に短編成化された際に、グリーン車が残ったのは幸いでした。
普通車と同じ2&2列配置ですが、座席は大型でインテリアも明確に差別化されています。
また先頭車両のうち半室だけがグリーン車という構造なので、独特の雰囲気が味わえます。
ただし、グリーン車にもコンセントは付いていません。
車内販売や自動販売機はない
「つがる」には車内販売の営業はおろか、自動販売機もありません。
必要なものは駅で揃えておきましょう。
乗車記:車窓は左側の座席がおすすめ
自由席はガラ空きだった「つがる3号」
今回乗車するのは秋田駅を12時40分に出発する「つがる3号」です。
12時頃に新潟からの「いなほ1号」で着いた時から、隣のホームに停まっていました。
自由席に乗車しましたが、乗車率はおそらく10%程度とガラガラでした。
客層は旅行者風の人の他に、ちょっと買い物に来たような近所のおばさんたちもいました(実際彼らは近距離利用だった)。
また、後になって車掌が検札を始めると、「鉄道開業150周年記念パス」を提示している人が多く、果たして「本来想定されるべき特急利用者」がいるのか甚だ怪しい有様でした。
短くしたとはいえ、4両編成は明らかに過剰輸送力でしょう。
本州の反対側、西の端の日本海側には2両編成の「まつかぜ」「おき」が走っていますが、「つがる」もその程度で十分だと思います。
まずは駅弁と地酒をテーブルに用意します。
秋田駅で買った「比内地鶏の鶏めし」は、実際にはこれから通る大館駅の名物駅弁です。
歯応えのある食感が堪りません。
普通の「鶏めし」もありますが、私のおすすめはこちらです。
秋田県由利本荘市のお酒「雪の茅舎」は、綺麗な味わいながら米の旨味が舌から全身に染みます。
「つがる」乗車区間を地理的に分類すると以下のようになります。
- 八郎潟干拓地や丘陵地を北上する、秋田~東能代
- 米代川沿いに内陸へ進む、東能代~大館
- 県境の険しい山越え、大館~弘前手前
- 岩木山と津軽平野のリンゴ畑、弘前手前~浪岡
- 分水界を越えて太平洋側の青森平野へ、浪岡~青森
なお、この区間は日本海縦貫線と呼ばれ、貨物列車が多く運転されていますが、日本海は車窓から見えません。
景色が良いのは進行方向(青森行きの場合)左側です。
秋田~東能代:八郎潟干拓地の日本離れした景色
さて、「つがる3号」は秋田駅を出発しました。
間もなく久保田城跡が左手に見えます。
しばらく秋田都市圏の市街地が続きます。
軽い丘陵を越え、八郎潟駅付近では大規模な八郎潟干拓地が左手に広がります。
北海道のような大陸的な風景です。
その向こうには男鹿半島の山がうっすらと浮かんでいます。
食糧の増産を目的として、国内二番目の広さだった湖の八郎潟を陸地化した干拓地で、1960年代後半から入植が始まりました。
米の減反政策が開始されたのは1970年のことです。
日本の食料政策のお粗末はもはや伝統とも言うべきで、今後も食糧価格上昇や日本人の相対的な購買力低下が続けば、我々はコメとコオロギで食い繋ぐしかなくなるでしょう。
と、他人ごとのように社会批評をしながら比内地鶏と地酒を堪能した所で、列車は池や林を見ながら北上していきます。
東能代~大館:米代川沿いの寒村の風景
東能代駅からは海沿いの行路は五能線に任せ、奥羽本線は進路を北から米代川沿いの東に変えます。
左手遠方には白神山地が立ち塞がっています。
内陸部になるにつれて米代川の谷は狭まり、地面にも雪がちらほら見え始めました。
すっかり寒村の風景です。
買い物袋に長ネギを入れた女性が乗ってきましたが、すぐ次の駅で降りていきました。
普通列車が少ないために、近距離の外出でも特急券を払わされて気の毒です。
大館駅に到着。
米代川のお供は花輪線に引き継ぎ、これから青森県へ向けて矢立峠越えです。
大館は秋田犬・比内地鶏・きりたんぽの他に秋田美人の本場で、まさに秋田県の文化首都ともいうべき都市です。
大館~弘前:雪深い県境を越える
最難関の山越えとなりますが、線路改良がなされてそれほどきつい勾配や曲線もなく、トンネルで県境を過ぎます。
しかし、雪はあっという間に深くなり眩しいくらいです。
青森県に来るとリンゴ畑が現れます。
その後も川沿いに津軽平野に向かって緩やかに下っていきます。
大鰐温泉駅を過ぎると、津軽平野に入り開けてきます。
そして秋田以来の都会、弘前駅に到着しました。
ここで乗客が急に増えました。
終着の青森まではあと40㎞弱。
特急「つがる」は青森地区の快速のように利用されているのが実態と思われます。
ただ、以前夕方に弘前から青森までグリーン車に乗った時は貸し切り状態でした。
弘前~浪岡:岩木山とリンゴ畑の車窓ハイライト
なおも津軽平野を快走します。
左手の水田やリンゴ畑の向こうには、津軽富士こと岩木山が堂々たる姿を見せています。
周りの山に助けられることなく、単独で裾野を長く引いて聳えています。
「つがる」の車窓ハイライトを一つ挙げるなら、間違いなくここです。
あちこちでシャッター音が響き渡りました。
逆の右側では、八甲田山が連なって対照的な景色です。
その厳めしい姿からは、雪中行軍の悲劇が思い起こされます。
浪岡~青森:最後の最後で太平洋側へ
次の停車駅の浪岡駅で津軽平野は終わり、最後の山越え。
この辺りもかなりの雪です。
乗っていても大した迫力はありませんが、日本の国土を太平洋側と日本海側に分ける中央分水界を越えるという、地理的には極めて大きな意義のある区間です。
もっとも、青森市は南部藩ではなく津軽藩領文化的には日本海側に属するのがややこしいところです。
太平洋側に出ると青森平野が開け、新幹線と接続する新青森駅に到着。
ここが最も乗り降りの激しい駅でした。
新青森駅~青森駅は特例として、乗車券のみで特急の自由席に乗車できます。
そのため、新幹線で新青森駅に来て青森市内に行く人たちが、普通列車の代わりに乗って来たのでしょう。
一応は自由席が混雑した状態で青森に乗り込めそうです。
一駅で終着の青森駅です。
北海道・秋田・盛岡方面への線路がひとつにまとまる、終点に相応しい駅です。
かつて東京・大阪からやって来た長距離列車と青函連絡船が出会った青森駅も、今や「つがる」が発着する唯一の優等列車です。
地味なローカル特急
特急「つがる」を取り巻く環境は極めて厳しいものです。
途中に著名な観光地は無く、沿線人口は少なく、しかも秋田県と青森県は全国の中でも人口減少が際立っています。
かつて東京~秋田~青森で活躍した急行「津軽」は、秋田・青森の人々の間では出世列車として知られていました。
「つがる」は今、新幹線から取り残された線路を走るローカル特急として、地味ながらも地元の誇りを持って両県を繋いでいます。
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