【新潟~秋田】特急「いなほ1号」自由席の乗車記【車内・車窓・混雑具合など】

幹線

特急「いなほ」は新潟から日本海沿いに北上し、酒田(山形県庄内地方)を経て秋田まで至る列車です。
その魅力はまず第一に日本海の眺めということになりますが、それ以外にも月山や鳥海山など名峰望むことができます。

2023年3月中旬、新潟駅を朝8時22分に出発する「いなほ1号」に乗車して秋田駅を目指しました。
本記事では「いなほ」の列車概要や車内設備、そして実際の車窓や自由席の混雑具合などについて解説していきます。

赤線が「いなほ」の運行経路
国土地理院の地図を加工して利用
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新潟~秋田の所要時間は3時間半

秋田まで行くのは2往復のみ

特急「いなほ」は1日7往復運転されており、うち5往復は酒田止まり、秋田まで行くのは2往復のみ(多客期には秋田行きが3往復になる)です。
所要時間は新潟から酒田までが2時間強、秋田まで乗ると3時間半かかります。
距離は新潟~酒田が170㎞、新潟~秋田が270㎞ですから、酒田までの方が速いことになります。

運転区間・所要時間からは、新潟~酒田により力点が置かれていることが分かります。
というのも、「いなほ」は新潟駅で上越新幹線と接続しており、東京~庄内地方の輸送をかなり意識しているからです。

車両はE653系リニューアル編成

「いなほ」に使われる車両は、かつての常磐線特急「フレッシュひたち」用E653系をリニューアルしたものです。
日本海に夕日が沈む光景をイメージした車体は、「いなほ」が走る羽越本線にぴったりです。
リニューアル前も明るい車体ではありながら、あまり観光要素の高くない常磐線で居づらそうでしたが、今の方がずっと充実したセカンドライフを送っているように思えます。

1往復(3・10号)のみ同じE653系でも「しらゆき」(新潟~上越妙高)用の編成が使用されます。
この場合はグリーン車が連結されません。

予約は「えきねっと」で安くできる

「いなほ」の切符は「えきねっと」で予約するのが便利です。
区間・席数限定ですが、10%または30%割引になる「トクだ値」もあるので、できれば早めに予約した方が良いです。
座席指定もできるので海側のA席を選びましょう。

問題になるのは、東京から上越新幹線と「いなほ」を乗り継いで例えば酒田に行く場合、通しで通常の切符を買うべきか、あるいはそれぞれ「えきねっと」の割引商品を分けて買うべきか、です。
結論は、①新幹線で30%引きの「お先にトクだ値」が予約出来れば分けて買う、②10%引きしか残っていなかったら「いなほ」で30%引きにならない限り通しの切符を買う、です。

自由席定価10%引き30%引き
東京~新潟10,2309,4907,380
新潟~酒田4,8404,8303,750
東京~酒田13,750
通常期の価格

新幹線が自由席の定価で「いなほ」は30%引きだと、通しの切符との差額は僅かなので悩ましい所です。
「いなほ」が指定席である点は安心ですが、普段なら自由席でも海側に座れないリスクはあまり大きくはありません。

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「いなほ」の車内・サービス

普通車はコンセントなし

普通車は外観通りの明るい客室です。
デビューから20年以上経つ車両ですが、さほど古さは感じられません。
ただし、普通車には充電用のコンセントがありません。

日本一豪華なグリーン車、2人用のA席を予約すべし

E653系のグリーン車

「いなほ」を語るうえで欠かせないのが、そのグリーン車の豪華さです。
2&1配置の大型座席で、前後の間隔は普通車の2倍、そして木目調の衝立まであります。
また、グリーン車にはコンセントが付いています。

車両端にはグリーン車利用客専用の小さなラウンジスペースがあり、ちょっとした気分転換に使えます。
私は基本的にグリーン車に敢えて乗る必要はないと思っている(取材で度々利用するが)人間ですが、「いなほ」は数少ない例外です。

なお、グリーン車の海側の座席は2人用のA,B席です。
たとえ一人であっても、宗教上の理由(例:グリーン車3列座席たるべし教)がない限りA席を予約しましょう。

車内販売は全区間で廃止された

全区間乗ると結構長時間になる列車ですが、車内販売の営業は廃止されました。
自動販売機もないので、乗車前に食事・飲み物は用意しておきましょう。

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「いなほ1号」の乗車記

自由席もさほど混雑せず

朝一番の上越新幹線で新潟駅に到着し、「いなほ1号」とは10分の接続時間です。
新しい新潟駅は新幹線ホームと在来線ホームが隣接しているので、新幹線ホームにある乗り換え用の改札を出ると、すぐ目の前に「いなほ」が待っています。
私は駅弁とビールを買っていたので急ぎましたが、そうでない場合は短い乗り継ぎ時間を気にする必要はありません。

時間帯の良さの割には、自由席はそこまで混雑しておらず、発車ギリギリに乗車しても座れそうでした。
平日は接続する新幹線が到着してすぐのタイミングなら、海沿いの窓側座席も取れそうな気はします。

さて、「いなほ」の車窓を地理的に解析すると、平野と海沿いが交互に現れる、所謂「ロンド形式」となります。
主要停車駅で表現すると

  • 新潟~村上:越後平野
  • 村上~鶴岡の手前:日本海①
  • 鶴岡手前~酒田過ぎ:庄内平野
  • 酒田過ぎ~羽後本荘手前:日本海②
  • 羽後本荘前後:本庄平野
  • 羽後本荘過ぎ~秋田手前:日本海③
  • 秋田付近:秋田平野

といった具合です。
全体的に後半になるにつれて平野は狭くなり、海沿いは穏やかな地形になっていきます。

越後平野の広大な水田地帯、ここだけ少しだけ混雑する。

新潟駅を8時22分に出発。
快晴の空に向かって工場が白い煙をモクモク吐き出しています。

新潟駅の駅弁で私が一番好きなのは「えび千両ちらし」ですが、この時は店頭に並んでいなかったので、「まさかいくらなんでも寿司」にしました。
鱒・鮭・蟹・いくらの4色が揃った、見た目にも豪華な弁当です。

発車後10分ほどすると阿賀野川を渡ります。
豊かな水量を湛えた大河です。

8時46分に新発田駅しばたに着くと、降りる人が多かったのが意外でした。
20分後に快速「べにばな」が走っていますが、「いなほ」も近距離利用されているようです。

市街地が途切れると、広大な越後平野を走ります。
右手遠方には雪山が連なっています。
夏の終わりごろには、金色の絨毯の上を走っているような気分になれる区間です。

列車に反応した白鳥の群れが、水田をヨタヨタとコミカルに走り去っていきます。
あのチェロの優雅な旋律を書いたサン=サーンスも、この姿を見たらさぞやがっかりするでしょう。

村上駅ではさらに大勢の客が降りて、まだ出発から1時間も経っていない新潟県なのに、乗車率はかなり低くなりました
長距離を走る特急も、実態は新潟地区の快速のように利用されているようです。

「いなほ」の絶景区間、笹川流れ。

村上駅を出るとまもなく海沿いです。
ここから1時間弱が「いなほ」の車窓ハイライトです。
特に村上駅寄り(通過する桑川駅付近)は、笹川流れと呼ばれる景勝地です。
険しい地形と明るい海に囲まれた砂浜を、杖を突いた老人が歩いています。

狭い開けた土地に集落が密集しています。
立派に黒光りする家もあれば、風雪によってほとんど白くなってしまった家もあり、これも日本海らしい風景です。
府屋駅あつみ温泉駅の間に新潟県と山形県の境があります。

月山、鳥海山の景色が楽しめる庄内平野

鶴岡駅に着く10分くらい前に、庄内平野に出ると列車のスピードが上がりました。
平野を大きく回るので、鳥海山が最初は遥か側に見えます。
右手には月山が聳えています。

左手に見えた鳥海山
右手に聳える月山

城下町鶴岡を経て、最上川を渡ると商都酒田に到着です。
この日は酒田駅で降りる観光客は少なかったです。

その後は秋田県に向かって鳥海山の山麓を北上します。
山容が刻一刻と変化します。
山頂部分はまだしっとりとした雪に覆われているようです。

日本海と鳥海山の狭間

遊佐駅を過ぎると第二回目の日本海側の景色が始まります。
今回は最初の海沿い区間ほど荒々しい雰囲気ではありません。
相変わらず黒光りする家屋が肩を寄せ合うように集まっています。

秋田県に入って、象潟駅きさかたからは車窓右後ろにて鳥海山と再会です。
山形県から見えた姿とはだいぶ違っています。
秋田県の海沿いはこの路線に限らず風車の姿をよく見かけますが、特に冬は強風で列車が運休することが度々あるのは困ったものです。

本庄平野を過ぎ折渡トンネルへ

仁賀保駅にかほを出て海から離れます。
羽後本荘駅は酒田と秋田の間では最も、というか唯一それなりに栄えた街です。
しかし、降りる人も乗る人もほぼおらず、あいにく空席がとても目立ちます。
子吉川を渡ってしばらく平野部を走ります。

弧を描きながら水田を見下ろして勾配を登り、タコ部屋労働の歴史もある折渡トンネルに入ります。
3回目の海沿いの前に、ここで軽く山越えをするのです。

穏やかな海沿い

最後の海沿い区間はさらに穏やかな地形で、集落が少ない代わりに背丈の低い松のような植物が並んでいます。
景勝地の笹川流れが「男性的」なら、この辺りは「女性的な」景色というべきでしょうか。
北の地域に来たのだなと思わせます。

秋田近くになると新しい家も増えてきますが、「いなほ」は羽後本荘~秋田はノンストップです。

終着の秋田へ

やがて海沿いも終わり、雄物川を渡って秋田の市街地に来ます。
12時3分に終着の秋田駅に到着しました。
今年(2023年)の5月から、ようやく秋田など北東北の一部エリアでSuicaが使えるらしいです。

ところで、秋田駅近くには久保田城跡があります。
城を築いたのは常陸国から出羽に転封された佐竹義宣。
常磐線から「いなほ」に転属してきたE653系も、この武将と自らの境遇を重ね合わせていることでしょう。

この後、12時40分発の特急「つがる」でさらに日本海沿いに北上して青森まで行きました。
下りで「いなほ」と「つがる」が接続しているのはこのスジだけです。

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絶景が連続する羽越本線

「いなほ」の景色は海側だけでなく山側にも見所があるので、乗っていて応接に暇がありません。
数ある在来線特急の中でも最も車窓に優れた列車だといえるでしょう。
また、日本一豪華とも呼ばれるグリーン車の存在も魅力的です。
そんな魅力ある列車だけに、車内販売が廃止されたのが悔やまれます。

JR東日本は庄内地方の観光誘致のキャンペーンも時々やっているので、「いなほ」もソフト面のサービスの向上を望みたいところです。

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