石北本線のキハ283系、特急「オホーツク」で札幌から網走へ【車内・車窓など】

旅行記

かつて特急「スーパーおおぞら」にデビューして以来、最高性能を誇る気動車として気を吐いたキハ283系。
2022年に「おおぞら」の運用から外れ、そのまま引退かと思われていましたが、2023年3月に石北本線特急「オホーツク」「大雪」として現役復帰しました。

3月下旬に札幌駅を6時50分に出発する「オホーツク1号」に網走駅まで乗車しました。

赤線が特急オホーツクのルート
×印が進行方向が変わる遠軽駅
国土地理院の地図を加工して利用
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札幌から網走までの所要時間は5時間半

札幌発着便が「オホーツク」、旭川発着便は「大雪」

札幌から旭川経由で網走まで、特急「オホーツク」が1日2往復運転されています。
これに加え、旭川発の網走行き特急「大雪たいせつ」も2往復あります。
ただし「大雪」は閑散期は運休なので、事前に要チェックです。
札幌~旭川は電車特急が数多く走っているので、「ライラック」などから旭川駅で「大雪」に乗り継ぐことができます。
およその所要時間は札幌~網走が5時間半、旭川~網走は4時間弱です。

札幌駅にて
流氷のヘッドマークを掲げて「オホーツク」運用に就いたキハ283系

網走行きの石北本線特急は、長い間国鉄設計のキハ183系が使用されていましたが、2023年3月、ついに同形式は定期列車から引退しました。
代わって運用に就いたのは、かつて釧路行き根室本線特急に使われていたキハ283系です。
その全盛期には最高性能を有する振り子式気動車として、道内各地を我が物顔で走っていました。

車内・サービス:同じ普通車でも指定席車両の方が快適、コンセントはない。

キハ283系「オホーツク」のデッキ
「オホーツク」のデッキ

キハ283系は1990年代後半に設計されたので、車両としては古い部類に入ります。
特にデッキは年齢を感じさせます。
人がどの部分から老いるかは健康食品メーカーによって見解が分かれますが、鉄道車両は間違いなくデッキから老いていきます。
スマホ充電用のコンセントがないのも、現代の感覚からは時代遅れと言わざるを得ません。

座席は新しいものに換えられており、指定席車両と自由席車両で異なります。
指定席は道内各地で見られる「グレードアップ座席」と呼ばれるもので、自由席車両の座席よりも掛け心地が良くなっています。

列車には車内販売はおろか、自動販売機もありません。
事前に食事や飲み物の準備はお忘れなきよう。
途中の旭川駅で「オホーツク」は3分停車しますが、この時間ではホーム上の自販機で飲み物を買うのがせいぜいでしょう。
遠軽駅の停車時間はもう少し長いですが、あいにく売店はありません。

予約:30%割引になる「えきねっと」が便利

「オホーツク」・「大雪」の予約はJR東日本の「えきねっと」から行うことができます。
切符の受け取りは、道内でも指定席券売機やみどりの窓口がある駅で可能です。
新幹線のようなeチケットではないので、発券するのを忘れないようにしましょう。
もちろんJR東日本管内の駅でも発券できます。

「えきねっと」では「トクだ値」などの割引料金が設定されています。
たとえば札幌~網走だと、席数限定で30%割引の7,360円(2023年3月)で予約することができます。

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乗車記:景色は進行方向右側がおすすめ

札幌駅を出発。改札内の売店で駅弁「鮭めし」を購入

前日昼過ぎの札幌駅

3月下旬の札幌の早朝。
曇り空で気温は8度でした。
まだ朝ラッシュ時間帯ではないので、殺気立った雰囲気はありません。
夏に札幌に来た時は若い女性の露出度の高さに目を奪われましたが、今回は地元民のマスク着用率の低さに感心しました。
札幌市民は健康的なようです。

閉まっているお店が多い中、改札内にある駅弁屋の売店が開いていて助かりました。
札幌駅の定番、「鮭めし」を購入します。
発車10分少々前に、列車が入線しました。
キハ283系とは数年ぶりの再会です。

塗装は塗り直したようですが、基本的には変わりない様子です。
ロゴステッカーは石北本線用になっていました。
「ozora」は女満別めまんべつ空港がある大空町のことだと思いますが、如何せん全盛期の未練を感じさせます。

なお、車窓の左右は進行方向右側(札幌発の場合)がおすすめです。

札幌~旭川:石狩平野の車窓

6時50分、雄たけびのようなエンジン音を響かせて、特急「オホーツク1号」が札幌駅を出発しました。
最近のディーゼルカーはスマートな重低音ですが、キハ283系の歌声はもっと情熱的なバスのカノン(輪唱)です。
人口200万人の大都会を後にします。
沿道では再出発を果たしたキハ283系を撮影する人が散見されます。

653

キハ283系投入後間もないことから、私のような「同業者」で混雑することも覚悟していましたが、実際に8割程度埋まっていました。
私の隣には50~60代の男性が座り、彼は大きな荷物を持っていたので私が荷物棚に載せました。
これで「私はマスクはしていないし、これから午前中に酒を飲むことになるが、悪い人間ではないのですよ。」ということは伝わったでしょうか。

通勤時間帯で列車本数が多いため、札幌付近ではあまり伸び伸びと走らせてもらえません。
3月下旬の北海道は、都市部でもまだまだ残雪が多いです。
出発から15分程過ぎて、石狩川を渡ります。
この川が作った石狩平野のおかげで、この先は極めてカーブの少ない線路が続きます。

岩見沢駅付近の広大な用地は、雪が無くても線路跡地だということが分かる空しさです。
石炭輸送栄えし時代、岩見沢は貨物列車の集積地でした。
この辺りの空知地方に多数あった石炭輸送路線は全て廃止されました。

しばらくはずっと石狩平野の水田を突き進みます。
北海道らしい雄大な風景なのですが、幾分大味なのも否めません。
昔炭鉱町として賑わったであろう駅の周りには、雪に埋もれた廃屋や老朽化した建物が目立ちます。
駅舎だけ体裁を繕って建て替えられている所もあります。

人の姿はほとんど見えないのですが、あちこちで北へ向かう渡り鳥の群れがあります。
この季節は稚内行き特急「宗谷」に「鳥専用車両」を増結した方が、人間相手に商売するよりずっと効果的ではないかと思います。

深川駅をすぎるとついに平野が尽き、両側から山が迫ります。
山地を越えるためにトンネルが連続し、あっけなく上川盆地に抜けます。
トンネルの合間に一瞬見えた渓谷が幻だったのか、相変わらず石狩川はケロッとして、大河らしい余裕のある表情を見せています。

そろそろ腹が減ったので朝食です。
札幌駅で買った「石狩鮭めし」とサッポロクラシック。
札幌駅の定番駅弁と北海道の定番ビールの組み合わせです。
「石狩鮭めし」は鮭が主旋律、イクラは副旋律を奏でるポリフォニックな味わいで、昆布入りご飯も良し。

ちなみに、旭川駅の駅弁「いくら盛り弁当」は子のイクラが主役で、親の鮭が伴奏するという図式です。
「大雪」を利用する方は、旭川での乗り換え時間に購入されてはいかがでしょうか。
一般に駅弁は、昔ながらのシンプルなパッケージの定番ものが結局は美味いと私は思います。

札幌駅の駅弁、石狩鮭めし

道内第二の都市、旭川に到着です。
駅を境に左手が都会、右手がのんびりした公園を対照的です。
鉄道にとっては道央・道東・道北への列車が集まるハブとなっています。

2019年9月の旭川駅
真ん中の緑の電車以外は既に引退済み

旭川~遠軽:最長駅間の過疎地を行く

予想に反して旭川駅で降りる人はおらず、寧ろ乗客は増えました。
今までの複線電化された旭川までの線路とは違って、これからは単線非電化で最高速度も95㎞に抑えられます。
明らかに乗り心地が悪化し、「ガタンゴトン」というレール音がはっきり聞こえます。

上川盆地はまだ稲作地帯に属し、車窓は水田が広がります。
そういえば北海道の有名な日本酒は旭川が蔵元のものが多いような気がします。
そして右手遠方には、大雪山系が冬の雪山の威厳を備えてそびえています。

上川駅を出ると留辺蘂るべしべ川に沿って山越えが始まります。
川の流れは早く、クマが鮭をとっていそうな景色です。
白樺の幹は雪景色によく合います。

次に停車する白滝駅は上川駅の隣ですが、その距離は実に37㎞。
在来線では最長の駅間距離です。
以前は途中に4つくらい駅があったのですが、利用客があまりに少なく廃止されました。
特に上白滝駅はたった一人の利用者の女子高生が卒業したのを見届けて廃止され、海外でも注目を浴びました。
エピソードとしては大変結構な話ですが、民間企業がこういうことをすべきなのか、もっと言えば、超過疎地に住む僅かな人の生活を支えなければならない会社を営利企業とするべきなのかは、冷静に考える必要があるでしょう。

今は信号場となった中越駅

全く周囲に人里の気配がない上越かみこし信号場(ここも昔は駅だった)で、雪かきの合間に休憩をする男性が一人佇んでいました。
ここの標高は634Mで、現存する北海道の駅・信号場では最高地点です。

上越信号場

上越信号場を過ぎるとすぐに石北トンネルに入ります。
文字通り、旧国名の石狩と北見を隔てています。
トンネルの途中で下り坂に転じ、エンジン音が止みます。
少し穏やかな地形になってようやく白滝駅に到着。

平地は牧草地や畑で、水田はもう見られません。
もう一度谷が狭まり、その後は緩やかに遠軽へと下っていきます。

遠軽駅の古めかしい堂々とした雰囲気は私のお気に入りです。
石北本線建設の経緯から、遠軽駅は折り返し構造(スイッチバック構造)になっており、ここで列車の進行方向が変わります。
つまり、これから私は進行方向左側に座っていることになります。

遠軽駅の駅舎
2019年9月

遠軽~網走:タコ部屋労働で建設された常紋トンネル

遠軽で列車の向きが変わって私も心機一転。
2本目の「小樽麦酒アンバーエール」を開栓です。
ほろ苦く甘いカラメルのような味わいです。

生田原駅いくたはらを過ぎると、石北本線二回目の大きな山越えです。
そして、登り詰めたサミットには常紋トンネルがあります。
常紋トンネルの長さは約500Mで、一回目の石北トンネルと比べるとずっと短いのですが、その建設にタコ部屋労働が使用された歴史で知られています。
実際にトンネル補修の際に人骨が見つかり、「人柱」の都市伝説が本当だったことが判明したそうです。

「タコ部屋」の様子
2017年、網走監獄にて

それまで大声でうなっていた列車が、トンネルに入るとふいに黙ってしまいました。
勾配とトンネルの位置関係上当然のことですが、やはり不気味です。
静かにゆっくりとトンネルを通過しました。

突然、隣の人が「あっ」と言って外を指さします。
「ついに幽霊が出たか!」と思って外を見ると、立派な角を持ったエゾシカが走り去っていきました。
この後も列車が急ブレーキをかけると、その脇を鹿が逃げていくことが度々ありました。
北海道では普通の光景です。

北見駅に到着。
旭川以来、初めての都市らしき駅です。
ここでビジネスマンらしき人が大勢降りて、車内はだいぶ空いてきました。
私の隣の男性も、ペコペコしながら荷物を上げた礼を述べて下車しました。
大したことはしていないのに、こちらが恐縮してしまいます。

雪に代わって黒い色をした畑が広がります。
オホーツク地方は食材の宝庫で、本当は北見や網走で食事やオホーツクビール(おすすめ)を楽しみたいのですが、今日はすぐに女満別空港から飛行機で帰らなければなりません。

美幌駅を過ぎると立派な防雪林が線路沿いに並びます。
この辺りは泥炭の湿原地帯で、路盤が不安定なうえ雪にも悩まされていました。
防雪林が植えられたことで、地中の水分を吸収し、雪風から線路を守ることもできたのです。

女満別駅からラストスパートという所で、左手に網走湖が見えてきます。
まだ水面が凍っていて、ワシが湖面をつついていました。

最後は左手に網走川を見ながら終着駅を目指します。
網走到着前に、電子音の車内チャイム「アルプスの牧場」が流れました。
さすがに5時間半もエンジンを鳴らし続けて疲れていたのか、最高音のE音がかすれていました。
12時12分、網走駅着。
駅から出るとカモメの鳴き声があちこちで聞こえます。
海岸は徒歩圏内です。

駅舎前にある縦書きの駅名標識は、網走刑務所を出所した受刑者が横道に逸れることがないようにという想いが込められています。
左側は古代末期に網走付近で生活していたモヨロ人の像。
アイヌ系とは異なる「オホーツク文化」の民族です。
グルメはもちろん、この地方は自然や歴史文化も独特で面白いところだと思います。

石北本線と釧網本線の終着駅である網走駅は、降りて見ると実にこじんまりとした場所です。
私のように小さい頃から時刻表で地理を独学した者にとって、網走はとても存在感のある地名でした。
後になって、網走市よりも途中の北見市の方が人口が多いことを知って大変驚いたものです。

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オホーツク海側の道東

札幌駅から網走駅までの距離は、およそ370㎞。
釧路駅までの350㎞と同程度で、地図上の経度もあまり変わりません。
しかし所要時間となると、かつて3時間半だった釧路に対して網走は5時間半と、大きな差が開きます。
厳しい地形や人口・産業集積の弱さといった、石北本線を巡る環境が如実に表れています。

太平洋側の根室本線からオホーツク海側の石北本線へと転職してきたキハ283系は、「道東はこんなに遠い所だったのか」と思っていることでしょう。

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