新潟まで89分、上越新幹線最速「とき311号」で275㎞/h運転を体感

幹線

2023年3月のダイヤ改正の目玉として、上越新幹線の車両がE7系に統一されると共に、最高速度が275㎞/hに引き上げられました。
これによって最大7分のスピードアップが実現し、最速列車の「とき311号」の東京~新潟の所要時間はついに1時間半を切って1時間29分となりました。

進化した上越新幹線を体験すべく、3月末に新潟へ向かいました。

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最高速度275㎞/hで東京~大宮は1時間29分に

275㎞/h運転区間は大宮駅から新潟駅まで

それまでは最高速度が240km/hに抑えられ、「日本最遅」だった上越新幹線もついに275km/h時代を迎えました。
最高速度を出すのは東北新幹線と分かれた大宮駅から終点の新潟駅までです。
区間別では大宮駅までは埼京線が寄って来る辺りから130km/h、それまでは110km/h、東京駅~上野駅はもっと遅いです。
今回の速度向上によって最大7分所要時間が短縮されました。

新潟駅にて

スピードアップを機に、上越新幹線の車両はE7系に統一され、E2系はこの区間から引退しました。
なお、「車両がE7系になったから最高速度も275㎞/hになった」訳ではありません。
スペックとしてはE2系も275㎞運転が可能(というか東北新幹線ではその速度で走っている)ですが、それまでは騒音対策などの地上設備が未実施だったためです。
「俺だってできたのに…」と言いながら、上越新幹線を去っていったE2系の姿が目に浮かびます。

【車内】全席コンセント完備、車内販売もあり

E7系のインテリアを一言で表現すると「抑制された優美さ」でしょうか。
えんじ色と黒色の座席に茶色の床で、車内は落ち着いていながら雅な印象を受けます。
そんな能書きはともかく、この車両は普通車であっても全座席にコンセントがあります。
「全列」ではなく「全席」です。

E7系にはグリーン車のみならず、さらに上位のグランクラスがあります。
ただし、上越新幹線のグランクラスでは飲食サービスは行われない(つまり「グランクラス(B))ので注意してください。

E7系グランクラスの車内
E7系グランクラスの車内

上越新幹線では「とき」のみ車内販売が行われています。
列車名のうち「とき」は新潟行き、もう一つの「たにがわ」は越後湯沢止まりの便です。
2022年秋より、取り扱いを停止していたホットコーヒーの販売が再開されました。
ホットコーヒー販売対象の列車はこちらから確認できます。

ただし、依然として車内販売の品目は多くありません。
弁当・サンドイッチなどは出発前に駅で買うことになります。

過去には200系による275㎞/h運転実績あり

200系新幹線
大宮の鉄道博物館にて

この度最高速度が引き上げられた上越新幹線ですが、実は1990年から約10年にわたり、新潟行きのみ一部列車で、初代車両の200系によって275㎞/h運転が行われていた時期がありました。
270㎞/h運転の300系「のぞみ」デビュー前から、団子鼻の国鉄車両がそれを凌駕する日本最速列車(正確には表記上速いだけで実質は同じだった)として走っていたのです。
もっとも、上毛高原~浦佐までの下り勾配を利用したせこいやり方だったので、あくまで「参考記録」程度の扱いになっています。

無理してまで275㎞/h運転した理由の一つには、東京対北陸地方で航空機に対抗する意味合いがありました。
当時北陸新幹線は未開業で、長岡駅で特急に乗り換える行き方が北陸への最短ルートだったのです。
北越急行が開業し越後湯沢~金沢に「はくたか」が設定され、500系新幹線が300㎞/h運転を始めると、上越新幹線の275km/h運転は実際的にも話題性でも意味が無くなり、2023年まで240㎞/hに戻されました。

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乗車記:車窓のおすすめは右側

東京駅を出発。扉が開くのは発車3分前。

3月も終わりに近づいた平日の朝。この日も東京は雨模様です。
私が今回乗車するのは9時12分発の「とき311号」。
途中の停車駅は大宮だけで、東京~新潟を1時間29分で結ぶ最速列車です。

この時間帯は新幹線も列車が多く、折り返し列車の到着後清掃が終わって、車内に入れるようになったのは発車時刻の3分前でした。
まだ乗客が荷物棚でガサゴソしているうちに、慌ただしく列車が動き出しました。
東京出発時点では乗車率は5割程度でしょうか。

東京駅でサンドイッチでも買おうかと思っていたところ、偶然目に入ってしまった新潟駅の駅弁「えび千両ちらし」を衝動買いしてしまいました。
蓋を開けた時は玉子焼きしか見えないのですが、その下にえび・いかの他にこはだ、うなぎが隠れています。

新潟駅の駅弁、えび千両ちらし
えび千両ちらし

駅弁というより料亭のお弁当のような格調高い一品です。
新潟駅には様々な種類の駅弁がありますが、幸運にも「えび千両ちらし」を見つけたら(売り切れていることも多い)迷わずこれを選びましょう。

東京~高崎:春の関東平野を北上

さて、上越新幹線は
①高崎までの関東平野、②高崎~長岡の上越国境越えトンネル連続区間、③長岡~新潟の越後平野
といった具合に、まるで教科書のように明確な「緩ー急ー緩」の三部形式をとっています。

東京駅を出るとすぐに地下へ潜り、上野駅を僭越ながら通過します。
かつて北への玄関口として人々の記憶に刻まれたこの駅も、新幹線にとっては利用客も少ない地下の駅に過ぎません。
そして地上に戻ると、左手に墓地、右手にラブホ街というあまり健康的ではない景色が迎えてくれます。

やがて埼京線と並行して走ります。
この辺りは新幹線建設に際して反対運動が盛り上がり、それが大宮以南の開業が遅れた要因となりました。
また隣を走る埼京線そのものも、新幹線建設の補償として開業した路線です。

2020年に騒音対策を施して、今では最高速度が110㎞/hから130㎞/hに引き上げられています。
ちなみに、少し前までの埼京線では、新幹線よりよほどうるさい車両が走っていました。
私の知人は「新幹線の横を走る埼京線がうるさいのは、JRが沿線住民への仕返しでわざとそうしているからだ。」と言っていました。

最初にして最後の停車駅大宮に到着。
思ったほど客は乗って来ず、結局7割程度の座席が埋まっています。
見た感じではビジネスマン風より、旅行者風の乗客が多かったです。

大宮駅を出て、「これからが本当の新幹線だ」と言わんばかりにぐんぐん加速しながら、右手で東北・上越新幹線の分岐劇が演じられます。
その規模・タイミングと言い、実にダイナミックな光景です。

「麗らか」と表現するには曇りすぎていますが、満開の桜や菜の花に彩られた関東平野はすっかり春です。
通路を隔てた席では親子が座席を向かい合わせにして談笑しています。
久々に見る平和な光景です。

ところで、上越新幹線の275㎞/h運転。
なるほど、実際乗ってみると「たしかに速くなったな」と分かります。
それまではクールな表情だったE7系が、今日は真剣な顔で走っている様子が想像されます。
アプリで速度を測ると274㎞/hでした。

天気が良いと右手前方から赤城山が近づいてくるのですが、この日はあいにく微かにシルエットが見えるだけです。
北陸新幹線が分岐する高崎駅にも全く遠慮することなくフルスピードで通過します。

高崎駅を通過

高崎~長岡:長大トンネルの合間の景色に注目

高崎駅を過ぎて関東平野が尽き、前方から山が迫って来たかと思うと、長いトンネルの始まりです。

トンネルに入る直前

車内販売のワゴンが通りかかったので、ホットコーヒーを購入します。
とりあえず前に飲み物を置いておくという「コロナ対策対策」は不要になりましたが、やはり嬉しくなって買ってしまいます。

大宮からずっと275㎞/hで走ってきた「とき」も、高崎・上毛高原間で明らかに減速します。
2番目の中山トンネルは出水事故が重なって建設工事が難航したため、やむを得ず迂回ルートをとったために急カーブがあるのです。

再び速度を上げたところでトンネルを抜け上毛高原駅を通過。
駅の手前の右手後方に利根川のつくった平野を見下ろすことができます。
短い間ですが、トンネル続きの合間の目の保養になります。

上毛高原駅の後には大小3つのトンネルの後に、青函トンネル完成までは世界最長の長さだった大清水だいしみずトンネル(22,221M、読み仮名注意)が続きます。
これらのトンネルの間は非常に短く、しかもスノーシェルターで繋いであるので、乗客にとっては大清水トンネルを出た越後湯沢駅まで、ずっとトンネルの中にいるようなものです。

しばらくは緩い上り坂を走りますが、大清水トンネルの途中で上越国境、つまり群馬県と新潟県の境があり、ここで下り坂に転じます。
乗っていると体にかかる重力と走行音が変化して、ブレーキを利かせながら走っているのを感じます。
たとえ景色が楽しめなくても、視覚を除いた「四感」で国境越えを体感しましょう。

大清水トンネルを出ました。
冬だとここで劇的に雪景色が現れますが、3月下旬ではそこまでの感動はありません。
先ほど越えてきた三国山脈はまだ一部白いので、かろうじて雪国気分は味わえました。
リゾートホテルや温泉街を見ながら越後湯沢駅を通過して、やはりトンネルとシェルターの連続です。
遠くまで来たようでいて、まだ東京駅を出てから1時間しか経っていません。

越後湯沢駅付近

浦佐駅周辺が最も雪が残っていました。
「上越新幹線の生みの親」こと田中角栄の選挙区で、駅誘致にも尽力した経緯があります。

浦佐駅付近

この先在来線は屈曲する川沿いを走り、新幹線は相変わらずトンネルに引き籠ります。
魚野川と上越線を同時に跨ぐ所がありますが、如何せん一瞬のことなのでカメラに収めることはできませんでした。

長岡~新潟:越後平野に至る

やがて視界が一気に広がり、残雪も消えました。
越後平野に入ったようです。

大きな市街地が現れて長岡駅を通過。
ここで車内アナウンスがあと15分ほどで新潟駅に着く旨を伝えると、気の早い人達が荷物棚からバックを降ろしたり上着を羽織り始めました。

長岡駅付近

第一部の関東平野と同様、広大な越後平野を進んでいきます。
しかし、ビニールハウス・野菜畑・広葉樹が見られた関東平野に対して、日本海側の越後平野は水田と針葉樹の屋敷林です。
桜や花の色彩もなく、雪解け水で田んぼが濡れています。
ちょうど冬と春の間の過渡期、つまり雪化粧(あるいはマスク)が剥がれて春の身だしなみを整えるまでの、あまり人に見られたくない姿でしょうか。

新潟駅に近づくと辺りにはビルが建ち並び、工場からは煙がモクモクと上がっています。
もはやここは情緒的な響きを持つ「越後」ではなく、日本海側最大の80万人の人口を有する政令指定都市、新潟です。

10時41分に新潟駅に到着です。
ここで10時48分発の酒田行き「いなほ3号」に接続しています。
庄内地方へ東京から4時間以内で行けるので、乗り換える人もそれなりにいました。

新潟駅に到着
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脱・東北新幹線車両の天下り先

浦佐駅前にある田中角栄の銅像
浦佐駅前にある田中角栄の銅像

長年にわたる投資の末に、7分のスピードアップが実現しました。
たかが7分、されど7分です。
開業時は大宮~新潟に1時間45分を要していた新幹線も、改良を積み重ねて今では同区間を1時間7分で走破します。
21世紀において価値観は多様化していますが、鉄道は「より速く・便利・快適に」こそが進歩です。

建設に至る政治的な経緯のみならず、東北新幹線を退いた車両の天下り先となっていたこともあり、上越新幹線には何かと「格下」のイメージが付きまとっていました。
この度、国土横断のスペシャリストE7系への統一と275㎞/h化に及んで、上越新幹線はその面目を一新しました。
上越新幹線開業を記念して浦佐駅前に建立された田中角栄の銅像は、「裏日本の開発振興を積極的に推進」した彼の功績を讃えています。

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