博多から長崎県の佐世保を結ぶ特急「みどり」は、その名に反して様々な色の車両で運転されてきました。
2022年9月の西九州新幹線開業を機に、それまでの「黒いみどり」に代わって、885系運用の「白いみどり」が登場しました。
2024年2月上旬、博多駅から佐世保駅まで885系の「みどり23号」に乗車しました。
本記事では列車概要や乗車記の他に、「みどり」でおすすめのチケットや設備についても紹介していきます。
「みどり」が「リレーかもめ」を名乗ることがある
特急「みどり」は博多・佐世保(長崎県)間を所要時間2時間弱で結んでいます。
途中で鳥栖・佐賀・武雄温泉などを経由します。
運転本数は1時間に1本です。
運用される車両は2種類あり、銀色の車体に緑のアクセントが付いた783系と、真っ白で丸みのある885系です。
ほとんどは783系で、885系の「みどり」は1日5往復だけ運転されています。
なお885系は2000年にデビューした車両で、個性的なJR九州の電車特急の中でも性能・デザイン共に最も高い評価を受けています。
新生間もないJR各社が、競い合って新型車両を投入した1990年代の総決算とも呼べる車両です。
佐世保行き「みどり」は長崎行き「かもめ」と共に活躍してきましたが、2022年の西九州新幹線(武雄温泉~長崎)開業後は両者の関係がややこしくなりました。
「みどり」の運転区間は変わりませんが、「かもめ」改め「リレーかもめ」(博多~武雄温泉)は従来の江北(旧・肥前山口)から海沿いルートではなく、「みどり」と同じ佐世保線を通って武雄温泉で新幹線「かもめ」と連絡します。
つまり、「リレーかもめ」は「みどり」の短縮版になっているわけです。
不自然な感じもしますが、新幹線との一体感を出すためには仕方ない措置だと思います。
さらに紛らわしいのが、新幹線「かもめ」との接続を「リレーかもめ」ではなく「みどり」が行う場合です。
その時は新幹線連絡列車であることを強調するために、列車名が「みどり(リレーかもめ)」となります。
最初見た時は何のことか分かりませんが、要するに長崎に行く人も佐世保に行く人もこれに乗れば良いということです。
それにしても、いつから鴎はカッコウのように他の列車に「托卵」するようになったのでしょうか?
白いみどりの車内
本章では885系による「白いみどり」の車内を紹介します。
普通車の車内
明るく洗練されたインテリアに革張りの座席。
これはグリーン車ではなく普通車の車内です。
頭上の荷物棚も航空機のように蓋つきで、空間に統一性があります。
ただ、最近では多くの車両が次に紹介する布地座席に取り換えられています。
普通車には革張りではなく普通の布地の座席もあります。
革張りの座席は雰囲気は良いのですが結構滑るので、人によっては快適ではないと感じるようです。
革張り座席程の高級感は無いものの、この座席の柄も車内インテリアとは違和感がありません。
近年の普通車車両はこちらの座席が多くを占めるようになっています。
いずれにせよ、テーブルは肘掛け内蔵式なので食事やパソコンを広げて作業するにはやや小さいです。
グリーン車の車内
佐世保寄りの先頭1号車の前半分を占めるグリーン車は、相変わらず革張りで2&1列の配置です。
車内の雰囲気は普通車に似ていますが、2人掛けの座席でも間隔が広くなっています。
コンセントがある指定席がおすすめ
普通車の自由席と指定席では客室の内装は変わりません。
違うのはコンセントの有無で、指定席車両にはコンセントがあります。
細かい話をすると2号車だけ全席コンセント付き、それ以外の1,3号車は窓側のみにあります。
また次の章で解説する「九州ネット早特3」なら自由席よりも安くなります。
予約:「九州ネット早特」は指定席に乗れておすすめ
予約はJR九州のサイトから行うことができます。
ネット限定の切符は割引額が大きくおすすめです。
特に「九州ネット早特3」は定価の半額以下で購入することができます。
「みどり」に乗るなら基本はこれを狙いましょう。
利用するのは指定席で、シートマップから好きな座席を選ぶこともできます。
また、在来線ながらグリーン車に対しても割引が効くのも嬉しい点です。
ちなみに、上の写真にある「みどりで世界へ~きっぷ」は期間限定の企画切符です。
「みどり」の切符と、市内の飲食店で使える2500円分の「MY SASEBO PASS」がセットになっており、「九州ネット早特3」と分けて買った場合と比べても1000円以上安くなります。
JR九州ではこの類の、列車と観光がセットになった切符がよく販売されます。
残念ながらこの記事が公開される頃には「みどりで世界へSASEBOきっぷ」が販売終了になっているでしょうが、予約する前に少し調べると利用価値のある切符が見つかるかもしれません。
乗車記:進行方向右手の方が景色が良い
昼前の博多駅。いつも人だらけの駅もこの時間帯は幾分落ち着いています。
向こうのホームではクルーズトレインが停車中でした。
まばらでシラケた客と人形のように機械的に手を振る駅員に見送られて、豪華列車はそうっと退場していきました。
発車10分前に「みどり23号」が入線、すぐに乗車します。
指定席の乗車率は半分程度、自由席はもう少し混んでいました。
「みどり」の車窓左右の良し悪しは、どちらかと言えば右側の方が良いのではないかと思います。
左側でも海越しに雲仙岳が見えるので、決定的な正解はありません。
福岡市街地から丘陵地を抜けて、佐賀県に入って鳥栖駅に到着。
鹿児島本線と長崎本線が分岐する、大きくて貫禄のある駅です。
それに対して新鳥栖駅は、いかにも取って付けたような小さな駅で、上を新幹線が通っているのでなおさら窮屈な感じがします。
意外とここで乗って来る人がいました。
果たして西九州新幹線がここで合流して、この駅は九州の新たな要衝になるのでしょうか?
新鳥栖を出て数分で右手に吉野ケ里遺跡が見えました。
古来より水田地帯だったであろうこの地を、最高速度で突き抜けていきます。
そのため列車は結構揺れます。
ところで、「九州=焼酎」というイメージをお持ちの方も多いと思います。
それも間違いではありませんが、米作りの盛んな佐賀県は日本酒です。
「日本人」を農耕民族たらしめた弥生時代発祥のロマンを味わいながら、「みどり」は佐賀駅に到着しました。
ここで半分近くの人が降りてしまい、乗ってきたのは僅か5人程度でした。
佐賀県は九州の中で一番小さくて地味な存在ですが、幕末期の明君・鍋島直正(この家にちなんだ日本酒「鍋島」は有名)や、明治時代の鉄道行政に大きくかかわった大隈重信等を輩出しています。
昨今の西九州新幹線を巡る佐賀県の立ち振る舞いも、さすがは薩長土肥の一画と思わせます。
なおも平地が続きます。
晴れた日だと左手遠方に雲仙岳が見えるのですが、今日はあいにくの天気でした。
江北駅では長崎本線が左に分かれていきます。
西九州新幹線開業までは「かもめ」が飛び交った線路も、今や閑散としています。
そんな区間を第三セクター化させずJRのまま残したのも、佐賀県の政治力なのでしょうか?
新幹線と連絡する武雄温泉駅に着きました。
この列車は「リレーかもめ」ではないので新幹線に横付けせず、少し離れたホームに停車します。
武雄温泉駅からは一転して山間部になります。
列車の速度が明らかに遅くなり、レールの音も軽く頼りなげに響いています。
辺りは霧が濃くなりました。
有田駅へと勾配を下っていく際に、密集した瓦屋根の間から焼き物の煙突が所々覗いています。
早岐駅では5分停車。
ここで進行方向が変わります。
早岐・佐世保間は特急料金不要で「みどり」に乗車できるので、地元の人がふらっと乗ってきます。
それでも車内に残っている人は僅かでした。
左手に見える川のような水路は大村湾と佐世保湾を繋ぐ早岐瀬戸、つまり海です。
低い山地を越えて、港を見ながら終点佐世保駅に到着しました。
佐世保は旧海軍の軍港があり、今は米海軍の基地となっています。
「みどりで世界へSASEBOきっぷ」を購入していたので、観光案内所に行って2,500円分のデジタルチケットを受け取ります。
ご当地グルメの佐世保バーガーなら2つ分です。
どちらもチーズ・ベーコン・玉子が入っていて結構大きいので、2つだとかなりの量でした。
西九州は真冬でも暖かく、昼間に食べ過ぎとなるとダウンコートが邪魔で仕方がありません。
屈強なアメリカ人のみならず、アジア系の外国人観光客も沢山います。
地元の高校生が彼らに絡み、韓国語と肥前弁で不思議にもコミュニケーションが通じていました。
在来線特急の中で地位が上がった「みどり」
西九州方面へ向かう「みどり」も「かもめ」も、九州の代表的な特急電車でした。
しかし「みどり」は「かもめ」と比べると、いつも車両更新が一歩遅れ気味でした。
新幹線化の波が「かもめ」にも及んだ現在に至り、最高傑作と呼ぶ向きもある885系の運用が「みどり」でも始りました。
「白いみどり」は、在来線における佐世保線特急の相対的な地位向上を表現するブランドなのです。
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