「ハイパーサルーン」783系
鹿児島本線「ハイパー有明」でデビュー
九州島内の特急列車は高速道路の整備が進んだ1980年代になると、高速バスに客を奪われて短編成化が行われていきました。
しかし当時の国鉄も指をくわえて見ているだけではなく、編成を短くする一方で運転本数を増やし、乗車機会の向上に努めました。
特急列車といえば「重厚長大」のイメージが強かった国鉄時代には珍しいことで、高速輸送体系の新しいあり方を模索する動きともいえました。
JR九州になってからもこの動きは継続され、鹿児島本線の「有明」や日豊本線の「にちりん」、長崎本線・佐世保線の「かもめ」「みどり」は30分毎の運転となります。
また曲線通過速度も最大では20㎞速く改められ、スピードアップを果たしました。
しかし使用される車両は相変わらず国鉄設計の485系のままで陳腐化が目立っていました。
そこで民営化の翌年の1988年3月に、記念すべきJR初の特急用車両として登場したのが783系です。
実はこの車両は国鉄時代末期から開発が行われていましたが、その成果を花咲かせたのはJR九州でした。
まずは鹿児島本線の一部の「有明」に投入され、783系使用の列車は「ハイパー有明」となりました。
なお、本形式は在来線で130㎞運転対応の車両として登場した初めての車両ですが、実際に130㎞を最初に行ったのは、かつて「スーパーひたち」に使用されていたJR東日本の651系です。
デッキが中央にある
783系は特急電車といえば485系だった時代に、ステンレス車体に前面展望がきく斜めの大型窓など、それまでのイメージを大きく覆した車両です。
営業開始してからも大きな話題と乗客を集め、1990年からは日豊本線にも「ハイパーにちりん」として投入されます。
外観だけでなく車内のつくりも画期的で、車体の中央にデッキを設けているため、〇号車A室,B室と客室が二分されています。
この結果、客室が鉄道車両というよりバスに近い大きさになっているので、一般的な車両とはまた違った雰囲気の空間になっています。
しかし、台車に近く乗り心地が悪いとされる車両の両端(通常ここにデッキが位置する)にも客室ができています。
登場時は車体に赤いラインが入ったものでしたが、現在ではリニューアルが度々なされており、複数のバリエーションが存在します。
主役の座は後輩の「つばめ」や「ソニック」に譲る
一世を風靡した783系でしたが九州の看板車両として活躍したのはわずかな期間でした。
1992年に鹿児島本線特急「有明」のうち、西鹿児島(現・鹿児島中央)発着の列車が「つばめ」に改められ、新製された787系が充てられました。
787系は車両性能は783系とは変わりませんが、格調あるデザインは伝統ある列車名に相応しいものでした。
また、日豊本線でも1995年に振り子式の883系が「ソニックにちりん」として運転を開始します。
さらには2000年には長崎本線でも新型振り子車両の885系が投入されたことで、10年と少しの間で783系はいずれの主要線区でも「二番手」となってしまいました。
民営化当初の十数年は技術革新や好景気、そして何より新生各社の積極姿勢から、車両開発が大きく進展した時代でした。
キハ281系もそうですが、画期的なものとして華々しく登場した車両であっても、すぐにそれを上回る車両が出てきてしまうのが1990年代の面白さです。
佐世保線「みどり」「ハウステンボス」などを中心に運用
第一線からは退いた783系ですが、「二番じゃダメなんですか?」と言わんばかりに、九州各線で補完役を立派に果たしています。
JRの時刻表だと、「ハイパーサルーンで運転」と表記のあるものが、この形式で運用される列車です。
いろいろとリニューアルされた現在では、783系には3つのタイプが存在します。
汎用型
汎用型の緑・赤・青・黒のブロックカラーの車両は、日豊本線の特急の一部に使われています。
日豊本線の「にちりん」(「にちりんシーガイア」含む)「ひゅうが」・「きりしま」といった全ての運転系統区間で走っています。その他では鹿児島本線の限られた時間帯に走る「きらめき」や福北ゆたか線の「かいおう」などの一部を担当しています。
(2021年3月追記)
783系は日豊本線から撤退し、787系に統一されました。
また「きらめき」「かいおう」も787系及び「みどり」「ハウステンボス」用編成の783系になった模様です。
新型コロナウイルスの影響で特急列車の削減が行われる中、車齢の高い本編成が真っ先にそのあおりを受けた形です。
「みどり」用
特急「みどり」に使われる783系は、側面のドアの部分や前面部が緑に塗られています。
特に貫通型先頭車両は緑一色で強烈な印象です。
「みどり」に使われる車両は、「ハウステンボス」と併結する列車が783系による運用です。
一部の787系で運転される列車には、グリーン個室とDXグリーン車が付いているので見分けがつきます。
「ハウステンボス」用
一番最近リニューアルされたのは特急「ハウステンボス」に使用される車両です。
「ハウステンボス」用は車体がオレンジ一色のインパクトのある外観で、黒いエンブレムが上品に描かれています。
こちらは客室が大幅にリニューアルされています。
西九州新幹線開業後は「かささぎ」にも参入
(2022年6月追記)
2022年9月に西九州新幹線(武雄温泉駅~長崎駅)が開業し、同区間で新幹線列車「かもめ」が運行を開始します。
武雄温泉駅は肥前山口駅(開業に合わせて「江北駅」に改称)から佐世保線で13㎞程の駅です。
783系は既に長崎行き特急「かもめ」からは退いていたので、比較的その影響は小さいものとなりました。
(参考)JR九州のニュースリリース
佐世保線特急「みどり」(16往復)は、今まで3往復の787系運用を除いて13往復を担当していましたが、これが11往復に減り、残りの5往復は885系による運用になります。
「みどり」のうち5往復が「ハウステンボス」と併結するのは変わりません。
また、新幹線ルートから外れた肥前鹿島駅と博多駅を結ぶ特急「かささぎ」が新設され、783系の他、787系・885系が勢ぞろいで参入します。
なお、かささぎとは佐賀県の県鳥の名前です。
奇をてらったネーミングが目立つJR九州において、国鉄時代以来のセオリーである地域に馴染みのある鳥の列車名に落ち着いて安心したのは私だけでしょうか?
783系の車内
前章で述べた通り783系には3種類の編成が存在します。
それぞれの普通車とグリーン車の車内について紹介していきます。
汎用型の普通車の車内と座席
上の写真の車両は、日豊本線で使用されている汎用タイプのものです。
特に主張しすぎることもなく、おとなしめの内装ですが、車両によっては座席がカラフルで意外性を感じるかもしれません。
JR九州の車両にありがちな「突き抜けた感」はありませんが、客室のサイズもあってか、安心して乗っていられる車内です。
色の暗めなカーペットが敷いてあり、全体的にシックな印象です。
汎用型のグリーン車の車内と座席
グリーン車は3列シートが並びます。
スタイリッシュな感じはありませんが、大型の頼もしい座席でフットレストもあります。
定員12名のこじんまりとした空間です。
通路よりやや高い位置に座席があるので、眺望にも優れています。
そして、グリーン車は先頭(あるいは最後尾)にあるので、ガラス越しに前面展望が楽しめるのも大きなポイントです。
「みどり」型の普通車の車内と座席
「みどり」で使われる783系では、普通車の客室は汎用型とほとんど変わりません。
強いて言えば照明のデザインが若干違うくらいでしょうか。
「みどり」型のグリーン車の車内と座席
「みどり」で使われる車両のグリーン車は座席は汎用型と同じですが、客室の内装が木目調になっているのが特徴です。
さすが「みどり」の「グリーン車」だけあって、自然を感じさせる落ち着いた空間です。
ただし、こちらはハイデッカーにはなっておらず、一部窓枠とあっていない座席もあります。
「ハウステンボス」型の普通車の車内と座席
大幅にリニューアルされているのが「ハウステンボス」で使われている編成です。
座席から内装にかけて、それまでとは全く別のイメージとなりました。
テーマパーク行きの列車なので遊び心があるのは結構ですが、同じ客室で座席のモケットの種類が複数あるというのは、個人的にはあまり見栄えがよろしくないと思います。
「ハウステンボス」型のグリーン車の車内と座席
グリーン車は普通車以上に凝ったデザインで、人によっては装飾過多と感じるでしょう。
特急列車のグリーン車というよりは、観光列車でありがちな「欧風車両」のイメージです。
こういう車両で重要なのは雰囲気ですが、座席に関しては大型の割には座り心地は良くなかったと思います。
総評
登場から既に30年以上経っていますが、度重なるリニューアルの効果もあってか、それほど古さは感じさせません。
当時は画期的な車両として大いに注目の的となりましたが、JR九州が車両設計において独自路線を邁進する現在では、その萌芽はみられるものの、全体的には落ち着いた車両といえるでしょう。
後輩の787系に比べると重厚な気品には欠けますが、むしろそれだけに臨機応変にリニューアルの度にその印象を変えながら活路を見出しています。
そのプライドの高さ故か、どんな仕事を頼まれても頑なにグレーのスーツを纏う787系と対照的です。
その意味では、特定の運用に特化した個性派の役者よりは、オールマイティにそつなく仕事をこなせる車両を作ってきた、国鉄の遺伝子がかすかに感じられます。