789系基本番台のプロフィール
「スーパー白鳥」として登場
789系基本番台は、2002年の東北新幹線八戸延伸に合わせて、八戸~青森~函館間の特急「スーパー白鳥」用にデビューした特急電車車両です。
それまで青函トンネルの旅客列車は、485系による一部の特急「はつかり」と客車列車である快速「海峡」がありましたが、同区間の旅客列車は485系「白鳥」と789系「スーパー白鳥」という体制になりました。
東北本線の八戸~青森間は、1960年代までに大幅に線路改良が行われていた区間です。
東京から八戸乗り換えでも青森までの所要時間は4時間を切ったことで競争上優位に立ち、鉄道は航空機から乗客を取り戻しました。
なお「はつかり」は上野発の東北本線から、「白鳥」は大阪発のいわゆる日本海縦貫線から、青森駅で青函連絡船に接続していた特急列車です。
厳密には八戸発着列車は「はつかり」のままでも良かったのですが、やはり日本一のロングラン特急として名高い「白鳥」の名称の復活を優先させたところでしょうか。
道央に転勤して「ライラック」の運用に就く
最高速度140㎞で本州と北海道の間を羽ばたいていた(実際はトンネルだが)「スーパー白鳥」ですが、2016年に北海道新幹線が新函館北斗駅まで開業すると当然ながら廃止され、789系も運用を失います。
しかしこの時では、まだ車齢は15年程度と廃車するには若く、1年後の2017年に道央に転用され、老朽化してきた785系を置き換える形で札幌~旭川間の特急「ライラック」として愛称名と共に復活を果たしました。
特急の列車名としての「ライラック」は、1980年に旭川~札幌~室蘭の電車特急に登場しますが、それ以前にも函館~札幌間の小樽経由(所謂函館本線のヤマ線経由)の急行列車としても存在していました。
北海道における電車特急の歴史は、1975年の札幌~旭川間を結ぶ「いしかり」に始まりますが、使用されていた485系1500番台は北海道の雪に耐えることができず、車両故障を頻発させました。
そこで北海道向けに万全の装備を施した781系が投入され、室蘭本線・千歳線の電化に合わせて「ライラック」として出直した格好になります。
その後も785系が投入されると「スーパーホワイトアロー」を名乗ったり、781系に代わって789系1000番台が加わった時には「スーパーカムイ」に統一されたりと、札幌~旭川間の電車特急は列車名が頻繁に変わっています。
ちなみに、好条件の転職先が決まった789系とは対照的に、「スーパー白鳥」運転開始以降は主役の「スーパーはつかり」から退き、「つがる」として八戸~弘前間、東北新幹線全通後は青森~秋田間という地味な運用を続けているE751系は気の毒な感じがします。
外観
JR北海道定番の高運転台とその下に貫通扉付きの顔です。
写真からも分かる通り、キハ261系1000番台とは塗装は異なるものの、顔つきはほとんど同じです。
789系で特徴的なのはやはり先頭部分の色が、JR北海道のコーポレートカラーであるライトグリーンになっていることです。
「スーパー白鳥」は同社からすれば青函トンネルで本州に出ていく車両ですから、その存在をアピールするべく、文字通り自社カラーを前面に打ち出した格好です。
また先頭部分の側面には運転区間の自然や名所にまつわるイラストのラッピングが施されています。
各地域ごとに4種類ずつのラッピングが存在しますが、その地域というのは「札幌」や「旭川」だけにとどまらず、旭川駅で接続する特急列車に関係する「宗谷」「オホーツク」もあります。
最高速度140㎞の性能
789系は在来線では数少ない、130㎞を超える140㎞運転の実績がある車両でもあります。
140㎞運転はもちろん曲線も踏切もない青函トンネル内で行っていたわけですが、空気抵抗のある12‰の勾配でこの速度を出し続けることができる車両はそう多くはありません。
実際に「白鳥」で使われていた国鉄設計の485系は、トンネル内の上り勾配では120㎞も出せなかったようです。
青函トンネルを含む蟹田~木古内の最速「スーパー白鳥」の所要時間は47分で、表定速度は117㎞を超えていました。
789系基本番台の車内と座席
普通車の車内
赤と青のカラフルな座席が目を引く普通車は、床に菱形模様が描かれています。
自由席と指定席による座席の区別はありませんが、色は車両によっては緑と青の組み合わせもあるようです。
2022年に「ライラック」を利用したところ、座席はカラフルなものから「カムイ」編成と同様のシンプルなものもありました。
特に自由席と指定席で区別されているわけでもありません。
グリーン車の車内
グリーン車は1両の半分程度のスペースが割り当てられており、横に3席並んだ座席が5列あります。
キハ261系基本番台ほどではありませんが、こじんまりとした空間です。
座席は濃い青色をした革製で肘掛けも素材が木なので、自然を感じるデザインになっています。
床はベージュの落ち着いたものが採用されていて、淡い木目調の妻面や客室扉にもガラスが無いので、おとなしめの雰囲気です。
かと思いきや天井はなかなか大胆な青一色となっています。
運用は「ライラック」のみ。「カムイ」との違いは?
789系基本番台の運用は札幌~旭川間の特急「ライラック」のみです。
同区間で設定されている「カムイ」は同じ789系でも1000番台による運転です。
かつての「エル特急」のように札幌側も旭川側も発車は00分と30分で定まっていますが、両列車の順番に規則性はありません。
つまり、「カムイ」の次には必ず「ライラック」が来るとか、00分発の列車は「ライラック」などという法則は無いということです。
それでは両列車はどう違うのかというと、まずグリーン車の有無が挙げられます。
「ライラック」には半室とはいえグリーン車が連結されていますが、「カムイ」はモノクラス制で普通車のみの編成です。
また普通車の様子も両者で異なっています。
出自が「スーパー白鳥」である基本番台の「ライラック」と比べて、生まれながらにして道央の都市間特急を担当している1000番台「カムイ」はシックな印象の車内です。
なお「カムイ」の普通車指定席は「uシート」と呼ばれる、自由席よりもややグレードアップした座席が備わっているのも特徴です。
総評
1975年に登場した特急「いしかり」以来ずっとモノクラス編成だった札幌~旭川間の電車特急ですが、本形式の転属によってついにグリーン車付きの列車が運転されることになりました。
グリーン車の有無はその列車の「格」を示す指標の一つですから、好き嫌いはともかくとして、「ライラック」は「カムイ」より格上の列車だといえます。
ところで、石北本線の「大雪」、宗谷本線の「サロベツ」は旭川駅で「ライラック」と接続しています。
車両先頭部のラッピングが宗谷地方やオホーツク地方にちなんだものも含まれていることからも、「ライラック」が単なる函館本線のビジネス特急としてではなく、網走・稚内方面への連絡列車としても位置づけられていることが窺えます。
かつては青函トンネルで乗客を本州から道南へ迎え入れていた789系は、今度は札幌から道東・道北へと人々を送り出す車両となったのです。