楽園を築いた「サンダーバード」、683系とその時代【普通車・グリーン車の車内や座席など】

西日本の車両
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北陸本線の新時代が到来

485系「雷鳥」の「サンダーバード」化

1995年に本格的に営業運転を開始した681系「サンダーバード」(大阪~金沢・富山・和倉温泉)は、その速達性と快適性によって支持を集め、北陸への観光やビジネスに欠かせない存在となりました。
681系は485系と違って湖西線だけでなく全線で130㎞運転ができ、振り子式ではありませんが特に緩い曲線では曲線通過速度が高く、線形の良い北陸本線でその力を遺憾なく発揮しました。
それに対して「雷鳥」に使用される旧式の485系は、国鉄色のボンネット型ということで鉄道ファンとしては感涙ものですが、一般的には時代遅れな感が否めませんでした。

国鉄色のボンネット型特急として長年親しまれた「雷鳥」と、筆者と思われる少年。
1993年大阪駅にて。

そこで485系の置き換え用に、2001年に681系の改良型として登場したのが683系です。
この時の新型車両の投入によって「サンダーバード」が増発され、その代わり485系のリニューアル車両で運転されていた「スーパー雷鳥」は廃止されました。

681系に似た外観ですが正面のデザインがやや異なり、カマキリのような眼をしています。
また681系は160㎞運転を想定して設計(後に「はくたか」で実現)されていましたが、683系の最高速度は現実的な130㎞に収まりました。
両者の目つきから受ける印象とは裏腹に、高速化のために野心に満ちていた681系に対して、683系はどちらかというと保守的で、性能だけでなくコストなども含めた総合的な完成度を高めた車両といえます。

「しらさぎ」にも増備される

同じ交直両用の電車特急として、北陸本線が富山まで電化された1964年にデビューした関係でありながら、昔から名古屋~富山間の「しらさぎ」は大阪発の「雷鳥」に比べると影の薄い存在でした。
鉄道研究家の寺本光照氏によると、そもそも「しらさぎ」は「雷鳥」の間合い運用として登場した経緯があります。(「国鉄・JR悲運の特急・急行列車50選」・JTBパブリッシング)
当時は、名古屋から北陸へは距離の短い高山本線の急行を利用するのが一般的で、名古屋~米原~富山は準急列車だけで急行列車の設定すらありませんでした。

それはともかく、2003年にはその「しらさぎ」にも683系が投入されます。
「雷鳥」との誤乗車を避けるため、そしておそらく名古屋発列車としての意地もあってか、「しらさぎ」用の485系は青とオレンジ色の塗装を纏っていましたが、683系にも(さらには現在の681系にも)そのイメージカラーは引き継がれています。

オレンジはJR東海のコーポレートカラーなので、名古屋と結び付けやすい。
写真は現在681系で運転されている「しらさぎ」。

その後も683系の増備が進み、ついに2011年には485系「雷鳥」の全列車が「サンダーバード」化されます。
681系の本格的な運転開始から既に15年が経っていました。

私が中高生だった2000年代初頭の北陸本線では国鉄色の485系も健在で、普通列車は旧急行型車両や寝台特急電車を改造した「食パン列車」こと419系が活躍していました。
その頃は新快速も近江今津や長浜止まりで、以北は古い電車に揺られて汽車旅気分を味わったものです。
しかし現在では特急も普通も新型車両ばかりになり、敦賀までが新快速のアーバンネットワークに組み込まれ、路線の印象が大きく変わりました。

貫通型の正面。
後期に増備された編成は前後ともこの先頭車で、「カマキリの顔」は見られない。

また、1編成のみ「はくたか」の運用に就く683系も存在していました。
これは北越急行の所属で気品のある赤い塗装がよく映える車両でした。
683系の最高速度は130㎞ですが、この編成のみ681系と同様に160㎞運転ができるようになっていました。

北越急行所属の683系「はくたか」
北越急行所属の683系「はくたか」。
新幹線金沢延伸直前の2015年3月、越後湯沢駅にて。

北陸新幹線金沢開業で一部が289系化される

「鳥の楽園」といわれた特急街道、北陸本線における主役として大規模なコロニーを築き上げた683系ですが、2015年に北陸新幹線が金沢まで延伸されると、さすがにその生息域も縮小せざるを得なくなります。
越後湯沢で上越新幹線と接続して首都圏対北陸のアクセスを担っていた「はくたか」は、北陸新幹線列車の準速達タイプに引き継がれ、大阪・名古屋方面からの「サンダーバード」「しらさぎ」も金沢止まりとなります。

このため大阪や名古屋から富山に行くためには、金沢で新幹線の短距離シャトル列車「つるぎ」(乗車時間は20分程度)への乗り換えを余儀なくされます。
北陸本線の金沢以遠がJRの路線から第三セクター化されたこともあるのでしょうが、所詮は鉄道会社側の都合で利用客に不便を強いているのであって、けしからんことです。

さて、運用が縮小されるということは車両に余剰が発生することを意味します。
そこで、「しらさぎ」に運用されていた編成を直流化改造したうえで新形式の289系とし、北近畿地区の「こうのとり」等や紀勢本線の「くろしお」に投入され、いつまでも残っていた国鉄型の183系や381系を置き換えました。

「しらさぎ」には「はくたか」で活躍していた681系が充てられ、「サンダーバード」は相変わらず683系がそのほとんどの運用を担っています。

ところで、「サンダーバード」用の683系は新幹線延伸とほぼ同時期にリニューアルが施されました。
特に印象が大きく変わったわけではありませんが、窓の周りの黒と青が強調されて側面は引き締まって力強くなったように感じられます。

ところで、新しくなったエンブレムで表現されているのは「サンダーバード」なのでしょうが、これは見るからにアメリカの先住民族に伝わる伝説の鳥「サンダーバード」のイメージです。
デザインの良し悪しにケチをつけるつもりはありませんが、今まで乗っていた「サンダーバード」は「雷鳥」の発展型ではなかったのか、と思わなくもありません。

2024年北陸新幹線延伸で敦賀止まりに

2024年3月に北陸新幹線が敦賀駅まで延伸しました。
これにより、「サンダーバード」は敦賀止まりとなり、新快速よりも走行距離が短くなります。
そもそも大阪・敦賀間は全線直流電化なので、交直両用の683系や681系を運用する必要すらもうありません。

新幹線開業後の敦賀駅にて
左が「サンダーバード」、右が「しらさぎ」

ちなみに列車名に関して、富山行きだった「雷鳥」改め「サンダーバード」が金沢止まりになったまでは許容できるとして、さすがに敦賀行きというのは無理があります。
それはともかく、敦賀駅で新幹線と接続する「しらさぎ」と「サンダーバード」は、事実上「つるぎリレー」のような短距離特急列車として生まれ変わったのです。

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683系の車内

以下の写真は全てリニューアル済みの「サンダーバード」の車内です。

普通車の車内と座席

683系の普通車の車内
普通車の車内

普通車はリニューアルによって座席の色が変更されており、ピンクやグレーだったのが青になっています。
681系とよく似た内装ですが、こちらの方がやや質素に思えます。

683系の普通車の座席
普通車の座席

グリーン車の車内と座席

683系のグリーン車の車内
グリーン車の車内

グリーン車もリニューアルされて内装が変わりました。
床やデッキへの扉がよりゴージャスになった印象です。
私が乗ったのは先頭車が両方とも貫通型の新しい編成だったので、各座席にコンセントが付いていました。

683系のグリーン車の座席
グリーン車の座席

しかし新しい方のグリーン車は窓の間の柱にある、お洒落なライトが付いていないのが残念でした。
カマキリの顔をした古い編成のグリーン車は、内装は同じでさりげないライトがありましたが、コンセントはないようです。

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総評

北陸本線を走る様々な列車に運用されて一大勢力を築いた683系は、関西・北陸地方におけるかつての主役、485系の後継車だといえます。

1980年代末~1990年代にかけては、発足したてのJR各社が個性的で意欲的な車両を競って開発していました。
しかし世紀が変わって2000年代になるとそのほとぼりも冷め、扱いが容易ないわゆる標準型車両が登場し、そのスペックだけでなく省エネ・低コストといった価値が強調されるようになりました。

これは鉄道車両に限ったことではなく、社会全般のモノに対する意識としても当てはまると思います。
681系と683系の関係は、まさにそうした時流の変化を示しています。

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