しらさぎの卵から生まれたこうのとり、289系とその時代【グリーン車の車内や座席】

西日本の車両
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683系を改造した289系

新幹線の延伸で北陸本線特急の運転体系が一変

沿線に福井・金沢・富山などの都市を持つ北陸本線は、大阪からは「サンダーバード」(かつては「雷鳥」「白鳥」もあった)、名古屋からは「しらさぎ」、そして東京からの上越新幹線と越後湯沢で連絡する「はくたか」などといった高速で走る特急列車で賑やかな路線でした。

しかし「鳥の楽園」と呼ばれたこの特急街道も、2015年3月の北陸新幹線の金沢開業により金沢から先は第三セクター化され、この区間の速達輸送は金沢~富山間も含めて新幹線に移行されます。
そして無事に使命を果たした特急「はくたか」は新幹線の列車名に受け継がれ、「サンダーバード」や「しらさぎ」も富山から金沢止まりとなり、在来線特急車両に余剰が発生します。
そこで交直両用の683系を直流専用に改造して新形式に改めたのが289系です。

この改番にあたって、「しらさぎ」用の683系が289系に改造されており、「はくたか」用の車両が「しらさぎ」で運転されることになりました。

287系と共に紀勢本線や山陰本線で活躍

貫通型の正面も683系のまま

旧型の183系や381系がいつまでも使われていた紀勢本線や山陰本線系統の電車特急も、2011年にようやく新型車両287系が投入されます。
しかし全てがこの車両に置き換えられたわけではなく、まだ一部には国鉄型車両の381系が残っていました。
そのため683系改め289系がこれらの路線に配備され、381系を淘汰しました。

紀勢本線「くろしお」に充てられる編成は窓下のラインがオーシャングリーン、「こうのとり」など山陰本線系統のものはダークレッドになっています。

この列車は「こうのとり」。
この日は増結したためか、ちぐはぐな編成になっていた。

289系も低重心化によって、十分に軌道強化された緩い曲線では振り子式の381系と同等かそれ以上の曲線通過速度が出せますが(683系は北陸本線では曲線通過速度が最大+25㎞だったが、これは381系の+20㎞を上回る)、紀勢本線のような線形の悪い路線ではそれほど力を発揮できません。
この点、新型車両になるのは結構なことですが、せめて空気バネ式の車体傾斜付きの車両にして欲しかったと思います。

実際紀勢本線では、振り子式の381系から非振り子式の新型車両になったことで、「くろしお」の所要時間が延びました。
それにしても高速車両として誕生した683系(289系)を、転属先で国鉄型車両にも負けるスピードで走らせるというのは随分酷い仕打ちです。

なお381系は伯備線ではリニューアルを繰り返しながら、新幹線連絡列車として「やくも」の運用でしぶとく生き残っています。

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289系の車内

普通車の車内と座席

289系の普通車の車内
普通車の車内。
座席や床が赤く明るい雰囲気。

普通車は座席の色が2種類あり、それぞれ印象が異なります。
元が683系なので同じ「くろしお」用の車両でも283系のような遊び心はありませんが、床や荷物棚もさり気なくお洒落にデザインされていて安っぽさは感じられません。
兄弟関係にある287系の方がもう少し素っ気ない車内の印象です。

289系の普通車の車内
普通車の車内 。
こちらはグレーで落ち着いた内装。
289系の普通車の座席
普通車の座席

グリーン車の車内と座席

289系のグリーン車の車内
グリーン車の車内

グリーン車は3列座席で半室タイプの客室です。
床のカーペットや客室扉・妻面がダークグレーで高級感のある雰囲気です。
また窓の間にある柱の上部にライトが付いており、ささやかな付加価値となっています。
グリーン車にとってこうした小物は大切です。

普通車と同様で、全体的に287系よりも289系の方がグリーン車らしく上質な客室なのではないかと思います。

289系のグリーン車の座席
グリーン車の座席。
窓の間の柱にあるライトがなかなか良い雰囲気を醸し出している。
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287系と289系の違いとその運用

福知山駅で並んだ287系「きのさき」(左)と289系「こうのとり」(右)
福知山駅で並んだ287系「きのさき」(左)と289系「こうのとり」(右)

287系と289系は同じ路線で活躍している兄弟のような関係です。
289系が683系からの改造車であるのに対して、287系は純粋な新型車両ですが、やはり683系を踏襲した部分が多いので、結局は似たような車両になっています。

289系の運用は紀勢本線の「くろしお」で、そして山陰本線が「こうのとり」(新大阪~城崎温泉)・「きのさき」(京都~城崎温泉)・「はしだて」(京都~天橋立)です。
「くろしお」は287系の他に、かつて特急「オーシャンアロー」の名で走っていた283系も使用されています。

山陰本線系統の特急たちでも287系と共に運用されていますが、これらは一部気動車で運転するものもあります。
また「まいづる」(京都~東舞鶴)は今のところ全て287系で、289系の運用はありません。

レアケースとしてJR神戸線の大阪~姫路間に1往復設定されている通勤特急「らくラクはりま」にも使用されています。

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総評

かつて北陸地方を130㎞、時には160㎞(北越急行線内)で駆け抜けた683系ですが、289系化されてからは個性のない標準型車両に収まってしまい、その性能を持て余しています。
そもそも683系はどちらかというと平坦な路線を高速で走ることを想定された車両ですから、単線で急曲線が連続する紀勢本線や山陰本線をゆっくりと走っていく様子は、北陸本線時代のイメージがあればなおのこと違和感があります。

東海道本線や山陽本線といった高速運転向きの線区もありますが、新幹線と重複したり他社との兼ね合い(例えば神戸・三宮~大阪~名古屋間などは新幹線の恩恵が少ない区間の需要も拾えると思われるが、米原~名古屋が東海道新幹線を運営するJR東海の管轄になる)もあって叶いませんでした。
この辺りは東北本線の俊足列車だったE751系が、現在は奥羽本線で細々と暮らしているのと似ています。

289系に対してそれにふさわしい舞台を用意できないという現状からは、新幹線が全国に整備されていく一方で、在来線の輸送はセクショナリズムに陥って、ないがしろにされていく日本の歪な鉄道の姿が見て取れます。

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