名古屋から大阪まで、起点である亀山駅経由で紀勢本線に乗って紀伊半島を一周しました。
紀勢本線は亀山駅から和歌山市駅を紀伊半島の海岸に沿って走る路線で、全線開通したのは1959年と意外と遅いです。
今回は青春18きっぷを利用していますが、途中「ワイドビュー南紀」(以下略して「南紀」)と「くろしお(旧オーシャンアロー用283系)」の特急列車も利用しています。
なおタイトルが「ほぼ全線」となっているのは和歌山~和歌山市までの区間には乗車していないからです。
名古屋~亀山~新宮
名古屋から亀山までは関西本線を行く
名古屋から出発する場合、亀山までは関西本線を利用します。
桑名・四日市という都市を結び、近鉄とも並走・競争するにもかかわらず、単線区間が残っています。
それなりに列車本数は多いので、快速列車が通過駅でも運転停車して列車交換をするのはがっかりします。
なお、快速「みえ」や特急「南紀」を利用して津方面に行くこともできますが、この場合だと亀山には寄らず、第三セクターの伊勢鉄道経由になり追加料金も必要です。
亀山駅の構内はなぜ広いのか?
亀山駅は関西本線と紀勢本線の交差点です。
ここから名古屋や奈良・大阪、そして伊勢・南紀に行く人々が利用した鉄道の要衝です。
しかしそれも過去の話。
今は広い構内を短い編成の普通列車ばかりが行き来する、典型的な「昔栄えていた駅」です。
現在も昔の面影を残しており、駅からはターンテーブルも見えます。
海岸線と森林が続く車窓
さて、亀山から多気までは津・松阪といった都市を通るので、普通列車だけとはいえそれなりの本数が確保されています。
亀山を出るとすぐに山間部を走りますが、やがて開けた水田地帯を走り、参宮線が分岐する多気に着きます。
右にカーブしているのが紀勢本線
多気から新宮までは特急も普通も本数が少なくなる紀勢本線最大の難関です。
少しずつ勾配を登っていくにつれて、だんだんとトンネルや鉄橋が増えていきます。上り勾配は梅ケ谷まで続き、そこから25‰の急な下り坂を10個以上のトンネルで紀伊長島へと向かいますが、紀伊長島駅に着く前にお待ちかねの海がようやく姿を現します。
このあたりはまさに「海に落ちていく」という表現が似合う、ドラマチックな区間です。
紀伊長島から次の駅の三ノ瀬まではトンネルの間に複雑な海岸線に造船所や漁港が顔を出す美しい区間です。日豊本線の大分~佐伯間を思い出します。
尾鷲から熊野市まではトンネルが多い区間で、ゆっくりと景色を楽しむことはできません。全国的にも雨量の多い地域で、私が訪れた日には、一駅ごとに雨になったり晴れたり、目まぐるしく天気が変わっていきました。新鹿を出てすぐに、砂浜が美しい海岸線を望むことができます。
特急は新鹿を通過しますが、ドアの上の電光案内板にテロップが流れます。
ちなみに東西双方から延びてきた紀勢本線が最後に開通したのがこの辺りです。
熊野市からは地形も平坦になり、海岸線もなだらかです。
新宮駅で会社が変わり電化区間になる
新宮から先は電化されており、JR東海からJR西日本の管轄になります。
特急「南紀」はこの先紀伊勝浦まで行きますが、紀勢本線の旅はここ新宮で乗り換えになることが多いです。
駅のキオスクには駅弁は売っていませんでしたが、駅前にある寿司屋で郷土料理の「さんま寿司」が買えます。脂がのったさんまを頭から尻尾まで酢漬けにした寿司です。
またキオスクには珍しいおつまみのうつぼの揚げ煮がありました。
甘い味付けのウナギに似た(特に皮の部分)風味です。
キハ85系「ワイドビュー南紀」
今回の旅では、紀伊長島~新宮間で特急「南紀」を利用しました。
使われるキハ85系は1988年製造と古いですが、普通車でも床がカーペット敷きで座席もゆったりしています。
「ワイドビュー」と名乗るだけあって窓が大きく、座席も通路より一段高い所にある眺望にも優れた豪華車両です。
加減速の度に豪快なエンジンの音が聞こえてくるのも、非電化区間ならではの鉄道の旅の楽しみの一つといえましょう。
新宮~和歌山~大阪
きのくに線という愛称でも呼ばれる
JR西日本エリアである新宮~和歌山間は「きのくに線」の愛称でも呼ばれています。
路線の正式名称ではなく、利用者のイメージに近い路線名は全国で使われています。「津軽海峡線」(津軽線+海峡線+江差線(現・道南いさりび鉄道))や「瀬戸大橋線」(宇野線+本四備讃線+予讃線)が典型ですが、例えば大阪から神戸や奈良に行くのに、東海道本線や関西本線と言うより、神戸線・大和路線と言った方がずっと分かりやすい訳です。
海岸線に沿って走る
新宮を出ても列車は相変わらず海岸を辿ります。
とはいえ、流石に完全に海岸線に忠実に沿うことはできないので、短いトンネルを何度もくぐりながら太平洋の水平線を望みます。
トンネルに囲まれたこじんまりとした駅も非常に魅力的です。
急曲線が至る所にあり、振り子式の特急でさえもゆっくりと走ります。
特に印象的なのが、本州最南端の駅の串本の手前にある、紀伊田原~古座間の海岸線と岩礁の風景です。
入り組んだ海岸線とゴツゴツの岩というと、五能線を思い浮かべる人もいるかもしれません。
五能線は日本海沿いの「北国の寥寥とした風情」なのに対して、こちらの紀勢本線は沿線にホテルなども建ち「南国のリゾートらしい雰囲気」が感じられます。
沿線は温泉保養地などが点在しており、観光路線らしい風光明媚な区間です。
もっとも電化されていてもしばらくは単線で、列車の本数はその前の区間より増えたとはいえまだまだ少ないです。
観光地である白浜は特急が増結する駅。その後、紀伊田辺からはついに複線となります。
ここからは青春18きっぷでもさほど不便ではない程度の運転本数となりますが、ローカル線らしい車窓も徐々に失われていきます。
御坊からはさらに列車は増え、高架式の駅や工業地帯も現れて都会に近づきつつあることを実感します。
283系(オーシャンアロー車両)の特急「くろしお」
新宮から紀伊田辺までは「南紀」に続いて特急「くろしお」を利用しました。
「くろしお」は複数の車両で運転されますが、最も特徴的なのは283系です。時刻表には「オーシャンアロー車両で運転」と記載されています。
283系はかつて「オーシャンアロー」の列車名で運転されており、何と言ってもイルカのような先頭部が印象的です。
振り子型車両で、海の方を向いた座席が並ぶフリースペースがあったり、客室の照明の配置が洒落ていたりと、リゾート感のある車両となっています。
遊び心ある車内でカーブでの車体の傾きを感じ、新宮駅で買ったさんま寿司を食べながら美しい海岸を眺めるのは、この上ない特急車の旅の楽しみです。
数ある「くろしお」のうち283系で運転されるのは4往復のみで、その他はいまひとつ地味な287系や、北陸新幹線延伸によって特急運用から外れた289系(683系を改造)が使われています。
和歌山からは阪和線で大阪へ
和歌山で紀勢本線の旅は終わり、ここからは阪和線です。
1時間に数本、大阪まで直通する「紀州路快速」が運転されていますが、それでも1時間半程かかるので、和歌山からでも特急「くろしお」を利用する人は多いです。他の選択肢は南海電鉄があります。
阪和線は戦時中に国有化された路線で、そう言われてみれば、駅構内の狭さなどに何となく私鉄っぽいムードが感じられます。
紀勢本線を青春18きっぷで日帰りできるのか?
紀勢本線で周る紀伊半島は、青春18きっぷで日帰りするにはやや大きいサイズです。
大阪からだと、亀山から関西本線で柘植に行って草津線で草津に出るルートがおすすめです。
名古屋からは、快速「みえ」の伊勢鉄道経由で多気までショートカットしてもよいでしょう。名古屋~大阪間は新幹線で移動した方が、メインディッシュの紀勢本線を満喫できると思います。
いずれにせよ多気~紀伊田辺間の処理が肝になり、特急を一切使わないというのは難しいです。
まとめ
紀勢本線はハイライト区間を定義するのが難しいほど、車窓の見せ場が多い路線です。
また中央本線もそうですが、鉄道会社が跨っているので、それぞれの車両を乗り比べる楽しさもあります。幸か不幸か和歌山~紀伊田辺を除けば特急の速度も遅いので、ゆっくりと快適に旅をすることができます。
もちろん普通列車で海沿いのひなびた駅を辿りながらの旅程も捨てがたいものです。