関西本線は名古屋から亀山・奈良を経由して大阪のJR難波(旧・湊町)を結ぶ路線です。
東海道本線のバイパス路線(距離は関西本線の方がやや短い)としての機能を果たし、特に戦後しばらくはディーゼルカーによる準急(後に「かすが」の列車名がつけられる)が大阪(天王寺)から名古屋まで、東海道本線特急や近鉄特急よりも短い所要時間で結ぶといった快挙を成し遂げます。
東海道本線特急がまだ蒸気機関車牽引だったことや、近鉄が名阪間では乗り換えが必要だったことが要因です。
しかし、1950年代後半になって東海道本線の準急(当時名阪間のような「近距離」では庶民が特急を利用することはなかった)に新型電車が投入され、近鉄特急も直通運転を開始すると、関西本線の凋落が始まります。
現在では、特に非電化区間である加茂~亀山間は単行気動車が走るローカル線そのものですが、かつての面影も感じられます。
時代から取り残された幹線の情景を見つけるために、JR難波から名古屋まで関西本線を全線走破してみました。
JR難波~奈良(加茂)
地下ホームになったJR難波駅
かつて湊町駅と呼ばれていたJR難波駅は現在は地下の駅になっており、地上はショッピングモールになっています。
地上時代は関西本線のターミナル駅らしい広大な駅でしたが、今ではそのような風格はありません。
地上の駅跡はもちろん再開発されており、駅の手掛かりになりそうなものを探したのですが特に何も見つかりませんでした。
加茂までの愛称は大和路線
JR難波から奈良を経て加茂までの電化区間は「大和路線」の愛称がつけられています。
神戸線や宝塚線と同じで、大阪から奈良に行くときに関西本線と言うより、こちらの方が馴染みやすいからです。
阪奈間は近鉄奈良線と競合する区間で、生駒山をトンネルで抜ける近鉄に対してやや遠回りをする大和路線ですが、JR化後は快適な近郊型車両
221系による大阪までの直通運転で健闘しています。
車窓は意外と面白い
地下のJR難波駅を出て地上に出ると今宮。ここから天王寺までは大阪環状線との重複区間です。普通列車から奈良方面行の快速に乗り換える場合は天王寺ではなく、新今宮が便利です。
大阪の南のターミナル天王寺を過ぎてしばらくは住宅地を走りますが、高井田あたりから大和川の谷を通り、橋やトンネルがちらほらと現われます。通勤路線になっている大和路線でこのような車窓に会えるのは驚きです。
王寺からはのどかな奈良の水田の風景となります。
右手に若草山が見えてきたら、奈良はもうまもなくです。
奈良 (加茂) ~亀山
奈良駅の旧駅舎と駅弁
列車は加茂行きなので、奈良駅で途中下車する必要はないのですが、ここから先は終着の名古屋まで大きな駅は無いので、ここで途中休憩するのがおすすめです。
奈良駅は外国人旅行客で賑わっており、我々日本人は肩身の狭い思いをします。
駅は高架化されていますが、立派な旧駅舎が駅前の観光案内所として利用されています。
もっとも、内部はいかにも外国人受けを狙った、醜悪な「Japanese」な感じなので、見学は外からだけにして中には入らないことを強く忠告します。
奈良県の駅弁は柿の葉寿司が有名でいくつか店舗がありますが、ユニークなところではわさび葉寿司です。
円盤状の寿司の周りにわさびの葉が巻かれています。
少しピリッとする青々とした小松菜のような風味で、鯖との相性が一番よかったです。
加茂からは単線非電化
加茂までは電化され本数も多いですが、加茂から亀山までは単線非電化となり、本数も1時間に1本程度まで減ります。
車両も1両のレールバスのような車両で、この区間がかつて重要な幹線だったのが嘘のようです。
しかしよく注意してみると、各駅に行き違い設備があり、ホームも今からすれば不自然に長いところに、過去の名残を感じることができます。
ハイライトはD51が重連で挑んだ加太越え
加茂を出ると早速川沿いを走ります。いよいよ「関西本線の旅」もこれから本番といった気分になります。
大河原から次第に勾配も急になり、トンネルも時代を感じる造りです。このあたりから伊賀上野までが1回目の山越えです。
伊賀上野駅は近鉄伊賀線から経営分離された伊賀鉄道との乗換駅です。
忍者の里ということで、外国人向けのPRに余念がありません。
伊賀盆地をしばらく走ったのち、柘植では草津線が合流してきます。
支線であるにもかかわらず草津線が電化されているのに対して、こちらは非電化というあたりに、関西本線の実情が見て取れます。
さて、柘植から加太を経て関までが関西本線の難所と言われた「加太越え」です。
加茂方面からだと、柘植から少し上った所が峠のサミットかつトンネルの入り口で、ここから長い急勾配が続きます。
その昔、蒸気機関車D51 が本務機だけでなく後部の補機も付けて、奮闘した区間です。サミットに入り口があるトンネルを出て少し下ったところに、列車行き違いを行っていた中在家信号所の跡があります。
そんなドラマのあった加太越えも、今は軽量ステンレス車体の小型気動車が軽快とはいえないまでも難なく通過し、やがて亀山に着きます。
駅に入る前に転車台が見えます。
亀山~名古屋
広い構内の亀山駅
亀山駅は関西本線と紀勢本線が連絡する交通の要衝です。
関連記事:紀伊半島一周、紀勢本線ほぼ全線走破の旅【特急南紀・くろしお利用】
かつてはこの駅から奈良・大阪や伊勢・紀州または名古屋へ向かう優等列車が数多く発着しましたが、今となっては短い編成の普通列車しかやって来ません。
3つあるホームのうち真ん中の物が一番古めかしい風情があります。
駅前も旅館(廃業したと思われる)や軽食・喫茶店の寂れた雰囲気がたまりません。
駅にある小さなキオスク以外では、近くにコンビニなどはないので食糧調達などには不自由な駅です。
電化されるも複線化は一部のみ
亀山からは電化されていますが、依然として単線区間が結構残っています。
亀山から15㎞ほど進んだ河原田では伊勢鉄道が合流し、同線から直通してくるキハ85系の特急「南紀」やキハ75系の快速「みえ」も走るので少しは賑やかになります。
関連記事:サムライルートの観光列車、キハ85系車両ガイド【普通車・グリーン車の車内・座席など】
もっとも両列車とも名古屋と紀州や伊勢を結ぶ列車であり、関西本線というより、紀勢本線の延長といった性質かもしれません。
また、列車本数が多くなっても快速列車が通過駅で対向列車待ちをするなど、沿線人口が増えた割に線路の改良が進んでいないのが惜しまれます。
濃尾平野を近鉄と並走して名古屋へ
亀山を出て紀勢本線を右に分けながら単線の線路を進んでいきます。電化されたとはいえ、まだしばらくはローカル線の雰囲気です。
伊勢鉄道が合流する河原田からはついに待ち望んだ複線になりますが、それも次の南四日市で終わってしまいます。
このあたりから四日市の工業地帯や貨物線が見えてきます。
以降も単線と複線が入り混じった区間が続きます。
濃尾平野の伊勢湾にそそぐ川を沢山の鉄橋で渡りながら、やはりここでもライバルの近鉄とたびたび並走します。
結局、全線複線化された近鉄の線路に見劣りを感じながら、終点の名古屋に到着します。
青春18きっぷだと、どれくらいの所要時間なのか?
目安としては
- 大阪~加茂:70分(大和路快速)
天王寺からだと50分 - 加茂~亀山:80分
- 亀山~名古屋:70分(快速)
乗換時間も含めると、途中下車無しの場合4時間程度かかることになります。
ちなみに大阪~名古屋間の距離は関西本線経由の方がやや短いです。
東海道本線の新快速利用だと3時間弱ですが、車窓が綺麗で比較的混んでいない関西本線経由は、特に大阪環状線沿線の場合は有力な選択肢になると思います。
まとめ
関西本線の魅力は、大和路線と名古屋付近を除けば、過去の本線らしい風格と現在の寂れた旅情の対比を味わうことができる点にあります。
名古屋~河原田間以外は優等列車が撤退し、周囲の路線が電化・高速化される中、近代化から取り残された関西本線は、鉄道の栄枯盛衰を物語る象徴的な存在といえるでしょう。