モスクワ~ベルリン間を鉄道移動、タルゴ型寝台列車の乗車記【予約方法や費用など】

ヨーロッパ鉄道

夜行列車大国のロシアからは中央・西ヨーロッパへも各地に寝台列車が運行されています。
そのうちの一つ、モスクワからベラルーシの首都ミンスクを経てベルリンに行く列車「Strizh」が あります。

この列車の乗車記、及びダイヤ・運転日や予約方法などについて解説していきます。

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「Strizh」の列車ダイヤと運転日。時差に注意を。

最新(2019年8月)のダイヤ(夏時間)ではモスクワ10:17発でベルリン7:17着、逆方向だとベルリン19:24発でモスクワ19:43着です。

ここで問題になるのは時差です。
ロシア・ベラルーシとドイツ・ポーランドは本来2時間時差がありますが、ロシアとベラルーシは夏時間を採用していません。
つまりドイツ・ポーランドだけ1時間早めることになるので、両側の時差は夏時間では1時間。よってベルリン行きの所要時間は22時間、モスクワ行きが23時間19分です。

運転されているのは週2往復。モスクワ発が金・日曜日、ベルリン発は月・土曜日のみです。

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モダンなタルゴ型車両

モスクワ発ベルリン行き夜行列車
大きな機関車に牽かれるコンパクトな客車。
ミンスク駅にて。

列車編成

  • 特等寝台車(1人または2人部屋)
  • 1等寝台車(1人~2人部屋)
  • 2等寝台車(4人部屋)
  • 座席車
  • 食堂車

から成ります。

寝台車は3つのクラスがあり、2等寝台は2段ベッドが2つある4人部屋。1等寝台は2段ベッドが1つある1~2人部屋(1人利用だと貸切るか相部屋の可能性を残すか選べる模様。前者の場合の方がやや高い。)。特等寝台はトイレ、シャワー付きの設備で、1~2人で利用可能ですが、相部屋になることはなく部屋単位で販売されます。

フリーゲージトレイン

さて、この列車の一番の特徴は、線路幅が異なるベラルーシ~ポーランドの線路でも、普通の車両と違って台車を履き替えずに走行できるフリーゲージトレインであることです。

ロシアの夜行列車というとレトロな雰囲気という印象が強いですが、この列車はスペイン産のタルゴ型のモダンな車両を使用しています。
ベラルーシ・ポーランド国境で車体を持ち上げて台車を交換する面倒な手間がない分、同区間を走る他の列車よりも数時間も所要時間が短くなっています。

「モスクワとウクライナの首都キエフ間の列車に投入される予定だったが、両国の政治対立で計画が中止になり、代わりにこの路線に投入された」という話も聞いたことがありますが、両国の鉄道の軌間は同じということもあり真偽は不明です。

軌間の持つ政治的意味

話がかなり脱線しますが、ロシア・ベラルーシ・ウクライナはヨーロッパで一般的な標準軌(1435㎜)よりも広い軌間を採用しています。
この理由としては、ナポレオンに攻められた経験をもつロシアがヨーロッパからの侵略を防ぐために、敢えて異なる軌間を採用したといわれています。

逆の発想で、戦前に日本が朝鮮半島の鉄道を建設する際は、中国大陸への進出も視野に、日本本国の狭軌ではなく中国の標準軌に合わせました。
なお、フランスの脅威を認識していたスペインの鉄道もやはり標準軌よりも広い軌間ですが、1990年代以降に新設されている高速線(日本の新幹線に該当)はフランスとの直通運転のために標準軌で建設されました。

このように鉄道の発展の歴史は、政治的・軍事的な要素が多分に絡んでいます。

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特等車の乗車記

話を元に戻します。
私は2017年10月にこの列車でベラルーシの首都ミンスクからベルリンまで移動したので、その時の様子を紹介します。

ヨーロッパで鉄道旅行をしたことがある人にとっても、ベラルーシの鉄道は未知の存在かもしれません。
しかし、ビザの問題さえクリアすれば隣国ウクライナよりもサービスの水準が高く、満足度の高い鉄道旅行を楽しませてくれます。

ミンスク駅から特等車に乗車

モスクワ発ベルリン行き夜行列車の特等車の車内
特等車の車内。
部屋の右奥にトイレとシャワーがある。

印刷したチケットを入り口に立っている車掌に見せて列車に乗り込みます。この際に予約の時に登録した身分証明書(つまりパスポート)を提示します。

特等車は豪華ではありませんが、清潔で機能的な造りになっています。
この車両の本家であるスペインの「Trenhotel」をご存じの方は、あれと同じものだと思ってよいでしょう。

写真からも分かる通りコンセントも付いています。

食堂車ではユーロも使用可

モスクワ発ベルリン行き夜行列車の食堂車
モダンなインテリアの食堂車

ヨーロッパでも食堂車付きの夜行列車は珍しくなった昨今では貴重な存在なので、是非とも夜汽車での食事を楽しみましょう。
メニューはさすがに豊富というわけでもありませんが、それでも結構選択肢はあったと思います。

ロシアルーブルやベラルーシルーブルは使ってしまった」という人でも、ユーロが使えるので安心してください。(ただしレートはあまりよくなかったです)

モスクワ発ベルリン行き夜行列車の食堂車
エビのグリルとガーリック風味のパスタとロシアのビール

車内サービスについて

モスクワ発ベルリン行き夜行列車の通路
通路部分。
良くも悪くも機能的。

他のロシア国鉄の夜行列車と比較すると、車内サービスは簡素化されている印象を受けました。
朝食は付いておらず、銀のカップに入れて持ってきてくれる紅茶のサービスもありません。
内装もモダンで清潔といえばそうなのでしょうが、新しくてもレトロ感や格式が感じられる「赤い矢」号などのイメージがあると、素っ気なく感じるでしょう。

もっとも、デッキにウォーターサーバーがある車両が多いので、飲み物の確保の心配をしなくても済むのはとても助かります。

国境管理

ベラルーシとポーランドの国境でパスポートコントロールがあります(ロシア・ベラルーシ間も同様)。
特に他と比べて厳しいことはありませんが、国境は軌間が変わる場所なので、停車中に私は興味津々に通路に出ていたら注意されました。
なお徐行中に軌間が変わりますが、乗っていてもそんなことは分かりません。

ポーランドとドイツはシェンゲン協定加盟国なので、両国間ではパスポートコントロールはありません。

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予約方法と費用

予約はロシア国鉄のサイトから可能

まずはロシア国鉄のサイトにアクセスします。

出発地と行き先を入力します。
モスクワは「Moscow」でよいですが(実際はモスクワ・ベラルースカヤ駅)、ベルリン側は中央駅ではなく、「Berlin Ostbahnhof」(ベルリン・東駅)にしなければ検索されないので注意です。

ルート検索すると列車ダイヤとその右側に選べる設備一覧が現れます。

特等寝台を選んだ場合の画面

ここでは特等寝台を例に説明します。
該当する設備の号車と空いているベッド(席)が表示されます。「vacant」の表示のある空いた所を選択します。
1人利用だと下段のみ、2人利用だと上下両方のベッドを使用します。

なおロシアの寝台列車では珍しく、男女別に区別された相部屋も一部あります。
ベッドの選択画面に「Male」「Female」「Mixed」と書かれているのがそれです(何も書かれていない部屋もあります)。

赤で囲った「mixed」の表記から、この2等寝台の部屋は男女混合であることが分かる。

さて、希望するベッドを指定したら、すぐ下の「Go to passenger data…」の画面をクリックします。

ここで会員登録する必要があります。
個人情報を入力して、受け取ったメールのURLをクリックすれば完了です。

ログインしたら、改めて乗客情報を入力します。
この写真ではありませんが、ミドルネームの項目があった場合は「-」で構いません。
「Document type」は「ID Document」を選択し、「Document number」の所に自分のパスポート番号を入れましょう。
写真の画面の下の方に保険に加入するチェックがデフォルトで入っていますが、これは任意なので加入する必要はありません。

予約・支払いが完了したらPDFファイルが登録したメールアドレスに送られてきます。
これを自宅かコンビニでプリントアウトしたものがチケットになります。
お疲れさまでした。

<注意>
支払いはクレジットカードで行いますが、2015年から2016年ごろにかけて米露対立の金融制裁のためか、ロシアのクレジットカードしか使えないという状況があったそうです。
私が予約・乗車した2017年では問題ありませんでしたが、今後の情勢如何では同じ問題が発生しないとも限りません。

費用

以下、2019年8月におけるレート:1ロシアルーブル≒1.6円の前提で進めます。

予約する際にも分かると思いますが、特等車だとモスクワ~ベルリンまで37,000円です。やはり特等車は高いですね。
トイレやシャワーが部屋になくても良いから部屋を貸し切ってプライバシーを確保したい方は、1等車の1人用(予約クラス:1У(1/1))なら28,000円程度になります。

座席車は一番安いですが、オープンサロンタイプ(昔のヨーロッパらしいコンパートメントではないタイプ)でそれほど快適そうでもなかった気がします。
そのため、安くいきたい人は2等寝台が良いと思います。

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西欧かぶれなロシア国鉄の寝台列車

「Strizh」はロシアの夜行列車の中では異色の存在です。

ロシアの鉄道には、西欧の鉄道で進む合理化(という名のサービス簡素化)に対するアンチテーゼのようなものを感じます。

思えば、もとはヨーロッパで栄えた価値観であったり文化が本家で失われつつある時に、ロシアはそれらを「救済」する役目を果たしてきました。
それは鉄道に限らず、クラシック音楽しかり、あるいはドストエフスキーの世界観も急速な近代化や自我の芽生えに対する危機感と、宗教(ロシア正教会)による平安といった問題意識を含有しています。

さて、そんなロシアの鉄道の中でこの列車はといえば、スペイン製の車両を使い、内装やサービスも控えめという根っからの西欧式のスタイルです。
モダンで素っ気ない印象は拭えないものの、特に私が利用したミンスク~ベルリン間は、他の列車とは段違いに便利なダイヤ設定となっています。
そも意味で、「Strizh」は「優雅な鉄道旅行」よりも「スマートで実利的な移動」を指向した列車だと思います。

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