(2022年追記)
本記事では、ロシアによるクリミア併合後かつ、2022年のウクライナ侵略前の2017年10月に、モスクワからキーウまで乗車した時の様子を紹介しています。
当然ながら、この列車は現在運行されていません。
ロシアの首都モスクワとウクライナの首都キエフを結ぶ、寝台列車「ウクライナ」号の紹介です。
ロシアの歩んできた歴史を包容するモスクワと、古代ロシアの中心地キエフは、いずれも観光地としても非常に魅力的な街です。
モスクワが東京、サンクトペテルブルクが京都、そしてキエフが奈良、と表現されることもあります。
ダイヤと列車編成
利便性の高いダイヤ
モスクワを19時35分発、キエフに7時52分(夏時間)に着きます。
ここで注意する点があります。
ロシアとウクライナは1時間時差があり(ロシアの方が早い)、ウクライナは夏時間(1時間早い)を採用している、ということです。
つまり夏時間の場合では時差はなくなることになるので、この列車の所要時間はおよそ12時間です。
逆方向だと、キエフ20時32分発(夏時間)、モスクワ10時09分着で、所要時間はおよそ13時間半です。
モスクワにはターミナル駅が複数ありますが、ウクライナ行きの列車は「モスクワ・キエフ」駅発着です。
編成
- 1等車(2人用個室寝台)
- 2等車(4人用個室寝台)
- 3等車(開放寝台)
から成ります。
食堂車はないので、夕食を先に済ますか、食べ物を持ち込んでから乗車しましょう。
なお列車はウクライナ国鉄によって運行されています。
よって車両・乗務員もウクライナ国鉄に所属しています。
1等寝台車の乗車記録
1等車に乗車した時の記録です。
車内サービス
コーヒーまたは紅茶が1杯無料でしたが、朝食などは付いていません。ウクライナ国鉄による列車なので、2杯目以降の支払い時の通貨はウクライナフリブナになります。
なお、西欧諸国などと違って、個室寝台は相部屋でも男女で区別して販売しません。
特に女性が着替えたそうな感じの時は、男性が少し気を遣うとよいと思います。(もっともあまり気にしない女性もいましたが。)
国境越えについて
途中国境駅でそれぞれの国のパスポートコントロールがあります。他の国よりやや厳しいかな、という印象です。
鞄を開けて持ち物チェックをされることがあります。私の同室のウクライナ人女性は、携行していた靴の中まで確認されていました。
また、麻薬探知犬が乗り込みます。
私のような犬好きな人もいるかもしれませんが、間違っても手懐けようとしてはいけません。
外国語コミュニケーションについて
この列車に限らず、ウクライナの鉄道では、乗務員が英語を話せることは稀であると思った方が良いです。
私の経験則だと、やはりというか、1等車の乗客の方が英語ができる確率は高いです。
私の同席だった、モスクワでの仕事帰りのウクライナ人女性も、興味深いロシアの話、ウクライナの話をしてくれました。
なお、ウクライナ人はロシアのことを否定的に話す人が本当に多いです。
私はもちろん話はしっかり聞きますが、ロシア批判に便乗することはなるべく避けています。
2等3等でも、気さくに話しかけてくれる良い人も多いのですが、やはりコミュニケーションとなると、1等車の方が都合が良いことが多いです。
予約方法と費用
予約はネットでできますが、注意点があります。
発車する側の国鉄のサイトで予約する
見出しの通り、例えばモスクワ→キエフの場合はロシア国鉄のサイトhttps://pass.rzd.ru/main-pass/public/en
でしか予約できないようです。
なお、ロシア鉄道の予約については別の記事でも解説しています。
逆にキエフ→モスクワの場合はウクライナ国鉄
https://booking.uz.gov.ua/en/
から予約します。
L=1等,C=2等,B=3等
なお都市名の表記は複数あります。
モスクワ:MoscowまたはMoskva
キエフ:KievまたはKyiv
選択肢が複数ある時は「モスクワキエフ」駅、「キエフPas」(キエフ旅客駅)となるようにします。
ウクライナ鉄道の予約方法は以下でも解説しています。
印刷した紙はあくまでチケット控え
予約すると登録したメールアドレスにPDFが送られます。
ダウンロードして印刷するのですが、重要な点は、それはチケットそのものではないということです。
駅(出発駅が無難。他の駅で替えようとしたら「ここではない」と言われました。)でその紙を見せて、本物のチケットを受け取る必要があります。
ここは一般的な手順と違うので注意してください。
費用
ロシアもウクライナも物価上昇や為替変動が大きいのですが、執筆時(2019年5月)の日本円換算だと、1等車で30000円くらい。2等、3等とそれぞれ半額になっていくイメージです。
両国の物価水準(特にウクライナ)を考えると、かなり割高な印象を受けます。
社会を映す鏡
「ウクライナ」号は同区間を走る列車群にあって、最もグレードが高いとされる列車です。(列車の「上下関係」は列車番号で分かります。数字が若い方が「格上」です。)
もっとも、特別にサービスや設備が優れているわけではありません。
しかし逆説的にそれがこの列車の魅力なのかもしれません。
「兄弟国」といわれるロシアとウクライナも今も関係は良好とはいえず、一部国境では武力衝突も発生しました。(モスクワキエフ間では現状は問題なし)
ですが、そんな状況にある両国首都間を毎晩、超大編成の夜行列車が複数走っています。
切っても切れない関係を象徴する「ウクライナ」号に乗って、そしてその列車を利用する様々な人たちを見たり話したりして、国境や民族について自分なりに考えてみてはいかがでしょうか。