大英帝国の首都ロンドンから、アイルランドの首都ダブリンまでは、鉄道と船を乗り継いで行くことができます。
ほぼ一日を費やすことになりますが、イングランドとウェールズの風景と快適な船旅を満喫することができる、とても魅力的な移動です。
2022年10月、記念すべき私のコロナ明け初となる海外鉄道旅行の様子をご覧にいれます。
ホリーヘッドまで鉄道、船への乗り換えは簡単
ロンドンからダブリンへ行く場合、ホリーヘッド(Holyhead)まで鉄道を利用し、そこからフェリーを乗り継いでダブリン港へアクセスできます。
ダブリン港から市内へは数キロの距離ですが、連絡バスが出ていています。
また、ホリーヘッドでは駅前にフェリーの送迎バスが来るので、鉄道から船への乗り換えは簡単です。
ロンドンからホリーヘッドまでの所要時間は約3時間半です。
そしてフェリーの乗船時間は3時間少々。
乗り換え時間も含めると、朝ロンドンを発って夕方にダブリンに着くイメージになります。
日曜日は他の曜日と大きくダイヤが異なり、ホリーヘッドへは途中のクルー(Crewe)で乗り換えが必要になります。
後で説明するように、チケットの買い方は日曜日でも同じです。
なお、次章以降の乗車記は日曜日のものです。
①ロンドンからクルーまでの鉄道、②ホーリーヘッドまでの鉄道、③フェリーと3章立てにしています。
①ロンドン~クルーの電車
アヴァンテイ・ウェスト・コーストの高速車両
イギリスの鉄道は多数の会社によって運行されています。
今回経由するロンドンからスコットランドへ至る幹線には、Avanti West Coast(アヴァンテイ・ウェスト・コースト)という会社の高速列車が走っています。
カーブ走行時に車体を内側に傾けて遠心力を緩和するペンドリーノ車両で、最高速度は200㎞です。
日曜日以外はホリーヘッド行きのAvanti West Coastのディーゼルカーで、ロンドンから乗り換えなしで行けますが、日曜日は同社の電車に乗って途中のクルーで下車、そこから支線のディーゼルカーに乗り換えてホリーヘッドへ行きます。
Avanti West Coastの車両は電車・気動車いずれにもカフェテリアがあります。
ロンドンからのおよその所要時間は、ホリーヘッドまで3時間40分、クルーまでは2時間です。
乗車記①:ロンドン・ユーストン(Euston)駅を出発
Avanti West Coastの列車が出発するのはロンドン・ユーストン(Euston)駅です。
ユーロスターが発着するセント・パンクラス駅から徒歩圏内にあります。
巨大な電光掲示板がありますが、プラットホームが分かるのは15分くらい前になってからです。
指定されたホームに行くと、アングロサクソン系のイギリス人に似合わない、丸っこい童顔のグラスゴー行き電車が停車していました。
日曜日以外だとこの車両とは違うタイプの、泣きそうな顔をした気動車に乗ることになります。
列車は非常に混雑しており、スーツケースの置き場に困りました。
他の荷物を移動させたりして、ようやく所定のスペースに収めます。
イギリスの鉄道はあまり定時制が良いイメージはありませんでしたが、8時47分に無事定刻発車。
私にとっておよそ3年半ぶりのヨーロッパ鉄道旅行が始まりました。
巨大都市ロンドン郊外の住宅地もあっという間に過ぎて、時速200㎞で走ります。
カーブ走行時の傾き・揺れ具合も申し分ありません。
最初の方は農耕地が続きます。
長距離列車ですが停車駅が結構多く、しかも乗り降りがありました。
大規模な農地の中から美しい住宅街が現れます。
しばらくすると車窓は牧草地がメインになり、天気も良くなってきました。
まだ1時間半しか電車に乗っていないのに、まるで東京から旭川まで来たようだなと、カフェテリアで買ったカプチーノを飲みながら感心します。
ロンドンからおよそ2時間でクルー(Crewe)駅に到着。
歴史を感じさせる広大なターミナルで、ただ列車に乗って通り過ぎるのは勿体ない駅です。
②クルーからホリーヘッドへ
トランスポート・フォー・ウェールズのディーゼルカー
クルーからは支線の2両編成のディーゼルカーに乗ってホリーヘッドへ。
今度はTransport For Wales(トランスポート・フォー・ウェールズ)の車両で、車体や車内ではウェールズ語も使われています。
ウェールズ語はケルト系の言語のため、英語とは全く似ていません。
さて、この車両は見るからに地方ローカル線のディーゼルカーですが、車内は意外と快適です。
トイレはもちろん、荷物置き場やWi-Fiもあります。
クルーからホリーヘッドまでの所要時間は2時間少々です。
乗車記②:風光明媚な車窓、右側の座席を確保しよう。
列車はやはり定刻通りにクルー駅を発車。
着いてすぐに気づいた通り、クルーは鉄道の街のようで、駅を出るとすぐに昔の車両などを保存したCrewe Heritage Centreが右手に見えます。
20分ほどしてチェスター(Chester)駅に到着し、ここからかなり人が乗ってきました。
駅の写真を撮っているのを見て私が鉄道ファンだと見抜いたのか、向かいの席にいる元気そうなおじさんが、この先は海沿いの保養地があって車窓が綺麗だとか、ちょうどイングランドとウェールズの国境を越えた辺りだとか、この路線は古くからイングランドとウェールズを結ぶ街道で途中に城があるといった、要するに私が好きそうな事をいろいろと教えてくれました。
海が見える右側の座席を確保しましょう。
Avantiの列車で左側の座席を指定してしまった場合でも、空いている席があれば移ってもかまいません。
果たしてチェスターを過ぎてまもなく、右手に海岸が広がりました。
犬を連れてのんびる散歩している人をよく見かけます。
この辺りはイングランド市民にとっての保養地で、大きな駅に着くと沢山の人が降りていきます。
「50年前に両親とここに来たのを思い出すよ」と、親切なおじさんがしみじみと語ります。
彼はロンドンの近くからアイルランドに帰る途中だそうです。
まもなくして、橋を隔てた前方に砦のようなコンウィ城が見えてきます。
中世風RPGでもお馴染みの光景です。
ウェールズの国旗がはためく城をすぐ目の前に見上げていると、列車はコンウィ(Conwy)駅に到着します。
ここでも下車する人が多く、いつの間にか車内は空いていました。
地図からは分かりにくいのですが、ホリーヘッドはグレートブリテン島とは狭い海峡を隔てたアングルシー島にあります。
そのメナイ海峡を橋で渡る時、遠くに別の古いアーチ形の橋梁が見えます。
アングルシー島に上陸すると、今までの海岸線とは全く異なる牧草地の風景が広がります。
北海道の根室本線を思わせる景色です。
ついに終着駅のホリーヘッド(Holyhead)駅に到着。
そのまま駅を直進していくとフェリー乗り場です。
乗船する際に国境審査が行われます。
窓口でロンドンからダブリン港まで通しのチケットとパスポートを提示するだけなので、手続きには時間はかかりません。
手荷物検査を終えスーツケースを預けて、送迎バス乗り場に向かいます。
乗船記③:フェリーでダブリン港へ
ホリーヘッド~ダブリンにはIrish FerryとStena Lineの2種類の船が運航されています。
私が今回乗ったのはStena Lineの方ですが、どちらも快適な大型の船舶です。
送迎バスに乗って、駅にあるフェリーターミナルからそのまま船の甲板に乗り込みます。
ダブリン港までの乗船時間は3時間15分です。
船内にはレストランやカフェ・売店・リビングルームや映画館もあります。
昼食がまだだったので、14時45分の出港を見届ける前にレストランで食事をします。
私がフライドポテトにうんざりするのはまだ数日後のことです。
また、20€弱の追加料金を払うと、上級クラスのラウンジスペースにアップグレードできます。
ここではコーヒー・紅茶などの飲み物が無料でサービスされ、前面展望も楽しむことができます。
私は利用しませんでしたが、今思えばアップグレードしておけば良かったなと感じます。
さらに上のクラスでは個室タイプのキャビンもあります。
アイルランドが見えてきた頃には、出港時とは対照的に曇り空でした。
暗い印象で始まってしまったとはいえ、だんだんと見知らぬ土地が近づいてくる感覚は船旅ならではです。
18時頃に工場やコンテナが並ぶダブリン港に到着。
到着後、車を持たない乗客(Foot passenger)は最後に下船して、甲板からまた送迎バスに乗ってフェリーターミナルへ。
そこで再度パスポートを見せて、ターンテーブルにあるスーツケースを受け取ります。
ダブリン港から市内は数キロの距離で、連絡バスが出ています。
主要駅のコノリー(Connolly)駅まで3€でした。
B&Bにチェックイン後、すぐにパブへ繰り出し、アイリッシュシチュー(羊肉と野菜の煮込み)と黒パンとエールビールでアイルランド初訪問を祝いました。
予約方法と費用
鉄道と船を乗り継いで行く旅程ですが、両者が一体となって、しかも割引価格で販売されているSailRailという素晴らしいチケットが存在します。
SailrailはTransport For Walesのサイトで購入することができます。
(注意)Avanti West Coastは2022年現在、減便ダイヤでの運行となっています。
そのため、平日・土曜日であっても途中乗り換えが発生したり、ダイヤ未確定のため直前まで予約すらできない場合があります。
ちなみに、私の今回のケースでは、前日になってようやく予約できるようになりました。
よって、実際に予約する際もダイヤ・乗り換えについて、以前の章での説明と不整合な部分もあると思いますがご了承ください。
Sailrailの値段は最安46.1£
トップページにアクセスして、駅名などを入力します。
ロンドン側はLondon Euston、ダブリン側はIrish Ferryの場合はDublin Ferryport、Stena LineならDublin Port-Stenaです。
私は30分早く発着するので前者を予約したはずでしたが、結局乗船したのはStenaの方でした。
Irish Ferryは運航されていなかったかもしれませんが、詳細は不明です。
どちらに乗船しても料金は変わりません。
列車・料金選択画面です。
上段に旅程概要、中段に最も安い料金、下段に選択可能な料金一覧が表示されています。
上段のChangeは乗り換え回数を示し、ホリーヘッドまで直通する場合は船に乗り換えるだけなので1回となります。
列車や料金を選択する時は、中段あるいは下段をクリックします。
下段に表示されるSailrail Advanceという早割が利用できることもあります。
それがなくても料金は46.1£から51.9£に上がる程度なので、あまりがっかりしなくても良いでしょう。
ちなみに、Avanti West Coastのロンドン~ホリーヘッドの早期割引でも約50£なので、通常のSailraiでもかなりお得な料金だということが分かると思います。
右上か右下のContinueを押して進みます。
座席のオプションは無料です。
シートマップからは選べませんが、窓側・前向きなど割と細かく希望を出すことができます。
これはAvantiの列車にのみ適用されます。
その後、登録・ログイン画面が出ますが、会員登録なしで予約をすることができます。
名前やメールアドレスを記入して進みます。
チケットはイギリスの駅にて自分で発券する
次にチケットの配達方法を選びます。
外国へは届けられないので、駅で受け取りにチェックを入れます。
チケットは自身で英国の駅にある発券機で発券します。
その際に、予約に使用したクレジットカードと予約番号(確認メールに記載)が必要です。
確認画面の後に支払い方法を選択します。
クレジットカード支払いの場合はカード情報と住所を入力します。
実際にチケットが郵送されるわけではないので、だいたいの様式で問題ありません。
しかし、PayPalの方が簡単で、カード認証不可のリスクもないのでおすすめです。
予約・決済が完了したらメールが届きます。
発券に必要な番号が載っているのでブックマークしておきましょう。
アイルランド発は現地のダブリン・コノリー駅で購入
以上の方法はイギリスでのチケット受け取りが前提となるので、アイルランド発の場合には使えません。
Irish Ferryのサイトで予約しても、アイルランドへの郵送となるため、日本人観光客には意味がありません。
そのため、このケースでは現地のDublin Connolly駅の窓口でSailraiチケットを購入しましょう。
先ほど見た通り、早期購入での割引額は小さいので、オンラインでなくてもそれほど不利にはなりません。
敢えてするべき鉄道と船の旅
ほぼ一日を費やすロンドンからダブリンへの鉄道と船の旅。
飛行機なら点から点への窮屈な移動ですが、イングランドとウェールズそれぞれ違った景色を眺め、船からアイルランドにゆっくり対面してから上陸を果たす、大変内容のある1日です。
今回は日曜日ということで、当初は乗り換えが増えて不運だと思っていたのですが、スタイリッシュな高速列車と、また行ってみたいクルー駅、そして車窓の良いローカル列車で地元の人との交流を楽しむことができて、むしろ幸運だとさえ感じました。
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