イギリスではロンドンとスコットランド各地を結ぶ、カレドニアンスリーパーという夜行列車が運行されています。
移動時間を有効に使えるだけでなく、乗車自体が目的になり得る、非常にサービスレベルの高い列車です。
2022年10月、グラスゴーからロンドンまで、カレドニアンスリーパーの寝台車に乗車しました。
トイレ・シャワー付き個室に食堂車もある豪華寝台列車
ロンドンとスコットランド各地を結ぶ
カレドニアンスリーパーはロンドンを起点にして、スコットランド北部へ向かうHighland Sleeperと、スコットランド南部へ向かうLowland Sleeperの2本の列車が運転されています。
途中で前者は3つに、後者は2つに分割されて、計5カ所の行き先を目指します。
通年運行されていますが、土曜日(出発日)には運転されません。
ちなみに、産業が集積する南部に対して、北部は自然が豊かな土地というイメージです。
旧国鉄系の会社が細分化されたイギリスにあって、カレドニアンスリーパーは独立した孤高の存在です。
2019年には新型車両が導入されています。
なお、「カレドニア」とは昔の言葉でイギリス北部、つまり現在のスコットランド地方を指します。
座席車と3タイプの寝台車
カレドニアンスリーパーの設備は、座席車と3種類の個室寝台車があります。
寝台車はいずれも1~2人で利用できます。
以下、安い順にざっと説明すると
- 座席車(Seat)→1&2列配置のリクライニングシートが並ぶ。頭上の荷物棚は番号式のロックがかかる
- クラシック(Classic)→標準的な寝台車。2段ベッドに洗面台付きで朝食は有料。
- クラブ(Club)→部屋はクラシックと同じだが、トイレ・シャワーが付いている。また朝食は無料で駅のラウンジが利用可能。
- カレドニアンダブル(Caledonian Double)→ダブルベッドを備えた部屋。トイレ・シャワー付きで朝食無料、ラウンジも利用可能。
食堂車のクラブ・カー
カレドニアンスリーパーの最大の魅力は、クラブ・カー(寝台車のクラスと同じ名前で紛らわしい)と呼ばれる食堂車です。
モダンな雰囲気で、カウンター席とテーブル席があります。
メニューはとても豊富で、本格的な食事から軽食まで、スコットランドの味を楽しませてくれます。
そしてアルコールのラインナップも充実しており、特にスコッチウイスキーだけでも何種類も説明文付きで揃えています。
欧州では最近夜行列車が復活してきたとはいえ、ここまで充実した食堂車を連結している列車はありません。
なお、混雑時にはクラブやダブルなどの上位クラスの客が優先されるようです。
また、座席車の乗客はクラブ・カーを利用することができません。
途中で編成が分割されるので、行き先によっては全区間ではクラブ・カーを利用できません。
逆に食事中に自分の車両と離れ離れにならないよう、事前に確認しておきましょう。
乗車記:グラスゴーからロンドンへ
始発のグラスゴー・セントラル駅。1時間以上前に乗車可能。
夜汽車の旅の始まりは、スコットランド最大の経済都市グラスゴー。
スコットランドを(失礼ながら)北海道に喩えれば、グラスゴーは札幌のような賑やかな所です。
始発のグラスゴー・セントラル(Glasgow Central)駅の出発時刻は23時40分と深夜なのですが、有難いことに寝台車の乗客は22時から乗車することができます。
それは良いのですが、出発まで長い時間があるため、駅の電光掲示板にはまだ発車番線の情報が出ていません。
駅員に聞くと、スコットランド人らしい咳き込むような早口の英語で”Enjoy your travel”と言いながら教えてくれました。
彼に限らず、スコットラン人はとても親切な人が多い印象です。
行き止まり式ホームの入り口で、スマホに保存したチケットをクルーに見せて乗車します。
寝台車のクラシックルームに乗車
私が利用したのはクラシックルームで、寝台車の中では最もリーズナブルな設備です。
洗面台の下からはテーブルを引き出せるようになっています。
ベッドは2段式で、今回のように一人で利用する時にも上段は畳むはずですが、なぜか2人仕様になっていました。
特に不便はないのでそのままにします。
部屋はやや狭いですが、清潔で機能的な造りになっています。
クラシックルームでは朝食は有料です。
いくつかのメニューの中から「スコティッシュポリッジ」を希望して、オーダーシートを扉にかけておきました。
クラブカーで晩酌しつつ発車を待つ
部屋でしばし落ち着いたのち、食堂車のクラブカーに行きます。
部屋はカードキーで施錠できるので、駅停車中でも荷物は問題ありません。
夕食は済ませていまたので、スコッチウイスキーを頼みました。
アルコール度数は46%!
ちょっと舐める程度の量でも、むせかえるほどのバニラの香りが口の中に広がります。
こんな液体があるものかと感動しているうちに、グラスゴー・セントラル駅を静かに発車。
走るショットバーが始まりました。
平日でしたが食堂車には沢山の人がいました。
清算は明日の朝食分も合わせてクレジットカードで支払いました。
現金は不可のようなので注意してください。
予定では部屋に戻ってビールを飲むつもりだったのですが、あのスコッチウイスキーの後では、レッドエールといえども薄っぺらい麦茶にしかなりません。
しばらく外を眺めてから、ベッドに入りました。
朝食のスコティッシュポリッジ
まだ薄暗い6時半ごろに朝食が部屋に運ばれてきました。
私の頼んだ「スコティッシュポリッジ」は、オートミールのお粥です。
結構重たいですが、体が温まります。
質素ではありますが、いかにも北国らしい朝食でした。
紅茶も専用のコップに入っているのが良いです。
クラシックより上のクラスの乗客には、朝食は無料で提供されます。
ロンドン・ユーストン駅に到着後も、暫く部屋に滞在可能
7時前にロンドン・ユーストン(London Euston)駅に到着。
7時過ぎに着くはずですが、予定よりも早く着いたようです。
しかし、慌てる必要はありません。
乗車した時と同じで、終着駅到着後も8時まで車内にいることができます。
慌ただしい朝のロンドンの駅でも、快適な寝台車の中でゆったりと朝食を楽しむことができるのは最高の贅沢です。
8時前に後ろ髪を引かれる思いで「チェックアウト」しました。
車体に描かれた立派な角を生やした鹿が、「グラスゴーを半日うろついただけで、スコットランドに来た気になるなよ」と私に言っているようでした。
今度はロンドン発のHighland Sleeperに乗りたいものです。
予約方法と費用
予約はカレドニアンスリーパーの公式サイトから行うことができます。
以下、そのやり方を説明します。
写真付きで分かりやすい公式サイト
発着地は駅名を知らなくても、プルダウンから都市名を選択するだけで大丈夫です。
ここではロンドン発グラスゴー行きの列車を予約します。
座席と3種類の寝台車の4種類の設備から選択します。
写真からも分かる通り、クラブとクラシックの違いはトイレ・シャワーの有無くらいです。
各寝台車は2人まで利用できますが、個室単位で販売されるので、一人同士の相部屋使用にはなりません。
また、ダブルの寝台車を一人で贅沢に使用することも可能です。
設備の内容と値段を確認してから次に進みます。
乗客情報を入力します。
日本のコードは+81。
続けて電話番号は、最初の0を除いた部分を入力します。
最後に支払い方法でクレジットカードの情報を入力します。
住所はだいたいの様式で埋めればよいでしょう。
ZIPCODEは郵便番号のことです。
決済に成功すると、チケットへのリンクが付いたメールが届きます。
QRコード画面を印刷するかスマホに保存すれば完了です。
割引価格のFixed ticketもあるが…
上記で説明した料金は変更・返金可能なFlexible ticketです。
Lowlandのクラシックの値段は175£で、需給によっては変動しません。
Highlandの場合はそれぞれもっと高くなりますが、いずれにせよクラシックとクラブの差は比較的小さく、ダブルになると跳ね上がるイメージです。
Flexible以外にFixed ticketという安い代わりに返金・変更不可の料金があります。
ただし、公式サイトから判断するに、現状はFixedが適用可能なのは座席車のみのようです。
そもそも寝台車には割引が無いというよりは、コロナに伴う暫定的な措置と思われます。(信頼できる海外サイトで寝台車の早割の存在をほのめかしているため)
スコットランドの誇り
高速鉄道や航空機が発達した現在、夜行列車は敢えて乗るものという側面が大きいです。
カレドニアンスリーパーは、その「敢えて」の付加価値に徹底的にこだわっています。
アーリーチェックインとレイトチェックアウトに、機能的で快適な個室寝台車、そしてスコットランドの食を表現した様々なメニューを揃えた食堂車。
ロンドンからグラスゴーまで高速列車で4時間半で行けるからといって、こうした寝台列車の存在意義が無くなるわけがありません。
「イギリスがEUから離脱するなら、我々がイギリスから独立してEUに加盟する」というほど、独立運動が根強いスコットランド。
ロンドンの駅に停車するカレドニアンスリーパーは、そんな誇り高きスコットランドのショーウィンドウのようです。
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