数あるヨーロッパの国の中でも特に人気のあるスペイン。
そのスペインで最も「スペインらしい」と言われるのが、南部のアンダルシア州です。
温暖な気候・白い家々、そしてイスラムの史跡など見所が豊富にあります。
そして、アンダルシア州でよく訪問されるグラナダ・コルドバ・セビリアの三都は、高速鉄道によってとてもスムーズに移動することができます。
2023年11月中旬、グラナダからコルドバを経てセビリアまで、短距離高速列車のアバント(AVANT)に乗車しました。
アバントとは:スペイン新幹線アベの短距離版
高速鉄道網がヨーロッパで最も発達したスペインは、首都マドリードから各地方に新幹線アベ(AVE)が運行されています。
一方、同じ地方の都市を結ぶ比較的近距離の高速列車が今回紹介するアバント(AVANT)です。
日本の新幹線で喩えれば、九州内完結の「つばめ」(博多~鹿児島中央)のような位置付けでしょうか。
アベと同様にアバントも全席指定制なので予約必須です。
アンダルシア州のアバントは、コルドバ・セビリア・マラガ・グラナダといったこの地方の観光では外せない都市もカバーしています。
アンダルシアの玄関口となるコルドバを起点に、州都セビリアまで50分、海沿いのマラガまで1時間、そしてアルハンブラ宮殿のあるグラナダまで1時間50分程度の所要時間です。
セビリア・マラガへは本数が多いですが、グラナダに行く列車はやや少ないです。
なお、これらの都市間ではマドリードから来るアベに乗ることもできます。
コルドバ・グラナダ間だと停車駅の少ないアベの方がやや速く、他の区間はほぼ同じ所要時間です。
アバントの車内
アバントは全車両二等車です。
ただ、二種類のアコモデーションが存在します。
通常車両の車内と座席
ごく普通の2&2列の座席で、回転することはできません。
それほど快適な客室ではありませんが、乗車時間が長くないことを考えると「こんなもんだろう」と思えます。
アンダルシア州で運用されているアバントの車両には、充電用コンセントがありませんでした。
1号車は旧一等車(?)の座席
前述した通りアバントは全車二等車の編成ですが、セビリア寄りの1号車は一等車同様の通路を挟んで3列座席です。
おそらくかつてはアバントにも一等車があった名残ではないかと思われます。
デッキにあるカウンター・自販機は使用停止になっていました。
アバントは予約時に座席指定しても追加料金がかからないので、1号車を選択すると少しだけオトクな気分になれます。
アバントは予約できるようになる日が遅い
アバントの予約はアベと同様にスペイン国鉄(renfe)のサイトから行うことができます。
全般的な予約方法についてはアベの記事をご覧ください。
一般にスペインの列車は2カ月前から予約できるようになると言われています。
しかし実際はもっと遅くなる列車が多く、特にアバントは1カ月前になっても予約できないこともあります。
上の写真は1カ月先のグラナダ→コルドバの列車検索結果です。
アバントはまだ予約できません。
この区間のアバントの料金はいつ予約しても32.1€(2023年末)。
この段階だとアベの割引料金(セールが行われている)の方が安くなることが分かります。
しかし、出発日直近になるとアベはだいぶ値上がりする一方アバントの料金は変わらないので、価格が逆転します。
なお、列車検索で”FULL”(満席)と出ていても、駅の窓口に行くとチケットが買えたこともありました。
このようにrenfeのサイトでは時々イレギュラーなことが起こるので、「そういうもんだ」くらいの気持ちで予約できるようになる日を待ちましょう。
旅行記:アンダルシア三都物語
グラナダのアルハンブラ宮殿
前日の晩にマドリードからアベでグラナダに着き、この日は朝一番にアルハンブラ宮殿へ。
昨日は人でごった返していた細い坂道も、今朝は静まり返っています。
犬の散歩をしていた男性が、宮殿をバックに犬をおすわりさせて写真を撮っていました。
地元民がなぜこんな観光客のようなことをするのでしょうか?
アルハンブラ宮殿はイスラム建築の最高傑作。
そして、700年以上続いたレコンキスタ(キリスト教徒によるイスラム教徒からの領土奪還運動)における最後の拠点でもありました。
その頃ヨーロッパは大航海時代を切り開き、取るに足らない文明から世界の支配者へと躍り出たのです。
そうしたヨーロッパ中世世界の終わりを象徴する歴史の重みが、アルハンブラ宮殿の美しさをさらに引き立てているようです。
アバントに乗ってグラナダからコルドバへ
3時間程度かけて見学して駅に戻りました。
スペインでは高速列車に乗る前に荷物検査があります。
検査自体はすぐ終わりますし、液体を持ち込んでも大丈夫です。
検査待ちの時間やホームを歩く時間も考慮して、グラナダのようにさほど大きくない地方の駅では出発10分前を目安に列に並びましょう。
日曜日の昼下がりなので列車はほぼ満席でした。
11月とは思えないほど暖かい青空のもと、アバントが滑らかにグラナダ駅(Granada)を出発しました。
昨日乗ったアベと比べるとやや揺れが大きいようです。
木々がまばらに生えている山を越えながら、オリーブ畑の広がる丘を眺めます。
山裾には簡素な白い家が固まっています。
スペイン中央部の荒々しいメセタの大地とは違って、こちらはさっぱりした明るさを感じる風景です。
平地に出ると幾つかの小駅に停車していきます。
駅から見えるのは越えてきた山脈と畑だけで、東北新幹線開通後に新しく設置された駅のような感じです。
案の定、ほとんど乗り降りはありませんでした。
やがて郊外の住宅街に入ります。
ヴィラのような雰囲気の家もあって、まだのんびりとした景色です。
まもなく市街地に来るとコルドバ駅(Cordoba)に到着です。
古都コルドバのメスキータ
駅から市内中心部は徒歩で20分くらいかかるのでバスを利用した方が良いです。
ホテルにチェックインしてすぐに、16時入場で予約していたメスキータへ。
15分くらい前に並んでも入れてもらえました。
コルドバのメスキータは巨大なモスクだったものを教会に転用した施設です。
森のように建ち並んだ柱の間に二重のアーチが架けられており、建物の奥にはキリスト教・イスラム教両方の礼拝堂があります。
そして何より奇妙なのは、全体としてはモスク風な建物の中央部には唐突に大聖堂が「挿入」されていることです。
たった一週間の間にクリスマスを祝い、大晦日はお寺に行き、正月には神社にお参りする我々日本人を以てしても、これは極めて異様な同居(「融合」はしていない)に映ります。
再びアバントでコルドバからセビリアへ
翌日はコルドバから日帰りでセビリアへ。
いつも通り荷物検査を済ませてホームでアバントを待っていると、係員が「セビリア」と言っているのが聞こえました。
チケットを見せると、発車ホームが変わったとのこと。
スペインではこうしたことは珍しいです。
無事予約していたアバントに乗車。
平日の10時過ぎの列車なので空いていました。
この区間は特に車窓では見るべきものもなく、ただただ平原を走っていきます。
チケットに記されたセビリアまでの所要時間は48分。
ところが終着セビリア・サンタフスタ駅(Seville Santa Justa)に着いたのは、なんと予定時刻の8分も前でした。
スペインの高速鉄道は時間に正確なのは確かですが、ここまで早く着くとそもそものダイヤが緩すぎるのではないかと思ってしまいます。
アンダルシアの州都セビリア
コルドバがしっとりとした古都だとすると、アンダルシア地方で最大の人口を擁するセビリアは都会らしい雰囲気です。
駅から市内中心部までは20分以上歩きました。
まずはスペイン広場へ。
イスラム風の装飾が施された巨大な半円状の回廊が、ゴンドラの行き交う水路と広場を包み込んでいます。
気温はぐんぐん上がり、いつの間にか30度近くになっていました。
バルで昼食を終えアルカサルへ。
キリスト教徒がこの地の領土奪還を果たした後に建てられたイスラム様式の宮殿で、グラナダのアルハンブラ宮殿を参考にしているようです。
文明的には優位に立ったものの文化芸術の領域では感心・憧れを抱くという、「エキゾチック」や「オリエンタル」という言葉に象徴される、ヨーロッパ人ならではの外の世界の見方が現れています。
それはともかく、オレンジや檳榔樹の生い茂る庭もあり、かなり見応えがあります。
帰りは高速列車ではない中距離電車のMD(Media Distancia)に乗車しました。
所要時間はアバントの倍かかりますが、料金は安いです。
特色あるアンダルシアの都市
以上、グラナダ・コルドバ・セビリアをアバントで巡ったわけですが、それぞれの個性・雰囲気の違いを感じます。
また同じ「イスラム風のエキゾチックな建築」でも、その細部はもちろん、背負っている歴史が異なり興味深いところです。
マドリードが東京だとして、アンダルシア地方を敢えて関西に喩えると、セビリア=大阪、コルドバ=京都、グラナダ=奈良、といったところでしょうか?
ここは兵庫県生まれの人間として、今度は港湾都市のマラガ=神戸にも訪れたいものです。
コメント