新型も登場!欧州のブルートレイン、ナイトジェット総論【個室寝台車の車内・予約方法など】

ドイツ・オーストリア・中欧

日本では絶滅危惧種となった夜行列車。
ヨーロッパでは今なお健在、否、最近になって衰退から立ち直りを見せています。
その復活劇の立役者こそ、中欧のオーストリア国鉄が運営する夜行列車「ナイトジェット(NJ)」です。
ハプスブルク帝国の都ウィーンを中心に各国に向けて多数の便が運転されています。

本記事ではナイトジェットについて、車内設備やサービス・予約方法や費用などを解説していきます。

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【夜行列車の復活劇】ナイトジェット概要

夜行列車の廃止が相次ぐ欧州に救世主ナイトジェット現る

夜行列車の衰退は日本のみならず、一時期はヨーロッパでも確実に進行していました。
高速鉄道の発展に加え、競合する格安の交通機関の台頭によって、特に2010年代にはヨーロッパ各地で夜行列車が急速に削減されていきました。

全廃されたスペインの夜行列車「トレンオテル」

マクロ経済面でも2010年代前半はギリシャの債務危機が南欧諸国にも飛び火し、ヨーロッパ全体で危機が生じます。
景気の悪さを象徴するように、ユーロ圏・スイスや北欧ではマイナス金利を深堀していた時代でした。
今となっては信じられませんが、ゼロ金利の日本円は先進国の中では「高金利通貨」だったのです。

さて、オーストリア国鉄がナイトジェットのブランドを立ち上げたのは、欧州が経済危機からまだ完全に立ち直っていない2016年のことでした。
既存の夜行列車を継承する形で運行を開始しました。

路線網を拡大

逆風の中での船出となったナイトジェットですが、その高いサービスレベルによって人気を博します。
そして2020年代になると、環境意識の高まりも追い風になりました。
飛行機に比べて環境負荷の小さい夜行列車は、「時代遅れの移動手段」から「クリーンな移動手段」へとイメージが転換したのです。

そんな社会背景を好機として、ナイトジェットはかつて夜行列車が廃止されたパリ・ウィーン間やパリ・ベルリン間でも運行を開始します。
歴史的にも何かと因縁のある都市間を結ぶ路線の再開は、ヨーロッパにおける夜行列車復活を強く印象づけたのでした。

新型車両を投入

新型ナイトジェット

そして2023年12月、世界中の夜行列車ファンが首を長くして待っていたナイトジェットの新型車両が営業運転を開始しました。
従来車両よりも格段にプライバシーを意識した快適性の高い客室となり、「日本のカプセルホテルのような」と形容されるミニキャビンも登場します。
今までの編成が既存のブルートレインを使った「あさかぜ」「はやぶさ」なら、新型車両は「サンライズ出雲」「カシオペア」に当たります。

かくして、夜行列車の救世主となったナイトジェットは、(鉄道ファンが陥りがちな)ロマンチックな感傷を克服し、夜汽車の新たな時代を切り開いたのです。

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予約方法と費用

ナイトジェットの予約はオーストリア国鉄の公式サイトから行うことができます。
まずは、大きく分けて安い順に座席車、クシェット(簡易寝台)、寝台車(個室)の3つのクラスがあることを理解しましょう。
より細かく分けると、クシェットには4人用と6人用が、個室寝台車は普通寝台(英語ではcompartmentと表記)とデラックス寝台(compartment plus)があります。

列車選択まで

それでは写真付きで予約の仕方を解説していきます。

トップページから区間・日付を入力して”Book Ticket”を押下します。
以降赤いボタンを押して進んでいきます。
次のページでは人数を調節して”Find service”から”One-way tickets”を押下します。

列車候補が現れます。
一番上の赤丸で囲った候補が選ぶべきナイトジェット(NJ)です。
乗り継ぎありのパターンを除外したい場合は”Filters”から”Only direct trains”にチェックを入れましょう。

料金カテゴリーと各設備について理解する

ここまでは比較的簡単です。
これより肝心の設備と料金カテゴリーを選択していきます。

まず最初に決めるのは料金カテゴリー(fare categories)で、チケットの柔軟性に関わるものです。
一番安いSparschieneはキャンセル不可、一番高いStandard-Ticketは前日までキャンセル無料、中間のSparschiene Komfort は15日前まではキャンセル無料でそれ以降は手数料が必要になります。

なお、ここで表記されているのは座席車の料金で、これに設備毎の金額が加算されます。
また料金は需給によって変動します。

下にスクロールして設備を選びます。
寝台車のタブを選択するとさらに6種類あります。
まず”plus”とあるのがデラックス寝台です。

さて、1人で予約しているのに”Double”や”Triple”とあるのは不思議に思うでしょう。
ここで覚えておくべきは、ヨーロッパの寝台車は個室単位ではなくベッド単位で販売されるということです。
つまり、1人利用でDoubleやTripleを予約すると、同性の他人と相部屋になる可能性があります。
個室を占有したい場合は必ずSingle(1人の時)またはDouble(2人の時)で予約しましょう。
日本のように1人用個室や2人用個室が別個に存在するのではなく、同じ個室を使用するベッド(1段~3段)の数で調節するのです。

クシェットの場合は4人用か6人用かを選択します。
上段・中段・下段の希望を出すこともできます。
後述する新型車両のミニキャビンもここから選べます。
なお、クシェットは寝台車と違ってコンパートメント内の性別は区別されませんが、女性専用のコンパートメントも一部にあります。

クレジットカードが使えない時はPaypalで

料金カテゴリーと設備を決めたら赤いボタンを押して、名前と電話番号(080の代わりに+8180)を入力して先に進みます。

これで峠は越えました。
後はメールアドレスの入力と支払方法を選択します。
ただ、ここも厄介なところがあって、特に海外(日本含む)発行のクレジットカードが承認されないことが時々あります。
審査が緩いカードや連続利用した時にエラーになりやすいようです。
私もこうしたケースに何度か遭遇しましたが、PayPalを支払い方法にすると上手くいきます。

決済完了するとチケットにアクセスできるメールが届きます。
メール自体はチケットではないので注意してください。
メールのリンク先からチケットをダウンロードできるので、保存するか印刷して完了です。
お疲れ様でした。

ちなみにオーストリア国鉄(OBB)のアプリに登録して、チケットをアップロードすることもできます。
ただ、PDFでのダウンロードをするとアプリのチケットが使えなくなってしまいます。
私は万が一の時のため印刷もしておきたいので、アプリではなくPDF方式でやっています。

料金:ナイトジェットの寝台車はかなり高い

最後に料金について。
寝台車の料金表を再掲しますが、はっきり言ってナイトジェットの寝台車はかなり高いです。
上の写真は特別なケースではなく、だいたいこんなものだと思ってください。
Single plusは500€(2024年3月のレートでは8万円!)でも普通です。

ナイトジェットが運行を開始した頃(2010年代後半)は、一番高いSingle plusでも2万円(200€、1€₌100円)くらいで何度も利用させていただきましたが、先進国から脱落しつつある日本人にとっては10年も経たないうちに高嶺の花になってしまいました。
料金カテゴリーのSparschieneを選んでも、結局寝台料金部分は大して変わらないので、大幅な節約にはなりません。
後述する新型車両のミニキャビンは、カプセルホテルタイプの狭い個室を100€程度で利用できるので、寝台車のシングルが予算的に厳しい方はそちらがおすすめです。

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個室寝台車の車内・サービス

ナイトジェットには2024年3月現在、一般的な車両・二階建て車両・新型車両の3種類(例外あり)の車両が存在します。
寝台車のレイアウト等はそれぞれ異なります。
予約する列車がどの車両で運用されるかは、予約時の画面から判別することができます。
その方法も含めて車内設備を紹介していきます。

寝台車共通

寝台車はどれも洗面台を備えた個室です。
個室の内側からロックでき、車両によってはカードキー付きのオートロック式のものもあります。
ウェルカムドリンクとして、ドイツ産のスパークリングワインが貰えます。

寝台車には朝食が料金に含まれています。
アラカルトメニューの中から6つ選ぶ方式で、前日に好きな品目を選ぶと翌日(たいてい目的地到着30~60分前)に個室へ届けてくれます。

特段の事情が無ければ、パンとコーヒまたは紅茶の2点は必須でしょう。
夜行列車は乾燥するのでオレンジジュースも欲しい所です。
パンは結構大きいものが2つあるので、バターやレバーペーストなどの援軍をお忘れなく。

また、ホットミール含む軽食や飲み物を各車両のクルーから購入できます。
メニューはこちらのページから” menu in the compartment”のリンク先で確認できます。

一般的な車両の個室寝台車(1~3人用)

現在大半の区間に投入されているのが一般的な車両です。
このタイプの寝台車は1~3人用です。

通常車両の寝台車予約画面
3人用の個室になっている

compartmentとcompartment plusの差はシャワー・トイレの有無だけで、その他内装やレイアウトは同じです。
寝台使用時は1~3段ベッドがセットされ、それ以外の時は3つ並んだ座席を使用します。
写真右奥の棚を開けると洗面台があります。
また共有のトイレとシャワーが車両の端にあります。

compartmentを1人で利用した時の寝台車
昼間の状態

二階建て車両の個室寝台車compartment(1~2人用)

ウィーン~チューリッヒとハンブルク~チューリッヒの路線には二階建て車両の寝台車が使用されています。
この車両の特徴はcompartmentとcompartment plusのアコモ格差が大きいことです。
両方とも定員は2人までとなっています。

二階建て車両の寝台車予約画面
写真が一般車両と異なり、3人用が無い

compartmentは他の寝台車と比べると狭いです。
設備面では洗面台付きで同じですが、2人で利用するとかなり窮屈に感じると思います。
ただ、1人で利用するならそこまで苦にならないでしょう。
実際「サンライズ出雲」のシングルよりは広いです。

ベッド横の棚にはハンガーがある

二階建て車両の個室寝台車compartment plus(1~2人用)

二階建て車両のcompartment plusはcompartmentと比べてかなり広いです。
こちらは全て二階にあります。
ベッドの他に椅子があるので、寝ている間以外も二人でも快適に過ごすことができます。
この車両に乗るなら2人利用の場合はもちろんのこと、1人でも予算に余裕があればcompartment plusがおすすめです。

ベッドから撮影した個室内
左奥のドアの向こうにシャワー・トイレがある

新型車両の個室寝台車comfort compartment(1~2人用)

2023年12月に登場した新型車両はウィーン~ハンブルクとインスブルック~ミュンヘン~ハンブルクの路線で運用されています。
この車両も個室の定員は2人までです。

新型車両の寝台車予約画面
“compartment”の前に”comfort”が付いている

新型車両の個室寝台はcomfort compartmentと呼ばれており、従来のものより快適性が大幅に向上しています。
plusが付かない普通の個室寝台でも椅子があるので、2人で下段ベッドに隣り合って座ることなく向かい合って過ごすことができます。
また照明は明るさだけでなく色も調節できるので、気分に合わせて好みのムードを演出できます。

もう一つの大きな進化は全個室にシャワー・トイレが付いていることです。
つまり新型のcomfort compartmentは、より高額な一般的な車両のcompartment plusよりもアコモデーションが優れています。
もっともcomfort compartmentのシャワーはトイレ付洗面所にホースが付いているだけなので、シャワー利用後はトイレがびしょ濡れになります。
換気は良いので30~40分すれば乾きます。
トイレットペーパーも構造上濡れないようになっています。

新型車両の個室寝台車comfort compartment plus(1~2人用)

最後に紹介するのが新型車両のcomfort compartment plus。
1車両に1つしかない個室です。
comfort compartmentと比べると内装は同じですが、レイアウトがやや異なり室内も広くなっています。
またバスルームでは洗面台とトイレとは別にシャワーブースが独立しているので、トイレがびしょ濡れになることはありません。

逆に言うとplusの付加価値はそれくらいなので、それが価格差に見合ったものかどうかは微妙です。

以上、ナイトジェットの寝台車をまとめると下の表のようになります。

設備定員広さトイレシャワー備考
一般車両のcompartment3普通車両端に有り車両端に有り中欧のユーロナイトの個室と同じタイプ
一般車両のcompartment plus3普通個室内に有り個室内に有り中欧のユーロナイトの個室と同じタイプ
二階建て車両のcompartment2狭い車両端に有り無し一人なら問題なし
二階建て車両のcompartment plus2広い個室内に有り個室内に有りplusの付加価値大
新型車両のcompartment2やや広い個室内に有り一応個室内に有り新時代の標準
新型車両のcompartment plus2広い個室内に有り個室内に有りplusの付加価値小
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クシェットの車内

クシェット共通のサービス

クシェットは日本語では「簡易寝台」と表現されます。
相部屋利用が基本でコンパートメントに洗面台はありません。
4人用では2段ベッドが、6人用では3段ベッドが2つ並んでいます。
シーツや枕は付いていますが、寝台車ほどアメニティセットはありません。

クシェットでもミネラルウォーターと朝食が料金に含まれています。
ただ朝食の内容は簡素なもので、コーヒーまたは紅茶・パン・ジャムとバターのみです。
軽食や飲み物をクルーから購入できるのは寝台車と同じです。
メニューはこちらのページから”menu”のリンク先で確認できます。
また各コンパートメントは内側からロックできるので、防犯の観点からも安心できます。

通常のクシェット(4または6人用)

クシェットは日本のブルートレインの開放寝台に近い設備です。
ただ、各ベッドにはカーテンはありません。
コンセントがテーブルの下に2つあります。
荷物置き場は下段ベッドの下か頭上のスペースにもありますが、特に6人用だと乗車時には結構バタバタします。

6人用のベッドをセットしたクシェットの車内

新型車両のクシェット(4人用)

新型車両のクシェットは4人用のみで6人用はありません。
インテリアが現代的になり、各ベッドにコンセントが付いています。

ミニキャビン(新型車両のみ)

新型車両で最も革新的だったのがミニキャビンの登場です。
クラスとしてはクシェットの一部で、一人用のカプセルホテルのような設備です。
各ブースはカードキーで開錠できるオートロック式で、プライバシーは完璧に守られます。

荷物と靴はブース横にある専用スペースに収納することができます。
ただ、荷物が入る大きさは機内持ち込みと同じくらいのサイズです。
日本人旅行者はこれより大きなスーツケースを持っている人が多いと思います。
その場合は別の車両にはなりますが、多目的車両にある荷物置き場を利用しましょう。
カードキーを使ってロックできるワイヤーがあるので盗難の心配はいりません。

ミニキャビンは普通のクシェットと同じ料金、つまり100€程度で利用することができます。
1人でクシェット利用するなら、「サンライズ出雲」の個室「ソロ」に近いミニキャビンを強くおすすめします。

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座席車の車内と座席

ナイトジェットには座席車も連結されています。
しかし、昼間の列車の二等車と同じ全く普通の座席なので、座席車の移動はあまりおすすめしません。

通常車両の座席車
新型車両の座席車
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夜汽車は進む、されど踊らず

「会議は踊る、されど進まず」とも揶揄されたウィーン会議が、オーストリア帝国の外相メッテルニヒの主導で行われたのは1814年から1815年にかけてのこと。
「保守反動」という批判を受けつつも、ナポレオン戦争後の平和秩序の構築に寄与しました。
現在のナイトジェットを中心としたヨーロッパの夜行列車ネットワークを、私は「21世紀のウィーン体制」と呼んでいます。

オーストリアやウィーンについて語る際に、「保守的な」という形容詞が頻繁に使われます。
高速鉄道・LCC・格安夜行バス・デフレの時代に、それでも夜行列車の可能性を信じた保守的なオーストリア国鉄の方策は正しかったことが今や証明されました。
そして、環境問題意識高い系のファッションとして踊らされることなく、ナイトジェットは夜行列車の本質的価値向上の道を進んでいるのです。

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