走るカプセルホテル、新型ナイトジェットのミニキャビン乗車記【ミュンヘン→ハンブルク】

ドイツ・オーストリア・中欧
スライド式テーブル付き

欧州の夜行列車新時代の到来を告げた新型ナイトジェット。
その中で最も画期的な設備が、新しく登場した「ミニキャビン」です。
一人旅で「リーズナブルな価格で移動したいがプライバシーは重視したい」という方には最適の選択肢です。

2024年3月初旬、ドイツのミュンヘンからハンブルクまで、待望の新型ナイトジェットのミニキャビンに乗車しました。
本記事ではミニキャビン利用時の注意点などを、実際の乗車記と共に紹介していきます。
なおナイトジェットの予約方法など全般的な内容については、ナイトジェット総論の記事をご覧ください。

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狭いが機能的なミニキャビン

オートロック式のカプセルホテルタイプ

手前が通常のクシェットのコンパートメント、奥がミニキャビン

まず、ナイトジェットには大きく分けて安い順に座席車・クシェット(簡易寝台)・寝台車の3種類の設備があります。
ミニキャビンは真ん中のクシェットの一種です。
一般のクシェットは2段ベッドが2つ並ぶコンパートメントを相部屋で使うのに対して、ミニキャビンは狭い一人用の空間に折り畳みテーブルや読書灯などがあります。
一言で表現するとカプセルホテルのような設備です。

シーツ・枕・毛布などがあるので自分でベッドメイクします。
その他のアメニティーグッズはありませんが、小さなペットボトルの水は無料でくれます。
また、枕元に充電用コンセントがあります。

新型ナイトジェットのミニキャビンの内部

ブースの扉はオートロック式になっていて、各自のカードキーを外からパネルにタッチしなければ開きません。
外国の夜行列車で治安が心配な方もこれなら安心できるでしょう。
外に出る時はカードキーを持っていくのを忘れないように。
また、ブース内には照明の明るさと色を調節できるパネルがあります。

新型ナイトジェットのミニキャビンの内部

スーツケースは荷物置き場へ

スーツケースやバックパックをブース内に持ち込むことは物理的に困難です。
各ブースの横には各々専用の荷物置き場と靴箱があります。
機内持ち込みサイズのスーツケースなら入ります。
これらもカードキーをパネルにタッチすると開くようになっています。
要するに、カードキーをタッチすると自分のブース・荷物置き場・靴箱の3カ所が同時に一時的にアンロックされるわけです。

専用の荷物入れと靴入れが各ブースごとにある。
荷物入れは機内持ち込みサイズぎりぎりのスーツケース(写真)なら収納できる

ただ、多くの日本人旅行者はもっと大きなサイズのスーツケースをお持ちでしょう。
個人用荷物置き場に入らないサイズの荷物は、面倒ですが座席車の一画にある多目的エリアの共用荷物置き場を使いましょう。
共用荷物置き場には各自のカードキーを使ってロックできるのワイヤーが付いているので、治安面からも安心できます。

多目的車両にある共有荷物置き場

簡素な朝食あり、車内販売はクルーに注文できる

ミニキャビンのチケットには朝食も含まれています。
内容はパン・コーヒーまたは紅茶にバター・ジャムといった簡素なものです。
これは一般的なクシェットも共通です。

ミニキャビンの朝食

ナイトジェットには食堂車・カフェバーはありませんが、飲み物や軽食をクルーから購入することができます。
車内販売のメニューはこちらのページの”menu”のボタンから見ることができます。
パッと見では寝台車のメニューとほぼ同じだと思います。

プライバシーや安全が確保された1人用設備としておすすめ

以上、ミニキャビンは「サンライズ出雲」の「ノビノビ座席」を個室化したもの、あるいは一番安いB寝台個室「ソロ」をもう少し狭くしたものといったイメージです。
料金は4人用クシェットと変わらないので、100€前後で利用することもできます。

左奥の赤い仕切りを隔てて隣のブースがある。
両側からロックを外すとブースを繋げることができる。

最近のナイトジェットの寝台車は値上がりしていて、1人用では400€というケースも珍しくありません。
「シャワー・トイレ付の贅沢なものでなくて良いから、日本のB寝台個室みたいなコンパクトで割安な設備があれば…」と思っている方もいるのではないでしょうか?
そんな方に、プライバシーも安全も確保されたミニキャビンはおすすめです。

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乗車記【ミュンヘン中央駅→ハンブルク・アルトナ駅】

ミュンヘンの夜は寒かった。
旅行5日目というと疲労の第一波が到来する頃だ。
メインイベントを前に憔悴していてはいけないので、焼きソーセージとパンを夜食にして気合を入れ直した。

その後、大人しく紅茶を飲みながらホームでナイトジェットの到着を待っていると、中東系らしき人がスマホのドイツ語翻訳を見せて「アムステルダム行き列車はここから発車しますか?」と聞いてきた。
私が乗るナイトジェットはハンブルク行きとアムステルダム行きが併結していることは知っていたので、”ja”(Yes)と答えた。
それにしても、なぜ明らかに外国人旅行者らしき人間に、それもドイツ語で聞くのだろうか?
まあ、僭越ながら私に聞くのは間違っていなかったのだが…

出発時刻10分前に入線。
始発はミュンヘンではなく、オーストリアのインスブルックだ。
初めての新型ナイトジェットとのご対面に興奮し、疲れなど吹き飛んでしまった。

指定された号車のブースに行ってみると、自分のブースは閉まっていて開かない。
初めてなので要領が分からず、隣にいた人に聞くと「クルーにカードキーをもらいに行け」とのこと。
チケットを見せて「開けてくれ」というと、愛想の良い男性クルーがミニキャビンの説明を始める。
「これは東京のカプセルホテルみたいなもので…」と言い出したのにはびっくりした。
海外のサイトでそのように紹介されているのは見たことがあるが、まさかクルーまでそう表現するとは思わなかった。

通路にある跳ね上げ式の腰掛
ブルートレインの開放B寝台を彷彿とさせる

ブースに落ち着きビールを開ける。
平均的な身長であればベッドの長さは十分で、高さも座っている分には問題ない。
大きめのテーブルは前後にスライドすることができる。
テーブルの穴はカップホルダーだろうが、大きすぎて缶・ペットボトル・朝食のコーヒーカップいずれもすり抜けてしまって使い物にならなかった。

前述した通り、照明は明るさだけでなく色調も調節することができる。
狭い空間なので効果大で雰囲気が劇的に変わる。
「これはええなぁ」と独り呟きながら感心していると、列車は17分遅れでミュンヘン中央駅(Muenchen Hbf)出発した。
ともかくブースを閉め切ってしまえば、ここは少年の夢とロマンが詰まった「俺の秘密基地」である。

コーヒーカップはアテンダントコールボタン
男女トイレ・洗面台の利用可否も分かる
赤が使用中
怪しい。。
この雰囲気は趣味ではないのですぐに変えた。

翌日。
朝起きると、列車は北ドイツの平坦な牧草地を走っていた。
地面には靄がかかって、ところどころ霜が降りている。
裸になった木々は寒そうだ。

朝食は朝8時と聞いていたが、なかなか来ない。
終着のハンブルク・アルトナ駅まで乗るから後回しにされているにしても遅い。
以前はナイトジェットのクルーは1両に1人だったが、この時には指導員と新人が数人いることが多かった。
路線網を拡大したので新規採用したのだろう。
そんなわけで、朝食が8時半ごろに運ばれてきた直後に、別のクルーが「朝食は済みましたか?」と訪ねて来るというコントのような一幕もあった。

ハンブルク中央駅(Hamburg Hbf)には時間通り着いた。
ここでほとんどの客が降りた。
ここからアルトナ駅までは「ボーナスタイム」のようなものだが、中央駅出発直後に内アルスター湖と外アルスター湖の間を通るので得した気分になる。
内アルスター湖の対岸にはどっしり構えた建物が並び、か弱い朝陽を求めるようにプロテスタント教会の塔が天を突いている。

内アルスター湖とハンブルク市街地

終着のハンブルク・アルトナ駅(Hamburg-Altona)に到着。
ここは行き止まり式の駅。
列車を見ながら長いホームを歩いていくのは、夜汽車の旅の良い締めくくりになる。
すぐにSバーンに乗って先ほど通った中央駅に戻った。

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お株を奪われた日本の鉄道

ミニキャビンは今までの夜行列車には無かった、狭いながらもプライバシーを確保し、防犯にも配慮した設備です。
必要な機能も揃っており、リーズナブルな料金で自分だけの時間を過ごすことができる「走るカプセルホテル」と言って良いでしょう。

本来こうした設計は日本人が得意とするところであり、まもなく車齢30年を迎える「サンライズ」の後継車両に採用されるべきコンセプトでした。
もし今後何らかの形で「ノビノビ座席」の進化系が登場する暁には、間違いなくナイトジェットのミニキャビンが参考になることでしょう。


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