ヨーロッパ旅行でも人気の行き先、スペイン。
その二大観光都市は首都マドリードと、カタルーニャの州都バルセロナでしょう。
この二都市間の移動には、所要時間2時間半~3時間程度の高速鉄道が便利です。
2022年10月、スペイン版新幹線のAVEでマドリードからバルセロナを目指しました。
本記事では、乗車する際のポイントや車窓風景、そして予約方法や費用について解説します。
なお、マドリード・バルセロナ間には4種類もの高速列車が運転されています。
それらの比較については、以下記事をご覧ください。
最高速度は310㎞、所要時間は最短で2時間半
第二次世界大戦後、マーシャルプランなどの後押しもあって急速に復興・発展したヨーロッパ。
そんな中、ピレネー山脈以南に逼塞したスペインでは独裁政権がなおも続き、西欧諸国と比べてその社会は明らかに後れをとっていました。
しかし、1970年代半ばにスペインも民主化を果たし、1986年にはようやくEC(EUの前身)加盟が実現します。
1992年、南部の都市セビリアで開催される万博に合わせ、スペインにも高速鉄道AVE(アベ)が首都マドリード・セビリア間で初めて開業しました。
AVEは(Alta Velocidad Espanola:「スペイン高速」の意味)の略語、かつスペイン語で「鳥」の意味もあります。
AVEはその後もスペイン各地へと路線網を拡大しています。
そして2008年には、首都マドリードと第二の都市バルセロナを結ぶ最重要区間も高速鉄道で結ばれることになったのです。
マドリード・バルセロナ間の最高速度は310㎞で、ノンストップ便の所要時間は2時間半です。
同区間の距離は620㎞なので、新幹線よりも速いです。
この路線のAVEには、ドイツの高速鉄道ICEをベースにしたものが使われています。
バルセロナ行きAVEの車内と座席
2等車(スタンダード)の車内
スタンダード(Standard)と呼ばれる2等車は、通路を挟んで2&2列配置の座席です。
元の設計が居住性が高いことで知られるドイツのICEなので、やはり2等車でも快適になっています。
派手さはないものの、落ち着いた客室が特徴です。
全座席に充電用のコンセントがあり、Wi-Fiも利用可能です。
1等車(コンフォート)の車内
コンフォート(Comfort)と呼ばれる1等車は、より大型の3列座席配置になっています。
独り旅にとって、1人用の座席は有難い存在です。
カフェテリアがある
この車両に限らず、AVEなどのスペインの高速列車にはカフェテリアがあります。
自分の座席に持ち帰っても良いですが、立ち席カウンターを利用することもできます。
アルコール含む飲み物や、サンドイッチなどの軽食、簡単なホットミールを買うことができます。
メニューは座席の背面にあるQRコードから確認可能です。
乗車記:サラゴサのみ停車するAVEに乗車
植物園のようなマドリードのプエルタ・デ・アートチャ駅
長距離列車が発着するマドリードの駅はプエルタ・デ・アートチャ(Madrid Puerta de Atocha)。
この駅の旧プラットホーム跡地には、植物園のようになっています。
周りにカフェもあり、「熱帯雨林」の中では多くの人がビールやワインを飲みながら食事をしていました。
スペインの長距離列車では乗車前に荷物のX線検査があります。
検査自体はすぐに終わるのですが、長い列に並ぶこともあるので、10~15分くらい前には乗り場にいた方が無難です。
X線検査を終えて、改札でチケットを係員に見せてプラットホームに出る、という流れです。
写真はバルセロナ・サンツ駅
長いエスカレーターでホームに降りていきます。
様々な高速列車を見下ろすのは、やはりワクワクするものです。
1等車も意外と混んでおり、2等車はほとんどの座席が埋まっていました。
客層は外国人やサラリーマン風の人が多い印象です。
この日のマドリードは気温が25度を超える予想外に暑さでした。
オレンジジュースを一気飲みして体調と気力を整えます。
メセタから地中海式農業地帯へ
マドリードを出発し郊外も過ぎると、赤茶色をした高原地帯、メセタが広がります。
低木がまばらに生える程度で起伏も激しく、遺跡のような岩山もある荒々しい風景です。
2022年10月の時点で、スペインの公共交通機関ではマスク着用が義務付けられていました。
地下鉄では実際にマスクをしている人は半分もいません(車内でラップの演奏している人までいた)が、AVEでは車掌がマスク着用を促します。
特にこの列車の大柄な車掌は厳しく、前の座席にいた男性は何度も顎マスクを注意されていました。
仕方がないので、カフェテリアに行ってワインを買いに行きます。
私と同様に抑圧から避難してきたのか、テーブルを囲んで女性客たちが大声で談笑していました。
さすがはスペイン!リオハワインを購入します。
スペインの情熱を体現したこの濃厚なワインなら、バルセロナ到着まで持ちそうです。
ちなみに、リオハの赤ワインはフランスでいうボルドーワインのようなものです。
スペインでワイン選びに困ったら、とりあえずこれを注文しましょう。
相変わらずメセタの荒野を突っ走ります。
視界を遮るものがなく、ヨーロッパというよりはオーストラリアのような新大陸的な車窓です。
人も家畜も畑もない、ただただ乾燥した大地です。
スペインのブドウ栽培面積はフランス・イタリアを上回って世界一だそうですが、この路線に乗っている限り、そんなことは信じられません。
バルセロナまでの唯一の停車駅、サラゴサに到着です。
ここでかなりの下車があり、車内は空きました。
海に近づくにつれて、大地に緑が蘇ってきました。
果樹園や小麦畑に松の木が目立ち、我々が思い浮かべる地中海性気候の景色です。
バルセロナの駅は地下にあるサンツ駅
定刻通りにバルセロナ・サンツ駅(Barcelona Sants)に到着。
比較的新しい駅ですが、地下にあるため暗い印象で、ターミナル駅としての威厳はありません。
停まっているのは、これから乗車する、今は無きミラノ行き寝台列車「エリプソス」
2011年に撮影
サクラダファミリアに代表される個性的な建築が並び、地中海に面して活気の溢れるバルセロナは、まるで一国の首都のような誇りを感じます。
もっとも、独立運動が盛んなこの地の人々は、「ここがカタルーニャの首都だ」と思っているのでしょう。
予約方法と費用
マドリード・バルセロナ間は高速列車の激戦区
AVEの予約はスペイン国鉄のrenfeのサイトから行うことができます。
しかし、マドリード・バルセロナ間にはAVEの他にも、renfe系の格安列車AVLO(アブロ)、フランス国鉄のOuigo(ウィゴー)、そしてイタリア国鉄のiryo(イリヨ)という、3か国4種類の高速列車が運行されています。
そのため、まずはtrainlineのような代理店サイトで時間を照会してから、各公式サイトで予約するのが良いと思います。
ここではAVEをrenfeのサイトで予約してみましょう。
BasicoとEligeの意味に注意
最初に申し上げておくと、予約方法は紛らわしいです。
これはrenfeのサイトが使いにくいのではなく、そもそも予約クラスの制度が分かりづらいためです。
まずはrenfeの英語版のページにアクセス。
目的地・出発地は候補から駅名を選んでも良いですし、○○Todas(その都市の全て)でもかまいません。
検索結果ではAVEの他に格安列車のAVLOも表示されています。
ここでは6時30分発のAVEの1等車を予約することにしましょう。
ここで重要なポイントがあります。
上のほうの青で囲った、Basico,Elige,Premiumはそれぞれ2等、1等、1等+α、ではありません。
これらは等級ではなく、チケットの自由度等に関わる料金プランを意味しています。
- Basico→2等車のみ。変更・返金不可。
- Elige→2等車または1等車。変更・返金には手数料要。座席指定などのオプションもBasicoより安くなる。
- Premium→1等車のみ。変更無料、返金も僅かな手数料で可能。ラウンジの利用可・座席指定・食事サービスなども込み。
つまり、1等車に割引運賃で乗るには、まずEligeを選択し、さらに1等車のプランを選ぶ必要があります。
それが下の写真です。
列車選択画面からEligeを押下すると、デフォルトでは45.5€の2等車用Eligeになっています。
そこで、横にある52.95€のElige Confort(青で囲ったところ)に代えます。
これでようやく1等車を希望することができました。
紫色のボタンで先に進みます。
ちなみに、付加サービスのある一等車のPremiumについてはマドリード・グラナダ間のAVEの記事で詳しく解説しています。
座席指定のオプションも忘れずに
これで山場を越えました。
次に乗客情報を入力します。
Nameに下の名前、1st Surnameが苗字、Documentにはパスポートの情報を入れます。
電話番号は+81を入れて、右の欄に最初の0を除いた番号です。
下の方にスクロールしていくと、座席指定のボタン(Seating preferences)があるので忘れないようにしましょう。
窓側・通路側の希望を出すだけなら追加料金は不要です。
その下のオプションも特につける必要はありません。
支払い方法はクレジットカードを選択して(PayPalでも可)、次に進みます。
座席指定画面です。
座席を選択すると、青線で示したように進行方向かその逆かも分かる親切設計です。
希望する席を決めたらPURCHASEボタンを押下して、クレジットカード情報を入力します。
決済成功するとメールが送られてきます。
スペイン語ですが、QRコード付きチケットの画面へのリンクがあるので、保存するか印刷しましょう。
renfeのアプリをダウンロードしておくと、現地で便利だと思います。
料金は変動が激しいが、全体的に高め
再び別の日の列車選択画面の写真をご覧にいれますが、同じAVEでも料金が全く異なることが分かります。
早めに予約するほど安くなるのはもちろんですが、例えば2カ月前の予約でも、2等車は最安値の17€から94€まで幅があります。
なので、目安の料金を提示することが難しく、平均値を算出してもあまり意味がありません。
また、ノンストップで速いから高いというわけでもなさそうです。
なお、マドリード・バルセロナ間に4種類の列車があることは述べましたが、その中でAVEは全体的に最も料金が高いことは覚えておきましょう。
ただ、本数はAVEが一番多く、少し時間をずらしただけで大幅に安くなることもよくあるので、スケジュールと相談しながら安く快適な旅を実現してください。
実は遅延がほとんどないAVE
スペインというと、「シエスタ(昼寝)の習慣があってのんびりした国」という印象がある人も多いのではないでしょうか?
しかし、AVEの定時性は非常に高く、ヨーロッパでは「誤差範囲内」とみなされる10分程度の遅れさえ、ほとんどありません。
線路幅が違う在来線から運行が区別されているとはいえ、これは驚くべきことです。
「振り子運動のように極端に変化する」とも表現されるスペイン社会。
AVEはラテン気質が産んだ、効率性・高速性における振り子の到達点だと言って良いでしょう。
コメント