スペインの二大観光地のマドリードとバルセロナ。
この二都市間の移動は高速鉄道がとても便利です。
マドリード・バルセロナ間を走る4種類もの高速列車の中で、オール二階建て車両で一際存在感を放つのが、フランス国鉄が運行する格安新幹線Ouigoです。
620㎞の距離を高速で、しかも日本では信じられないくらい魅力的な料金で移動することができます。
2023年5月、マドリードからバルセロナまでOuigoに乗車しました。
同区間で運転されている列車たちの比較は、以下の記事をご覧ください。
フランスからの刺客現る
線路上のLCC、Ouigo
世界の高速鉄道界をリードするフランスの新幹線TGV。
LCC(格安航空会社)が勢力を広げる中、フランス国鉄(が設立した子会社)は2013年に格安版TGVのOuigo(ウィゴ―)を世に送り出します。
TGVと同じ時速300㎞超という速達性はそのままに、圧倒的な低価格によってOuigoは多くの乗客を獲得しました。
2020年末、欧州で進む鉄道の市場開放(国内の線路において国鉄以外のオペレーターも列車を運行できるように自由化すること。「オープンアクセス」と呼ばれる。)が、スペインでも行われました。
周辺諸国へ進出のための言いがかりを探していたルイ14世よろしく、フランスのOuigoはこの参入チャンスに真っ先に飛びつきます。
翌2021年5月、Ouigoはピレネー山脈を越えてスペイン国内でも運行を開始します。
それまでスペイン国鉄の新幹線AVEに独占されていた高速鉄道は、これを機に新時代へと突入しました。
最高速度300㎞のオール二階建て車両。所要時間は2時間半~3時間
スペインで運行されているOuigoは、フランスのOuigoと同様にオール二階建て車両の前後に機関車が連結されている編成です。
本国では車体が水色なのみ対して、こちらは白を基調としています。
8両編成の客車+機関車のセットが2つ併結されている様子は、かつて上越新幹線などで活躍したE4系「MAX」の雄姿を思い出させます。
最高速度は300㎞で、マドリード・バルセロナ間の所要時間は最速のノンストップ便は2時間半、途中停車駅があるものでも3時間弱です。
同区間では1日5往復運転されています。
スペインOuigoの特徴
①とにかく安い
Ouigoの何よりものポイントは、とにかく安いことです。
マドリード・バルセロナ間が最安9€(約1,300円)と謳っています。
実際にはこの価格で予約するのは難しいですが、1週間前でも20~30€程度の料金は結構出ています。
ちなみに、距離が近い新幹線の東京~姫路だと正規料金は16,000円程度です。
運賃が安いだけでなく、Ouigoの場合はオプション料金が手頃な点も評価できます。
後で詳しく解説しますが、超過荷物や座席指定などに必要な費用も良心的です。
これは特に、Ouigoの有力なライバルであるスペイン国鉄の格安新幹線AVLOと比較すると実感できます。
②ターミナルが中心駅
格安列車では料金が安い代わりに、乗り入れる駅が都会の郊外にある駅というケースが時々あります。
フランスのOuigoにはそうした列車があります。
しかし、スペインのOuigoは他列車と同じマドリード・アートチャー駅、バルセロナ・サンツ駅といた、都会の中心駅を発着します。
③軽食堂車などのプラスα要素がある
スペインのOuigoは通常座席以外に、1等車に相当する「XLシート」や軽食堂車のバー車両が付いています。
これらも本国フランスのOuigoやAVLOには無い要素です。
さほど乗車時間が長い訳でもない格安列車で、これだけ編成内容を充実しているのには感心します。
④荷物には制限あり
Ouigoは格安列車なので、持ち込める荷物の大きさには制限があります。
追加費用無しで持ち込めるのは、ハンドバッグ(27 cm x 36 cm x 15 cm以内)と55 cm x 35 cm x 25 cm以内のスーツケースなどを一個ずつです。
飛行機の機内持ち込みと同じ程度をイメージしてください。
日本人旅行者はこのサイズを上回るケースが多いことでしょう。
その場合は5€/1個を追加で払う必要があります。
またはXL座席指定も含まれたOuigo Plusもおすすめです(詳細は後述)。
⑤快適性はやや妥協
最後に、車内の居住性については「そこそこ」といったところです。
通常の座席はフルサービスキャリアはもちろん、格安のAVLOと比較しても劣ります。
また二階建て構造はそれ自体に興味がそそられる人もいると思いますが、快適性の観点からすると狭さを感じざるを得ません。
スペインのOuigoの車内・サービス
格安列車ながら、スペインのOuigoは事実上2クラス制です。
普通車の車内
写真は2階席
「普通車」という車両があるわけではありませんが、XL座席ではない通常の座席です。
このクラスで座席を予約する場合は4€かかります。
前章で述べた通り、他の高速列車と比べると快適性はやや劣ります。
ただ、2時間半~3時間程度の乗車なら、特に問題ないレベルだとは思います。
XLシートの車内(おすすめ)
写真は2階席
フランス国内のOuigoにはないアップグレードのXL座席は、優等列車の一等車と同じ3列座席です。
+7€にしては豪華な設備だと思います。
予約方法の章で説明しますが、予約の時にOuigoプラスにすると9€でアップグレードと荷物追加が付いているので、さらにオトクにこのXL座席を予約できます。
バー車両がある
スペインのOuiguの4・12号車には、本家のTGVのようなバー車両も付いています。
これも本国フランスのOuigoと異なる点です。
フランス国内のOuigoは、本家のTGVと差別化する必要があるため座席のみという慎ましい編成ですが、忖度する必要のないスペインのOuigoは積極的なサービス展開ができるのでしょう。
バーの販売メニューは公式サイトから確認できます。
当該ページに下の方にあるダウンロード先のリンクを参照してください。
マドリードからバルセロナへの乗車記
出発駅では簡単な荷物検査あり
日曜日の昼下がりのマドリード。
強い日差しと赤ワインのせいで干からびそうな体で、マドリード・アートチャー( Madrid-Puerta de Atocha)駅に駆け込みます。
この駅は高速列車と近距離列車とでは乗り場が異なります。
また、スペインの高速列車はどの駅でも荷物検査を受ける必要があります。
飛行機に似た検査ですが、液体も車内に持ち込めるので安心してください。
時間もそれほどかかりません。
コンコースからホームに降りる階段の前でチケットを見せ、列車にアクセスできます。
Ouigoでは出発時刻30分前から5分前まで乗車手続きが行われます。
この前の荷物検査も考慮して、20分前くらいには駅に着いておいた方が良いと思います。
ホームではオール二階建てTGV16両(機関車を含めると20両)が堂々を鎮座しています。
私が乗ったXL座席の二階席は子連れで満席に近い状態でした。
きっと連休にマドリード観光をして、これからバルセロナに帰るのでしょう。
出発前から随分と賑やかな車内です。
【景色①】乾燥した大地をいく
14時15分、定時にマドリードを出発します。
市街地が程なくして途切れると、荒々しい地形が展開します。
南欧的というよりは新大陸的な車窓です。
そんな風景のなかを、合計20両の二階建て車両が最高速度300㎞で突進していきます。
気づくとさっきまで騒いでいた子供たちは、どこでもそうであるように、皆一様に親に寄りかかって寝ています。
車内は修学旅行の帰りのバスのように静かです。
列車は赤茶色の岩山の間を突き進みます。
せっかくバー車両があるので訪問。
生ハムと赤ワインという定番を注文しました。
乾パンのようなものが付いてきました。
が、美味かった。
この便は途中ノンストップで、サラゴサも市街をかすめるように通過しました。
まるでアメリカ中西部の都市のような風景です。
【景色②】バルセロナに近づき蘇る緑
バルセロナが近づくにつれて、ゴツゴツした地形は植物に覆われていきます。
緑が蘇ると共に、眠っていた子供たちもまた活気を取り戻しました。
山と海に囲まれたバルセロナの街並みが遠くに見えます。
その後、地下に潜ってバルセロナ・サンツ(Barcelona – Sants)駅に到着です。
駅に着いたのは定刻の5分近く前でした。
普通ヨーロッパの鉄道では5分の遅れは誤差範囲内ですが、スペインの高速鉄道ではこの程度の遅延さえも少なく、寧ろ早く着くことの方が多いです。
予約方法と費用
マドリード・バルセロナ間には4種類のブランドの高速列車が運行されています。
そのため、まずは個々のサイトで列車を調べる前に、Trainlineのような代理店で他と比較したうえで決めるとよいでしょう。
+9€で荷物追加とXL座席指定できるOuigo Plusがおすすめ
それでは、スペインのOuigoのサイトで予約していきましょう。
まず発着地・日付・人数を入力します。
マドリードの駅名は”Madrid – Todas…”(マドリード全駅)となっています。
上の写真は1週間後の検索結果です。
それでもこの安さです。
列車を選択すると、essentialとOuigo Plusの2つのプランが提示されます。
Essentialだと座席指定や規定以上の荷物もは別料金が必要になります。
両者の違いをまとめたのが下の写真です。
これを読んでいる日本人は、大きな荷物で移動する人が多いでしょう。
Ouigo Plusは9€の追加で、荷物の追加やXL座席指定もできるのでおすすめです。
とりあえず、今回はEssentialにて予約を進めます。
プランを選択すると、荷物の追加や列車変更する保険のオプションを付けることができます。
座席指定は後ほど行います。
Ouigo Plusを選択しても荷物追加画面が現れます。
既に追加されているので、二重に料金を払わないように注意してください。
座席選択画面です。
1階席が”EARTH”、2階席が”SKY”という(中二病な)名称になっています。
座席を選択すると進行方向向きか否かも分かります。
上の写真はEssentialで予約しているので7€別途かかっていますが、Ouigo Plusだと追加料金は必要ありません。
日本発券のクレジットカードも使える
最後にクレジットカードで支払いです。
「日本のクレジットカードは利用できない」という話をよく聞きますが、私はフランス・スペイン両方のOuigoのサイトで予約できました。
なお、審査が緩いカードだと、Ouigoに限らず海外のサイトでエラーになりやすいらしいです。
そうしても無理なら、本章冒頭で紹介したような代理店サイトを利用しましょう。
決済成功すると、アドレスに二次元バーコード付きのチケットが添付されたメールが届きます。
スマホに保存するか印刷しましょう。
お疲れ様でした。
価格競争をもたらすゲームチェンジャー
Ouigoがスペインの国内線に参入したことをきっかけに、スペイン国鉄はすぐに格安版AVEのAVLOを投入するなど、国内の高速線は競争時代に突入しました。
その後はイタリア資本のiryoも参入し、スペインはラテン系高速鉄道の激戦区となっています。
お騒がせながら、ヨーロッパの社会情勢に絶大な力を及ぼしてきたフランス。
周辺国とたびたび対立しながら、フランス国鉄も高速鉄道網の確立と変革の先頭に立ってきました。
Ouigoがスペインにもたらした価格競争は、鉄道の他交通機関に対する優位性を高め、ひいては消費者にも大きなメリットをもたらしたのです。
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