ウィーンと並んで中欧の代表的な観光都市であるプラハとブダペスト。
この二都市間を鉄道で移動する際、快適かつ時間を有効に使うには夜行列車が便利です。
そして特におすすめなのが、最上位設備の寝台車です。
2023年5月末、プラハからブダペストまで寝台車に乗車しました。
ユーロナイト「メトロポール」号
所要時間はプラハ発が10時間、プラハ行きは13時間
プラハ・ブダペスト間の夜行列車は“Metropol(メトロポール)”という名前が付いています。
列車種別はEuro Night(ユーロナイト)といって、位置づけとしては「ヨーロッパの寝台特急」です。
通年・毎日運転されています。
途中、チェコ第二の都市ブルノやスロバキアの首都ブラチスラバを経由します。
プラハ・ブダペスト間のメトロポール号の所要時間は、プラハ発が10時間、プラハ行きが13時間です。
同じ区間を走るのにここまで違いがある理由は、途中駅での停車時間の長さが関係しています。
チェコ・スロバキア・オーストリア国境付近のBreclavという駅は各地から線路が集まる要衝で、ここで一部の車両を切り離して他の行き先の列車に組み込んだり、あるいは別の都市から来た車両を編成に迎え入れたりします。
この大掛かりな仕分け作業のために、プラハ発は3時間、プラハ行きに至っては6時間もBreclav駅に停車するのです。
実際に昼間の列車の所要時間は約7時間です。
夜行列車は停車時間の分だけ時間が多くかかっていることになります。
チェコ国鉄の車両、途中まで食堂車有り
メトロポール号のうちプラハ・ブダペスト間の編成は、青・水色・白のカラーのチェコ国鉄の車両が使われていています。
列車はクシェット(簡易寝台)・寝台車そして食堂車から成ります。
食堂車は両方向ともプラハ・Breclav間のみ連結です。
プラハ発の便では夜食に、プラハ行きの便では朝食に利用することができます。
区間によっては座席車も連結されます。
しかしこれは区間利用のためのもので、プラハ・ブダペスト間を直通する座席車はありません。
クシェットは各コンパートメントに2段または3段ベッドが2つ並ぶ、ドミトリータイプの設備です。
おすすめの設備、寝台車は1~3人用のベッドと洗面台付きの個室です。
1人で個室を貸切ることも、同じ性別の他人と相部屋で利用することもできます(予約方法の章で詳しく解説)。
寝台車の車内・設備
寝台車の個室内部
それでは、寝台車の内部や車内サービスについて紹介します。
下の写真は個室寝台車を1人で利用した時のもので、中段・上段ベッドは初めから格納されています。
清潔な室内で床はカーペット敷きです。
また、折り畳み式の大きめのテーブルが用意されています。
なお、プラハ・ブダペスト間の列車では、シャワー・トイレがある個室はありません。
上の写真の左奥の扉を開くと洗面台があります。
石鹸やタオルなどのアメニティーも付いています。
ミネラルウォーターは無料です。
コンセントは洗面台にも、ベッドの足元部分にもあります。
車内販売メニュ―は豊富
各部屋には車内販売のメニューが置いてあります。
アルコール含む飲み物や軽食、ホットミールも車掌に注文することができます。
夜汽車の晩酌のビールはピルスナーウルケルかブドヴァルか迷うなど、ビール好きには最高の贅沢でしょう。
支払いはチェココルナ以外にもユーロやハンガリーフォリントが使えます。
クレジットカードも使えたと思いますが、時々機械の調子が悪いことがあります。
朝食はチケット代に含まれている
翌朝に提供される朝食はチケット代に含まれています。
前日の晩に2種類のセットメニューからどちらか一方を選択するシステムです。
また飲み物もコーヒーか紅茶か選ぶことができます。
以上より、車掌による車内販売と朝食込みの寝台車では、食堂車に出かける必要がありません。
チェコからハンガリーへ、1人用個室寝台「シングル」の乗車記
プラハ本駅のCDラウンジは深夜でも利用可能
プラハ本駅で夜行列車を待つ場所は、CDラウンジが便利です。
列車の出発が22:34で、CDラウンジは22時半まで営業しています。
寝台車またはクシェットのチケットがあれば利用することができます。
水・コーヒー紅茶が無料で飲めますが、トイレはありません。
20分くらい前に発着ホームが判明したので、ラウンジを後にします。
列車が入線したのは10分くらい前でした。
私が乗る寝台車は機関車のすぐ隣の車両です。
ドアの前に立つ車掌にチケットを見せて列車に乗り込みます。
予約したのは1人用の「シングル」です。
アマゾンの創業者に似た大柄の車掌は、とても丁寧な感じで愛想の良い人でした。
最近のチェコ国鉄のスタッフは全体的に接客レベルが高いです。
新型の寝台車は快適
私は2015年にもチェコ国鉄の寝台車に乗ったことがあるのですが、その時は今のオーストリア国鉄のナイトジェットと同じ車両でした。
果たして今回乗るのはさらに新しい車両です。
どうやら2022年にリニューアルされたばかりらしいです。
この車両では個室のドアはオートロックで、接触式のカードキーで開錠するホテルさながらの設備です。
内装も明るすぎず暗すぎずの雰囲気です。
列車が出発しました。
今回の旅行のうち、4回目にして最後のプラハ発です。
建築博物館とも呼ばれるプラハの夜景を見やりながら反芻していると、すぐに市街地は尽きて真っ暗になりました。
市内のレストランでだいぶビールを飲んでいたので、車掌から赤ワインを購入します。
色調はやや濃く、酸味と渋みが強いです。
一般的にはチェコのワインは白の方がおすすめです。
夜汽車の楽しみは、室内の灯りを暗くして、ほとんど何も見えない外の景色を眺めながら酒を飲むことです。
駅で隣に満員の通勤電車が停まっていればなお良いのですが、それに最も適しているのは日本の「サンライズ出雲・瀬戸」です。
朝食は2種類のセットメニューから選択可能
翌朝。
スロバキアの首都、ブラチスラバ中央駅(Bratislava Hlavna)停車中に目が覚めました。
まだ6時過ぎですが、ここで降りる人が結構いました。
7時過ぎに朝食が運ばれてきました。
どっしりとしたロールパン2つに、バターやチーズ等、オレンジジュースが箱に入っています。
チェコではシードをまぶしたパンをよく見かけます。
中欧の夜行列車に乗り比べると、意外と朝食にもその国の個性が現れているように感じて面白いです。
ハンガリー国境に近いスロバキアの南端は、すでにハンガリーの大平原を思わせる景色です。
ハンガリー入国後、右手にドナウ川
Szob駅でハンガリーに入国します。
まもなくすると、進行方向右手、つまり個室寝台とは反対側にドナウ川が見えます。
ブラチスラバの時点で既に近くを流れていたはずですが、2時間経ってようやくその姿を堂々と現しました。
Nagymaros-Visegrád駅(通過)はドナウ川の曲がり角近くの駅。
対岸の丘の上には要塞が見えます。
このあたりが夜汽車の最後を飾る車窓ハイライトです。
ブダペスト西駅に到着
なおもドナウ川沿いに進むと、いよいよブダペストの市街地にやって来ます。
美しく整えられたプラハと比べるとやや清潔感に欠けるところがありますが、それでもブダペストは直情的な魅力を持った街並みです。
予定よりも30分程度遅れてBudapest-Nyugati(ブダペスト西駅)に到着します。
ウィーンへの列車が発着するKeleti(東駅)ではないので注意してください。
こちらもターミナルとしての威厳を備えた駅です。
寝ているうちに、自分が乗っている寝台車と機関車との間にハンガリー国鉄の客車が挟まっていました。
朝9時を過ぎたブダペストはだいぶ気温も上がっています。
中年の男性が、鍛えられた上半身を裸にしてジョギングしていました。
予約方法と費用
予約はチェコ国鉄のサイトから行うことができます。
進める上で少し厄介な点もあるので、その辺もふまえて写真付きでやり方を説明していきます。
それでは寝台車を予約してみましょう。
クシェット・寝台車も「2等車」として予約する
トップページにアクセスして、発着駅(都市名でも可)、日付を選択します。
人数の調整は赤丸で囲った鉛筆マークをクリックして行います。
なお、この鉛筆マークはチェコ国鉄のサイトにおいて重要な役割を担うので、この先も要着目です。
列車選択画面です。
我々が選ぶべきは、上の22:03発の便です。
下の22:13発だと乗り換えが必要になってしまうので間違えないように。
なお、右上に2nd class,1st class,Businessと並んだ項目があります(上の写真では途切れている)。
これら等級は座席車の話なので、寝台車を予約する際には関係ありません。
2nd classのままで進めましょう。
次に2種類のチケットが提示されました。
これはチケット(乗車券部分)の自由度に関わり、乗る列車が限定される割引チケット(上の方)はFirst Minuteといいます。
夜行列車ならこちらで問題ないでしょう。
“Reservation”からクシェットまたは寝台車を選択する
次が一番厄介なポイントです。
ここまで、乗る列車と乗車券部分を決めました。
どこで利用設備を選ぶのかというと、上の写真の”Reservation”の欄にある鉛筆マーク(赤丸で囲った所)です。
見逃しやすいですが超重要項目です。
“SEAT”の欄はデフォルトでクシェット(Couchette)になっているので、寝台車(Sleeper)にします。
“Number”ではベッド数を1~3まで選べます。
赤丸の”Specify seat”で決められるのはベッドの上・中・下段です。
ヨーロッパの寝台車に慣れない人にとって理解しづらいのがこの点です。
寝台車では予約人数に関わらず、ベッド単位で販売されます。
つまり、1人利用で2または3ベッドの寝台車を予約した場合、同じ性別の他人と個室を共有する可能性があります。
個室を貸し切りたい場合は”single”で予約しましょう。
最後に名前・メールアドレス、そしてクレジットカード情報を入力します。
決済成功するとアドレスにチケットが添付されたメールが届きます。
添付されたチケットはTicket(乗車券部分)とReservaiton(設備予約部分)の2つに分かれていることもあるので要注意です。
印刷するかスマホに保存して完了です。
お疲れ様でした。
シングル個室の費用はFirst Minuteで約100€
参考までに、2023年5月に私が一番高いシングル個室を利用した時の費用は、合計104€(約2,500コルナ)です。
内訳は乗車券部分がFirst Minuteで20€、寝台券が84€です。
First Minuteで割引が効くのは乗車券だけですから、費用の大半を寝台券が占めることになります。
最も安い6人用クシェットの料金はFirst Minuteの乗車券より安いです。
節約派の方でもかなり割安に、快適な夜行列車を利用することができます。
中欧の夜行列車はオーストリア=チェコ二重帝国体制
最近のチェコ国鉄の夜行列車は、車両の質・クルーの接客共に大きな進化が見られます。
今や、オーストリアの夜行列車「ナイトジェット」に次ぐ路線網とサービスを提供するほどの存在です。
ウィーンと共に夜行列車の拠点となったプラハ。
ハプスブルク帝国の2つの最重要都市は、ヨーロッパの夜行列車世界における「オーストリア=チェコ二重帝国体制」の要として機能しています。
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