ヨーロッパ旅行でも人気の行き先、スペイン。
その二大観光都市は首都マドリードと、カタルーニャの州都バルセロナでしょう。
この二都市間の移動には、所要時間2時間半~3時間程度の高速鉄道が便利です。
2022年10月、スペインの格安新幹線AVLO(アブロ)でマドリードからバルセロナを目指しました。
本記事では、乗車する際のポイントや車窓風景、そして予約方法や費用について解説します。
なお、この区間には4種類の高速列車が運行されています。
それらの比較については、以下記事をご覧ください。
AVLOはスペイン新幹線AVEの格安版
フランスのOuigoへの対抗馬
ヨーロッパ鉄道では、線路などのインフラ管理事業と列車運行事業を分離して、後者に海外を含む企業が自由に参入できるオープンアクセスが進んでいます。
コロナも落ち着きを見せた2021年、市場開放に伴い真っ先にスペインに進出したのは、ルイ14世やナポレオンの系譜を継ぐフランスのTGVの格安版、Ouigo。
スペイン国鉄renfeが運行する高速列車AVEより大幅に安い料金で、国内ドル箱路線のマドリード・バルセロナ間に参入しました。
しかし、「スペイン独立戦争」でナポレオンを追い払ったこともあるスペインは、当然フランスに対抗する手立てを打っていました。
Ouigo参入の翌月、AVEの格安版としてAVLO(アブロ)が登場したのです。
AVLOを運行するのはrenfeの子会社なので、「本家」のAVEとは補完し合う関係にあります。
車両は国産のタルゴ型S112
AVLOに使われるのは、アヒルのような顔が非常に印象的なS112型という車両です。
両端の機関車に客車が挟まれており、機関車と比べて客車が小さいのも、そのユニークさを際立たせています。
これはスペインで独特に発展した車両構造で、タルゴ型と呼ばれています。
そして顔が個性的なら塗装もやたらと目立つ明るい紫色ですが、ユーモアのある顔にはこういう遊び心のある服装の方が、真面目にAVEの制服を着られるよりもかえって違和感がありません。
AVLOはその後、マドリード・バレンシア間にも路線を拡大しています。
2011年、マドリード・アートチャ駅にて
AVEとAVLOの違い
AVLOは格安列車のため、LCCと同様にいくつかの制限があります。
違う点①:荷物制限がある
日本人旅行者にとって最大の関心事は荷物制限でしょう。
無料で持ち込むことができるのは、36x27x25 cm以内の手荷物と、55x35x25 cm以内のスーツケースです。(重量制限は無し)
個数を追加するか、サイズ制限に収まらない場合は、追加料金が必要になります。
追加料金は予約時なら10€、その後のオンラインの手続きでは15€、出発30分以内や搭乗手続き中に発覚するケースでは30€かかります。
違う点②:1等車とカフェテリアがない
薄利多売を信条とするため、AVEと違って車内にカフェテリアはありません。
また1等車も無く、全ての車両が2等車です。
つまり、設備・サービスに関しては極めて簡素になっています。
マドリード・バルセロナ間の所要時間は2時間半~3時間程度ですから、その辺は割り切っても大して問題ないでしょう。
逆に1等車やカフェテリアを利用したい人はAVEを利用しましょう。
同じ点:所要時間は2時間半~
AVLOは格安列車ですが、利便性の面では妥協していません。
発着するのはAVEと同じマドリード・アートチャ駅やバルセロナ・サンツ駅といった市内の中心駅です。
また、経由するルートも同じなので、マドリード・バルセロナ間の所要時間も2時間半~3時間程度と変わりません。
ということで、AVLOは付加サービス不要で安くかつ(次章で紹介する通り)快適に移動したい人、特にそれほど大きくないバックパックなどを持って移動する人にとって、かなり魅力的な選択肢になります。
AVLOの車内とサービス
車内と座席
格安列車ゆえに、確かに座席周りの寸法はやや狭いです。
しかし顔と塗装に似合わず、座席は革張りで内装も格調を感じさせ、格安列車にしては充分な快適性を備えています。
車両の長さも短いので、こじんまりとして落ち着いた雰囲気です。
また、全座席に充電用のコンセントがありWi-Fiも利用できます。
なお、Wi-Fiにはチケットナンバー(Numero billete:送られてきたメールでも確認可能)が必要です。
供食サービスは自動販売機のみ
カフェテリアがない代わり(というほどでもありませんが)に、5号車に自動販売機があります。
私が確認していないだけで、他の車両にもあるかもしれません。
使い方は、クレジットカードを差し込んでから商品のボタンを押します。
コーヒー用の他にスナックの自販機もあります。
座席指定の際、6号車は避けるべき
追加料金を払って座席指定をする場合には、6号車は選ばないようにしましょう。
その理由は下の写真を見てください。
どこがおかしいか分かりましたか?
窓の位置が座席よりずっと上にあります。
元はカフェテリアだった車両をAVLO用に改造したため、このようになっているのです。
乗車記:早朝にもかかわらず満席
バルセロナ・サンツ駅を出発。2分前までに乗車手続きを。
公式サイトでは30分以上前に駅に着くことを勧めていますが、私が乗車した時はそれほど時間はかかりませんでした。
乗車手続きは発車2分前に終了してしまうので、荷物検査のことも考慮して、15分前には駅に着いておいた方が良いと思います。
地下の暗いバルセロナ・サンツ(Barcelona Sants)駅に、アヒルのような個性的な顔に紫色の派手な塗装をあしらったAVLOがやって来ました。
夜明けのメセタを走る
列車は3分遅れて出発、車内は満席でした。
圧倒的に夜型人間が多いスペインですが、やはり破格の料金(AVLOの中でもこの便は特に安かった)は魅力的なようです。
座席指定をしなかったせいか、私の席は向かい合わせになっている進行方向の通路側でした。
4人席には私を含め男性が3人、もう一人の女性は、こんなシチュエーションになると予想していたかは分かりませんが、堂々と胸元を開けています。
まだ暗い中を、列車は時速300㎞程度で走ります。
帰りのAVEより
2022年10月の時点では、スペインの公共交通機関の中ではマスク着用が義務付けられています。
地下鉄ではあまり守られておらず、車内でラップの演奏をする人までいましたが、長距離列車では車掌が巡回するのでそうはいきません。
朝食のサンドイッチとオレンジジュースをテーブルに用意します。
東部のバルセロナでもロンドンとほぼ同じ経度ですが、時差は大陸ヨーロッパと同じ+1。
しかもこの時はサマータイム終盤ですから、日の出時刻がとても遅いです。
朝8時近くになってようやく明るくなってきました。
通路を隔てた4人席では親子連れがUNOを始めました。
しかし、母親が連勝するというシラけた展開になり、すぐに閉幕。
再び車内は朝を迎えた夜行列車のように静かになります。
草木もまばらな赤茶色の大地メセタを、夜明を待ちかねた日の出がまぶしく照らしています。
同じ南欧の地中海性気候でも、スペイン中央部の景色はイタリアのそれとは大きく違います。
岩山がゴツゴツとした、荒々しい土地です。
マドリード・プエルタ・デ・アートチャ駅へは定刻に到着
定刻通りにマドリード・プエルタ・デ・アートチャ(Madrid Puerta de Atocha)駅に到着。
意外に思われるかもしれませんが、スペインの高速鉄道はヨーロッパでは稀なほどに定時性が高く、「誤差範囲内」とされる10分程度の遅れすらほとんどありません。
この駅は昔プラットホームのあった場所が植物園のようになっています。
周りにはカフェがあり、「熱帯雨林」の中で食事をする人がたくさんいます。
予約方法と費用
マドリード・バルセロナ間は高速列車の激戦区
AVEの予約はスペイン国鉄のrenfeのサイトから行うことができます。
しかし、マドリード・バルセロナ間にはAVLOの他にも、renfe系の本家AVE(アベ)、フランス国鉄のOuigo(ウィゴー)、そしてイタリア国鉄のiryo(イリヨ)という、3か国4種類の高速列車が運行されています。
そのため、まずはtrainlineのような代理店サイトで時間を照会してから、各公式サイトで予約するのが良いと思います。
ここではAVLOをrenfeのサイトで予約してみましょう。
2等車のBasicoのみ。追加荷物や座席指定はオプションで。
renfeの英語トップページにアクセスします。
駅名が分からなければ「全て」を意味するTODASでもかまいません。
列車検索結果画面です。
AVLOの場合は運賃の種類(等級ではない)がBasicoしかなく、その点はEligeとの意味の違いが分かりにくいAVEと比べてシンプルです。
料金のところをクリックすると、AVLOの荷物サイズの制限が表示されます。
下半分は後で選択できるオプションで、座席指定8€、荷物の追加10€、変更・返金保証8€となっています。
時々登録を求められることがあり、スキップして進めません。(これはAVLOの予約時に出やすい印象です)
下の写真のように、メールアドレスとパスワードを設定するだけなので、この画面が出るようなら登録してしまいましょう。
乗客情報を入力します。
Nameが下の名前、Surnameが苗字です。
Documentにはパスポートの情報を入れます。
下の方にスクロールするとオプションを追加する欄があります。
座席指定したい場合は青で囲ったSeating~にチェックを入れましょう。
座席指定画面です。
どの車両もTurista、つまり2等車ですが、車内の章で述べた通り6号車は窓と座席の高さが合っていないので避けましょう。
座席にチェックを入れると、進行方向前向きか後ろ向きかが分かる親切仕様です。
なお、5番席と6番席の間にあるのがテーブルで、これを境に座席の向きが変わります。
支払いでクレジットカードが使えないケースもあり
紫色のPurchaseボタンを押すとクレジットカード情報入力画面になります。
決済に成功すると、チケットにアクセスできるメール(スペイン語)が送られてきます。
QRコードがある画面を印刷するか、スマホに保存すれば完了です。
また、renfeのアプリを入れておくと現地で便利だと思います。
ところで、海外のクレジットカードがはじかれる現象も発生するそうです。
AVEの場合はPayPalで支払う選択肢もありますが、どうやらAVLOでは使えない(?)ようなので、どうしてもダメなら代理店サイトの利用も検討してください。
最安の費用は7€
マドリード・バルセロナ間のAVLOの最安値は僅か7€です。
もちろん、かなり早めに予約しなければこの運賃では乗れませんが、早朝の便は他のAVLOと比べても安い傾向にあります。
スペインらしい快適な格安列車
AVLOの強みは、驚くほど安い料金を提供しながら快適性も両立している点にあります。
とにかくLCC(格安航空会社)にありがちな「安っぽさ」が感じられません。
外国産の車両も多いスペインにおいて(マドリード・バルセロナ間のAVEはドイツ製)、国産車両のプライドでしょうか。
また、風変りに見えながらも巧みにデザインされ、我々を引き込ませてしまう説得力もAVLOの魅力です。
その意味でも、サクラダファミリアを設計したガウディや、奇抜な生涯や作品で知られるサルバドール・ダリを産んだスペインらしい列車です。
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