最高を目指した「のぞみ」、N700Sとその時代【普通車・グリーン車の車内や座席など】

新幹線車両
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N700系ブランドの最高峰

N700(A)系のフルモデルチェンジ車両

東海道・山陽新幹線の次世代車両として2007年に営業開始したN700系は、その快適性により支持を集め、たちまちのうちに主役に躍り出ました。
車体傾斜システムにより、継続して最高速度270㎞(運行開始当初の最高速度で、現在は285㎞)運転が可能になったため、所要時間短縮と省エネルギーを実現します。
そして窓側の壁に設置されたコンセントは、やがて生活必需品ともいえるほど普及することになるスマートフォンの充電に重宝されました。

N700系はその後も時代に合わせて進化し、改良型となるN700Aが2013年に登場します。
これはN700系のマイナーチェンジ車両で、見た目に関して言えばロゴマーク以外はほぼ変わりません。
従来型のN700系も全てN700Aに改造され、700系を置き換えていきました。

ところで、2020年を迎える頃には、初期に製造されたN700系の車齢が一般に新幹線の寿命といわれる15年に近づきます。
そこで、今まで築き上げてきたN700系ブランドを継承しつつも、最新技術を取り込んだN700Sが開発されます。
’S’は’Supreme’の頭文字で「最高の」を意味します。

N700AはN700系のマイナーチェンジ車両でしたが、N700Sはフルモデルチェンジ車両と位置づけされています。
それにしても、車両の形式名もだんだん携帯電話の機種のような名称になってきたものです。

N700AとN700Sの並び
先輩のN700A(左)と東京駅で並ぶN700S(右)

海外輸出も視野に入れた「標準車両」

N700SはそれまでのN700Aと見た目や車内の雰囲気もよく似ていますが、細かい部分で進化がみられます。
車内については次の章で紹介しますが、注目すべきはN700Sが「標準車両」を謳っていることです。

N700AとN700Sの並び
手前がN700Sで奥がN700A。
N700Sの方が目が大きく、鼻筋も立っている。

東海道新幹線では当然16両編成が運用されますが、機器が小型軽量化されたことで両数や出力を柔軟に構成できる設計となっています。

東海道新幹線より需要の小さい山陽新幹線では8両編成の列車が多く、このうち「こだま」に使用される500系や700系は車齢が20年を越えますが、これは新幹線車両としては老齢です。
山陽新幹線の「こだま」は昔から、「東海道新幹線車両の天下り先」としてかつての主役たちを受け入れてきましたが、それだけに東海道新幹線とは違って車両のバリエーション・年代層が広くなっています。
N700Sは近い将来これらの置き換えにも投入される可能性が高く、そうなると山陽新幹線でも車両の平準化が一気に進みそうです。

さらに、N700Sの野心は日本国内にとどまりません。
JR東海の資料で「Global Standard」と銘打たれているように、その汎用性は新幹線の海外輸出も明確に意識しています。
参照:https://recommend.jr-central.co.jp/n700s/pdf/n700s_pdf04.pdf

環境にも優しく、安定大量輸送を得意とする高速鉄道の新規開業需要は、2000年代後半に環境問題に熱心なオバマ大統領(当時)が高速鉄道計画を推進したこともあって、新興国(鉄道に限ればアメリカも「新興国」と表現できる)を中心に気運が高まりました。

かつて新幹線のライバルはフランス(TGV)やドイツ(ICE)などヨーロッパ諸国だと認識されていましたが、近年はそれに加え中国企業もなんだかんだ言って力をつけてきており、国際競争は激しくなっています。
そんな中、高品質の新幹線車両を輸出国の様々な需要に合わせて提供できるのは強みになります。

フランスのTGV(左)とドイツのICE(右)。
2016年10月、南ドイツのミュンヘン中央駅にて撮影。

内需が飽和し周辺国も侮れない生産力を持ち始める中、投資立国として舵を切り始めた2010年代以降の日本経済そのものの姿といえます。

0系同様にオリンピックの年にデビューするはずだったが…

N700Sの記念すべき運行開始は2020年7月1日。
偉大なる初代新幹線0系が56年前にそうだったように、東京オリンピックが開催される月の最初の日に華々しくデビューした車両として、その名を歴史に刻むことになっていました。

大宮の鉄道博物館の東海道新幹線開業日を模したコーナー。
試運転中のN700Sもこの歴史的瞬間に自身を重ね合わせて、夢を膨らませていたことだろう。

ところが、折からの新型コロナウィルスの感染拡大防止のためオリンピックは延期、営業運転初日の列車の運行予定は非公開(実際は東京6時発の「のぞみ1号」だった)とされ、何とも寂しい出発となってしまいました。
この年の3月には、同じ理由で700系が東海道新幹線からひっそりと姿を消しましたが、両形式とも不可抗力とはいえ随分と気の毒な始まりと終わりでした。

リニア鉄道館で展示される700系。
山陽新幹線に「レールスター」車両は残るが、16両の編成は引退した。

思えば、現在の東北新幹線の主力車両であるE5系も、営業運転開始から1週間も経たないうちに東日本大震災により運休となっていました。
不運な滑り出しとなったN700Sも、コロナショックにめげずに成長していってもらいたいものです。

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N700Sの車内

外見や走行性能では、それほどN700系と変わらないように感じられるN700Sですが、車内設備では随所に進歩が見られます

普通車の車内と座席

車内に入ると、天井が広くなったように感じます。
また照明もより柔和なものとなりました。

駅到着前には荷物棚部分が明るく照らされます。
これは忘れ物防止を目的としていますが、飛行機に乗っているような気分にもなり、行き先に着いたぞという演出にも思えます。

N700Sの普通車の車内
普通車の車内

それまでの車両と大きく異なるのが側面の壁のデザインです。
窓側に座ると、上部が内側に食い込んでいくような形状で落ち着きがあり、足元でもなかなか趣のある曲面美を感じさせてくれます。
美は細部に宿る」という言葉を思い出させる、女性的な繊細さを持つインテリアは魅力的です。

N700Sの普通車の座席
普通車の座席

座席はN700Aと変わらないように見えますが、リクライニングする際に腰の部分が連動して落ち込むようになっていて快適性が増しています。

そして大きく注目を集めたのが、窓側のみならず全座席にコンセントが設置されたことです。
座席の予約で窓側に人気が集中するのが緩和されることが期待できます。

N700Sの普通車の座席
コンセントは肘掛けに付いている

グリーン車の車内と座席

N700Sのグリーン車の車内
グリーン車の車内

グリーン車の特徴は荷棚で、1列ごとに壁と一体化しています。
そのため普通車以上に包容感のある空間になっています。

天井部付近の独特の雰囲気は、まるで現代アート(清掃員に消されるような落書きでは決してないが)のようにさえ感じられます。

N700Sのグリーン車の車内
トンネル走行時のグリーン車車内の雰囲気。
仰々しさは無くともファッショナブルな空間に、「のぞみ」グリーン車としての気品が漂う。

グリーン車の座席の印象は、リクライニングを作動させた時に「背もたれを倒すというより座面が沈む」と表現できます。
この深々と倒れこむ感触は、結構病みつきになります。

N700Sのグリーン車の座席
グリーン車の座席
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総評

既に傑作車両であるN700系をベースにしつつ、更なる完成度を目指した新技術導入や細かい部分でのアコモ改善が随所に盛り込まれています。
つまり、日本の大動脈にして世界に冠たる高速鉄道、東海道新幹線に対する意気込みと誇りとが投影された車両です。

金色で描かれたN700Sのロゴマーク。
文字だけでなく、そのデザインでも「最高」を目指している。

惜しむらくは、従来のN700Aと共通運用が組まれているため、時刻表にも新型車両専用のスジがなく、それゆえ走行性能は依然として変わらないことです。
これは東海道新幹線ならではの事情なのでしょう。

しかしそれを差し引いても、N700Sは乗客・鉄道会社、そして環境にも優しい車両として、高速鉄道の国際スタンダードの一つのあり方を見せて欲しいと思います。

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