三角線は鹿児島本線の宇土駅から三角駅に至る熊本県の路線で、列車は全て熊本駅から発着しています。
「あまくさみすみ線」の愛称でも呼ばれるこの路線の営業距離は25.6㎞、所要時間も40分弱と短いローカル線ですが、その中にも見所が数多くあります。
2020年9月中旬に熊本駅から三角線の列車に乗車しました。
三角線の乗車記
15時前に熊本駅を出発する三角線のディーゼルカーは、ホームの少し奥まった所に入線していました。
九州随一の幹線である鹿児島本線を行き交う新型の電車たちに対して、どうやら気後れしているようです。
宇土駅までは鹿児島本線の線路なので、鈍重な国鉄設計のディーゼルカーもそれなりの速さで走ります。
しかし、鹿児島本線からローカル線の三角線になると、住宅地が線路に張り付いていて生活感が色濃く表れます。
乗客の数もそこそこでしたが、だんだんと車内は閑散としてきました。
塩気を含んだ生暖かい風が吹きつける住吉駅を過ぎて、列車は宇土半島の北側の海岸線を走ります。
進行方向右側には一面干潟が広がっています。
やがて干潟は海となります。
この日は天候もよく、遠くには島原半島と雲仙岳も望まれました。
レトロな駅舎を構える網田駅で海岸線から一旦離れ、宇土半島を南北に横断するために山地に入っていきます。
列車は高度を上げながら海岸から離れていきます。
みかん山の向こうに有明海が広がる穏やかな風景です。
山越えの途中に赤瀬駅があります。
木々に囲まれたひっそりとした駅に陽が差し込み、まるで植物園のような雰囲気でした。
駅を出てすぐにトンネルに入り、坂を下っていくと視界が広がり、今度は左側に不知火海が広がります。
終点の三角駅はとても小さな駅ですが、教会のような駅舎はこの地に伝わる隠れキリシタンの歴史を思い出させます。
駅前は海で、すぐ近くの天草諸島と対峙しています。
平和そのものの世界に、突然真っ黒な軍艦のような船が島と島の間を威嚇するように通っていきました。
昔は三角駅から島原半島への航路もあり、長崎~(島原鉄道・船)~熊本~(三角線・豊肥本線)~大分の九州横断ルートを形成していましたが、現在では航路は天草諸島行きのみです。
帰路は「A列車で行こう」に乗ったのだが…
三角駅に着いてすぐ引き返すのは味気なかったので、折り返し列車の次の特急「A列車で行こう」に乗車しました。
行きの普通列車は空いていましたが、こちらはほとんどの座席が埋まっているようでした。
この列車は熊本~三角という短距離運転であるにもかかわらず、カウンターで飲み物等が販売されているのは大いに評価すべき点です。
しかし観光列車としての演出が過剰で、どうも落ち着いて乗車できません。(故に車内の写真はありません。)
車内にはジャズのBGMが流れていますが、こんなものも甚だ余計で、ジョイント音とフランジ音(線路とレールの摩擦で発生する音)、それにエンジン音だけで必要十分です。
誤解していただきたくないのは、企業が集客・増収のためにこうした列車を運転すること自体には何ら不服はありません。
鉄道に興味がない人にも話題を提供して乗車機会を訴求しているのは結構なことですが、やはり私には遊園地の乗り物のような箱は馴染めません。
ワインが好きな人は11月の第三木曜日のお祭り騒ぎでも、ボジョレーヌーヴォーを買わないのと同じです。
なお本記事も含め、このサイトの乗車記にしても、観光列車をメインに据えた方がアクセスは増えるのでしょうが、私のポリシーに反するので今後もそういったことはしません。
あまくさみすみ線の魅力
三角線は短い路線にもかかわらず、車窓は驚くほど変化に富んでいます。
密度の高い充実したローカル線の旅を味わうことができるものの、熊本から数時間あれば行って帰って来れるのもその魅力です。
長閑な住宅地を序奏として、海・山と続き、また最後は海沿いといった具合に、見事な三部形式を構成しています。
どうせなら三角駅とその周辺の景色を「コーダ(終結部)」にしてやりたい気もします。
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