800系新幹線とその時代【新幹線に昇格した「つばめ」は和風な車内と座席】

新幹線車両
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800系の特徴

九州新幹線「つばめ」として登場

800系は2004年の九州新幹線、新八代(八代よりひとつ博多寄りに新設された駅)~鹿児島中央間の先行開業に合わせて、JR九州が製造した車両です。
なぜ九州新幹線の先行開業が需要の多い博多よりではなく鹿児島よりかというと、博多~八代間は複線で最高速度も130㎞であるのに対し、八代以南は大半が単線で最高速度も110㎞と軌道条件に差があるためです。

それまでは線形の悪い八代~西鹿児島(現・鹿児島中央)間を特急「つばめ」が2時間以上かかっていましたが、新幹線の開業によって距離が短くなったこともあり、速達列車では40分を切るほどにスピードアップしました。
その結果、博多~鹿児島中央までのトータルの所要時間は、4時間弱から2時間半弱にまで短縮し、航空機や高速バスとの競争力を大きく取り戻しました。

乗り換えの必要が生じた点については、博多からの特急「リレーつばめ」を新八代駅の新幹線ホームに乗り入れ、同一ホームでの乗り換えを可能にして負担を軽減していました。

新八代駅の在来線から新幹線ホームへの連絡線。
今も残る新幹線ホームへの連絡線。
新幹線の新八代駅から熊本方面を望む。

性能は起動加速度を重視

最高速度は整備新幹線で定められた260㎞です。

800系は0系や500系と同じく、全ての車両に電動機が付いている「オールM」編成です。
九州新幹線は鹿児島付近でシラス台地を通り、建設費をケチったために35‰という急勾配が存在します。
それに対応するために起動加速度は2.5と、後に登場するN700系と同等で、新幹線車両としてはかなり高くなっています。

親しみやすい外観

800系新幹線の先頭部分
先頭部。
増備された「新800系」は若干ヘッドライトの形が異なる。

800系は当時の最新型である700系をベースに開発されたといわれますが、設計上はともかく、外観に関してはかなり異なった印象です。

先頭部は700系のカモノハシのような複雑なものではなく、やや柔らかみのある形状です。
新幹線車両というと、100系以降の車両は目が細くて小さいイメージですが、800系にはそういった冷たさがなく親しみを感じます。

塗装は白地に赤いラインが入ったもので、屋根も赤く塗られています。
スーツの裏地と同じで、見えにくい所でも良く見せるという、おしゃれな車両です。

800系新幹線の車体側面
車体側面。
屋根も赤い。

九州新幹線全通後は脇役に

2011年九州新幹線(鹿児島ルート)が全通し、山陽新幹線との直通運転が開始されました。
最速達タイプでは新大阪~鹿児島中央の所要時間は3時間45分程度と「4時間の壁」を突破し、両都市間の輸送シェアで鉄道は飛行機に互角となりました。

ところが本州から九州新幹線に乗り入れるのはN700系のみで、800系は九州内の区間運転にとどまっています。
新幹線の陸の孤島から脱出したは良いものの、やはり気の毒な感じがします。

また、列車名も不可解な設定です。
新大阪から九州新幹線に直通する列車のうち、準速達タイプが「さくら」、最速達タイプは「みずほ」となりました。
「みずほ」はかつての東京~熊本間の寝台特急の名前で、「はやぶさ」の補完役といった位置づけでしたから、「さくら」より「格下」といえます。

それよりもゆゆしきことは、伝統ある「つばめ」が博多~熊本間(一部は鹿児島中央)の各駅停車タイプなんぞに使われていることです。
これは「つばめ」の名と歴史に対する敬意を欠いた暴挙だと言わざるを得ません。

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800系の車内

最大の特徴は全体的に和風テイストの仕上がりになっていることです。
またモノクラス制でグリーン車はありません。

客室と座席

800系新幹線の客室
客室の様子

4列座席のモケットは西陣織で、ひじ掛けや客室の壁など随所に木材が使用されています。
無機質なイメージがある新幹線の普通車とは思えない雰囲気となっています。

800系新幹線の座席
モケットの柄が美しい座席

優美な座席ですが、掛け心地はまあ普通といったところです。
またJR九州の車両全般に言えることですが、乗客ではなくデザイナーファーストなのか、テーブルがひじ掛け内蔵式で小さくて食事には不便です。

800系新幹線のテーブル
テーブルは小さい

デッキ

デッキは漆器を思わせるような、落ち着いて上質な黒がベースの凛とした空間になっています。
客室が自らの美しさを積極的に表現しているのに対し、こちらはストイックな美学を重んじているようです。

また、洗面所にはカーテンの代わりに熊本の名産品である、い草が使われています。
乗車時間は短いですが、畳の香りが心を和ませてくれます。

800系新幹線のデッキ
デッキは黒い配色。
旅館の部屋に入った時のあの香りがする。
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800系の運用は「つばめ」がメイン

基本的には、博多~熊本の各駅停車タイプである「つばめ」と、博多~鹿児島中央、つまり九州内のみを走る準速達タイプの「さくら」に使われています。
ただし例外もあり、博多~鹿児島中央の「さくら」でもN700系による運行というケースも散見されます(特に朝と夜)。

時刻表があれば、6両でグリーン車無しが800系、8両でグリーン車有りがN700系、と簡単に判別できます。

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総評

登場以来区間は違えど一貫して伝統ある「つばめ」を名乗っているとはいえ、九州新幹線先行開業時は、南九州の新幹線の孤島で短距離輸送に徹し、全通後はN700系に主役を明け渡すなど、地味な役割に甘んじ続けていることは否めません。

山陽新幹線への直通運転も設計上は可能ではありますが、鉄道会社が違うこともあってか実現していません。
そもそも、新大阪から九州に直通する「みずほ」「さくら」は全てN700系の8両編成なので、800系が本州に上陸したところで用途は限られるでしょう。

その意味では、2004年の先行開業時の輸送実態に合わせて6両モノクラスで登場したために、結果的には「つばめ」というより「つなぎ」の車両になってしまった感はあります。

しかし、新幹線車両の常識を打ち破る内装によって、「個性派の名脇役」としての地位は今後も安泰と言えそうです。

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