大聖堂で有名なドイツ第四の都市とケルンと、ヨーロッパ有数の金融経済都市フランクフルト。
この二都市は距離が近く、鉄道で容易に行き来することができます。
ところでフランクフルト・ケルン間には高速鉄道が敷かれているので、当然このルートで移動するのが一般的な方法です。
しかし山間部をトンネルで抜ける高速線よりも、ライン川沿いの景勝区間を走る在来線経由の方がおすすめです。
2023年6月初旬、ケルンからフランクフルトまで在来線経由のICEに乗車しました。
在来線経由はマインツ中央駅で乗り換えが多い
ケルン~フランクフルトの所要時間は2時間半~3時間弱
ケルン中央駅からフランクフルト中央駅に直通する旧線経由の列車は少なく、途中マインツ中央駅で近郊電車に乗り換えとなるパターンの方が多いです。
景勝区間となるケルンからマインツまでは国際特急列車EC(Euro city)やドイツの高速列車ICE(Inter City Express)など優等列車に乗れるので、快適にライン川沿いの景色を眺めることができます。
なおICEはドイツ版新幹線ですが、日本の新幹線のような高速線を走る列車もあれば、在来線を通る列車も両方あります。
ケルンからマインツまでの所要時間は1時間40~50分程度、マインツからフランクフルトまでは30~40分程度です。
乗り換え時間も含めると、ケルンからフランクフルトまで2時間半~3時間弱かかります。
直通列車の場合だと2時間20分程度です。
ちなみに通常の高速線経由だと同区間の所要時間は1時間少々で、料金も全般的にこちらの方が少し安いです。
とはいえビジネス客ならともかく、せっかく旅行で移動するのあれば「敢えて」1時間半余分に要する価値はあると思います。
鉄道旅行の満足度は数字上の比較だけで計測できるものではありません。
予約方法:Koblenzを経由地にして検索する
列車の予約はドイツ鉄道(DB)のサイトから行うことができます。
しかし普通にフランクフルト・ケルン間を検索すると、高速線経由の列車しか出てきません。
そこで、ひと手間加えて経由地をKoblenzにしましょう。
するとライン川沿いの在来線を経由する列車が検索結果に現れます。
以下その方法を解説します。
DBのサイトのトップページから発着駅・日時・人数を入力します。
ドイツ語地名のケルン(Köln)は”Koeln”で代用します。
経由地の設定はオプションの”stopover”からできます。
stopover1にkoblenz Hbfを入力しましょう。
実際に途中下車するわけではないので、滞在時間(Length of stay)は0のままでよいです。
この条件で列車検索すると、在来線経由の列車候補が現れます。
視覚的にもすぐ分かりますが、”1 Transfer”とあるのが乗り換えが必要な旅程です。
料金は変動制でその決まり方に一貫した法則は見つけ難いです。
またDBのサイトでは混雑具合の予報(demand expected)も見れます。
座席の指定はできないため、川沿いとは反対側の席に当たってしまった時に席を移りやすいLow demand expectedの旅程を選ぶのが望ましいです。
各旅程の”Detail”からは途中停車駅や乗り換え時間も確認することができます。
乗車記:進行方向左側の座席が川沿い
それでは実際にケルンからマインツ乗り換えを経てフランクフルトへ向かった時の乗車記を紹介します。
ケルン中央駅前に聳えるケルン大聖堂
街の象徴ともいえるケルンの大聖堂は、ケルン中央駅のすぐ横に建っています。
大きく黒ずんだ、神々しいまでのゴシック建築です。
「壮麗」という言葉はまさにこの建物のためにあるのでしょう。
大聖堂の内部へ。
正面遥か向こうのステンドグラスから光が差し込んできます。
そして気が遠くなるほど高い天井からは、シューマンの交響曲第三番「ライン」の第四楽章のような厳粛なコラールが降り注いでいるようです。
大聖堂の大きさばかりに目を奪われがちですが、近くで見るとその精巧な造りにも感心させられます。
街には他にも入って見たくなる教会が結構あります。
そして大聖堂・教会巡りが済んだら、ライン川のほとりで小さなグラスで出て来る上面発酵のビール「ケルシュ」を2,3杯やりましょう。
さて、時間になったので駅に戻ったのですが、乗るべき列車が遅れている模様。
はじめは15分と聞いていた遅延がどんどん拡大して、結局45分遅れてケルン中央駅(Koeln Hbf)を出発しました。
車両は初代ICEでした。
この車両も今や主役というより亜幹線の運用の方が多く、最新型のICE4などに置き換えが進んでいます。
ライン川沿いの景色
私が今回予約したのは一等車の一人用座席。
ライン川が見えるのは進行方向左側(ケルン発)ですが、残念ながら逆の右側の席でした。
列車はライン川を渡らず、左手に大聖堂を見ながら走ります。
ケルンから20分弱でボン中央駅(Bonn Hbf)に到着。
西ドイツ時代の首都として、そしてベートーヴェンの故郷として知られる小さな都市です。
ここで下車する乗客が沢山いて、ケルンから乗った中国人グループも降りていきました。
わざわざICE一等車に乗らなくとも快速で十分な距離ですが、おそらくユーレイルパスを持っていたのでしょう。
ともかく車内は空いたので、進行方向左側の二人掛けの座席を確保できました。
ボンを過ぎるとライン川が見えてきました。
うっとりする景色ですが、感動するのはまだまだ早いです。
ここでハッと用事を思い出しました。
急いで食堂車に向かいワインを購入。
ラインヘッセン(マインツ付近、ドイツ最大のワイン生産地)産の白ワインで、ブドウ品種はリースリングです。
このワインに限らず、リースリングは酸味が強く香りも華やかなので、ワイン初心者にもおすすめできます。
とにかく、これで準備は整いました。
コブレンツ中央駅(Koblenz Hbf)手前ではライン川に注ぐモーゼル川を渡ります。
石造りのアーチ橋の下を船がくぐろうとしています。
穏やかに過ぎていく緩徐楽章を経て、列車はいよいよ佳境へと進んでいきます。
コブレンツを過ぎるとライン川は少しずつ川幅を狭め、また蛇行が増えてきます。
遊覧船が多数行き交っています。
川と一緒に左に折れる所で線上に連なる風情ある集落が展開してゆく時の喜びに、食堂車で買った地ワインがすすみます。
ここは交響曲「ライン」の第二楽章、船に揺られながら周りの風景をゆったりと眺めている気分になります。
対岸の丘には古城も散見されます。
たいていは税関としての役割を果たしていたので、昔から川を利用した往来が盛んだったことが分かります。
車窓ハイライトのローレライ
コブレンツから15分少々、ライン川が屈曲する所に大きな岩山が突き出しています。
これが有名なローレライです。
川幅が狭く流れも速いため難所として伝説でも語られる箇所で、ライン川と併せてもはやドイツ文化には欠かせない存在です。
今では川幅は広げられており、まして日本人にとってこの風景は急流とは感じられません。
「ライン」の第一楽章を思い浮かべながら、水が勢いよく流れていた時代の景色を想像します。
列車は伝説に残る何者かの誘惑など意に介することなく、この名所を淡々と走り過ぎていきます。
対岸の斜面にはブドウ畑が広がります。
緯度の高いドイツにおいてワイン用ブドウが熟するためには、川に面した日当たりの良い斜面は絶対条件です。
私が今飲んでいるワインもこの辺りの畑から作られたのでしょう。
この辺りは土地が狭くなっているにもかかわらず、面白いことに対岸にも線路が敷かれていて、長大な貨物列車が並走しています。
ヨーロッパの経済の心臓部を流れるライン川は、今でも重要な交通路です。
マインツ中央駅(Mainz Hbf)に到着です。
ここで近郊電車Sバーンに乗り換え。
列車が30分以上遅れたせいで当初の予定よりも1時間遅い電車に乗りました。
フランクフルトまでの切符を買うとSバーンの時刻も記載されていますが、実際は違う時間のSバーンに乗ってもかまいません。
マインツを出るとすぐにライン川を横断します。
今までのライン川紀行の締めくくりです。
マイン川に面したフランクフルト中央駅(Frankfurt Hbf)に着いたのは21時ごろでした。
まだ明るいですが、これから街に繰り出してレストランに行くのは面倒なので、駅で惣菜とビールを買ってホテルに向かいます。
こうして、慌ただしく3週間の欧州旅行最後の晩が終わりました。
健全な並行在来線
高速鉄道が開通した後の並行在来線。
日本の世界観では、地方自治体たちが細切れに運営する、経営の展望もない第三セクター鉄道が思い浮かぶでしょう。
そこでは1両または2両の普通電車のみが運転され、県が変わるごとに乗り換え、そして切符の買い直し(現金払いのみ)が必要とされます。
しかし、ドイツの鉄道は違います。
300㎞/h運転可能な高速線が開通した後も、風光明媚な旧線には食堂車付きの優等列車が走り、沿線の自治体や住民にしわ寄せが行くこともありません。
「日本よりドイツの鉄道の方が優れている」という雑な意見を言うつもりはありませんが、国家規模の鉄道政策においては、フル規格新幹線ありきの日本と比べてドイツの方が上手くやっているように感じます。
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